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最終話

 サンダーブレイドの冒険者ギルドは、緊迫した空気に包まれていた。ギルドマスター、エドガー・グラヴェルが集まった冒険者たちを前に、重い声で告げる。


「……各地の封印が、次々と破られている。これは単なる偶然や局所的な災厄ではない」


 彼は机の上に広げられた地図を指差した。そこには各地の封印の位置が記されており、そのほとんどがすでに崩壊しているか、急速に弱まりつつあった。


「ザカリー・グラッドストンの狙いは明白だ」エドガーが言葉を続ける。「彼は『破滅の神』ナクト=アグドゥルを復活させようとしている。各地の封印から膨大な魔力が集まり吸い上げられている」


 ギルド内にどよめきが走った。ナクト=アグドゥル――神々の時代、宇宙の法則そのものを揺るがす存在として封印された終焉の神。かつて世界を破壊しかけ、神々ですらその力を制御できず、長い封印の果てに忘れ去られた存在。


「それが復活すれば……世界は終わる」リオネルが苦々しく呟いた。


「私たちは、それを阻止するためにいる」クリスティーナが言葉を繋ぐ。


「奴が次に狙う封印は?」アルフレッドがギルドマスターに問いかけた。


 エドガーは地図を指し示しながら答えた。


「ここだ。《奈落の門》……神々が封じた最後の鍵。これを破壊すれば、ナクト=アグドゥルの魂が解き放たれる」


「……なら、迷っている暇はないな」ストームが剣を握る。


「すぐに出発しよう!」ガーネットが決意を固めた。


「待て!」エドガーが手を挙げた。「お前たちだけではない。他の冒険者たちも、共に向かうことになっている」


 その言葉と共に、数人の熟練冒険者たちが前に進み出た。


「《黒焔の刃》のエリシア、参戦するわ」「《戦狂の槍》のガルド……俺も行くぜ」「《星影の弓》のライナ……封印を守るためなら、命を懸ける」


 

 次々と、名のある冒険者たちが戦列に加わっていく。


 アルフレッドは静かに頷いた。


「……これは、世界の命運を賭けた戦いだ」


 彼は剣を抜き放ち、仲間たちを見渡す。


「この戦いで、ザカリーの野望を終わらせる!」


 ギルド内の冒険者たちは一斉に剣を掲げ、気勢を上げた。


 こうして、最終召喚を阻止するための戦いが始まる。


《奈落の門》へ――


 アルフレッドたちは、破滅の神の封印を巡る最後の戦いへと向かうのだった。



 サンダーブレイドの冒険者ギルドを発ったアルフレッドたちは、同盟を組んだ冒険者たちと共に一路、《奈落の門》へと急いでいた。


 そこはかつて、神々と破滅の神ナクト=アグドゥルの最終戦が行われた場所。激しい戦いの末にナクト=アグドゥルの魂は封じられ、幾重にも施された封印の下で眠り続けていた。しかし、ザカリー・グラッドストンの策謀によって、最後の封印が今まさに解かれようとしていた。


 道中の空気は張り詰めていた。誰もが言葉少なに、目前に迫る死闘へと覚悟を決めていた。


 そして、一行はついに目的地に辿り着いた。


 《奈落の門》――その名の通り、世界の果てとも思える巨大な門がそびえ立っていた。古代の石碑に刻まれた紋章は朽ちかけ、無数の鎖が門を縛っていた。しかし、その鎖が徐々にほどけていくのが見て取れた。


「間に合った……か?」ガーネットが息を呑む。


「いや、遅かった」リオネルが苦々しく言った。


 門の前には、すでに黒衣の魔導士ザカリー・グラッドストンの姿があった。彼は悠然と佇みながら、古の呪文を詠唱していた。


「フフ……ようやく来たか、勇者どもよ」ザカリーは薄く笑う。「お前たちが来るのは、計算済みだ」


「貴様……!」アルフレッドが剣を構える。


「いよいよ宴の始まりだ」ザカリーは静かに手を掲げると、封印の鎖が次々と砕け散る。「私は、破滅の神をこの世に蘇らせる。それだけのことだ」


「ふざけるな!」ストームが前に出る。「この封印が解ければ、世界は終わるんだぞ!」


「だからこそ、美しいのだよ」ザカリーは冷笑する。「お前たちには到底理解できまい。だが、もう止められん」


 ――ズズズッ……!!


 地面が揺れ始めた。門の奥から、禍々しい気配が溢れ出す。


 突如、門の周囲に無数の魔法陣が浮かび上がると、そこからザカリーの配下たちが現れた。セイセス=セイセスの魔導士たち、アンデッドの軍勢、そして黒き騎士たちが、門の周囲を埋め尽くしていく。


「迎え撃て!」アルフレッドが叫ぶ。


 こうして、最終決戦の幕が上がった――!!



「ここで奴らを止めなければ、ナクト=アグドゥルが蘇る!」クリスティーナが魔力を解放し、火炎の竜を召喚する。


「行くぞ!」ストームが光の魔法を剣に宿し、最前線に突撃する。


 アルフレッド、ストーム、エリシアのパーティ、そして集結した冒険者たちが、ザカリーの軍勢と激突する!


