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王宮医局のカルテ  作者: 夕月夕雷
シーズンⅠ 終
65/101

エピローグ

 最後の患者のカルテを書き終えた女医は、腕を伸ばして伸びをする。静かに椅子から立ち上がり、二つある診察台のうち、壁際の方の下をのぞき込んだ。

「コタロウ、そのひざ掛け、すっかりあなたの物になっちゃったわね」

 日中温かな日が増えて来て、使う回数が減っているひざ掛けを、コタロウに持って行かれる割合が増えた。

「せんせい、お掃除終わりました」

「はーい、じゃあもう、帰っていいわよ」

 扉を開けて顔をのぞかせたセイラは、丁寧に頭を下げて帰宅する。続いてターニャも顔を出す。

「せんせい、器具の洗浄終わりました」

「お疲れ様、ターニャも帰っていいわよ」

 ターニャはローズの隣にしゃがみ込み、ひざ掛けの上で丸まるコタロウに手を伸ばしそっと顎下を撫でた。

「コタロウ、また明日ね。じゃあ、お先に失礼します」

 手を振るターニャに笑顔を向けて立ち上がったローズは、ひざ掛けの奪還を諦め、再び机に向かう。閉鎖していた医局が新体制で動き出して、ローズの肩書は王宮医局医局長代理へと変わった。

「ふう……よし」

 気合を入れ直したローズが集中して書類に目を通している間に、すっかり日が暮れてしまう。室内が暗くなった頃、点灯夫が扉を叩いた。

「クウン」

 コタロウが甘えた鳴き声を上げて、診察台の下から出て来る。ローズは立ち上がって扉を開けた。

「灯りを入れますか」

「いえ、もう帰るのでいりません」

 油の匂いに鼻息を荒くするコタロウをなだめながら、ローズは帰り支度をして医局を出た。


 新医局長代理と医局の看板癒し犬は、弾んだ足取りで階段を下りて行く。

「今日のご飯は何にしようかな、また、シアのところかな」

 ほとんど毎日花のやに寄っているので、コタロウは花のやの看板犬にもなりつつあった。

「アオ―」

「うんうん、コタロウもお腹空いたね、よし、花のやに行こう」

 日が暮れた後の静まり返った訓練所脇を足早に通り過ぎる。朧な月が一人と一匹を優しく見守る春の夜だった。

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