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王宮医局のカルテ  作者: 夕月夕雷
シーズンⅠ 番外
67/107

番外編 ☆年末大掃除ー2武器倉庫

 雑多に放り込まれた剣、槍、盾が年代物の投石器の上に積み重なっている。足を踏み入れた事のない場所をのぞき込んで、興奮するコタロウを外の柱に繋いだ。パーシバル副長指示のもと、午前中のうちに宿舎の清掃は終えた。午後は武器庫の整理と清掃を担当する。警邏巡回から戻ったランスロット第一部隊長が、開け放たれた武器倉庫の前で、中を眺めて足を止めた。

「なんだ、これは」

「あ、隊長、お疲れっす。片付けて掃除しろって」

「ああ、大掃除か。随分古い物もあるな」

 普段使う武器の保管と手入れは丁寧にしているが、修理待ちや研ぎ待ちの武器が忘れ去られて放置されている。

「庶務はどうした」

「二十年以上前の物らしいです」

 頭に手巾を巻いた庶務担当が、管理対象外だと言い捨てて去って行った。コタロウは興味津々だが、玩具として下げ渡すには危険過ぎる。

「とりあえず、全て出して、修繕可能と廃棄に分けるか」

 寒空の下、ランスロット第一部隊長は、上着を脱いで腕まくりをした。

「部隊長、私たちがやります」

 慌てて申し出たが、部隊長はコタロウを見て一度頷いてから、中へ入る。

「隊長、これはどうっすか」

 ルークは悪びれずに指示を受け入れて動き出していた。私も彼に続いて部隊長の意見を仰ぎながら、物品を仕分けしていく。

「馬具もあるな、ゴホッ、ゴホッ」

 古びた馬具を持ち上げた部隊長が埃を吸い込んで咳き込んだ。口元をポケットから出した手巾で塞ぎ、受け取って外へ持ち出す。武器倉庫脇に廃棄物の山ができあがっていた。


 いつの間にか無言で片付けを進めていた。気づけばルークがいない。コタロウでも構っているのかと外をのぞくが、コタロウもいない。一緒にさぼっているらしい。

「部隊長、ルークがいません」

「ああ、探して来てくれ」

 例の事件が解決してからというもの、ルークと顔を合わせる機会は減っている。年明けには特別捜査部隊の常設化について議会で検討されるらしい。経験者であるし、志願したいと思っているが、ルークはどうだろうか。武器倉庫周囲を一周したが、一人と一匹が見当たらない。

「ワンワンワン!」

 その時、倉庫の奥からコタロウらしき犬の大きな鳴き声が聞こえた。慌てて中へ戻った私は、暗がりの中にぼんやり浮かび上がる鎧に向かって吠えるコタロウを見つける。

「コタロウ、大丈夫、ただの無機物だ」

 しゃがんで撫でてやろうとするが、コタロウは警戒して飛跳ねており、触れられない。リードは柱に繋がれているので、ルークが中の柱に繋ぎ直したのだろうか。

「ヴヴヴヴヴヴ」

 鎧が呻きながら動き出した。

「え?」

 さび付いた金属が擦り合う不快な音がして、思わず耳を塞いだ。

「うーっ、ワンワン!」

 コタロウはますます興奮して怒っている。鎧が一歩踏み出した途端に背後から棒状の獲物が伸びて来た。

「わっ、と」

 修繕不可と判断されたかつて槍だった棒が、鋭く鎧を突く。

「ヒースレッド、コタロウ、大事ないか」

 低く鋭い声で尋ねられ、私はゆっくり頷いた。鎧――もちろん中身はルークである――が、大きな音を立てて破壊された。

「わわっと、ちょ、副長、やり過ぎじゃないすか」

 パーシバル副長が、棒を肩に担いだ姿のまま固まっている。背後から、ランスロット部隊長が西日を受けて頬を引きつらせていた。

「パーシバル殿、うちの者が申し訳ありません」

「い、いや……ルークだったか」

 薄っすら頬を染めて呟く副長に、壊れた鎧を脱ぎ捨てたルークが言う。

「なんだと思ったんすか」

「……亡霊?」

 おそらく深く考えずに拾った棒で突攻撃を繰り出しただけなのだろう。攻撃は見事だった。コタロウは、パーシバル副長が投げ捨てた棒をかじっている。

「ええ? 本気っすか。副長ってば、結構お茶目っすね」

「ルーク、いい加減にしろ」

 ランスロット部隊長がルークの襟首を掴んで外へ連れ出してしまった。残された私は、気まずさを誤魔化すためにコタロウのリードを柱から外す。

「もうすぐ日が暮れる」

「はい……そろそろ、コタロウをせんせいの元へ、送って行きます」

 どことなく憂いを帯びた様子の副長を置いて、武器倉庫を出た。



「という、出来事がありました」

 私の話を聞いて、ローズせんせいはクスクス笑っている。優しい笑い声が耳に心地好い。

「コタロウを揶揄っていたルークに、副長がお仕置きしてくれたのね」

「そう……かもしれません。ルークはちょっと悪ふざけが過ぎます」

「ワフ」

 コタロウは同意するかのように、小さく鳴いてぶるぶると身体を揺らした。





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