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第四十一話

 マグダリヌス王国を後にしたアルフレッドたちは、帝都サンダーブレイドへと戻ってきた。


 空には雲が立ち込め、いつもより重苦しい空気が街を覆っているように感じられた。世界全体が何か不吉なものの到来を予感しているかのようだった。


 冒険者ギルドへと向かう道すがら、町の人々の様子にも変化が見られた。広場では、異国の商人たちが集まって密談を交わし、衛兵たちはいつも以上に警戒を強めている。


「……何か、様子が変だな」


 ストームが辺りを見回しながら呟いた。


「ええ、ただの杞憂ならいいけど」


 ガーネットが不安そうに答える。


 ギルドに到着すると、入口には大勢の冒険者たちが詰めかけており、いつも以上に慌ただしい雰囲気が漂っていた。受付ではギルド職員たちが急ぎ足で書類を整理し、ギルド長室の扉の前では、各国の使者と思しき者たちが順番待ちをしている。


「これは……相当なことが起きてるな」


 アルフレッドは眉をひそめた。


 その時――


「アルフレッドさん!」


 知った顔のギルド職員が駆け寄ってきた。


「ちょうどよかった! すぐにギルド長室へ! 各地から重大な報告が入ってるんです!」


「やっぱりな……」


 一行は急ぎギルド長室へと向かう。



 ギルド長室に入ると、中央の円卓を囲むように、各国の代表や高位の冒険者たちが集まっていた。


「よく戻ったな、アルフレッド」


 ギルド長のロドリゴが渋い顔で出迎えた。


「話は聞いてるわ。マグダリヌスの霊峰での激戦、お疲れ様」


 情報屋でもあるエリスが、椅子に腰掛けながら微笑むが、その目はいつになく真剣だ。


「で、どうなってる?」


 アルフレッドが席に着くと、ロドリゴがため息をつきながら地図を広げた。


「……簡潔に言えば、最悪の事態に向かっている」


 地図上には赤い印がいくつも記されている。それは各地で封印が崩壊しつつある場所を示していた。


「すでに報告が入っているだけでも、ナブレヴェルの砂漠に眠る古龍ガル=ザファル、エドムトーンの大樹海に封じられた邪精霊ラゼルファーン、そして……レゼルエテリア北部、ベトリクーネのダーケンロックで異変が発生している」


「何だって……!?」


 リオネルが顔を強張らせた。


「これだけの封印が立て続けに揺らいでいるとなると……我々は守勢に立たされている」


 クリスティーナが眉をひそめる。


「ザカリー・グラッドストン、やってくれるわね」


 ロドリゴが地図を指しながら続ける。


「奴はこれまで集めた遺物を利用して、封印を弱体化させ、次々と解放している。そして――」


「最終的な狙いは?」


 アルフレッドが問いただす。


 ロドリゴは口を開くのをためらうような素振りを見せたが、やがて低い声で言った。


「……世界を滅ぼすための《最終召喚》だ」


 部屋に静寂が訪れる。


「……最終召喚?」


 ストームが目を細める。


「奴は各地の封印された存在を蘇らせることで、最終的に、かつて世界を混沌に陥れた破滅の神《ナクト=アグドゥル》を呼び覚まそうとしている」


「ナクト=アグドゥル……?」


 リオネルが呟いた。


 エリスが頷きながら説明する。


「伝説によれば、ナクト=アグドゥルは“混沌の起源”とも言われる存在よ。遥か昔、あらゆる神々が協力して封印した、純粋なる破壊の象徴。もし本当に復活すれば……」


「この世界は終わる、ってことか」


 ガーネットが言葉を引き継ぐ。


 ロドリゴは静かに頷いた。


「奴の動きは早い。今こうしている間にも、次の封印が破られようとしている」


「なら、悠長にしてる暇はないな」


 アルフレッドが立ち上がった。


「次に向かうべき場所は?」


 ロドリゴが地図に指を置いた。


「……ベトリクーネのダーケンロックだ」


「ドワーフの地下王国……?」


 ストームが驚いた顔をする。


「封印されているのは?」


 クリスティーナが尋ねる。


「冥界の門を司る魔王《ヴェル=ドラゴン》だ」


 ロドリゴの声が重く響いた。


「ヴェル=ドラゴン……?」


「簡単に言えば、死者を操る魔王。もし封印が解ければ、ザヴレイスの闇の軍勢がさらに増し、世界全土にアンデッドの嵐が吹き荒れることになるだろう」


 アルフレッドは剣を握りしめ、仲間たちを見渡した。


「……行くしかないな」


 クリスティーナ、リオネル、ストーム、ガーネット、そしてエリスも頷く。


「全力で阻止するわよ」


「ええ。ドワーフたちの力も借りれば、きっと対抗できるはずだ」


 こうして、一行は次なる戦いの地――ベトリクーネのダーケンロックへと向かう決断を下すのだった。



 サンダーブレイドでの会議を終えたアルフレッドたちは、すぐに出発の準備を整え、北へと進路を取った。目的地は、ドワーフの地下王国ダーケンロック。 かつて栄華を誇ったその要塞都市は、今や封印された冥界の魔王《ヴェル=ドラゴン》を巡る最後の砦となっていた。


