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第三十話 お世話と困惑。

 「…………ん、うっ……ん」

 「あ、蘭さん華鈴ちゃん起きました」

 「起きましたか、よかったです。体調はいかがですか?」


 この世界に来て、意識を失うのは何度目なのかと感じながら、ズキンズキンッと感じるこの頭痛ももう何度目だろうと思いながら、眩しさを感じる目を擦って瞼を開けます。


 目を開けた先に見えたのは私のことを心配そうに覗き込んでいる空さんとその後ろから、顔を見せている蘭さんでした。


 「…………まだ、痛みは感じますし、違和感がありますけど、何とか大丈夫です」


 左目に感じる違和感とじわじわとくる痛みに左目を覆うように手を持っていきます。


 ですが、きちんと左目は右目と同様に景色を見ることが出来ています。


 「それ以外でどこか気になるところはありますか? 腕が動かしづらいとか、足が痺れるなどは」

 「特に、そういうのは大丈夫です。ただ目が痛いくらいで、それ以外は驚くほど何も」

 「…………もしかしたら、魔石での特訓のおかげで多少なりとも魔力に耐性が出来ているのかもしれません。マギルはマナよりも強いため、人体への影響が大きいため、先にマギルから触れた華鈴様の身体はもうマナであれば順応しているのかもしれませんね」

 「マギルの特訓が、効いているということですか?」

 「はい、ですがまだ油断は出来ません。華鈴様は魔力をお持ちではありませんし、何よりもまだ魔力に触れたばかりです。油断はなさらないようにお願いします」

 「は、はい」


 まだ油断はすることは出来ない、しかしこの義眼には一応順応したということです。


 起きてから少し時間が経ってきて、痛みが徐々に減っていき、異物感も少しはましになってきました。


 落ち着いてきた左目から手をどけて、身体を起こそうと両手をベッドについた瞬間、私の身体はまた横になってベッドに倒れていました。


 え、と思い、見ると私の身体を押したであろう手が私の目の前で真っ直ぐに伸びていて、顔を少し膨らませた空さんが私のことを見ていました。


 「あ、あの…………わっ」


 もう一度身体を起こそうとするとまた同じように押されて、身体がベッドへと落ちます。


 「華鈴ちゃん、傷は確かにマシになったとはいえ、まだ華鈴ちゃんは重症の傷を負っているんだよ? それにまだ義眼だって油断出来ないんだから起き上がろうとしちゃダメ! 今日は一日寝てるの!」

 「あ、あのでも私もご飯とかお風呂にも入りたいのですが」

 「それなら私がお世話するから大丈夫!」

 「で、ですが身体はもう動きま」

 「華鈴ちゃん? 私がお世話するね?」


 あの空さんが、蘭さんと同じような笑みを浮かべています。


 笑っているようで笑っていないと言いますか、有無を言わせない圧が凄く感じます。


 私の口からは。


 「はい、分かりました」


 この一言しか言うことしか出来ませんでした。


 「よし! それならまずはお風呂行こっか!」

 「え、いやあのいきなぎゃっ!?」


 何か言う前に私の身体はベッドから離され、空さんの腕の中に私の身体はあり、空中に浮いており、俗にいうお姫様抱っこ状態になっていました。


 しかも、片腕で私を持ち上げるような感じで、一体どんな力で私を持っているんですかと聞きたくなるくらいでしたが、それどころではありませんでした。


 揺れるから気を付けてという一言共に空さんは走り出し、私を持ったまま部屋から出ていきます。


 そのままお風呂場まで走ることをやめず、走り続けました。


 その間私はあまりの揺れに落ちそうになるのを必死に空さんにしがみついて叫び続けました。


 「空さん!!? 落ちますッ!? 落ちそうなので止まってくださいッ!!」

 「だいじょーぶ! 私を信じて!」


 私の言葉は一切聞かれないまま空さんに私は連行されていきました。


 「そ、空さんあの身体くらいは」

 「私が洗うから大丈夫だよ! 私に任せて!」

 「あ、あのだから!」


 人に髪を洗われるのは何年振りだと感じながら、たまには悪くないかなと思うところはあるのですが、くすぐったさはやっぱり感じます。


 違和感と言いますか、あまり普段では感じることのない刺激に身体が少し変な感じです。


 それに、同性だからなのか空さんの髪の洗い方は、なんか私よりも上手な気がします。


 自分でも思いますが、私はあまり女子力というものがある方ではありません。


 この世界にリンスがあるかどうか分かりませんが、めんどくさくなってリンスをしないときもあるほど。


 それに今まで家族や親友などの交流関係があったり、血縁関係とかなら一緒にこんな風にお風呂には入ったことはありますが、こんな風に他人と入るのは初めてであり、ましてや出会って間もない関係せいなんですからなおのことこの状況に違和感が凄いです。