 リオネルは精霊たちを召喚し、周囲の魔導士たちを一掃。ガーネットは味方の治癒に回りながら、聖なる光でアンデッドたちを浄化していく。


 だが、敵もまた強大だった。ザカリーの側近であるセイセス=セイセスの幹部たちが次々と襲いかかる。


 漆黒の魔剣士ヴァルモスがアルフレッドと剣を交える。


「ククク……剣士同士、決着をつけようじゃないか」


「望むところだ!!」アルフレッドが光の剣を振りかざし、ヴァルモスに斬りかかる。


 一方、ストームはセイセス=セイセスの雷撃の魔導士ザイオンと対峙していた。


「雷の力を思い知れ!」ザイオンが天に向かって呪文を詠唱すると、無数の雷撃がストームに降り注ぐ。


「させるか!」ストームは魔剣に雷の力をまとわせ、逆に雷を弾き返す。「こっちの雷も味わえ!」


 激戦は続く。



「時間切れだ……」


 ザカリーがそう呟いた瞬間、封印の門が完全に開かれた。


 その奥から、《破滅の神》ナクト=アグドゥルが目覚める――。


「ククク……これで世界は終わるのだ」ザカリーは勝ち誇ったように笑いながら、闇の魔法陣に消えた。


「待て、ザカリー!!」アルフレッドが叫ぶが、もはや間に合わない。


 ――ズズズ……!!


 門の奥から、禍々しい黒い触手が溢れ出し、世界を飲み込む闇が広がる。


 世界の終焉を告げる破滅の神が、この世に現れたのだった――。



 次々と闇に飲まれていく大地。空には黒い稲妻が走り、世界の崩壊が始まろうとしていた。


「こんなものを野放しにできるわけがない!!」アルフレッドが剣を構える。


「やるしかない……!」クリスティーナが魔力を解放する。


「これが……最後の戦いか!」リオネルが精霊たちを呼び出す。


「みんな、覚悟はいい?」ガーネットが仲間たちに問う。


 ストームは静かに剣を抜き、言った。


「……生きて帰るぞ」


 アルフレッドは頷き、叫ぶ。


「行くぞ!!破滅の神ナクト=アグドゥルを……ここで討つ!!!」


 こうして、世界の命運を懸けた最終決戦が幕を開けた――



 ――ズズズ……!!


《奈落の門》が完全に開かれた瞬間、世界を蝕む闇が溢れ出した。大地は震え、空は黒く染まり、邪悪な力が辺りを覆う。


 そして、そこに現れたのは、《破滅の神ナクト=アグドゥル》。


 その姿は、人知を超えた異形。漆黒の触手が無数にうねり、全身を覆う影の鎧は、闇そのものを纏っているようだった。燃えるような六つの瞳が光を放ち、その視線はこの世界の全てを滅ぼさんとする威圧感に満ちていた。


「グオオオオオオオ……!!」


 ナクト=アグドゥルが咆哮すると、大気が裂け、空間そのものが歪んだ。次の瞬間、破滅の黒雷が周囲に降り注ぎ、大地を焼き尽くす。


「やばいぞ……!」ストームが身を翻して雷撃を避ける。


「これが破滅の神……とんでもない魔力だ……!」リオネルが精霊たちを呼び出しながら顔を歪める。


「だけど、やるしかない……!」クリスティーナが魔力を練り上げ、紅蓮の竜王を召喚する。


「世界を滅ぼさせるわけにはいかない……!!」ガーネットが聖なる光を仲間たちに授け、加護を施す。


「行くぞ!!」アルフレッドが剣を構え、突撃する!! 冒険者たちもそれに続く。



 アルフレッドたちが光の魔法を宿した剣を振りかざし、ナクト=アグドゥルの巨体に斬りかかる! その刃は黒い装甲の一部を抉るが――。


「グゥオオオオオオ!!」


 ナクト=アグドゥルが触手を振りかざし、冒険者たちを吹き飛ばした。


「ぐっ……!!」


 アルフレッドは地面を転がりながら立ち上がる。


「アルフレッド! みんな!」ガーネットが回復魔法を放つ。


「こいつ、ちょっとやそっとの攻撃じゃ効かないぞ……!」ストームが剣を抜き、切り込むが、ナクト=アグドゥルの影の鎧に弾かれてしまう。


「ならば魔法で!!」クリスティーナが大気を操り、炎と氷を融合させた爆裂魔法を発動。


《極焔氷嵐》――!!!