「……北へ向かうのは、久しぶりね」


 ガーネットが馬の手綱を握りながら、雪をまとった山脈を遠くに見つめる。


「ベトリクーネは寒さが厳しいからな。しっかり防寒対策をしておけ」


 ストームが分厚いマントを羽織り直しながら言う。


「それにしても、冥界の門を司る魔王……か」リオネルが呟く。「ザカリーめ、もはや見境なしだな」


「やつの手にヴェル=ドラゴンが渡れば、死者の軍勢が無尽蔵に生み出されることになる。……つまり、この世界の生者と死者の均衡が完全に崩れるってことね」


 クリスティーナが険しい表情で答えた。


「何が起こるかわからないな。地下王国のドワーフたちが無事ならいいが……」


 アルフレッドが呟くと、エリスが馬を寄せながら答える。


「一応、ギルドの伝令からの報告によると、ダーケンロックはまだ落ちていない。でも、封印の影響で内部は混乱しているみたい」


「なら急がねぇとな」


 ストームが拳を握りしめる。


 こうして一行は、北の雪原へと歩を進めた。



 旅を続けること数日、一行はベトリクーネの王都フロストヘイムへと辿り着いた。


 石造りの堅牢な城壁に囲まれたこの都市は、寒冷地に適応した北部人の文化を色濃く残している。


 町の入り口では、毛皮のコートを羽織った衛兵たちが警戒にあたっていた。


「サンダーブレイドの冒険者か?ここへは何の用だ?」


 門番のひとりが問いかけると、アルフレッドが馬を降り、ギルドの許可証を差し出す。


「俺たちはレゼルエテリア冒険者ギルドからの正式な派遣だ。ダーケンロックの封印を巡る問題について、王宮に報告したい」


 衛兵たちは証書を確認し、顔を見合わせた後、頷く。


「ならば王城へ向かえ。すでに他の冒険者たちも来ている」


「……他の冒険者?」


「そうだ。お前たちと同じく、封印の件で派遣された者たちだ」


 アルフレッドたちは顔を見合わせる。どうやら、この事態を重く見た各国が動き出しているようだった。


「……行こう」


 王城へと向かう一行の胸には、また新たな戦いへの覚悟が刻まれていた。



 王城フロストヘイムの大広間には、すでに数名の冒険者たちが集まっていた。


 彼らはそれぞれ各国を代表する戦士や魔導士たちであり、ザカリーの脅威に対抗すべく集結した者たちだった。


 玉座に座るベトリクーネハグン・ウルザードは、厳しい目をアルフレッドたちに向けると、静かに口を開いた。


「よく来たな、冒険者たちよ。我が国の要塞都市、ダーケンロックが危機に瀕している。封印の力が弱まりつつあるが、未だ堅牢な防御を保っている。しかし、敵はすでに内部へと侵入しているらしい」


「内部へ? つまり、封印の守り手であるドワーフたちが……?」


 クリスティーナが眉をひそめる。


「……連絡が途絶えている」


 その一言に、一同は息をのんだ。


「まさか、もう内部で何かが……」


 リオネルが険しい顔で呟く。


 すると、一人の冒険者が進み出た。


「私たちもすでに調査を進めている。私は《黒鉄の槍》のアーガス、ダーケンロックの盟友として、封印の維持に協力していた者だ」


 屈強な体躯を持つこの戦士は、明らかにただの冒険者ではなかった。


「……しかし、封印の魔力はすでに崩壊の兆しを見せている。あと数日もすれば、冥界の門が開くだろう」


「そんな……!」


 ガーネットが息をのむ。


「我々の使命はただ一つだ」


 ベトリクーネ王が力強く宣言する。


「ダーケンロックに潜入し、冥界の魔王ヴェル=ドラゴンの封印を維持すること。そして、もし敵がすでに侵入しているなら、奴らを排除することだ」


 アルフレッドは仲間たちを見渡し、強く頷いた。


「……了解した。すぐに出発する」


 王は満足そうに頷くと、剣を持ち上げ、皆の前に掲げた。


「この戦いは、ベトリクーネの存亡、そして世界の未来を左右するものとなるだろう。お前たちの力に期待する」


 こうして、アルフレッドたちはベトリクーネの地下王国ダーケンロックへと向かうことを決意する。


 封印が崩壊する前に――


 彼らは、世界の未来を賭けた最後の戦いへと踏み込んでいく。



 王都フロストヘイムでの会議を終えたアルフレッドたちは、すぐにダーケンロックへ向けて出発した。ベトリクーネの極寒の風が容赦なく吹き荒れ、雪の積もった道を進む一行の前には、険しい山岳地帯が立ちはだかっていた。


「くそっ……なんて寒さだ……!」ストームが毛皮のマントを引き寄せながら呻く。


「もう少し防寒具を厚くしておくべきだったかもね」ガーネットが白い息を吐きながら微笑む。


「いや、それよりも問題は視界の悪さだ」リオネルが周囲を警戒しながら言った。「この吹雪……ただの自然現象じゃないかもしれない」


「……確かに」クリスティーナが呪文を唱え、周囲の魔力を探る。「この雪、何かの魔法の影響を受けてる気がするわ」


「やっぱりな」アルフレッドが剣を握り直す。「どこかに敵が潜んでいる可能性が高い」


「ふっ、どうせ奇襲でも狙ってるんだろう」ストームが肩をすくめながら前を向いた。


 その瞬間――!


「グオオオオオオオオッ!!」


 突如として吹雪の中から巨大な影が姿を現した!


「……これは!?」クリスティーナが驚愕する。


 吹雪をかき分けるように現れたのは、雪を纏った氷狼アイス・フェンリルだった。通常のフェンリルとは異なり、その体には氷の棘が生え、目は魔力の光を放っていた。


「クソッ、こんな場所で化け物と戦うのかよ!」ストームがすぐに剣を抜き、構えを取る。


「避けられないわ!やるしかない!!」ガーネットが神聖魔法の加護を展開する。


「なら、一気に決めるぞ!!」アルフレッドが叫び、魔剣を輝かせた。



 アイス・フェンリルは地面を蹴り、一気に突進してきた。その速度は凄まじく、一瞬でアルフレッドたちの前に迫る。


「まずい!」リオネルが咄嗟に精霊の盾を展開した。


 バキィンッ!!