 「それにしても華鈴ちゃんの髪はサラサラしてるね。なんか手入れとかしてる?」

 「え…………あ、いえとくには何もしていません。そんなにでしょうか」

 「うん、正直羨ましいなぁって思うけど、私あんまり手入れしないからこうなるのは仕方ないんだけどね。身だしなみとかめんどくさくて、だからいつも海とかにやってもらってるの」

 「空さんも私と同じなんですね」

 「え? 華鈴ちゃんももしかしてあまり手入れしない感じ?」

 「はい、私もめんどくさくなってしまって」


 空さんと同じ、どこかその言葉に嬉しさを感じる私が居ます。


 「……………………」

 「? 空さんどうかしましたひゃ、!?」


 空さんから言葉が無くなったと思い、首だけを後ろに向けた瞬間、ほとんど誰にも触れられたことのない女性にとって大切な場所を掴まれた感触が身体に伝わり、くすぐったさと共に、言葉に言い表すことの出来ない感情が身体全体に広がりました。


 「あ、あの空さんどこに触れてッ!?」

 「いや、髪も私と同じように手入れしてないのにサラサラで、肌も白くて綺麗で、そして何よりも!」


 次の瞬間、空さんの片腕が私の脇から通され、そのまま私のそこそこ大きい女性特有の場所を鷲掴みにしてきました。


 「私と同い年なのに私よりも大きいなんて!! 私なんか、私なんかもっと小さいのに!」

 「そ、そんなこと言われてもそんなの私のせいじゃッ! ひゃっ!?」

 「ずるい! 理不尽だー!」

 「私の方が理不尽ですッ!」


 空さんの力の強さに抵抗しても私の身体からは空さんを離すことは出来ず、私は何もすることが出来ずに空さんに鷲掴みにされて、そのままにすることしか出来ませんでした。


 「も、もうやめてくださいぃ!」

 「どうした華鈴! なにか、あ…………った、か…………」

 「ぇ、は、…………はる、、さん、?」


 勢いよく扉が開き、その扉の目の前に居たのは扉を開けた張本人であろう片手を大きく広げて、顔に少し焦りとひと汗を作っていた顔で居た遥さんでした。


 恐らく私の声を聞きつけて助けに来てくれたのだと感じます。


 もちろんそれはとても嬉しいです。もう一度言いますその行動はとても嬉しいです。


 今私が裸でなければ、ですが。


 一瞬何が起きたのか私には全く分かりませんでしたが、三回くらい瞬きをした後、遥さんのことを改めて見た瞬間、に込み上げてきた恥ずかしさに私は完全にパニックに陥りました。


 「き…………き、ッ!」

 「ま、待て! 華鈴落ちつ」

 「きゃああああああ──────!!」

 「わぁ! 何何!? ってなんで遥さんここに?」

 「そ、その前に空ちゃん何をして」

 「遥、なぜあなたがこんなところにいるのか、少し聞かせてもらっても?」

 「あ…………ら、蘭様これは、、ですね」


 とにかく私はパニックに陥り、ここから先のことはほとんど覚えていませんが、気付いた時には私の身体を拭く、何故か頭に漫画のようなたんこぶが出来た空さんとその後ろで正座をして今現在私に土下座をして謝罪してきている遥さんが居ました。


 「ご、ごめんねぇ。華鈴ちゃんあんなことしちゃって」

 「ほ”んとうにずいまぜんでじだ」

 「え、えっとそれはいいのですが、遥さんってそんな声で」

 「ごれにはふ”れないでぐれ」

 「あ、はい」


 土下座の姿勢で全く姿勢を変えない遥さんに少し心配がありますが、本人が本気で触れてほしくなさそうなので、これ以上は何も言うことは出来ません。


 体制だけでも変えればいいと思うのですが、遥さんは顔すらも上げずに、そのままの体制で居続けました。


 「さて、それでは華鈴様、部屋に戻り、ご飯を食べましょうか。遥、あなたはそのまま今日のお風呂掃除と洗濯をしてください。嫌とは言わせませんよ?」

 「は”い、もぢろんでず」

 「では、華鈴様行きましょうか。空様はそのまま華鈴様を連れてきてください。次は走ることのないように、華鈴様のお身体に響いてしまうので」

 「はい、分かりました」


 蘭さんの言葉で二人がビクッと反応した後、聞き分けよく敬語で話しているのを目の当たりにして、声に出すことはありませんが、何かあったなと心の中で思い、忘れようと永遠の闇へと葬り去るように消しました。


