気づかねば、
いつも、笑って過ごしていた。
いつも、楽しく過ごしていた。
それが当たり前なのだと信じて、横ばかり見て生きてきた。
けれど、それが『普通』ではないと知ったのは、いつだっただろうか。
友人Aは言っていた。
「あなたはいつも明るいね」
どこを見てそう言っているのか、さっぱりわからなかった。けれど、友人Aが好意で言っているのだとそう思って、笑いながら「そう?」なんて言ってみた。そうだよ、なんて肯定されても、返せる返事は持ってなかった。
友人Bは言っていた。
「お前はもうちょっとしっかりした方がいいんじゃないか」
しっかりがなんなのか、さっぱりわからなかった。しっかりするの定義がわからなかった。けれど、友人Bが私を心配してそう言っているのだとそう思って、笑いながら「そうだね」と言ってみた。困った様子で頭をかくその子にかける言葉は持ってなかった。
友人Cは言っていた。
「いまのままでいいんだよ」
その言葉に、疑問を覚えた。みんなは前を進んでいるのに、どうして私は前に進まなくていいのだろう。けれど、友人Cが気にかけて言っているのだとそう思って、笑いながら「ありがとう」なんて言ってみた。笑い返されたが、これでよかったのだろうか。
友人Dは言っていた。
「もう無理するな」
無理って何のことだろう。わからない。無理なんてしてないのに。けれど、友人Dがそう言葉をかけてくれたから、笑いながら「無理してないよ」なんて言ってみた。なぜか、泣きながら「笑うなよ」なんて言われた。どういえばよかったんだろう。
今は亡き父は言っていた。
「幸せになれよ」
今の私は幸せなのだろうか。どんなに笑えても、どんなに楽しいと感じても、必ず死にたいと望む私は、幸せだと言えるのだろうか。わからない。けれど、そもそも幸せが何かわからない私は、幸せをつかむことなんてできるのだろうか。
わからない。
仲が悪くなってしまった母は言っていた。
「愛してる」
それを気持ち悪いと思ってしまった私はおかしいのだろうか。母親の愛は知っているはずなのに、気持ち悪いとなじってしまうことが、私には理解できなかった。どうしてなのだろうか。
私は、母をなんと思っているのだろうか。
わからない。
あまり話すことのない姉は言っていた。
「あんたのせいだ」
その通りだと思った。私のせいで両親を苦しめ、姉を苦しめ、家族を不幸にしてしまったのだから。だからそう怒鳴られてもしょうがなかった。そう言われてもしょうがなかった。
そのはずなのに、私はどうしてこの場にいるのだろう。
わからない。
わからない。わかりたくない。気づきたくない。
こんなことになるのなら、感情なんていらない。
夜中、独りで考える。
どこかの部位が欠損すれば、家族は心配してくれるのだろうか。
それとも、心配せず、冷たくあしらうのだろうか。
そんなことがぐるぐると駆け巡っては、沈んでいく。
いっそのこと、死ねたのならば良いのに。
なんていつものことのように考える。
両の手を見て、瞼を閉じれば、私が死んだら悲しむだろう人たちの顔が浮かぶ。
誰かが悲しむ。そう思うと、死ぬ気にはなれなかった。
気づかずに、狂っていられたらよかったのに。
そうすれば、こんなにも苦しむことはなかった。