 鋭い氷の爪が精霊の障壁を削るように突き破り、一行を吹き飛ばす。


「ぐっ……こいつ、魔力が尋常じゃない……!!」クリスティーナが立ち上がりながら警戒する。


 アイス・フェンリルは咆哮を上げると、口から凍てつく息を吐き出した。その冷気は周囲の気温を一気に下げ、アルフレッドたちの体を凍りつかせるほどだった。


「クソッ、こいつ……!」ストームが剣を振るい、氷のブレスをかき消そうとする。


「こっちもやるしかない!」アルフレッドが剣を掲げ、光の魔法を宿す。「聖剣技――《閃光の刃》!!」


 閃光のごとき一閃が走り、氷狼の前脚を裂いた。


「グオオオッ!!」


 氷狼は怯んだものの、すぐさま反撃に出る。尾を振るい、大量の氷の刃を周囲にばら撒いた。


「回避!!」リオネルの叫びと同時に、一行は散開しながら攻撃を避ける。


 ガーネットが即座に回復魔法を展開。「このままじゃジリ貧になる……一気に仕掛けるわよ!」


「なら、派手にやるか!」ストームが剣を逆手に持ち替え、「魔剣技――《烈火の双刃》!!」と叫ぶ。


 その刃が炎を纏い、氷狼へと襲いかかる。氷と炎が激しくぶつかり合い、轟音が響き渡った。


「……今よ!!」クリスティーナが魔導の杖を高く掲げる。「雷の精霊よ、我に力を!!《雷霆の槍》!!」


 雷の槍が氷狼の頭上に落ち、轟音と共に炸裂する!!


 ――ドォォォン!!


 吹雪の中、閃光が一瞬だけ夜空を照らした。そして、氷狼はその場に崩れ落ちた。


「……勝った、か?」リオネルが警戒しながら氷狼の亡骸を見つめる。


「いや……これで終わりじゃない」アルフレッドが険しい顔をする。


「どういうこと?」ガーネットが尋ねる。


「こいつはただの番犬にすぎない」アルフレッドは吹雪の向こうを見つめる。「本命は……もっと奥にいる」



 氷狼との激戦を終えた一行は、吹雪の収まった夜道を急ぎ、ついにダーケンロックの外郭へと到着した。


 そこに広がっていたのは、巨大な鉄の城門と、黒煙を上げる城壁だった。


「これは……!?」ストームが驚愕する。


「もう戦闘が始まってる……!」リオネルが城壁の上を指さす。


 城壁の上では、ドワーフの戦士たちが必死にクロスボウを放ち、アンデッドの軍勢と戦っていた。


「間に合わなかったか……!?」クリスティーナが唇を噛む。


「いや、まだだ!俺たちがここにいる!!」アルフレッドが剣を構え、駆け出した。


「突撃するぞ!!」ストームが叫び、仲間たちが一斉にダーケンロックへと突入していった。


 地下王国の未来を賭けた戦いが、今まさに幕を開けようとしていた――



 アルフレッドたちは急ぎダーケンロックの城門へと駆け込んだ。目の前には、無数のアンデッドの群れがドワーフ戦士たちと激しくぶつかり合っている。骸骨の兵士、腐敗したゾンビ、そして漆黒の霧を纏った魔霊騎士たちが、城壁の上を埋め尽くしていた。


「これが……冥界の軍勢……!」リオネルが目を見張る。


「こんな連中がダーケンロックの中にまで入り込んでるってことか……!」ストームが忌々しげに言った。


「なら、俺たちが突破口を開く!」アルフレッドが剣を抜き放ち、刃に聖なる光を宿した。「行くぞ!!」


「ええ! 一気に押し返す!!」クリスティーナが炎の魔法を詠唱する。


「炎の精霊よ、我が命ず――灼熱の烈火で敵を焼き尽くせ!《フレア・インフェルノ》!!」


 その瞬間、彼女の杖から放たれた炎が巨大な波となり、城門前に押し寄せるアンデッドたちを焼き払った。黒煙とともにゾンビの群れが崩れ落ち、骨の騎士たちが炎に包まれて砕け散る。


「ナイスだ、クリスティーナ!」ストームが炎の中を突っ切り、魔霊騎士へと斬りかかる。


「なら、俺もやらせてもらう!」リオネルが杖を掲げる。「風の精霊よ、刃となり敵を切り裂け!《エアブレイド・ストーム》!!」


 突風の刃が舞い、魔霊騎士たちの鎧を切り裂いていく。風の勢いに煽られ、骸骨の兵士たちが宙を舞いながら粉々に砕け散った。


「癒しの光よ、仲間たちを守り給え!《ホーリーバリア》!」ガーネットが光の障壁を展開し、前線で戦うアルフレッドやストームたちを保護する。


「ありがとう、ガーネット!」アルフレッドが聖なる剣を振るいながら、黒煙を纏う魔霊騎士と対峙する。「お前がどれだけの怨念を抱えていようが――俺の刃は、全てを断ち切る!!」


