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三十四話 少女の苦難。

 「うぅ……………」

 「華鈴様、本当に申し訳ございません。まさか朝から飲むとは思わず」

 「……………………もうお嫁に行けません」

 「あぁ~おい蓮なんとかしてくれよ。」

 「俺に言うな」


 この世界の法律とかをもう少し改めてほしいと私は切実に思いました。


 両手で胸を抑えるようにしながら。


 「まぁ、華鈴。飲み会において胸を触られるなんてことはよくあることだから、そうだな。まぁ、慣れろ」

 「無理です!? ルルさんは逆に平気なんですか!?」

 「あぁ、慣れた。それに人気者だから仕方ないのさ」


 あぁ、ダメだこの人はこういう人だということをすっかり忘れていました。


 しかも蘭さんも慣れたような感じですし、もう帰ってしまいましたが、空さん帰って来てと心の中で叫びました。


 セクハラをされる女性の方ってこんな気持ちなんですね。


 今より四時間ほど前の話です。


 歓迎会自体は何の影響もなく進んでいったのですが、会が始まって二時間ほど経ってからその問題は起きました。


 「よ~し酒を飲むぞ~!」


 ガハハハッと大きな笑い声を上げて慶さんは机に置いてあった大きな瓶開け始めました。


 それに対して、一旦話し続けていた私以外のほとんど全員の会話が止まり、私以外目を見開いて驚愕しているようでした。


 「いや何を言ってるんですか、ダメですよ」

 「何故だ!? 今日はめでたい日だぞ?」

 「朝っぱらから飲む人がいますか!?」


 朝からお酒を飲む人は私の世界では沢山いますし、飲み会で飲み足りない人が夜通し飲むとかありますから。


 お酒を開けて飲もうとしている慶さんを必死に止めようと手を伸ばして酒瓶を持って引っ張って取ろうとしている蘭さん。


 「ギルド長、流石に今から飲むのは。一週間後には黒狼との合同演習もありますので、飲むのは夜にした方が」

 「俺の酒の強さを舐めるなよ? いいから飲ませろっての変なことしねぇから」

 「そういうことではないのですが。はぁ、もういいですお好きになさってください」

 「え、良いのかよ蘭」

 「今更ですので、ただ何かあった場合私達は責任を取りませんので」

 「かぁ~たくお前は本当に昔から可愛くねぇなぁ。嬢ちゃんからお淑やかを学んだ方がいいんじゃねぇか?」

 「あぁ~確かにそれは言えて」

 「何か言いました? 二人とも」


 いえ、なんでもありません、と慶さんと遥さんの声がシンクロして、慶さんはそのままお酒を飲み始め、遥さんはそそくさとご飯を食べていきます。


 遥さんと慶さんは蘭さんの地雷を踏む天才と言いますか、なんと言いますか、一言余計なことを言うところがありますね。


 逃げきれなかった遥さんが捕まって蘭さんに胸ぐらを掴まれていますが、私はそれを無視して自分の目の前に置いてあるご飯を黙々と食べていきます。


 「ギルド長達のことを助けるつもりも賛成するつもりもないが、華鈴といったか? この子の女の子らしさは少し学んだ方がいいかもしれないな」

 「ルル…………あなたまでそれを言いますか」


 突然のこと過ぎて、私のご飯を食べていた手は止まり、マナーなんか忘れてしまい、あんぐりと口を開けて、ルルさんを見てしまいました。


 いや、突然何を言い出すんですかこの人は。


 変なことを言うのはやめてほしいんですけど、私まだ死にたくないですし、蘭さんに殺されたくないです。


 「事実お前は少し、男勝りすぎるところがあるだろう? 私は女性からモテてしまうからこのようなふるまいだが、蘭はそうではないだろう。それに、お前はその性格で何人の男から逃げられたんだ?」

 「……………………黒歴史を言うのはどうかと思いますよ」

 「お前にはいい薬だろ。顔立ちは悪くないんだから、メイド服ばっかじゃなく、少しは他の服や女性らしい服を着るとかするべきだ」

 「…………これも女性が着る服だとは思いますが」

 「それは仕事服だろうが」


 溜め息を吐いて、ルルさんは蘭さんを見つめますが、蘭さんはバツが悪そうに顔を逸らして、紅茶を淹れています。


 「あと、華鈴様に言っておきますが、この話は本当のことではないので、気にしないでください」


 …………紅茶を零しそうになってるほど動揺しているのにその言葉を信じろというのは難しい話なのですが、と言いたいところですが、蘭さんが怖い。


 少し震える指で私は蘭さんが私に淹れてくれた紅茶の入ったカップを持って目を瞑って私は無関係とばかりに飲み続けます。


 「おいおい~蘭よぉ華鈴ちゃんを脅すのはよくねぇんじゃねぇかぁ?」

 「分かっていますよって何本飲んでるんですか!?」

 「これで五本目だな」

 「馬鹿ですか!?」


 こんなに大声を出して、怒りを露にしている蘭さんも珍しいなと主ながら、なるべく影を潜めるように私はとにかく無言で居ました。


 「あ~あこれは中々蘭の怒りは収まらねぇな。てか、どうすんだよ一週間後にほんとに黒狼とあるのに」

 「……………………ギルド長が無理な時は俺と蘭とルルでなんとかする。まぁ、あの人のことだから大丈夫だとは思う、、、思いたいが」

 「そういえば、一週間後に黒狼さん? と合同演習があると言っていましたが、それは何ですか?」

 「あぁ、華鈴には言ってなかったな。そのままだ。黒狼と共に遺跡や森の中に入り、協力してモンスターを討伐したり、ギルドの演習場で模擬戦をしたりするんだ。当然華鈴も出てもらう」


