二十七話 賭けるは命。
張り詰めさせられていた神経がようやく解放されたかのような気がしました。
蓮さんの後ろで蘭さんに肩をもたれている空さんを見て、安堵の息が小さく口から出ました。
ですが、ぐっとお腹にかかる圧力が突然強くなり、ゲホッと咳と共に大量の空気を吐き出さされます。
それと共に骨が変形していき、ビキビキと言うような軋む音が聞こえらような気がします。
両手で握っているオークの手を掴んで今出せる全力で手を開けようとしますが、当然開かれるわけもなく、ずっと握られ続けています。
蓮さん達が来たことは安心出来ることではありますが、オークに捕まってる私は正直安心することは出来ません。
気まぐれにオークが力を入れれば、私は握り潰されてしまいますから。
武器が一つでもあれば、でももうそれもない、あとは蓮さん達に賭けるしかないということです。
「ハナセ、だと?」
「話せるんだな。情報には聞いていたが、まさか本当に話せるとはな。驚きだ」
「ワレラオーク、キサマラニンゲンノセイデホロボサレタノダ。ソンナニンゲンノコトバヲキクトオモウナァア!!」
「ぐっ……ぁ、!」
蓮さんの言葉に怒ったのか、オークが声を荒げると共に入る手の力で、私の身体に激痛が走ります。
もう折れたであろう肋骨をさらに折られていき、声にならない激痛に顔を歪ませます。
助けは来てくれましたが、結局私が危険なところにいることには変わりありません。
まだ私は死ぬ可能性がある、いえさっきの方がオークからキャラはあったのでさっきの方が死ぬ確率は低かったです。
しかし、今は捕まり、オークの手の中に私はいます。
そして、逃げることも出来ず、正直蓮さん達の助けも期待はあまり出来ないでしょう。
逆に、彼らが動き出すよりも私が殺される方が速いはずですから。
でも、武器も何も無い今ここから逃げ出す方法はない。
完全に詰んでいる、必死に頭を動かして、熱が帯びてきた熱い頭に焦りとイラつきを感じさせられつつ思考を続けます。
しかし、考えても考えても浮かんでくる方法は何も、ない。
何か、何か無いかと最後まで諦めずに無駄だと分かっているのに思考し続けます。
ギュッと更に握られた瞬間、痛みが走りますが、さっきとは違う、別の痛みが私の太ももに感じました。
ゆっくりと痛みを感じた太ももへと手を当てると、何か小さな石のようなものが手に当たりました。
そして、ポケットの中に手を入れて、その物体を掴んだ瞬間、感じたのは温かさ。
これは、魔石だと瞬時に私の頭は分かりました。
ただ、例え魔石があったとしても私ではまだ上手く扱えませんし、それに何より攻撃出来る程の威力はありません。
微小の火を起こすことしか…………それが使えます。
たとえ小さな火だとしても、火は燃えれば大きくなっていきます。
それを利用することが出来れば今この絶望的状況から抜け出すことが出来るはずです。
しかし、躊躇いが生まれて、ポケットの中にある魔石を掴むことが出来ません。
火を大きくするということは、何かを燃やすということ、そしてその何かは私自身しかありません。
上手く魔法が発動し、尚且つオークの顔へとその炎を飛ばせるなら行いたいところですが、そんなの今の私では不可能です。
しかし、方法が分かったとしても、中々行動に起こせません。
自分を燃やすということは結局それは自分が死ぬ可能性を高めています。
心臓がキリキリと痛みながら、バクバクと今までも何回もありましたが、張り裂けそうな程の速度で動き続けています。
魔石を握るところまではいけますが、ここから先へは進めません。
想像すれば、炎を想像すればいいだけ、ただそれだけなのに何も考えることが出来ません。
怖がってる暇もありません。
気まぐれに力を入れられれば死にます。
それに、段々と頭もチカチカとして来ていて、視界も二重になっているようにグラグラと揺れています。