 炸裂した魔法がナクト=アグドゥルの身体を包み込むが……黒きオーラが爆発し、その攻撃すらも弾かれた。


「まさか……これほどまでに……!?」クリスティーナが驚愕する。


「グォォォォォォォ……!!!」


 ナクト=アグドゥルは両腕を広げると、虚空に漆黒の魔法陣を浮かび上がらせる。そして――。


《奈落の咆哮》


 全てを滅ぼす漆黒の光線が空から降り注いだ。


「ぐっ……!!!」アルフレッドたちは必死に回避するも、衝撃波に弾かれて吹き飛ばされる。



「……くそっ、このままじゃ押しつぶされる……!」ストームが歯を食いしばる。


「ならば、最後の手段だ!!」リオネルが叫ぶ。「精霊たちの力を、この戦場に解き放つ……!!」


 リオネルが精霊魔法の真髄を解放し、四大精霊の召喚儀式を発動。


「――精霊王たちよ!!この戦いに力を貸せ!!」


 その言葉と共に、空間が光を帯び――


 四大精霊王、サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームがこの場に顕現する。


「これなら……いけるかもしれない!!」アルフレッドが剣を握り直す。


「総力戦だ!!」クリスティーナが叫ぶ。


「今こそ決着をつけるぞ!!」ストームが光の魔法剣を構える。


 ナクト=アグドゥルが激しい咆哮を上げるが、四大精霊王の加護を受けたアルフレッドたちは、再び立ち上がり、最後の決戦へと挑む。



 轟く雷鳴、燃え盛る炎、裂ける大地、そして舞い上がる氷の刃。


 四大精霊王の力を借り、アルフレッドたちは再びナクト=アグドゥルに挑む。


「行くぞ――総力戦だ!!」


 アルフレッドが叫び、光を纏った魔剣を振るう。


「炎よ、すべてを焼き尽くせ!!」サラマンダーの咆哮と共に、灼熱の柱がナクト=アグドゥルを包み込む。


 ウンディーネは「浄化の奔流よ、この闇を洗い流せ!!」巨大な水流が黒い影を飲み込み、腐食した魔の瘴気を浄化していく。


 シルフが「疾風よ、破滅の神を貫け!!」嵐のような風が刃となり、ナクト=アグドゥルの巨体を切り裂く。


「大地の守り手よ、我らに力を貸せ!!」ノームの力で地面が震え、巨大な岩の槍が天を突き破るようにナクト=アグドゥルを貫く。



「グゥオオオオオオオオオオオ!!!!」


 ナクト=アグドゥルはその圧倒的な力で精霊の猛攻を弾き返す。


「まだ倒せないのか!?」ストームが歯を食いしばる。


 ナクト=アグドゥルは六つの瞳を輝かせ、


《奈落の咆哮》――世界を滅ぼす漆黒の光線を放つ。


「来るぞ!!!」リオネルが警戒する。


 轟音と共に、黒き破滅の光が奔流のように押し寄せた――。


 冒険者たちはそれに耐え、魔力を解き放つ。


「ここで終わらせる……!!」アルフレッドは魔剣を天に掲げ、光の力を集める。


「《聖剣解放――煌天の刃!!》」剣が眩く輝き、ナクト=アグドゥルの闇を切り裂く。


「魔剣解放――闇を穿て!!」ストームが続く。


 二つの剣が交差し、聖なる光と闇の剣が同時に突き刺さる。


 冒険者たちは彼らのもとへと魔力を集中させる。


「これで……決める!!!」アルフレッドとストームが刃を突き立てると、


 ナクト=アグドゥルは苦悶の咆哮を上げる。


 ――光と闇が交わり、世界を揺るがす一撃が破滅の神を貫いた。


「グオオオオオオオオオオ!!!!!」


 ナクト=アグドゥルの身体が砕け、漆黒のエネルギーが天へと消えていく――。



 静寂――


 あれほどの激戦の後、世界は静かだった。


「……やった、の?」クリスティーナが呟く。


「……ああ、やったさ」アルフレッドが剣を収める。


 破滅の神ナクト=アグドゥルは消え、世界の崩壊は阻止された。


「世界は……守られたんだね」ガーネットが微笑む。


 戦いは終わり、彼らは勝利を手にした。


 しかし――


「……ザカリーは?」


 リオネルが辺りを見渡すが、彼の姿はなかった。


 奴は、どこへ消えたのか――


 そして、この戦いが本当に最後だったのか……。



 閃光が世界を満たし、ナクト=アグドゥルが消え去った。


 勝利の余韻に浸る間もなく、異様な沈黙が訪れる。


「……何か、おかしい」


 リオネルが眉をひそめる。


「これは……こんなはずじゃない」


 クリスティーナが慎重に魔力を探る。


 そして――


「フフ……ハハハハハ……!!!」


 突如響き渡る冷たい笑声。


 虚空から黒い霧が渦を巻き、ゆっくりと黒衣の魔導士ザカリー・グラッドストンが姿を現した。


「ご苦労だったな、冒険者ども」


 ザカリーは愉悦に満ちた声で言う。


「貴様……!」アルフレッドが剣を構える。


 ザカリーはゆっくりと手を掲げると、その周囲に異様な黒い波動が集まった。


「何のつもりだ?」ストームが警戒する。


 その問いに、ザカリーは笑みを深める。


「貴様らが倒したもの――それはナクト=アグドゥルではない」


「……何?」リオネルの目が鋭くなる。