 え、私もと思いましたが、私も白翼の一人ですから、当然ですね。


 しかし、私の実力はお世辞にも強いとは呼べず、ランクもトップギルドの白翼には相応しくないDランク。


 どうしてここにいるんだと言われても、私ではぐうの音も出ません。


 さらに相手はこの白翼と同等の力を持つギルド。


 勝てる見込みなんかほとんどありません。


 「あの、でも私は」

 「大丈夫だ。華鈴は模擬戦には出ないように組んでいる。華鈴が出るのは遺跡の攻略のみだ。まだ身体も万全ではないからな」

 「分かりました」


 正直安心しました。


 なんて安心していると、身体に違和感を感じました。


 特に胸ら辺に、なんだろうと思って自分の胸を見ると、手が…………人の手が私の胸を掴んでいて、、、え?


 「ほぉ、嬢ちゃん中々いいものお持ちで」


 後ろを見ると、慶さんが真顔でやっていることが真逆と思わせるような紳士的な顔でした。


 「き…………」

 「ん?」

 「ちょ!? ギルド長!! それは!」

 「きゃああああぁぁぁぁぁ!?!?」


 生きている中で最大の大声が今まさに更新されたました。


 この後の記憶はまともにありませんが、とにかく慶さんを一発殴った気がします。




 「華鈴様、本当に申し訳ございません。まさかあんなことをするとは」

 「……………………うぅ、この国の憲法はどうなってるんですかぁ」

 「けんぽう?」

 「あ、えっと、気にしないでください」


 ここは私の居た世界とは違うから、憲法なんてものは無いんだ。


 今更だけど、それなら蓮さん達が漢字なのはどうしてなんでしょうか。


 「けんぽうがなにかは分かりませんが、王令ならございます。ただ、王令ではあのような行為では罪に取られるようなことは無く、裁くとしたら、個人としてのことになるんです。如何せん売春などは許されていますので」

 「そ、そんなの許されているんですか?」

 「まぁ、風俗とかはそこら辺にあるしなぁ。ただ、貴族相手には厳しいんだよ。触れただけで死刑とかな」

 「貴族の時だけ、凄く厳しいんですね」

 「あぁ、しかも貴族は学校等々のお金は全て国が補填し、育児費も出され、絶対的な安心安全の生活が約束される。まぁ、完全な貴族贔屓なくにってところだ」

 「、、、平民の子達はどうなるんですか?」

 「そんなものはありませんよ。学校は入れますが、もちろんお金は払わなくてはいけませんし、行ったところで貴族の子供達から酷いいじめを受けるのがオチです。だから、平民の子供達はほとんど学校へは行かずに、私達と同じように冒険者になったり、農民になったり、親の家業を継いだりしています」


 私達の世界と、似ているんですね。


 私が居た、日本もどちらかというと上の人達がいい思いをして、私のような普通の平民は苦しい思いをしています。


 「その代わり、貴族は恨みを買うことが多い。だから、暗殺や国同士の戦争などが起きた時は真っ先に狙われる。が、滅多に起こることではないから、平民の中には貴族を嫌うものはかなり多い」

 「ま! 生活がまともに出来ない者には一応国から支給品が出されるから、今となってはましになったほうだけどな」


 贔屓なところはありますが、きちんと支給品などは出されていると考えると、私達のところよりもマシなのかなと感じます。


 「なぁ、話しているのはいいが、ここに白翼の幹部と副隊長が集まった理由、忘れたわけじゃないだろうな」


 ルルさんの目を細めながらの言葉に蓮さん達があ、と言って一つ咳をした後、口を開き始めました。


 「すいません少し話過ぎました。本題に入ります。華鈴様、ギルド長のことは忘れてくださいあとでぶっ飛ばしておくので」


 やっぱり蘭さん怖いです。


 ぶっ飛ばすって、慶さんってギルド長のはずなんですけど、なんか立場が。


 というか、あれを忘れろってなかなか厳しいんですが、って私これあと何回言うんでしょうか。


 「さて、先程の歓迎会でお話しした通り、華鈴様にも合同演習には出ていただくのですが、あの時は急いでたため、華鈴様にまともに冒険者としての必須的な知識を教えることが出来ませんでした。そのため、今回はみっちりとこの一週間を使って教えていきたいと思います。もちろん、剣と魔石の鍛錬も同時進行で行っていきますので、覚悟していてください」

