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五話 ゴブリンとの死闘(1)

 左腕から感じる痛みと血が溢れ、腕をつたい流れる感触が私に更なる恐怖を湧き上がらせ、身体を震えさせます。


 視界に映る、弓を持って木の上で、笑っているゴブリン二匹、巨大なゴブリンの近くで、ニヤニヤと笑っているナイフと斧を持ったゴブリン、剣を肩に担ぎ、逆立った毛を携えた巨大なゴブリンが、私を見ていました。


 忘れていた恐怖が私を埋め尽くし、死を間近に感じさせます。

しかし、そんな私の状態を知ったものかとばかりに巨大なゴブリンはゆっくりと歩いて私に近づいて来ました。


 「はぁ……はぁ……はぁ……ッ!」


 ゴブリンと私の距離が縮んでいく度に、私の呼吸は激しくなり、身体の震えは大きくなります。

ゴブリンの獲物を捕らえたような笑みを見た瞬間、私は左腕から右手を離し、落ちている斧を持ち、足がもつれて転びそうになりながらも、走り出しました。


 「グウゥ、ヴァアオオオオオ!!」

 「ッ!? み…っみが、!」


 私が走り出した瞬間、鼓膜をつん裂く様な、ゴブリンの咆哮が私の耳を襲いました。

あまりの咆哮の大きさに私の身体は前に押される様に吹き飛ばされ、地面に身体を打ち付けます。

しかし、それでも勢いはおさまらず、地面の土や石に腕と足が引き摺られ、皮膚を引き裂きます。


 「ッ、いた、!」


 出来た擦り傷から、痛みが身体を巡り、血が滴り落ちます。

しかし、後ろからはゴブリン達がどたどたと大きな足音を立てて、迫って来ています。


 私は涙を目に浮かべながら、口を噛んで、痛みを押し殺しながら、足を大股に開いて、走り出しました。


 木を掻き分けながら、避けて行き、木の根に躓きながらも、足を動かして走って行きます。


 走りながら目を一瞬だけ後ろに向けると、ゴブリン達との距離は先程よりも広がっていました。

どれほど大きくなろうとゴブリンはゴブリンなのか、足の速度は特に変わらず、取り巻きと一緒の速度で私に向かって来ていました。


 その姿を見て私はさっきよりも足を速く動かして、一気に距離を離し、一度ゴブリン達が見えなくなったところで木の後ろに右手に持っていた斧を側に置き、両手で口を抑えて、隠れました。


 私が隠れて、少し後にゴブリン達の潰れた様な、唸り声と足音が聞こえ、私の身体に力が入り、石の様に固まります。


 ほぼ真後ろに居る存在に、私は息を止めて、身体を木に密着させ、縮こませます。

少しでも音を出せば見つかり、私はあの時の男性の様に。


 そこに考え付いた瞬間、私の身体は自分では抑えれないほど、大きく震え出しました。

腕を交差させて、両肩を持って、抑えつけても震えがおさまることはなく、その震えが更に私に恐怖を与えて来ます。

私は目を瞑り、両肩から手を離し、両耳を手で覆います。


 「死にたくない…………死にたくない……死にたくない、死にたくない死にたくない」


 機械の様に私は何度も何度も小さく呟き続けました。

その時でした、突然私の横腹に何か物が当たらました。


 そして、その当たった物は私の横腹に入って行き、私の身体に電気が走る様な痛みを与えて来ました。


 「っ!? ぇ、?」


 私は目を見開いて痛む横腹を見ると、小さなナイフが私の横腹を貫通し、血が服に染み込んで、赤く染めていました。

そして、ゆっくりとナイフを持っている人間とは思えない、歪な形の腕を見て、顔を上に上げて行き、その腕の存在を見ると、口を大きく開けて笑い、舌を出して涎を垂らしているゴブリンが居ました。