「私の計画は、すでに最終段階に入っていたのだよ」ザカリーの足元に、崩壊していたはずの封印の残骸が浮かび上がる。


「私が各地の封印を解いた理由――それは、封印された古の神々や魔神たちの膨大な魔力を吸収するためだったのだ」


「まさか……!!」ガーネットが息をのむ。


「ナクト=アグドゥルは、私の力を完成させるための最後の『養分』に過ぎなかった」


「そして、今ここに――私は神をも超える存在となった!!」


 ザカリーの全身から、圧倒的な魔力が爆発的に放たれた。


 大地が揺れ、空が裂け、空間そのものが歪む。


 アルフレッドたちは本能的に理解した。


 ――こいつは、もはや人間ではない。


 ザカリー・グラッドストンの魔力は、この世界の理をねじ曲げるほどの領域へと到達していた。


「なるほどな……お前はナクト=アグドゥルの封印を解くフリをして、その魔力すらも吸収したのか……!」


 アルフレッドが歯を食いしばる。


「その通り」


 ザカリーが不敵な笑みを浮かべる。


「お前たちに選択肢をやろう」


 彼はゆっくりと手を広げ、全員を見渡した。


「この世界に跪き、新たな神の僕となるか――それとも、私の力の証明として、ここで消え去るか」



 強風が吹き荒れ、大地が震える。


「どちらを選ぶ?」


 ザカリーの瞳が、赤黒く輝く。


「……選ぶまでもない」


 アルフレッドが魔剣を構えた。


「お前の好きにはさせない!」


 ストームが剣を抜く。


「そうよ、こんな世界、誰が望むの?」


 クリスティーナが魔法陣を展開する。


「絶対に……止める」


 ガーネットが祈りを捧げる。


「……決まりだな」


 リオネルが精霊の杖を握りしめた。


 それを見たザカリーは、再び冷笑を浮かべる。


「そうか……ならば、絶望と共に滅ぶがいい」



 大地が震え、天が裂ける。


 ザカリー・グラッドストンの魔力が臨界点を超え、空間すら歪めるほどの圧倒的な圧力が周囲に満ちた。


「この世界に新たな秩序をもたらそう」ザカリーの声が静かに響く。


 しかし、その静寂とは裏腹に――次の瞬間、彼の全身から放たれた黒い雷が地面を砕き、辺りを焼き尽くした。


「来るぞ!」アルフレッドが叫ぶ。


《破滅の神の力》


「世界よ、私に跪け!!」


 ザカリーの叫びと共に、闇の魔法陣が発動した。


 その中心から、黒い竜巻のようなエネルギーが巻き起こり、すべてを飲み込もうとする。


「この魔力……!?」リオネルが目を見開く。


「こんなのが直撃したら、一瞬で消し飛ぶわ!」クリスティーナがすぐに魔法障壁を展開する。


「だが、逃げるわけにはいかない!」ストームが剣を握りしめ、前に出る。


 ――ザカリーの魔力は、もはや次元が違う。


 彼はすでに人間を超え、神に匹敵する存在となっていた。


「なら……この力で突破する!!」


 アルフレッドが叫び、剣に光の魔力を込める。


《光と闇の激突》


 アルフレッドの魔剣が、神聖なる光を纏い、ザカリーへと斬りかかる。


 ストームもまた魔力を剣に宿し、連携攻撃を仕掛ける。


 冒険者たちはザカリーへ集中攻撃を撃ち放った。


「無駄だ」


 ザカリーが軽く手を振るだけで、巨大な闇の衝撃波が放たれた。


「くっ……!」アルフレッドが剣を構えて防御するが、圧倒的な力に吹き飛ばされる。


「これは……っ!」ストームも衝撃を受けながらも、何とか体勢を立て直した。


 ――だが、ザカリーはなおも微動だにしない。


「お前たちでは、私には勝てん」


 その言葉と同時に、無数の闇の刃が空間を切り裂き、アルフレッドたちに襲いかかる。


「させない!」


 クリスティーナが瞬時に魔法陣を展開し、炎と氷の魔法で相殺する。


「光よ、彼らを守れ!」


 ガーネットが光の結界を張り、仲間たちを守る。


「リオネル!」アルフレッドが叫ぶ。


「分かってる……!」


 リオネルが精霊の杖を掲げると、黄金の風が舞い上がる。


「風精霊よ、大地を貫け!!」


 突風がザカリーへと襲いかかるが――


「無駄だ」


 彼は片手を振るだけで、精霊の風を掻き消してしまった。


「な……!?」リオネルが驚愕する。


「これが、神を超えた力というものだ」



「どうすれば……!」


 クリスティーナが思案する。


 すでにあらゆる攻撃が通じず、ザカリーは余裕の表情を崩していない。


 まるで、絶望の淵に沈んでいく感覚。


 しかし――


「まだ終わってない……!」アルフレッドが立ち上がる。


「お前の言う“神”がどんなものかは知らないが……俺たちには、負けるわけにはいかない理由がある!!」


 剣を握りしめ、再び立ち向かう。


 すると、ザカリーの表情が一瞬だけ険しくなった。


「……ほう?」


 アルフレッドたちの身体が、再び光に包まれ始める。


 ――仲間たちの想いが、力となる。


「ならば見せてみろ」


 ザカリーが新たな呪文を詠唱する。


 次の瞬間――


 光と闇が、世界を裂く激突を迎えようとしていた!!