「聖剣技――《ルミナス・ブレード》!!」


 剣から放たれた神聖な光が、魔霊騎士を貫いた。黒い霧が一瞬で弾け、悲鳴を上げながら魔霊騎士が地に崩れ落ちる。


「よし!このまま一気に城門を突破する!!」アルフレッドが叫ぶ。


「ならば、砲撃支援をしてやろう!!」


 その声とともに、城壁の上から巨大な魔導砲が火を噴いた。ドワーフたちの重厚な魔導砲が炸裂し、アンデッドの群れを一掃していく。


「おお、やっと援護が来たか!」ストームがにやりと笑う。「よし、このまま突っ込むぞ!!」



 砲撃の衝撃で生じた隙をつき、アルフレッドたちは城門を駆け抜けた。内部は薄暗く、ドワーフの町並みは戦火に包まれていた。


「……酷いな」ガーネットが息をのむ。「ここまでやられているなんて……」


「まだ希望はある!」リオネルが前方を指差す。「ドワーフの守護隊が城の奥で防衛線を張ってる!急ごう!」


 アルフレッドたちは燃え上がる街路を駆け抜け、ダーケンロックの中心部へと向かった。


 街の奥深く、ドワーフの要塞の最奥部に封印の間があった。かつて魔王ヴェル=ドラゴンを封印したとされるその場所は、今や不気味な気配に包まれていた。


「この魔力の波動……もう封印は限界だ!」クリスティーナが焦燥の表情を見せる。


「くそっ、急がないとヴェル=ドラゴンが復活するぞ!」ストームが駆け出す。


 しかし――封印の間の入り口の前に、黒い影が立ち塞がった。


「ようやく来たか、冒険者どもよ」


 そこにいたのは、全身を黒いマントに包んだ魔導士――ザカリー・グラッドストンだった。


「ザカリー……!やはりお前がここにいるのか!」アルフレッドが剣を構える。


「ふふふ……何度封印を強化しようが、無駄なことだ」ザカリーは余裕の笑みを浮かべる。「ヴェル=ドラゴンは、この地の闇そのもの……いずれ封印は解ける運命なのだよ」


「そんなこと、させるか!!」ストームが怒りを込めて叫ぶ。


 しかし、その時――


「グォォォォォォォ……!!!」


 封印の間の奥から、轟くような咆哮が響き渡った。


 封印の刻印が次々と崩れ落ち、禍々しい紫の光が溢れ出す。


「まずい!! 封印が……!!」リオネルが目を見開いた。


「間に合わなかったか……!」ガーネットが絶望に声を震わせる。


 そして――


 封印の間の中心に漆黒の巨大な竜がゆっくりと姿を現した。


 その目が、深淵の闇のように輝きながら、一行を見下ろす。


 冥界の魔王ヴェル=ドラゴンが、ついに復活を果たしてしまったのだった――



 封印の間が崩れ落ち、禍々しい瘴気が溢れ出す。その中心に、巨大な黒き竜が現れた。その全身はまるで闇そのものを具現化したかのように漆黒に輝き、幾重にも折り重なる竜鱗は見る者に圧倒的な威圧感を与えた。双眸は血のように紅く光り、深淵から覗く魔の気配を漂わせている。


「グォォォォォォ……!」


 ヴェル=ドラゴンが一鳴きすると、封印の間を覆う石壁が次々と崩壊し、周囲の空間が揺らぐ。その鳴き声一つで、この場の魔力が大きく変動するのを感じ取れるほどだった。


「……これが冥界の魔王か」アルフレッドが剣を握る手に力を込める。


「封印が完全に崩れた……こんなの、まともに戦えるの!?」ガーネットが驚愕の声を上げる。


「怯むな、ガーネット!」クリスティーナが杖を構えた。「封印が解かれたからといって、やつをこのまま放っておくわけにはいかない!」


「奴の存在そのものが、冥界の門を開く鍵になる。ここで食い止めるしかない!」リオネルが魔力を解放しながら叫ぶ。


 ヴェル=ドラゴンは、その巨大な翼を広げた。瞬間――闇の風が吹き荒れ、周囲の瓦礫が宙に舞い上がる。


「フフフ……素晴らしい……!」ザカリー・グラッドストンが満足げに呟く。「長き封印から解き放たれし冥界の魔王。貴様の力、存分に見せてくれ」


「そんなこと、させるか!!」ストームが一足早く動き、ヴェル=ドラゴンに向かって疾走した。


「剣技《閃雷・烈風》!!」


 一瞬にして、ストームの剣が雷光を纏い、ヴェル=ドラゴンの前脚へと斬撃を放つ。しかし――


 ガキィン!!!


 剣が触れた瞬間、魔王の鱗が反撃するかのように硬質な音を響かせ、ストームの斬撃を弾き返した。


「なっ……!?」ストームが驚く暇もなく、ヴェル=ドラゴンが鋭い爪を振り下ろす。


「ストーム!!」アルフレッドがとっさに駆け寄り、剣を振るう。


「剣技《聖光刃》!!」


 光の刃がストームを包み込み、魔王の爪を防ぐ。しかし、衝撃の余波で二人は吹き飛ばされ、地面に激突した。


「くっ……さすがに並の攻撃は通じないか……!」アルフレッドが息を荒げる。


「気をつけろ! あの鱗には冥界の魔力が込められてる……!」リオネルが叫ぶ。「普通の攻撃じゃ傷一つつかないぞ!!」


「なら、魔法で押すしかない!」クリスティーナが呪文を詠唱する。


「灼熱の焔よ、闇を焼き払え――《プロミネンス・バーン》!!」


 クリスティーナの杖から放たれた巨大な火柱がヴェル=ドラゴンの頭上を襲った。しかし――


「……無駄だ」


 ヴェル=ドラゴンはゆっくりと顔を上げると、その口から漆黒の炎を吐き出した。


「《カオティック・フレア》!!」


 闇の炎がクリスティーナの火柱をかき消し、そのまま彼女たちへと襲いかかる。


「防御するわ!!」ガーネットが叫び、咄嗟に光の障壁を張る。


「聖なる加護よ、光の盾となれ!《ホーリーバリア》!!」


 闇の炎が光の障壁と激突し、火花を散らしながら周囲を焦がしていく。


「ぐっ……!!」ガーネットは必死に耐えるが、魔王の力はあまりにも強大だった。


「このままじゃ押し負ける……!!」リオネルがすぐさま精霊の力を解放する。


「風の精霊よ、力を貸せ!《エアリアル・バースト》!!」


 突風が吹き荒れ、闇の炎を散らす。しかし、それでもヴェル=ドラゴンの威圧感は衰えない。


「これが……冥界の魔王……!」アルフレッドは敵を睨みつける。


「ザカリー……貴様の目的は、これか……!!」クリスティーナが怒りに震えながらザカリーを睨みつける。


「フフフ……」ザカリーは不敵な笑みを浮かべる。「だが、これはまだ始まりにすぎない」


「どういうことだ!?」ストームが剣を構える。


「ヴェル=ドラゴンの復活は、冥界の門を開くための第一段階にすぎん」ザカリーが低く笑う。「お前たちのような者が、どれほど足掻こうとも、封印は次々と崩れるのだ……」


「そんな勝手なこと、貴様の思い通りに行くか!!」アルフレッドが剣を振りかざす。


「……だが、この場は引かせてもらう。お前たちが冥界の軍勢と戦う間に、私は次の封印を解くとしよう」


 ザカリーが手を振ると、彼の周囲に暗黒の霧が渦を巻いた。


「待て!!」 ストームが詰め寄ろうとするが――


「さらばだ、アルフレッド……。次に会う時が、お前たちの終焉の時となる」


 ザカリーは黒い霧に包まれ、一瞬で姿を消した。


「ちっ……!」 ストームが舌打ちをする。


「奴は逃がしたが……今は目の前の敵だ!!」アルフレッドが剣を構え、ヴェル=ドラゴンを見上げる。


「さあ、魔王よ……!!」クリスティーナが魔力を高める。


「ここで、お前を倒す!!」リオネルが精霊の力を解放する。


「この世界に……冥界の闇など必要ない!!」ガーネットが光の加護を仲間たちに授ける。


 ヴェル=ドラゴンの双眸が紅く輝き、その巨体が動き出す。



 黒き竜の巨体が動いた瞬間、大地が鳴動した。ヴェル=ドラゴンが翼を大きく広げると、その風圧だけで砕けた瓦礫が吹き飛び、足元の地面が崩れ落ちる。溢れ出る魔力の奔流が霊脈を狂わせ、地下の崩壊が進んでいく。


