表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/36

七話 逃げれない記憶

 深淵の様に深く、暗い空間の中、私はそこに一人居ました。

ゆっくりと首を動かして、右手と左手な目を向けて、血色を失い、白くなった両手をゆっくりと握ります。


 握った両手を両手を見つめ続け、手をもう一度ゆっくりと開きます。

手を開き切ったその瞬間、私の手が血に濡れ、赤く染まり、右手には斧が、左手には剣が握られていました。


 「ひっ……!?」


 私の顔から、血の気が引いていき、息も上手く出来なくなり、身体は氷の様に凍り付き、動かなくなります。

両手に持った血に濡れた凶器達は思い出したくも無い記憶を呼び覚まして行きます。


 見殺しにした男性、自らの手で殺したゴブリン、どれ程私の手を洗おうと私の手は生命を奪った血で塗れた手なのです。


 その時、私の耳に小さく、しかし確かな音で、二つの足音が聞こえました。

一つは厚底の靴で歩いた足音、一つは裸足で歩いた足音でした。

交わることの無い二つの足音が少しずつ大きくなり、私の耳にその存在知らせて来ます。


 私は目を動かしてゆっくりと前、左、右を見ます。

私が見た所には何も居ませんでした。しかし、私の耳には未だに交わることの無い、二つの足音が聞こえていました。


 私は三度大きく深呼吸して、身体と一緒に首を後ろに回して、目を向けました。

そして、私の目は見開かされることになり、更なる恐怖が私の身体を包み込んでいきます。


 私の目の前には全身傷だらけで血塗れの男性と脳天が割れたり、首元が斬られたゴブリン達がゆっくり歩いて、私に近づいて来ていました。

その顔に不気味な笑みを浮かべながら。


 向けられた笑みを見た瞬間、私の身体の血が引いていき、凍り付く様に急速に冷たくなって行きました。

身体を後ろに向けて、持っていた凶器を全て投げ捨てて、私は走り出しました。


 しかし、突然右足が引っ張られ、私の身体は下へと落ちていき、地面に引っ付く様に倒れました。


 「うっ…………ぇ、?」


 身体を少し起こして、右足を見ると、剣が喉に刺さったまま、未だに勢い良く血を噴き出している巨大なゴブリンが、私の右足を掴んでいました。

その顔には男性や他のゴブリン達と同じ笑みを浮かべていました。


 「いや……ッ、! 離して、離してください、ッ!!」


 徐々に近づいてくる男性達の姿が私に焦りと恐怖、絶望を与えて来ます。

私は掴まれていない左足で右足を掴んでいる手を蹴り、身体を起こして両手で何度も叩きますが、手はびくともせず、ずっと私の右足を掴んだままで、離すことはありませんでした。


 息が上がり、目に涙が浮かび、私の心を焦りが埋め尽くし、頭から思考を消し去っていきます。

はやく、はやくと何度も望んでも、右足は解放されることなく、私の耳に聞こえていた足音が止まり、代わりに右肩に冷えたモノが置かれた。


 その瞬間、私の身体は抵抗する暇も与えられずに後ろに引っ張られ、地面へと背中から倒されました。

背中を地面へと強打し、私は顔を歪めます。


 「あっ、!? っ……ぁ」


 倒れた私の目に映ったのは、男性が先程の笑みを消して、無表情のまま私の真正面から、見下ろしていました。

ゴブリン達はニヤニヤと笑みを浮かべ、私を囲うように見下ろしていました。


 死にたくない、死にたくないと私の身体が、心が、何度も何度も叫び上げます。

身体を左右に振り、両手を暴れさせます。


 「ぁ…………や、…だ、っ、カハッ……!?」


 しかし、正面にいた男性が私の首に両手を伸ばして、私の首を掴み、握り潰さんとばかりに締めて来ました。

突然出来なくなった呼吸に私の頭はパニックに包まれました。


 息すら吐けず、何度空気を吸おとしても吸えず、酸素が脳に送られなくなり、徐々に私の視界は黒く染まっていきます。

身体から力が抜けていき、頭は白く染まっていきます。


 意識が消えてゆき、視界が暗くなっていく中、男性が私に近づいてくるのが、視界が黒く染まり切る前に見えました。


 そして、意識が途切れるその瞬間、野太い男性の声が響き渡りました。


 「この人殺しが」



***



 「ッ!? はぁ…………はぁ…………はぁっ、!」


 目を開くと知らない天井でした。

上半身を飛び起こして、荒い呼吸のまま辺りを見回します。

さっきの黒い場所ではなく、白い日の光が差し込む木で出来た私が寝ているベットと本棚と小さな机と椅子だけの質素な部屋でしたが、どこか落ち着かせてくれる懐かしい空気を持った部屋でした。


 その空気に、私の心は落ち着いていき、激しく荒れて、口でしていた呼吸は、徐々にゆっくりと小さくなり、口は閉ざされて行きました。


 何故こんなところで寝かされているのかはよく分かりませんが、私は助かったのかでしょうか。

私はベットからゆっくりと降りて、木の床に足をつけて立ちます。


 そして、ゆっくりと足を動かして白い太陽の光が差し込んでいる窓へと向かいます。

太陽の光に目を細くしながらも、窓に近づいて左手を当て、外の景色は目を向けます。


 そこから広がっている景色に私は目を奪われました。

西洋の様な建物が無数に広がり、街は賑わい、子供達は駆け回り、店を出している大人達は声を出し、物を売っています。


 私の世界では絶対に無い光景に私は見入っていました。

しかし、同時に私は今異世界にいると言う事実を私に見せつけて来ます。


 先程のが夢だと分かってはいますが、それでもあの男性の言葉が私の中に残り続けています。

窓から左手を離し、左手の掌を見つめます。


 血で染まり、赤くなってはいませんが、この手はもう命を奪い殺した手であり、血で染まったのです。

一生消えることの無い、私の命を奪った殺しの罪は、ずっとずっとこの世界から元の世界に戻れたとしても残り続けます。


 「失礼しますね…………あ、目を覚ましたのですね、よかったです」


 窓から視線を外し、離れた瞬間でした。

突然扉が開き、扉から黒の私よりも長い髪を持った女性が、メイドの様な服に身を包み、手に水の入ったコップと白い米の様な物が乗せてある皿が乗った銀色のトレーを持ち、部屋に入って来ました。


 そのまま歩いて、ベットの近くに置いてある机にトレーを置き、私に向き直って来ました。


 「申し遅れて申し訳ございません。 私は蘭と申します……出来るのであれば、貴方様のお名前をお教えしてもらってもよろしいでしょうか?」


 蘭と名乗る女性は丁寧な口調で私に名前を自身の名前を言いました。

少し間を置いたのに、私は口をゆっくりと開いて、上手く動かない口を動かしました。


 「私は、白樺 華鈴……で、す」

 「華鈴様ですか、よろしくお願いしますね。 そして、ようこそ、ギルド『白翼』に」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