 ザカリーの呪文詠唱が進むにつれ、空間が捻じれ始める。空には黒い雷雲が広がり、地面は震え、無数の闇の触手が地の底から伸びてくる。


「この力……もはや世界そのものを歪めてる……!」リオネルが息をのむ。


「来るぞ!!」ストームが叫ぶ。


 ザカリーが両腕を広げ、黒き神性の魔力を凝縮する。その中心に形成されたのは、一つの歪んだ球体――空間そのものを砕く、崩壊の魔核。


「この一撃で、お前たちは消え去る。だが、嘆くな……これは救済だ」


 彼が腕を振ると、崩壊の魔核が一行へ向かって放たれた。


「……ならば、すべてを押し返す!!」アルフレッドが叫び、剣を光で包む。


 次の瞬間、クリスティーナが杖を掲げ、詠唱を始める。


「この世の理よ、私の手で書き換えん……!」


 彼女の詠唱に呼応するように、空に魔法陣が複数展開され、光の柱が降り注ぐ。結界のように広がるその光が、ザカリーの崩壊魔核を迎え撃つ。


「ガーネット!!」ストームが叫ぶ。


「わかってる!」ガーネットは祈るように手を組み、聖なる加護を仲間へと送る。「女神よ、我らに力を!!」


 他の冒険者たちもそれに続く。彼らの力が、魔力がザカリーに立ち向かう。


 光と闇の魔力がぶつかり合い、世界が揺れた。



 アルフレッドが剣を振りかざし、聖なる魔力をさらに高める。


「ストーム、みんな、行くぞ!」


「おう!」ストームもまた、剣を魔力で覆い、そして冒険者たちもそれに続く。突撃。


 光を帯びた剣が、黒い魔核へと叩き込まれる!


 その瞬間、圧縮されていた魔力が爆発し、巨大な光の奔流が戦場を覆った。


「ぐっ……!!」ザカリーが初めて苦悶の表情を浮かべる。


 その隙を逃さず、リオネルが風精霊を召喚し、魔核のエネルギーを吹き飛ばす。


「今よ、クリスティーナ!」リオネルが叫ぶ。


「了解!!」クリスティーナは炎と氷の魔法を同時に発動させる。「極限魔術――《双極の破滅》!!!」


 二つの相反する魔力が融合し、ザカリーへと向かって炸裂する。


「なっ……!?」ザカリーの体が炎と氷に包まれる。


 光が収まると、彼の周囲の空間が崩れ、彼自身の魔力が揺らぎ始めていた。


「……面白い」ザカリーが嗤った。「お前たち……まだここまでの力を……!」


 だが、アルフレッドたちは気を緩めなかった。


「勝負はまだついてない!」アルフレッドが剣を構え直す。


「そうね……!」クリスティーナも杖を握りしめる。


「ここで終わらせる……!」リオネル、ストーム、ガーネットも戦闘態勢を整える。


「ならば……今度こそ、決着をつけようか」


 ザカリーが最後の魔力を解放し、彼の体が黒き炎に包まれる。


 冒険者たちはこの圧倒的な魔王に挑む。死ぬかもしれない。だが、彼らは紛れもなく命をかけていた。



 ザカリー・グラッドストンの体を包む黒炎は、まるで意思を持つかのように脈動し、彼の周囲の空間すら歪めていく。大地が震え、空には暗黒の雷が走り、世界そのものが異変を感じているかのようだった。


