表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/36

二十六話 苦しみに怯える少女。

 勢いは脅威ですが、速度自体は速くない為、カムタリックの時と同じように私は右へ、空さんは左へと走り出します。


 左右に首を振って見続けた後、オークは私へと目を睨み付けるように向けて、傍にあった木を引き抜いて、まだ失っていない方の手で持ち上げました。


 ただ岩の時とは違い、投げると言うよりかは武器として使い、狙いは振り回して足が遅いのを補うという感じです。


 しかし、今オークの目は私にしか向いていない。


 一人であれば逃げることしか出来ませんが、今は二人…………人数差でこの怪物と戦うことが出来ます。


 「空さん、お願いしますっ……!」

 「うん! 任せて!」


 私と空さんは長く冒険をしていないまだ駆け出しのため、モンスターとの戦闘経験、そして戦闘を有利に進ませるゆえでの作戦など、まともに思いつくはずがありません。


 それに私達が今作れる作戦なんか、理想が混じった最善の行動が出来たらのもしものモノしか出来上がりません。


 だから私と空さんは人数差を活かした簡単な作戦で攻めます。


 私にだけ目を向けていたオークは後ろから迫る空さんに気付けずに、そのまま彼女の一撃はオークの背中を捉え、大きく傷付けました。


 「ウ"ァァァァァアアアアアッ!!」


 激痛を背中に感じたのか、悲痛な叫び声を上げ、その手から引き抜いた巨大な大木を地面へと落としました。


 背中に手を回して大袈裟と言って良いほどの痛がり、暴れまわっています。


 しかし、流石はオークと言ったところか、ゴブリンとは違いすぐさま復活し、空さんへと目と身体を向けて走り出します。


 まだ空さんは大剣を振っていた勢いにより、体制を整えれていないのでこのままではオークの攻撃からは逃れられません。


 ですが、それは一人ならの話ですが。


 走り出した瞬間は、身体がまだ追いついていない、そして背中の痛みが存在する今なら初速はどうしても遅くなるはずです。


 十分に間に合う、この距離なら。


 方向転換して、斧を両手で持ってまだ速度の乗り切ってないオークの足目掛けて斧を目掛けて骨を折る気持ちで上から下へと振り下ろします。


 足が脆かったカムタリックほどではありませんが、それでも肉をえぐり、かなり深く斧を突き刺すことが出来ます。


 ですが、走り始めたオークに攻撃してしまったため、その勢いを持ったオークに巻き込まれ、大きな転倒をし、オークと共に地面を転がり、身体を地面へと擦られてしまいます。


 「華鈴ちゃん!」


 痛い、しかも地面に身体が擦られたせいで皮膚はえぐられて、血が滝のように流れてきます。


 立ち上げれない程ではありませんが、正直泣きたいほどの痛みです。


 近づいて来てくれた空さんの肩を借りて、立ち上がると、そのまま少しだけオークから離れます。


 腕を一つ失い、背中には大きな切り傷、足には斧が突き刺さった後に、大きな転倒、それによりオークの身体は見るも無残なほど傷だらけになり、起き上がるだけでも一苦労に見えます。


 しかし、それでも片腕だけで起き上がり、血が出て痙攣している足を無理矢理地へ付けて、立ち上がりながら私達を睨み付けてくるのはどれほど人間に恨みを持っているのか。


 それほどの憎しみを今もなお持ち続けているのは彼らにどれほどのことがあったのか、私では想像できないことではあります。


 「空さん、お願いあるのですが、いいですか?」

 「おね、がい?」

 「はい…………この足ですから、私に出来ることはもうほとんどありません。なので、私が囮になるのでオークのとどめをお願いしたいです」

 「え……? で、でも華鈴ちゃん足がっ!」

 「いえ、もし空さんが囮になったとして、今の私では手負いのオークですらトドメを刺すのが無理だと思います。それに、この戦闘が長引けば長引くほど、体力の差で私達の方が追い込まれていくだけです。それなら、私が囮になって空さんにトドメをお願いしたいんです」