「こいつの魔力……半端じゃない!!」ストームが即座に距離を取り、剣を構えた。


「躊躇するな!一気に決める!!」アルフレッドが剣を光で満たしながら叫ぶ。


「風の精霊よ、導け!」リオネルが詠唱を始め、強大な風の魔法陣が彼の周囲に展開される。


「《テンペスト・レイ》!!」


 烈風の刃がヴェル=ドラゴンの鱗を切り裂かんと襲いかかる。しかし――


「ヌゥゥゥゥゥ……!!」


 魔王の全身から発せられる瘴気が、風の刃を弾き返した。


「効かないだと!?」リオネルが驚愕する。


「違う!こいつの魔力が強すぎるんだ!!」クリスティーナが警告を発しながら、即座に魔法を発動する。


「炎よ、裁きを下せ!《フレイム・ジャッジメント》!!」


 天から紅蓮の炎が降り注ぎ、ヴェル=ドラゴンの頭上を包み込む。しかし――


「我が身を焦がせる炎など、この世には存在せぬ……!!」


 ヴェル=ドラゴンの黒き鱗が闇の魔力を吸収し、炎を無効化する。次の瞬間、その口が大きく開かれた。


「《カオティック・ブレス》!!」


 暗黒の業火が放たれ、一行へと襲いかかる。


「防ぐわ!!」ガーネットが叫び、光の障壁を展開する。


「《セイクリッド・シールド》!!」


 光のバリアが形成されるが、魔王の闇炎はそれをすり抜け、周囲の空間を焼き尽くす。


「なんて力なの……!?」ガーネットが何とか耐える。


「こいつの魔力……魔法の原理を超えてる!!」クリスティーナが叫ぶ。


「じゃあ、魔法が効かないなら……!」アルフレッドが剣を握りしめた。


「俺たちの剣でぶち抜くまでだ!!」ストームが続く。


 二人は同時に突撃し、それぞれの剣を魔力で輝かせた。


「《聖剣・閃光斬》!!」「《雷刃・神速突》!!」


 アルフレッドの剣が閃光を纏い、ストームの剣が雷鳴を纏う。二人の一撃がヴェル=ドラゴンの胸元へと直撃した――


 ガキィィィィィィン!!!!


 強烈な衝撃が走り、魔王の鱗に亀裂が入る。しかし、完全には貫通しない。


「くっ……!!」アルフレッドが歯を食いしばる。


「やはり……通常の攻撃では……!!」ストームが跳び退る。


「ならば、俺たちの力を合わせるしかない!」リオネルが風の精霊を召喚し、アルフレッドたちの剣に魔力を送る。


「ガーネット!!」クリスティーナが叫ぶ。


「わかってる!!」ガーネットは祈りを捧げ、光の加護を剣に宿す。


「さあ、決めるぞ!!!」アルフレッドが叫び、全員が一斉に魔王へ向かって駆け出した――



 ヴェル=ドラゴンの目が光る。


「来い、人間どもよ……!! その力、見せてもらおう……!!」


 巨大な爪が振り下ろされるが、リオネルの風の魔法が軌道をずらし、クリスティーナの炎が視界を覆う。


「今だ!!」アルフレッドとストームが同時に跳躍し、ヴェル=ドラゴンの胸元へ剣を突き刺す。


「《双極閃光斬》!!!」


 雷と聖なる光を纏った二振りの剣が、魔王の心臓を貫いた――


「グォォォォォォォ!!!!」


 ヴェル=ドラゴンが絶叫し、その巨体が光の中で揺らめく。全身から瘴気が溢れ出し、霊脈の力が暴走する。


「……終わりだ!!」アルフレッドが渾身の力で剣を押し込む。


「これで封じる!!」ストームが雷の刃をさらに突き込む。


 その瞬間、ヴェル=ドラゴンの体が爆発的な光を放ち――


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!


 大地が割れ、魔王の体が崩れ落ちた。


 ――冥界の魔王ヴェル=ドラゴン、討滅。



 静寂が訪れる。


 砕け散る魔王の残骸を見つめながら、一行は息を整えた。


「……やったのか?」ストームが息を荒げながら呟く。


「間違いない……ヴェル=ドラゴンは消えた」リオネルが霊脈の流れを確認しながら頷く。


「みんな、無事……?」ガーネットが倒れそうになりながら光の回復魔法を放つ。


「助かった……」クリスティーナが力なく笑う。


 しかし――


「……これは、終わりではない」


 アルフレッドが静かに呟く。


「え?」ガーネットが顔を上げる。


 アルフレッドは瓦礫の中に転がる黒い魔石を拾い上げた。それは、ヴェル=ドラゴンの核の一部――ではなく。


「これは……!!」


 それは、ザカリー・グラッドストンが残した《封印の鍵》だった。


「まさか……」クリスティーナが震える声を上げる。


「奴は、最初からこれを狙っていたのか……!!」リオネルが驚愕する。


「封印はまだ解かれる……!!」ストームが言葉を吐き捨てた。


 ――すでに、次の封印が解かれようとしていた。


「まだ終わってない……!!」 アルフレッドが剣を握りしめる。


「次の戦いが始まる……!!」


 闇の脅威は終わらない――。世界の均衡を取り戻すため、一行は新たな旅へと歩みを進めるのだった。



 ベトリクーネの地下王国ダーケンロックでの決戦を終え、アルフレッドたちはベトリクーネ王城フロストヘイムへと帰還した。


 玉座の間では、ハグン・ウルザードが一行の帰還を待ち受けていた。冒険者たちが凱旋する姿を見て、王城の兵士たちは歓声を上げた。しかし、その祝福の中でもアルフレッドたちは険しい表情を崩さなかった。