「アルフレッド……こいつ、もう完全に人間じゃない……!」ストームが歯を食いしばる。


「いや、もはや神すら超えている……」リオネルが精霊と交感しながら、目を細める。


「ふふ……これが絶望だよ、冒険者ども。お前たちの力では、私にはもう触れることさえできまい」


 ザカリーが手をかざすと、彼の背後に漆黒の魔法陣が展開される。そこから無数の黒き槍が現れ、全方向へ向けて発射された。


「全員、防御!!」クリスティーナが瞬時に魔法障壁を展開する。


「遅い」ザカリーが囁くと、黒槍は一瞬で軌道を変え、障壁をすり抜けるようにして襲いかかった。


「くそっ……!」ストームが瞬時に剣を振るい、槍を弾くが、一部の槍は弾かれることなく、直撃を狙っていた。


「させるか!!」ガーネットが聖なる光を放ち、黒槍の動きを止める。


「助かったわ……!」クリスティーナが急いで追加の防御魔法を展開し、全員の傷を防ぐ。


 その瞬間、アルフレッドがすでにザカリーへ向かって疾走していた。光を帯びた魔法剣を両手で構え、一閃。


「そこか!」ザカリーが気づき、闇の盾を展開する。


 だが、アルフレッドの剣はそのまま盾を貫き、ザカリーの腕を切り裂いた。


「……!?」ザカリーの顔に、一瞬、驚きの色が浮かぶ。


「俺たちは……お前の好きにはさせない!!」アルフレッドが咆哮し、さらに追撃を仕掛ける。



 ザカリーが笑みを浮かべる。「なるほど……その力、見せてもらおう」


 彼は傷ついた腕を再生させると、再び手をかざした。すると、周囲の空間が完全に反転し、異次元へと変貌していく。


「なんだ……この空間は!?」リオネルが驚愕する。


「私が創造した……神をも欺く領域だ」ザカリーが呟く。


 闇の領域に足を踏み入れた瞬間、アルフレッドたちは体が急激に重くなるのを感じた。まるで魔力が吸い取られていくような感覚だ。


「これじゃ……動きが鈍る……!」ストームが歯を食いしばる。


「これが……神を超えた力……?」クリスティーナが魔法の展開を試みるも、発動速度が著しく落ちていた。


「ここではお前たちの力は半減する。だが、私は……完全なる力を発揮できる」ザカリーがゆっくりと歩み寄る。


 その時、ガーネットが静かに祈りを捧げた。


「……ならば、この光を――!!」


 次の瞬間、ガーネットの体から純白の光が放たれ、仲間たちの体を包み込む。すると、鈍重だった身体が軽くなり、再び動けるようになった。


「……ガーネット、これは?」アルフレッドが問う。


「私たちの魔力を抑え込もうとしている空間そのものを、神聖なる力で中和したのよ!」ガーネットが答える。


 ザカリーが眉をひそめた。「なるほど……だが、それだけでは私には届かんぞ?」


「だったら……俺たちが届かせる!!」ストームが叫ぶ。


 彼はアルフレッドと同時に駆け出し、二人の剣が光を帯びる。魔法剣の限界を超え、二人の剣が純粋な神聖の輝きを放つ。


「《神剣の極致》――!!」


 二人が同時にザカリーへ向けて剣を振るう。


 ザカリーは闇の魔法を凝縮し、迎え撃とうとするが――


「遅い!!」クリスティーナが火焔魔法を撃ち込み、ザカリーの動きを封じる。


「これで決める!!!」リオネルが嵐の精霊を召喚し、さらに加勢する。


 剣と魔法が交錯し、世界が光と闇の境界を超えて弾ける――!