 ここに来る前とは打って変わって、揺れが全くなく、きちんと支えられて抱っこされた状態で私は運ばれています。


 確かに楽ではあるのですが、恥ずかしさはやっぱりありますし、離してほしいところはあるのですが、ここまでされている以上は文句なんて言うことは出来ません。


 それに恐らく、自分で歩けるなんて話しても蘭さんや空さんは私の話を聞いてくれないと思うので結局言うだけ言い方は悪いですが、無駄なのです。


 しかし、どこかこの揺れが丁度よくて眠りについてしまいそうな私がいるのは腹が立ちますが。


 「さて、お部屋に戻りましたら、まずはご飯を食べてその後は義眼と華鈴様のお身体を再度見させていただきます。もしかしたら、気付かないところに何か異常があるかもしれませんので」

 「はい、分かりました。あ、でも一応身体は本当になんともないです。自分でもびっくりするほどには」

 「そうですか。ですが、一応念の為です。華鈴様も魔力がどれほど危険かは身をもって分かるはずです」

 「……………はい、もちろんです」


 魔力が危険なことはもちろん重々承知です。


 特に、私が使用する魔石のマギルは私にとっての強力な武器の一つでもあれば、私を大怪我、また死へと導くモノなのですから。


 会話はそこで止まり、静寂が辺りへと広がっていきます。


 怒涛の出来事とまだ取れ切っていない身体の疲れとお風呂に入って温かくなったのが、空さんに抱かれて丁度いい揺れによって眠気を私の身体から持ってきました。


 お腹が空いているため本音を言うならご飯を食べたいところなのですが、それよりも睡眠欲が食欲に勝ってしまいそうで、眠ってしまいそうです。


 「…………華鈴ちゃん、もしかして眠い?」

 「…………ん、そんな、ことは」

 「無理もないかと、まだ華鈴様は冒険者になったばかりであり、空さん達よりも体力が無いのですから、まだ身体に疲れが残っていると思われます。ですが、流石に一週間も何も食べないのは身体によろしくないので、眠いとは思いますが、申し訳ございませんが、少々我慢していただけると」

 「はい」


 正直、お淑やかに言われてはいますが、私からすればすごく難しいことでです。


 ですが、お腹も空いているので、ここは起きていたいと思いました。


 「本気で言っているのですかッ!!!」


 突然の怒声、野太く力を持ち、威厳のある声が、私達が通ろうとした扉の奥から聞こえてきました。


 その声から誰がこの声を発しているのかはすぐに分かり、同時にどうしてここまで怒っているのかという疑問が私の中で生まれます。


 「い、今の声」

 「ギルド長、ですが。何をここまで怒っているのでしょうか」


 蘭さんでも不思議に思って扉を見た瞬間、扉がゆっくりと開き、中から蓮さんが出てきました。


 しかし、頭を抱えるようにして、眉間にしわを寄せて、どこか怒りを抑えているように見えます。


 「蓮、一体何があったのですか?」

 「…………蘭達か、、華鈴もいるのか」


 蓮さんは蘭さん達には普通に、しかし私の姿を見た瞬間、苦虫を嚙み潰したような顔をして、眉間を抑えるようにさっきよりも一段と低い声で言葉を発しました。


 「…………ある意味良いタイミングだが、最悪なタイミングでもある。二人とも入れ、空さんは悪いが席を外してほしい。ここから先は白翼の重大な話になる」

 「あ、はい。それじゃ華鈴ちゃんまた後で」

 「え、あの……空さんも」

 「…………また、後で話すから、今は行って来て」


 空さんの手から離れ、蘭さんに支えられながら私は立ち上がり、そのまま蘭さんに引っ張られて、空さんに声を掛けるよりも先にとびらのなかへと入れられ、そのまま扉は閉まってしまいました。


 せめて一声だけ言いたかったのですが、少しここまでしてもらったのに何も言えなかったのはどこか申し訳ない気持ちがあります。


 「前回の攻略でどれほどの人が死に、私達冒険者の命が失われたと思っているのですか!?」

 「ふん、そんなことは知らん。ただ私は王族の命令を届けに来ただけだ。私にそんなことを言われてもこれは我らが王が決めたことだ」


 思考していたことが全て慶さんの声に吹き飛ばされ、その声が聞こえた後に聞こえた声は、落ち着いた男性な声、ただどちらかというと少し気品というか、格好というか全てにおいてザ・金持ちという感じを感じる人でした。


 「ん? なんだいるじゃないか。飛び級で冒険者ランクを上げて入った期待の新人が」

 「え?」


 その男は私を見た瞬間、何かを見つけたような笑みを浮かべて慶さんに向けていた目を外して、私のことを指差してきました。


 「まぁ強そうには見えないが、多少なりとも役に立つんじゃないか? 囮くらいにはな」


 第一印象は、なんだこいつ、です。

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