「ヴェル=ドラゴンは討滅した。しかし、これで終わりではない」アルフレッドが報告すると、王は鋭い視線を向けた。


「……詳しく聞かせてもらおう」


 アルフレッドは瓦礫の中から拾った黒い魔石、《封印の鍵》を差し出した。


「これは、ザカリー・グラッドストンが残したもの。俺たちがヴェル=ドラゴンを討滅することすら計算に入れ、封印の崩壊を次の段階へと進めるために仕掛けていた」


「つまり、ヴェル=ドラゴンの復活は囮であり、奴の本当の目的はこの封印の鍵を手に入れることだった……?」王宮魔導師団の一人が険しい顔で呟いた。


「可能性は高い」クリスティーナが頷いた。「この封印の鍵は、世界の霊脈を繋ぐ《大封印》の一部……。ヴェル=ドラゴンの封印が崩壊したことで、他の封印にも影響が及ぶ」


「すでに次の封印が解かれようとしています」リオネルが焦燥の色を滲ませる。


「ザカリーは、どこへ向かうつもりなのだ?」王が問う。


「封印の鍵が示す場所は――」ガーネットが慎重に霊力を注ぎ、鍵から発せられる魔力の流れを探る。


「……《ルインフォール》……」ガーネットが目を見開いた。


「ルインフォール?」ストームが怪訝そうに問い返す。


「かつて魔導帝国の首都だった都市……今では死者の都と化している」クリスティーナが口を開いた。「帝国が滅びた後、あそこには数多の禁忌が眠ると言われている。長い年月の間に、誰も立ち入ることができない《死の霊域》となった……」


「まさか、ザカリーはそこに封印された何かを解き放とうとしているのか……?」リオネルが息をのむ。


「……奴ならやる」アルフレッドが拳を握りしめた。「ザカリーの目的は、封印を解き放ち、世界の破滅をもたらすことにある」


「ならば、すぐに向かわねばならん」 王が立ち上がる。


「ルインフォールは危険だが……私たちが行くしかない」ガーネットが神妙な顔をする。


「準備を整えたらすぐに出発しよう」アルフレッドが決意を固めた。



 ベトリクーネを発ち、アルフレッドたちはルインフォールへと向かった。長い旅路の果てに、荒涼とした大地が広がるその地へとたどり着く。


「ここが……ルインフォール……」 ガーネットが呟く。


 辺りは霧に包まれ、不吉な気配が漂っていた。かつて魔導帝国の繁栄を誇った都市の跡は、今や廃墟となり、死者の呻きが風と共に響いている。


「ただの遺跡じゃねぇな……」ストームが剣の柄に手をかけながら言う。


「ここには、帝国が築いた最強の封印があった。だが、その封印がすでに崩れかけている……」リオネルが魔力を感じ取りながら言った。


「ザカリーがいる可能性は高いわ」 クリスティーナが緊張した表情で前を見据える。


「行こう……」アルフレッドが剣を抜いた。


 その時――


「グフフフフ……」低い笑い声が響いた。


 霧の中から、数体の異形の影が現れる。漆黒のローブを纏い、狂気に満ちた瞳を輝かせる男たち。


「セイセス=セイセス……!」クリスティーナが叫ぶ。


「ふふふ……ようこそ、死者の都へ」その中の一人が静かに口を開いた。


「貴様らがここへ来ることは予想していた……だが、ここで終わるのだ」


「させるか!!」アルフレッドが剣を構えた。


「……闇の導きを受けた魔導士よ。我らが主の意志のもと、貴様らをここで潰す……!」


 セイセス=セイセスの魔導士たちが一斉に呪文を詠唱し始める。


「こっちもやるぞ!!」アルフレッドが号令をかけ、仲間たちは戦闘態勢に入る。


「これが……決戦の始まりだ!!」ルインフォールの遺跡にて、アルフレッドたちはザカリーの野望を阻止するべく、セイセス=セイセスの魔導士たちとの戦いへと突入した――



 霧に包まれたルインフォールの廃墟。その中心に立つアルフレッドたちを、黒衣の魔導士たちが囲む。彼らはザカリー・グラッドストンの忠実な配下、闇の秘密結社《セイセス=セイセス》の精鋭たちだった。