 光の奔流が収まり、煙がゆっくりと晴れる。


 そこには、膝をつき、血を流すザカリーの姿があった。


「……これが、お前たちの力か」ザカリーは、血を吐きながら、それでも笑みを浮かべていた。


「お前は……もう終わりだ」アルフレッドが剣を構えたまま言う。


 ザカリーはゆっくりと立ち上がり、天を仰ぐ。


「いや……まだ終わらん……」


 すると、彼の体から闇の魔力が徐々に解けていき、彼自身が崩れていくように見えた。


「ククク……私の役目は、終わった……ナクト=アグドゥルの目覚めは、すでに始まっている……私こそが、真の破滅の神……」


「……何?」リオネルが息をのむ。


 ザカリーの体が、最後の闇の光とともに霧散し、完全に消え去った。


 だが――


「……この感覚……!!!」クリスティーナが叫ぶ。


 大地が震え、空が割れ、そこから現れたのは――


 封印を完全に解かれた、破滅の神《ナクト=アグドゥル》そのものだった。


「……本当に、これが……神の力……?」ストームが震えながら呟く。


「みんな……覚悟はいい?」ガーネットが微笑む。


 アルフレッドが剣を握り直し、深く息を吸った。


「これで、本当に最後だ……!!」


 光と闇が交錯する、世界の命運を賭けた最終決戦が――


 ついに、幕を開ける。



 空が裂け、大地が砕ける。 暗黒の雷鳴が響き、天空を満たす絶望の波動が、世界全体に広がっていく。


 現れたのは、巨大な漆黒の存在。その身体は無限の闇を宿し、空間そのものを歪める圧倒的な威圧感を放っている。


 それが、ザカリーが一体となった破滅の神《ナクト=アグドゥル》だった。


「……こいつが、神を超えた破滅の存在……!!」ストームが息をのむ。


「こんなのがこの世に存在していいはずがないわ……!!」クリスティーナが拳を握る。


「これがザカリーの本当の狙いだったのか……封印された最古の邪神、その目覚めを……」リオネルが静かに呟く。


 だが、ナクト=アグドゥルは彼らの会話を意にも介さず、ゆっくりと大きく腕を上げる。


「――全ての存在を無へと帰せ」


 その一言と共に、天が裂け、重力すら崩壊するかのような圧倒的な力が広がる。


 周囲の大地が浮かび、闇の奔流が奔り、ナクト=アグドゥルの意思だけで世界が書き換えられていく。――破滅の力、顕現。


「……やばい!!みんな、避けろ!!」アルフレッドが叫ぶ。


 次の瞬間――


 天より降り注ぐ無数の黒き閃光が、世界を焼き払うかのように降り注いだ。その一撃一撃は、大地を削り、空を裂き、生命そのものを否定する力を宿していた。


「こんなの、もはや魔法の領域じゃない……!!」ガーネットが防御魔法を展開するが、その魔法すら弾かれる。


 ――神がもたらす、終焉。


 だが、それを見て、アルフレッドは剣を強く握り締めた。


「――だったら、俺たちがそれを打ち砕く!!」



「こいつが神なら、俺たちはそれを超えてみせる!!」アルフレッドが剣を掲げる。


「そうだ……私たちはこんな存在に負けるためにここまで来たわけじゃない!!」クリスティーナが炎の魔法を最大限に高める。


「この世界には、守るべきものがある……!!」リオネルが精霊を召喚し、周囲の大気を震わせる。


「絶望の先に、未来を切り開く!!」ストームが剣を構え、闇に立ち向かう覚悟を固める。


「……神が世界を滅ぼすというなら……私たちがそれを阻む!!」ガーネットが聖なる光を放ち、仲間たちを守る盾となる。


 ――そして、アルフレッドの剣が輝きを放つ。


 それは、この世界に生きる者たちの希望の光。


 仲間たちの力が剣に集い、一つの力へと昇華されていく。


「……来いよ、ナクト=アグドゥル!!」


 アルフレッドは剣を掲げ、最後の決戦へと挑む。



 ナクト=アグドゥルは沈黙しながらも、漆黒の波動をさらに膨れ上がらせる。


 次の瞬間――


 全ての光が消えた。


 世界が沈黙し、ただただ漆黒の闇が全てを覆い尽くした。


「……っ!? みんな……無事か……!?」アルフレッドが叫ぶ。


「見えない……光が、吸い込まれる……!!」クリスティーナが必死に炎の魔法を灯すが、それすらも掻き消される。


「これは……ナクト=アグドゥルの領域だ……!!」リオネルが呟く。


 ――神の領域、完全顕現。


 全てが消えゆく世界の中、アルフレッドは剣を振りかざした。


「――そんなもの、俺たちが打ち砕く!!」


 その瞬間――


 剣が閃き、光が走る。


 仲間たちの魔力が共鳴し、アルフレッドの剣は神をも貫く光を宿していた。冒険者たちの魔力が収束する。


「――終わらせる!!」


 アルフレッドが飛び込み、ナクト=アグドゥルへと斬りかかる。


 ――《神殺しの一撃》が、ついに放たれる――。



 アルフレッドの剣が、閃光と共にナクト=アグドゥルへと向かう。神の領域すらも貫く意志を込めた、その一撃は、もはや単なる剣の斬撃ではなかった。


 それは、希望の力――世界を救うための一閃。


「――砕け散れ、ナクト=アグドゥル!!」


 アルフレッドの剣が神の肉体へと到達する刹那、ナクト=アグドゥルの体から闇の波動が噴き出し、彼を弾き飛ばそうとする。しかし――


「そうはさせないわよ!!」クリスティーナが叫び、両手を掲げる。


「――《太陽の審判ソル・ジャッジメント》!!」


 灼熱の太陽が生まれ、黒き世界に炎の光を灯した。神の闇を貫く純粋な光が、ナクト=アグドゥルの影を削り取る。


「俺もいく!!」ストームが瞬時に間合いを詰め、魔剣を横一閃に振るう。


「――《破閃・陽焔はせん・ようえん》!!」


 刃から放たれた光の刃が、ナクト=アグドゥルの身体を切り裂き、闇の肉体を削ぎ落としていく。


「こいつの闇の魔力……封じる!!」リオネルが精霊たちの声を聞き、詠唱する。「《光精霊王の降臨ルミナス・オーバーロード》!!」


 巨大な光の精霊王が現れ、その聖なる輝きがナクト=アグドゥルの邪悪な魔力を封じ込める。神すらも退ける精霊王の力が、闇の神の力を抑え込んでいく。


「みんな、最後の一撃に集中して!!」 ガーネットが、仲間たちに光の祝福を施す。


「《聖なる祈り(ホーリー・グレイス)》!!」


 彼女の祈りが、アルフレッドの剣に宿る。 剣はより眩い輝きを放ち、ナクト=アグドゥルの中心へと狙いを定めた。


「――終わらせる!!」


 アルフレッドが力の限り剣を振り下ろす。


「《滅神剣・黎明》!!!」


 剣が神の体を貫く瞬間――


 世界が光に包まれた。



 ――ザカリー・グラッドストンの声が響く。


「馬鹿な……貴様ら程度が……」


 ナクト=アグドゥルの身体が砕け、空間に亀裂が入る。世界を覆っていた闇が、次第に霧散していく。


「……ありえん……!!」ナクト=アグドゥルが呻く。


「神たる我が……このような……」アルフレッドは剣を握りしめ、睨みつける。


「お前は神かもしれない……だが、俺たちは決して負けない……!!」


 ナクト=アグドゥルが断末魔の叫びを上げると、その身体は光に包まれ、完全に崩壊した。


 破滅の神、消滅。


 戦いは、終わった。



「……ふふ、素晴らしい戦いだったな」


 静かな声が響く。


 そこに立っていたのは、黒衣の魔導士、ザカリー・グラッドストンだった。


「貴様……まだ生きていたか……!」クリスティーナが睨みつける。


「当然だ」ザカリーは冷静に微笑む。「だが、まあ……ここまでか。ナクト=アグドゥルは滅びた。私の計画もこれで潰えたというわけだ」


「……降参するのか?」アルフレッドが睨む。


「いや? 私はこれから新たな計画を練る。世界が変わるのは、またの機会にしよう」


 そう言うや、ザカリーは空間を歪め、テレポートの魔法を発動させる。


「じゃあな、勇者たち。しばらくは大人しくしていてやる。だが、忘れるな――」


 ザカリーは最後に、不気味な笑みを浮かべて言った。


「……次は、私が神となる番だ」


 そう言い残し、ザカリー・グラッドストンは、消えた――。



 暗雲が晴れ、世界に光が戻る。


「……終わった、のか……?」リオネルが呟く。


「いや……まだ、完全には終わってない」アルフレッドが剣を握る。


「ザカリーはまだ生きてる。だけど……」クリスティーナが微笑む。


「今は、勝利を喜びましょう?」


「そうだな……」ガーネットが安堵の息を漏らす。


「……勝ったんだ」ストームが力なく笑う。


 空は澄み渡り、静けさが戻る。世界は、救われた。


 だが――


 戦いは、終わらない。


 未来は続く。闇の脅威が完全に消えたわけではない。


 しかし、彼らは知っていた。どんな敵が来ようとも、仲間と共に戦えば、必ず乗り越えられるということを。


 アルフレッドたちの旅は、まだ終わらない――。



 ナクト=アグドゥルとの死闘を終え、ザカリー・グラッドストンを退けたアルフレッドたちは、荒れ果てた戦場を見渡した。魔神の崩壊とともに、世界を覆っていた不吉な闇は消え、澄み渡る空が広がっていた。