 「はい」

 「……………………華鈴、お前大丈夫なのか? こいつらは人に物事を教えるのが得意なわけではない。正直幼い少女からすれば、かなり辛いことだとは思うのだが」

 「え、っと。慣れちゃいました。もう何回も蓮さんと蘭さんにはしごかれているので」

 「あぁ、なるほどな。蘭の鍛錬についていけたなら、私の鍛錬にもついてこれるだろうな」

 「華鈴様には突出的なものはございませんが、根が真面目で吸収が速いので、ルルにも教えがいがあると思います」

 「ほぉ、それは楽しみだ」

 「それでは、早速やりますか。スケジュールはもう決めてあるので、まずは蓮、遥。貴方達です」


 蘭さんがそうやって声を掛けると、蓮さんはもう準備を始めていましたが、遥さんは全く動かずに、どこか気まずそうにしていました。


 しかし、そんな遥さんに蘭さんは言葉を続けていきます。


 「遥、速く」

 「つってもよ。正直、今の華鈴にこれをやるのは良くないんじゃ」

 「華鈴様の為です。それに、いつかは起こりうることです。荒い方法でしかありませんが、対人戦のことは知っておくべきです」

 「でも、よ」

 「嫌なら、蓮に任せていなさい」


 なんか様子が変だと思いました。


 蘭さんは遥さんに対しては少し厳しいことがありますが、ここまで強い口調であんなことを言うのでしょうか。


 違和感を感じるというか、変というか、いつもと違う蘭さん達の雰囲気に私は黙ることしか出来ませんでした。


 ルルさんに目線を向けると、ルルさんは私の目は見てきますが、何も言わずに、蓮のところへ行けと、指差してきます。


 蘭さんも同じように頷いて、私に行くように施してきます。


 私はそのまま蓮さんの元に向かおうと歩き出そうと足を動かそうとしたとき。


 「……………………蓮。代われやっぱり俺がやる」

 「遥、出来るのですか?」

 「あぁ、やる」

 「なら、任せた。俺は見ている」


 蓮さんが私の横を歩いて行き、代わりに遥さんが私の元まで来て、私の目の前へと立ちました。


 そして、後ろから華鈴様と声を掛けられ、後ろを向くと蘭さんが私の武器を差し出していました。


 受け取ろうとした時、私に一つの疑問が生まれました。


 どうして、”本物の私の武器”なのか、と。


 「あ、あの蘭さん。いつもは」

 「模造の剣、ですね」

 「は、はいならこれは」

 「今日は対人戦を学んでいただきます。その為の本物の武器です」

 「え、なんで」

 「理由は対人戦ということは人と人との殺し合いだからです。今から行うのは模擬戦ではありますが、本物の武器を使った殺し合いです」


 あまりにも衝撃的なこと過ぎて、言葉を発せなくなり、パクパクと口を動かすことが出来ませんでした。


 確かにそれは試験の時に嫌というほど分かりましたが、何も今ここでやる必要はあるのかと。


 「今やる必要はない、と感じているかもしれませんが、そういう訳にもいきません。なぜなら、人に襲われることはいついかなる時でもあるからです。その時に華鈴様は今のままで戦えますか?」

 「そ、れは」

 「話し合いでは解決することが出来ません。それを分かってください。手厳しいことかもしれませんが、これは華鈴様に必要なことです」


 必要なこと、あの時のことを経験しているからこそこれが必要なことは分かります。


 でも、この剣と斧を取ることが中々出来ません。


 怖いから、自分が遥さんを手違いで殺してしまった時が、怖いから。


 「華鈴様、殺し合いとは言いましたが、何かあれば止めますから、安心してください。完全に死ぬことはありません。ただ、大けがする可能性がある、ということです」


 蘭さんが安心させるように笑みを浮かべてくれてはいますが、安心は出来ません。


 使うものは結局は本物の凶器だから。


 でも、このままでは進まないと思い、渋々私は蘭さんがくれたロングコートを着て、武器を受け取り、後ろの腰に斧を装着して、剣と斧を片手ずつに持ちます。


 「華鈴様も準備が出来ましたので、特に何も言いません。お好きなように始めてください」

 「え、?」


 蘭さんの言葉に驚いて、蘭さんを見た瞬間でした。


 お腹に激痛が走り、込み上げてきたものを吐き出さないように無理矢理口を塞いで出ないように閉じ込め、飲み込みます。


 喉が熱くなり、気持ち悪かったですが、それよりも私は目の前に立つ遥さんに意識が行きました。


 「……………………敵の目の前で、よそ見をするなんて余裕だな」


 いつもとは違う遥さんの様子に、私はゾッとするとともに、身体が震え始めました。


 そして、遥さんが私に向かって確かな敵意共に、殺意を向けてきています。


 「立て、そのままだと、死ぬぞ」


 突撃してきた遥さんから逃げるように、自分の身体を投げるようにして、私は横へと飛び転がりました。

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