「貴様らの干渉はここで終わりだ」黒衣の魔導士の一人が、不気味な笑みを浮かべながら言う。


 その瞬間、魔導士たちは一斉に呪文を詠唱し始めた。闇の魔力が空間を歪ませ、黒紫の雷撃が走る。


「来るぞ!!」アルフレッドが剣を構え、仲間たちに警告を発する。


「この程度の魔法、通じると思わないことね!」クリスティーナが両手を掲げ、詠唱を開始する。


 彼女の魔力が炸裂し、火焔の壁が周囲を包み込んだ。黒紫の雷撃が炎の障壁に阻まれ、拡散する。


「させるか!」リオネルが精霊魔法を発動する。


 彼の呼びかけに応じ、地面から黄金の精霊が現れた。大地の精霊ガイアスが大地を揺るがし、黒衣の魔導士たちの足元を砕く。


「くっ……!」セイセス=セイセスの魔導士の一人が、崩れる足場に気を取られた隙をつき、ストームが猛然と駆け出した。


「斬る!!」光の魔力を宿した魔剣が、一閃する。


 その斬撃は魔導士の防御魔法を貫き、黒衣の者たちを吹き飛ばした。


「甘いな!!」別の魔導士が呪詛を紡ぎ、漆黒の槍を生成する。


 その槍がストームに向かって放たれるが――


「守るわよ!!ガーネットが瞬時に《聖なる障壁》を展開。


 光の盾が槍を受け止め、漆黒の魔力を拡散させる。


「これで終わりじゃない!!」クリスティーナが《雷槍の嵐》を放つ。


 無数の雷の槍が空を舞い、セイセス=セイセスの魔導士たちへと襲い掛かった。


「ぐああああっ……!!」雷槍の直撃を受けた魔導士が絶叫しながら崩れ落ちる。


「お前たち……やはり手強いな」魔導士たちのリーダー格が、冷ややかに笑う。


「しかし、これは序章に過ぎぬ……!」


 彼は空に向かって腕を掲げる。すると、廃墟の奥深くから、黒い波動が溢れ出した。


「……なんだ、あの気配は!?」リオネルが警戒を強める。


「まさか……封印がすでに……!?」ガーネットが震える声を漏らす。


「ふふふ……」魔導士のリーダーが、狂気の笑みを浮かべた。


「貴様らが来ることは予想していた。我らはお前たちを足止めする役目に過ぎぬ……!」


「何っ……!?」アルフレッドの目が見開かれる。


「主ザカリーは、すでに封印の解放を開始している」


「……なんだと!?」


 その瞬間――


 ゴゴゴゴゴゴ……!!!


 ルインフォールの奥深く、封印の祭壇がある地下空間から、異様な振動が響き渡った。


 大地が揺れ、空間が裂けるような気配が周囲に充満する。


「……間に合わなかった、のか……?」周囲の気配を伺う。


「まずい……! 急がないと……!!」ガーネットが祈るように言う。


「この戦いを長引かせるわけにはいかない!」アルフレッドが叫び、剣を握り直した。


「全力で一気に片をつけるぞ!!」


 仲間たちは一斉に頷く。


「行くぞ!!」アルフレッドの号令とともに、決戦はさらに激化していく――!!



 

 一行はセイセス=セイセスの魔導士たちを全滅させたものの、封印の崩壊は止まらなかった。


 廃墟の奥深くへと急ぐ彼らの前に立ち塞がったのは――


「……来たな、アルフレッド」


 そこに待ち受けていたのは、黒衣の魔導士ザカリー・グラッドストン。


「貴様……!!」アルフレッドが剣を構え、睨みつける。


 ザカリーは微笑を浮かべながら、巨大な魔法陣を背後に展開する。


「封印はもうすぐ完全に解かれる。貴様らがどれだけ足掻こうと、すべては無駄なこと……」


「黙れ!!」 ストームが駆け出そうとするが、ザカリーは一瞬で空間を歪め、闇の障壁を展開する。


「貴様らには、これを止めることはできぬ」彼の背後の魔法陣が、暗黒のエネルギーを放ち始める。


「今こそ、封じられし者を解き放つ時……」


「来たれ、古の災厄よ!!」


 その言葉と共に――


 ルインフォールの最奥より、邪悪なる存在が目覚めようとしていた――!!



 ルインフォールの最深部。封印の祭壇が崩れ去り、黒い霧が噴き出す。


「……これが……封じられていたもの……!?」


 リオネルが息を呑む。


 霧の中から現れたのは――


《魔神ヴェイガルド》


 かつて魔導帝国の皇帝が封印した、世界を滅ぼしうる存在。その巨大な体躯が現れ、暗黒の力を解き放つ。


「これが、ザカリーの狙いだったのか……!!」アルフレッドが剣を構える。


「……さあ、始めようか」ザカリー・グラッドストンが冷たい笑みを浮かべる。


「貴様らには、この絶望を味わう資格がある……!!」


 魔神ヴェイガルド戦の開幕。アルフレッドたちの運命は、今、決まる――



 ゴゴゴゴゴ……!!


 大地が震え、暗黒の霧が遺跡の奥深くから噴き出した。崩壊した封印の祭壇の中心に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。その中心から、禍々しいオーラが迸った。


「……これは……!!」クリスティーナが息を呑む。


 黒い霧が渦巻き、その奥から、巨大な黒影が姿を現した。


 筋骨隆々たる体躯、漆黒の鎧のような外殻、そして光を吸い込むかのように深い紅の双眸。


 《魔神ヴェイガルド》――世界の災厄と称された、魔導帝国によって封印された伝説の魔神。


「……これが、封じられていたもの……!?」リオネルの手が震えた。


「これは……ただの魔神じゃない……!」ガーネットが光の杖を強く握る。「これは、世界を飲み込む破滅そのもの……!!」


「ハハハハ……!!」ザカリー・グラッドストンが高らかに笑う。


「ついに封印が解かれた。これが、我が求めし完全なる闇……!!」


 魔神ヴェイガルドはゆっくりと顔を上げ、その口が微かに開いた。


「ヒサシキ……ヨキ……トワノ……オワリ……」


 地鳴りのような重低音が響き渡り、遺跡全体が揺れ始める。


「言葉を……話している?」クリスティーナが驚愕する。


「違う……これは、呪詛だ!!」ストームが叫ぶ。


 その瞬間――


 魔神ヴェイガルドの体から、黒き光が放たれた。


「ッ!!来るぞ!!」



 黒い閃光が周囲を薙ぎ払う。遺跡の壁が崩れ、天井が軋む。


「魔法障壁!!」クリスティーナが瞬時に呪文を詠唱し、仲間たちを覆う防御壁を張る。


 ドオオオオオオオオッ!!!


 衝撃波が駆け抜ける中、アルフレッドが剣を振るい、クリスティーナの障壁を超えて前へ出る。


「ヴェイガルド……!! 貴様をここで止める!!」魔剣が光を宿し、雷鳴のような魔力が奔る。


「アルフレッド、一気に叩くわよ!!」クリスティーナが続く。「ストーム、行くわよ!!」


「任せろ!!」ストームが魔剣を振るい、光の魔法剣を発動させた。


 二人の魔法剣士が、魔神ヴェイガルドへと突撃する。


「迅雷剣――雷光斬!!」「聖魔閃――刹那の閃光!!」


 アルフレッドとストームの光の刃が、ヴェイガルドの巨体へと突き刺さった。


 だが――


 ガギィィィン!!


