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王宮医局のカルテ  作者: 夕月夕雷
シーズンⅡ 第七章 終わらない夜のすきまに
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第5話

 パーシバルは『ジュール・メイスン死亡事案・最終報告書』を、険しい顔でしばらく睨んでいた。


「ヴィー、来てくれ」


「はい」


 返事をして近寄って来たヴィヴィにパーシバルは報告書を指差しながら説明する。


「ここ、『ガレス・アルドレイが、職務上の権限を背景に、過重労働下にあった部下ジュール・メイスンへ強力な鎮痛剤としてモールフィを譲渡した事実を確認』これな、まあ、正しいんだが、ガレスの名は消してくれ」


「名前を書かないってことですか」


「ああ、できるだけ曖昧にしておくよう、指示が出てる」


「なるほど」


 短く返事をしたヴィヴィに、パーシバルはもう一つの修正箇所も示す。


「あとここ、ガレスの罪状と処分のところも、削除してくれ」


「単純な事故死として処理するという方向ですか」


「……そうだ」


 低く唸るパーシバルに、横で聞いていたチェリーナが冷静に言った。


「ヴィーの報告書は内部資料として残しておくから、ちょっと貸して」


 修正前の報告書をサラサラと書き写し始めたチェリーナに、パーシバルが苦笑する。


「じゃ、ちゃちゃっと直しちゃいますね」


 自分の感想は一切述べず、淡々と請け合ったヴィーは自席へ戻って報告書を作り直した。




 聖樹の森にある温室へ向かう道を、コタロウを連れて歩く。森の散策にぐいぐいリードを引くコタロウに、ルークは鼻歌交じりでついて行った。


「コタロウは、森が好きみたいだ」


 ヒースレッドは呟いて、木漏れ日に目を細める。


「いつものルートと違うと喜ぶんだって、ローズせんせいが言ってた」


「一度、セイラさんを温室へ護衛したことがある。コタロウも一緒だった」


「へえ、セイラ、喜んだろ」


 軽く問われて、ヒースレッドは小首を傾げた。


「そうか、彼女も森が好きだったのか」


 ヒースレッドは澄んだ空気を吸い込んだ。


「いや、そこじゃねえよ。嫌いじゃないだろうけどさ」


「うん? 何が言いたい」


 コタロウが走り出してルークも先へ駆けて行った。ヒースレッドも小走りに後を追う。


「ヒースさ、良かったな。ジュールさんのこと」


「良かった……のか」


「尊敬する先輩が、薬に手え出すような人じゃないってわかって良かったろ」


「ああ……確かにそうだな。だが、どちらにしろ、先輩はもう戻らない。私は、彼が尊敬すべき先輩だったと覚えておくことくらいしかできない」


「まあな、そうだよな。てか、黒狼の元隊長、結構しょうもないよな」


「言うな……」


 悪戯っぽく笑うルークに、ヒースレッドは眉間に皺を寄せて注意した。


「アーオ」


 足元の草の匂いを嗅ぎ終えたコタロウが、早く行こうとばかりに鳴いた。




 


 今日最後の患者を見送って、セイラは受付の片付けを始める。薬の保管庫の整理を終えて出てきたターニャは、ノートを引き出しへしまった。


「ねえ、セイラ。さっき、ヴィーさんがナックルせんせいのところ来てたの知ってた?」


「いえ、見てません」


「そっか、今日はお仕事で来たみたいだけど、ナックルせんせい、ちょうど空いてて、検査室でけっこう長い間、話してたわよ」


 楽しそうに語るターニャに、セイラも笑顔を向ける。


「へえ、そうなんですか」


「ナックルせんせいってさ、ヴィーさんが足繁く医局に顔出す理由、わかってると思う?」


 セイラは手を止めて記憶を辿った後で、ゆっくり首を左右に振った。


「わかってそうに見えたことがありません」


「だよねえ」


 顔を見合わせて二人は笑い声を上げる。


「フィリップ様みたいな方は困りますけど、ナックルせんせいみたいな方も、違う意味で困りますね」


 ターニャは笑いながら突っ込みを入れた。


「それって、遠回しにどっちもどっちって言ってるでしょ」


「そ、そんなこと……ある、かも?」


 遠慮がちながらターニャの言葉を肯定したセイラの肩を、ターニャは笑いながら叩く。こみ上げてくる笑いで、片付けが進まない。


「ちょっと、二人で楽しそうー、私も混ぜて」


 笑い声を聞きつけて診察室から顔を出したローズに、ターニャとセイラはまた笑った。





【――イーサン・アシッドせんせい


 先日はお手紙をありがとうございました。調べものをしていたら、季節が回り、すっかり暑くなりました。コタロウは日陰で涼しい森への散歩が特に楽しいみたいです。温室を利用できるようになったので薬草を育てているので、ついでにコタロウを散歩しています。


 さて、お返事としては遅すぎて申し訳ありませんが、せんせいのお手紙にあったK、N、Yさんの件です。彼が嘘を吐いてしまったことについて、ランスロットさん(今は特捜の副長さんですよ)も許すそうです。嘘を吐きたくなるような、大きな理由があったんだろうって、東の方を向いて言ってました。


 また、せんせいがカルテを確認して欲しいと言っていたジュールさんのことですが、確かにせんせいは彼に薬を処方していませんでした。上司の誰かに薬をもらったのかもしれませんね。しっかり確認済みなので安心してください。


 セイラもターニャも元気にしています。二人の笑顔を見ていると、私も頑張らなくちゃいけないと、親のような、いえ、姉のような気持ちになります。近頃はナックルも医局に馴染んできて、四人体制で上手く回るようになってきました。


 イーサンせんせいと同じようにはできませんが、医局長代理として私も頑張ります。あなたもどうか、お身体には気を付けて。




――ローズ・ワーロング】

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