エピローグ
整備された川沿いの道を馬で駆ける。厩舎に馬を繋いだパーシバルとヒースレッドは、南東街道監視を担う詰所に挨拶をしてから、墓地を目指した。
「ここへ来るのは初めてです」
メイスン家の墓標にはジュールの名しか刻まれておらず真新しい。持参した小さな花束を置いたヒースレッドは、静かに目を閉じて冥福を祈る。パーシバルは、黒狼隊副長に昇進した時に賜った記章を、花束の横に置いた。墓地を取り囲む木々は鬱蒼としていて、川から吹く風で僅かばかり枝葉が揺れている。
「暑いな、ここは」
呟くパーシバルを見上げたヒースレッドは、すぐに目を反らして奥歯を噛みしめた。端正な彼の頬を伝う雫は見なかったことにしたが、彼の目頭も熱くなる。
「セリーナ・タイムズのエリオット・グレイが、公式発表の訂正を聞きつけて訪ねてきました」
「ああ」
「ジュール先輩の名誉を回復すると息巻いていました」
ヒースレッドはポケットからハンカチを取り出し、顔の汗を拭う。パーシバルは墓標を見つめたまま、身じろぎをしない。
「小さい記事にしかならんだろうが、ジュールのご両親は喜ぶだろう」
「はい」
パーシバルは額に手をかざし、水色の目を細めて踵を返す。ヒースレッドは黙って彼の後を追いかけた。
夜、汗を流して自室へ戻るべく騎士宿舎の廊下を歩いていたルークは、ドサドサと鈍い音を聞いて音源の部屋の扉を叩く。
「ナックルせんせい、どうかしたんすかー」
ほどなく扉が開いて、簡素な寝間着姿のナックルが顔を出した。
「ルークか。本が倒れただけだ」
顎をしゃくって部屋の隅を示したナックルの視線の先に、乱雑な本の山ができている。
「うわー、いつの間にこんなに本を集めたんすか」
「気づいたら増えていた」
「俺の部屋より散らかってんなあ。抜き打ち監査の時に怒られますよ」
「本棚を作っている途中だから、大丈夫だ」
促されて中に入ったルークは、作りかけの木製本棚を見て顔をしかめる。
「ちょ、せんせい、すげえ歪んでますけど、平気なんすか」
「平気ではない。釘を打ち損じたせいで歪んだ」
「……で、そのまま放置してる、と」
重々しく頷くナックルに肩をすくめ、ルークはじりじり扉方向へ後退した。
「暇か、ルーク」
「いやあ、俺、もう寝ないと。夜更かし厳禁って隊長にも副長たちにも言われてるんで」
そそくさ扉を開けて出て行くルークを見送ったナックルは、作りかけの本棚を一瞥してから机に戻った。
パーシバルはナックルの部屋から飛び出してきたルークを見て、足を止める。上官には気づかないまま、ルークは足早に自室へ向かう。閉め方が甘かったのだろう、ナックルの部屋からは明かりが漏れていた。パーシバルは細い明かりを眺めて、ゆっくり息を吐いた。
「パーシバルか……また、立ちくらみか」
扉を閉めようとしたナックルは、廊下に佇むパーシバルに気づいて声を掛ける。
「いや、もう大丈夫だ。最近良く眠れている」
「なら、いい」
頷いたナックルは、扉を閉める手を途中で止めて、身を乗り出した。
「暇か、パーシバル。中へいいか」
急な誘いに首を傾げながらも、パーシバルは穏やかな微笑を浮べてかつて部下の部屋だった場所へ足を踏み入れた。