「何ッ!?」剣が、魔神の外殻に弾かれた。


「こいつ……硬すぎる!!」ストームが歯を食いしばる。


「魔導帝国が封じた魔神よ……そんな簡単に傷が入るわけないじゃない!!」クリスティーナがすかさず詠唱する。


「聖なる光よ、闇を討て!ホーリースフィア!!」


 彼女が放った光の球が魔神へと炸裂する。


 ドゴォン!!


 爆発がヴェイガルドの肩口を覆うも、ダメージは浅い。


「……これでも、決定打にはならないか」クリスティーナがその様子を観察する。


「ならば――」リオネルが杖を構える。


「風と雷よ、天より降り注げ!! 雷精霊――テンペスト・ストライク!!」


 天が唸りを上げ、魔神に向けて雷の柱が落ちる!


 ゴオオオオッ!!


 直撃したかに見えたが――


「……効かぬ」 魔神の冷たい声が響く。


 ヴェイガルドの漆黒の鎧が光を弾き、雷撃を無効化した。


「無効化された!?」リオネルが驚愕する。


「なんて奴だ……!!」ストームが拳を握る。


「光の聖剣すら貫けないなら、一体どうすれば……!!」



 その時、ガーネットが冷静な声で言った。


「ヴェイガルドの鎧は、闇の魔力そのもの……ならば、より強い聖なる光を使えば……!」


「……聖なる光を増幅する方法があるのか?」アルフレッドが振り向く。


 ガーネットは深く頷いた。


「あるわ。……先の戦いで手に入れた《聖紋石》の力を、最大まで解放すれば!!」


 ガーネットが聖紋石を掲げると、石が純白の光を放ち始めた。


「この力を、アルフレッドとストームの剣に宿らせる!」その言葉に、アルフレッドとストームは頷いた。


「頼む……!!」


「光よ……真なる浄化の剣となれ!!」ガーネットが呪文を唱えると、聖紋石の光が二人の剣へと流れ込む。


 ゴオオオオ……!!


 刹那、魔剣が純白の光を纏い、かつてない輝きを放つ。


「今なら貫ける……!!」アルフレッドが拳を握る。


「行くぞ、ストーム!!」「おう!!」


 二人は、魔神ヴェイガルドへと駆け出した。


「この一撃で決める!!」アルフレッドが剣を振り上げる。


「滅びよ……魔神ヴェイガルド!!!」ストームが刃を振り下ろす。


「光神剣――エクス・レクス!!」「天裂閃――グランド・ディバイド!!」


 二人の剣がヴェイガルドの鎧へと到達する――!!


 そして――決着の時は迫る。



 ゴオオオオオオオ!!!


 アルフレッドとストームの剣が、聖なる光を纏いながら魔神ヴェイガルドの漆黒の鎧に突き刺さった。


「うおおおおおおお!!!」


「ここで終わらせる!!」


 聖紋石の力を宿した二人の剣が、魔神の闇の鎧を打ち砕く。


 ガキィィィィィン!!!


 ヴェイガルドの外殻が光に灼かれ、亀裂が走る。魔神の紅い瞳が驚愕に染まり、唸り声を上げた。


「バカナ……ワガ……カラダ……」


「まだだ!!」クリスティーナが魔法陣を展開し、光の槍を放つ。


「光精霊よ、裁きを与えよ!!」「ホーリーレイ!!」


 無数の光の槍が降り注ぎ、ヴェイガルドの装甲をさらに破壊する。リオネルもそれに続いた。


「風と雷の精霊たちよ!!」「テンペスト・バスター!!」


 嵐の力がヴェイガルドの腕を弾き飛ばし、黒き血が噴き出す。


「封じるなら今よ!!」ガーネットが叫ぶ。「封印術を重ねて、奴をこの世界から消し去る!!」


「わかってる!!」アルフレッドが剣を振りかざし、最後の一撃に力を込める。


「終わりだ――ヴェイガルド!!!」


 二人の剣が、ヴェイガルドの胸に深く突き刺さった。


 ズガァァァァン!!!


 光の爆発が遺跡を包み込み、魔神の体が裂けていく。ヴェイガルドの身体は砕け散り、黒き霧となって崩れ落ちた。


「グオオオオオオオオオ!!!!!」


 魔神の絶叫が響き渡る。そして、その存在は光の中へと飲み込まれ――完全に消滅した。



 静寂が訪れた。


 砕け散ったヴェイガルドの亡骸は塵となり、空へと消えていく。


 リオネルが息をつき、杖を地面につく。「……やったのか?」


 クリスティーナも崩れ落ちそうになりながら頷く。「ええ……間違いないわ」


「本当に……終わったんだな……」ストームが剣を鞘に収め、疲れたように微笑む。


「封印も強化した。もう二度と蘇ることはないはずよ」ガーネットが静かに言う。


 アルフレッドは剣を握ったまま、戦いの余韻を感じていた。


「……いや、まだ終わってない」


「え?」リオネルが驚いてアルフレッドを見る。


「ヴェイガルドは倒した。でも、ザカリーは逃げたままだ。そして、奴が企んでいた他の封印も……」


「そうね」クリスティーナが唇を噛む。「ザカリーは、これが終わりじゃないってことを、私たちに見せつけたのよ」


 リオネルが険しい表情で続ける。「奴がまだ動いている限り、どこかでまた封印が破られる可能性がある……」


 ストームは拳を握りしめた。「なら、次はそれを止めるために動くしかねえな」


「……そうだな」アルフレッドは深く頷いた。


「まずはサンダーブレイドのギルドに戻り、状況を整理しよう。これからの戦いに備えてな」


 こうして、アルフレッドたちは魔神ヴェイガルドを討ち、再びサンダーブレイドへと帰還するのだった。


 だが、これはまだ終わりではない。


 ザカリー・グラッドストンがまだ生きている限り、世界の危機は続いている。


 そして、次なる封印が破られる日は、すぐそこまで迫っていた――。

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