 空気が押し出される様に口から出て行き、喉はひゅっと音を立てました。

痛みと恐怖により、私の身体から力が抜けていき、両手が地面へと落ちる様に置きます。


 その時、右手が斧の持ち手に当たりました。

木の質感が私の意識を覚醒させていき、息を荒げさせていきます。


 「死に、たくな……い…………あぁあああああああああッッ!!!」


 私は右手に力を入れ、斧の持ち手を折る勢いで持ち、躊躇うことなく、思いっきりゴブリンの首目掛けて振りました。

斧はその勢いのままゴブリンの首を捉え、肉を切り、骨を折り切り、ゴブリンの首を吹き飛ばしました。


 ゴブリンは声を上げることは無く、代わりに、噴水の様な音を立てながら、血が噴き出して来ました。

頭を失った身体は鮮血を噴き出しながら、私に倒れ掛かり、私の全てを真っ赤に染めて、地面へと落ちました。


 もう動かなくなったゴブリンの身体を矢が刺さり、血が滴り落ちている左手で持ち上げて、木の陰から出ました。


 木の陰から出ると、ゴブリン達がいました。

巨大なゴブリンは私を見つけると、獲物を見つけたとばかりに、剣を持っていない左手を前に出します。

その瞬間、取り巻きのゴブリン達が私に向かって走って来ます。


 武器を腰に携え、もう私を捕まえることしか考えていない様でした。

しかし、私にはどうでもいいことでした。


 「く……るな、来るなぁあああッ!?!!」


 私は左手に持っていた死体を地面へと落とし、一番前にいて、走って来ているゴブリンの首を左手を伸ばして鷲掴みして、頭に斧を振り下ろして叩き込みます。

血を噴き出しながら、頭を破壊し、一匹目のゴブリンを殺します。


 後ろに居た二匹のゴブリンが目を見開き、ギョッとした驚愕の表情を浮かべて、動きが止まります。

その隙を狙って、二匹目のゴブリンの顔に斧を横に振り、顔を破壊しながら、薙ぎ払います。


 「死にたくない、死にたくない、!」


 勢い良く地面に身体を打ち付け、両手で顔を覆って、悶えている二匹目のゴブリン目掛けて斧を振り上げ、何度も何度も、生き絶えるまで斧を振り下ろし続けました。


 ぐちゃぐちゃになり、動かなくなった肉塊を見つめて、腰に携えていた斧を左手に持ち、最後の一匹を睨み付けます。

その瞬間、最後の一匹は後ろに退きながら、後ろに転び、四足歩行で逃げようとしています。


 「生きたい、死にたくない……うぁああああああッ!?」


 私は最後の一匹の頭に斧を振り下ろし、斧を破壊し、その命を絶命させました。

斧を頭から引き抜き、少し離れた位置にいる巨大なゴブリンを睨み付けます。


 巨大なゴブリンは私のことを見ていました。

その顔には怒りの表情が浮かんでいました。


 「ヴァアオオオオオ!!!」


 さっきよりも巨大な声で、木々が震えるほどの轟音が森中に響き渡ります。

怖い、そんな思いと共に浮かんでくる、死にたくないという思いが私の頭から恐怖を押し潰し、目の前の存在を殺せた、唱えて来ます。


 雄叫びを上げながら、怒り狂い剣を振り回して走ってくるゴブリンを見つめます。

身体が大きいので、勢いは凄いですが、動き自体はとても遅いです。


 私は、右手に持った斧をゴブリン目掛けて投げました。

ゴブリンは飛んできた斧に驚き、動きが止まり、斧はゴブリンの右腕を斬り裂きながら突き刺さりました。


 叫び声を上げながら、剣を地面へと落とし、左手で右腕を抑えて、苦痛の顔色を浮かべている隙を見逃さず、私は走り出し、斧を左腕に叩き込みます。


 斧の刃がゴブリンの腕に深々と刺さり、その瞬間ゴブリンが悲痛な雄叫び声を上げ、暴れ回ります。

私はそのまま斧を手放し、ゴブリンが落とした剣を両手で持ち、左腕目掛けて、振り上げました。


 振り上げた剣は軽々とゴブリンの左腕の肉と骨を斬り、左腕を地面へと落としました。

ゴブリンは斬り落とされた左腕と斧が刺さったままの右腕を見て、最後に私を見た後、私に背を向けて、叫び聲を上げて、走り出しました。


 私は右手に斧を斬り落とされた左腕から抜き取り、自分の血とゴブリンの血で真っ赤に染まった左手で剣を持って、私はゴブリンの後ろ姿を見て、走り出しました。



「殺さなきゃ、私が……死ぬ。 死にたくない、死にたくない、死にたくない、!」


 私は、呪いの様に呟き続けました。


 あんなに怖かったはずなのに、背中を向けて逃げ出した姿を見ると、そんな恐怖は消えて、ただ今私の中にあるのは、相手を殺すということだけです。


 限界な身体はどこまで動てくれるのか分かりませんが、あれを殺せばまだ腹の足しにはなってくれるでしょうか。


 そんなことを考えてる時点でもう狂っているんだなと、半分諦めて見失わないようにゴブリンの後をピタリ追い続けます。


 さっさと捕まってください。


 せめて楽に殺してあげますから。

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