「……長かったな」ストームが剣を肩に担ぎながら呟く。


「本当に……終わったの?」ガーネットがまだ信じられないという顔で周囲を見渡した。


「ナクト=アグドゥルは消え去った。けど、ザカリーはまだどこかで生きている」クリスティーナは険しい表情で答えた。


「でも……今は、帰ろう」リオネルが静かに言う。「俺たちは、十分に戦った。報告もしなきゃならないしな」


 アルフレッドは頷き、剣を鞘に収めた。


「そうだな……帰るとしよう。サンダーブレイドへ」



 一行は数日をかけて、帝都サンダーブレイドへと帰還した。


 冒険者ギルドの扉を開けると、そこには彼らの帰りを待ちわびていた仲間たちやギルドの職員たちが集まっていた。


「お前ら……本当に帰ってきたのか!」


 ギルドマスターのヴォルター・ダインが驚きと安堵の表情を浮かべた。


「ナクト=アグドゥルを討ちました。……ですが、ザカリー・グラッドストンは生きています」


 アルフレッドが冷静に報告する。


「そうか……。だが、それでもお前たちは世界を救ったんだ。誇っていい」


 ヴォルターは腕を組んで大きく頷いた。


「各地の解放された古の存在はその力を失っていくようです。これで世界も平和に……」


 ギルドの受付嬢シエラが微笑む。


「そう簡単にはいかないさ」ストームが渋い顔で答える。「ザカリーがまだ生きてる限り、いずれまた何か企むはずだ」


「そうね……彼は“次は自分が神となる”と言い残したわ」


 クリスティーナが不安そうに呟く。


「つまり、まだ戦いは続く……ってことか」


 リオネルがため息をついた。


「それでも、今は少し休もう。俺たちは十分すぎるほど戦ってきたんだ」


 アルフレッドが言うと、仲間たちは少し表情を緩めた。


 ヴォルターは頷き、ギルドの者たちに向けて宣言した。


「諸君、お前らは世界を救った英雄だ! 今日は盛大に祝おうじゃないか!」


 冒険者たちは歓声を上げ、一夜の宴が始まった。



 ギルドの大広間では、豪勢な料理が並び、冒険者たちが酒を酌み交わしながら盛り上がっていた。


「久しぶりじゃねえか、アルフレッド!」


 酒杯を掲げながら、かつての仲間たちが集まってきた。


「ようやく帰ってきたな!」


「お前たちが帰らなかったら、どうしようかと思ったぜ!」


 彼らの帰還を祝う声が次々と飛び交う。


「……本当に、無事でよかった」ガーネットは杯を掲げながら、しみじみと呟いた。


「ようやく、肩の力を抜けるな」


 ストームは大きく伸びをしながら、酒を一気に飲み干した。


「……ま、私たちはまたすぐに新しい依頼を受けることになるでしょうけどね」


 クリスティーナが苦笑しながらワインを傾ける。


「しばらくは、のんびりしたいな……」


 リオネルがぼやきながら、テーブルに突っ伏した。


 アルフレッドは笑いながら、仲間たちを見回した。


 ――こうして、彼らの長い戦いは一区切りを迎えた。



 祝宴が終わり、翌日。一行はギルドマスターの部屋へと呼ばれた。


「さて、お前たちには次の動きを決めてもらう必要がある」


 ヴォルターが腕を組んで言った。


「世界は救われたとはいえ、ザカリーはまだどこかで生きてる。しかも、“神となる”とか言ってたんだろ?」


「つまり、奴はまだ何かを企んでいる……」


 アルフレッドが険しい顔になる。


「ザカリーの動向を追うべきか、それとも一旦別の問題に対処するか?」


 クリスティーナが思案する。


 すると、ギルドの情報員が書類を手に持って部屋へと入ってきた。


「報告です。各地の動きが慌ただしくなっています。特に北の氷海地域と東方の秘境で異変が確認されています」


「……氷海地域と秘境?」


 リオネルが目を細めた。


「それって、何か関係あるのか?」


 ストームが尋ねる。


「おそらく、ザカリーの次の動きに関連している可能性が高い。どちらも、過去に強大な力が封じられたとされる場所だ」


「やっぱりな……」アルフレッドが剣の柄に手を添えた。


「ザカリー・グラッドストンが再び動く前に、こちらも先手を打つ必要がある……!」


 世界の危機はまだ去ってはいない。


 新たな戦いの幕が、今まさに上がろうとしていた――。


(――To Be Continued.)

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