恐らく血を流しすぎているのだと、自分の身体を見て、元々引いている血の気が更に引いていきます。
空さんよりは浅い傷とはいえ、身体中に存在している傷からは血がずっと今も流れ続け、今も私から意識を奪い取っていきます。
「……………」
「ウゴクナ、ウゴケバキサマガワレヲキルマエニコイツヲコロス。マホウヲツカイガイルノモワカッテイル」
「……………くっ」
蓮さんは刀を持っていますが、動けない状態、蘭さんも手に魔法を構えてはいますが、何も出来ない状態、遥さんはその更に後ろに居るので救いを求めるのは難しいと言えます。
もう、やるしか無いのが目に見えて分かり、その現実は酷く私の鼓動を促進させていきます。
一度離し掛けていた魔石をもう一度さっきよりも強く握り締め、一呼吸ついた後、私は目を閉じます。
自分で視界を閉ざしたとはいえ、見えないという恐怖が更なる不安感を与えてきます。
はやく、はやくと考えていってしまう思考のせいで、炎は全く起こる気配も無く、魔石からは暑さも感じず、炎が出る気配すらありません。
焦ることがいけないことは頭では理解していますが、それでも焦りを抑えることが出来ず、はやく、はやくという思いが思考を埋め尽くしていきます。
もはや魔石に籠っている熱が、握っている自分の体温のせいなのか、炎が出ているのか、今の私には分かりません。
「ワレガシヌコトナドワカッテイル、ダガ! サイゴクライハヒトリデモミチヅレニシテヤル!!」
「待てッ!」
バキッと音がして、息苦しくなり、次の瞬間には、口から血が噴き出てくるように出てきます。
閉じていた目を見開くことになり、自分の口から出てくる血を見て、呆然と思考どころか呼吸すらも止めてしまいます。
ヒューヒューっと口からは勝手に空気が抜けていき、抜けていく空気を取り戻そうと息を吸おうとしても血が代わりに口の中へと戻っていき、出てくる血と吸った血により、押し合いが発生し、結局口から出ていきます。
死ぬ、今まで感じたことのないほどの激痛と痛み、まともな呼吸ができず、身体も動いてくれない、意識が消え去りそうです。
「し………に、たくなぃ…………いや、!」
ググッとお腹に力が加わった瞬間でした。
手に激痛と火傷したと感じる熱さが走り、次の瞬間には私の身体は炎に包まれていました。
そして炎は私だけでは止まらず、その勢いのままオークに燃え広がっていき、私とオークは炎に包み込まれました。
お腹に存在していた圧迫感が消え、空中に持ち上げられていた私の身体は地面へと叩きつけられるように落ちます。
圧迫感が消えたというのに燃えているせいで呼吸をすることは出来ず、狂いそうなほどの痛みと熱さに地面を転げまわり、暴れまわることしか出来ません。
微かに見えている視界には燃えている炎と同じように炎に包まれ、声は聞こえませんが、上を向いて頭を抑えて、暴れ回っているオークしか見えませんでした。
身体が動かせなくなってきて、意識が消え去りそうになった時、身体に少し重みを感じ、冷たい液体が身体にかかる感じがしました。
熱さが消え、先程までの激痛は消えていきます。
それでも、燃えていたからか、じくじくと余韻のように残る痛みが私の身体を蝕み、うっすらと見えている自分の身体は黒くなっていて、肌の色は消えていました。
服も、燃えてしまったのか、そんなどうでもいいことを考えているのは自分がここで死ぬのが分かるからでしょうか。
消えゆく意識の中、空さんが私に近づいて来て叫んでいるのが、見えます。
何を言っているのかは聞こえませんし、分かりませんが、涙を流して、私の手に触れたのは見えました。
ただ、触れられたはずの手は何も感じず、謎に冷静な頭に不気味だと感じながら、灯のように消えかかっていた意識は消え去り、視界は黒く染まりました。
遅れてすいません!
華鈴ちゃんはどうなるんでしょうかね。
次はなるべく早めになるよう頑張ります。