 「…………それなら、華鈴ちゃんは」

 「お願いします。時間が無いので」


 彼女の手から離れて、ふらふらとする身体を両足で支え、空さんが持ってきてくれた斧と元々腰に携えていた斧を両手に持って、オークへと向かって歩きます。


 目を向けると彼女はまだ私のことをどこか辛そうな顔をして見てきますが、自分が生き残る方法を選ぶだけに過ぎません。


 結局どの道を選んでも死ぬ可能性は存在します。


 この世界に来た時から、そんなの変わりません。


 それなら、まだ自分が死なない方を選ぶだけ、空さんを見捨てることは自分が弱いせいで出来ない、二人で逃げ切ることも正直難しい。


 本当は一番選びたくなかった方法でした。


 何度も迷い、嫌がり、避けてきたそれをしなければいけない、そんな最悪な状態です。


 でも、今はこの方法が何よりも一番の最善の手だと思います。


 いえ、逆にそれ以外の良い案が思い付かないからというのが、大きいです。


 それに、悩んでる時間もありません。


 追い込めているとは言っても長引けば長引くだけこちらの状況が不利になっていくだけです。


 かと言って、勝利を急いだところで確実に倒せるかと言われればそれはノーと答えるしかありません。


 空さんは腕を失い、服に隠れていますが、身体中は傷だらけであり、流れている血の量を見ればいつ倒れても正直おかしくありません。


 私は彼女よりも軽傷とはいえ、彼女のような攻撃力も無ければオークと戦える力すらもありません。


 そして、私の持っている武器はこの小さな斧二つのみ、この二つで出来ることなんかせめて隙を作ること程度であり、あのオークにトドメを刺すことは恐らく不可能です。


 だからこそ、私がやるのは空さんがオークに確実にトドメを刺せる隙を作ること。


 「空さん、お願いします。私では出来ないことなので」


 震える足を無理矢理地面に叩きつけるようにして、彼女の言葉を待たずに私はオークに向かって走り出します。


 「ウガァアアアアアアアアアッー! ニンゲンガァアアアアア」


 血が足から流れているはずなのにそれでも勢いが止まることは無く、走ってきます。


 足の痛みのせいで、本来足の速度は私の方が速いはずですが、痛みにより、足がまともに動かずに速度はほぼ同じというところまで落ちてます。


 つまり、一度でも痛みに負けて足が絡まって転ぶ、オークの攻撃の射程圏内に入る、この二つが起きた場合、私は死にます。


 ですが、今は、無理矢理それを行うしかないんです。


 オークにとってもうどちらが危険な存在なのかはオークはもう分かっているはずです。


 だから、ここで私が空さんよりも速く走りだしたとしても、今のオークにその程度の囮はもう効きません。


 それならば、オークに私の方こそ危険な存在だと分からせればいいだけです。


 そのままオークに向かって走り、オークが伸ばしてきた手に向かって二つの斧を投げるように力任せに叩き込みます。


 片腕のこともあり、少しでも傷を付ければ腕はすぐに引かれ、オークの顔は苦痛の表情に満ちています。


 このチャンスをもちろん逃しません。


 一本はオークの手に刺さったまま持っていかれましたが、もう一本は取ることに成功します。


 オークの横を抜けてその先へと向かうために走り出そうとした時でした。


 突然横腹に雷のように走る激痛。


 近づきすぎたのか、痛みに暴れまわるオークに巻き込まれて、丸太のように太い腕が私の身体に埋め込まれるように入ってきます。


 そのまま突然の衝撃に何も反応も対応も出来なかった私の身体はその衝撃の威力のまま吹き飛ばされ、背中から木へとぶつかります。


 「華鈴ちゃんッ!!」


 勢いをなにも殺しきれなかったため、そのままに激突した身体はバキッと確実になってはいけないような音と激痛。


 まともに起き上がることすら難しくなってしまいます。


 口の中は血で塗れ、息がしづらいですが、何とか木に身体を擦り当てるようにして、上半身だけでも起こします。


 「っ! 華鈴ちゃんそこから動かないで!」


 空さんがオークと対峙してくれていますが、彼女もいつまでもつか分かりません。


 あばらの骨と背中の骨数か所恐らく、損傷もしくは骨折しているでしょう。


 このまま動かない方が、良いのは分かりますが、死ぬよりかは何倍もマシです。


 上手く力の入らない震える手で最後の斧を持って、肩の後ろへと持っていき、オークの背中を見ます。


 痛みから回復したオークは空さんと対峙して、まだ動いていません。


 まだ立ち止まり、相手の動きを見ている最後のチャンスです。


 斧を投げるのはこれで何度目になるのか分かりません。


 ですが、今までと同じことをするだけ、今の身体で出来る最後の隙を、、、今作り出す。


 目を閉じて、血の味がする口で息を吸い、そして血と共に吐いて、もう一度繰り返し、そして終わった瞬間に目を開けて、斧を後ろから前へと一気に持っていき、身体と共に前へと投げ飛ばします。


 地面へと身体が倒れ、その衝撃でまた血反吐が出ますが、斧は飛んでいきました。


 その斧は縦に回転して、そのまま斧はオークの背中に目掛けて一直線に飛んで行ってくれます。


 変な才能なのか、ただ運がいいだけなのか分かりませんが、ありがたいです。


 そして、斧はそのまま勢いが収まることは無く、オークの背中へとその斧は突き刺さりました。


 大きな雄叫び声を上げ、私の方へと身体を向けてきます。


 空さんは何が起きているのか分かっていないのか、大剣を片手に持ったまま、動けていませんでした。


 速くやれ(殺せ)


 自分の身体のことなんか忘れ、血で苦しくなりながら、私は声を荒げ、叫びます。


 「空さん、ッ! はやく!! トドメをッ!!」


 その声にようやく気付いたのか、空さんは走り出し、オークの背中に大剣を振り下ろし、振り下ろした勢いそのままオークの腹へと大剣を突き刺しました。


 大剣はオークの腹から突き出て、オークの身体を貫通しました。


 その瞬間、オークは動かなくなり、そのまま前から地面へと倒れ、地面を少し揺らすような地響きを鳴らしながら、動かなくなりました。


 「か、華鈴ちゃん、! あ、血が…………」


 話すことすら正直難しいですが、口を開きます。


 「だいじょう、ぶです。それよりも、ここから……はなれません、か?」

 「うん、そうだね。えっと、こっちの手ならまだ使えるから、肩に」


 もぎ取れてない方の手で私を掴むと、腕を自らの肩にかけて、私の身体を起きあがらせてくれます。


 空さんはそのままゆっくりと歩き始めます。


 ただ、彼女も血を流しているからか、顔色はよくなく、白いです。


 それでも、私のことを支えながら、ゆっくりと歩いてくれるのは彼女の優しさでしょうか。


 「空さん、身体は…………腕は大丈夫ですか?」

 「大丈夫かと言われたら、難しいかな。頭も痛くなってきたから。でも、華鈴ちゃんのことは置いていけないから。とにかくここの出口まで頑張って」


 首だけを縦に振り、そこで私と彼女の会話は終わります。


 今日で私は何度死にかけたのでしょうか。


 このたった一日、これから先、恐らく何ヶ月程度では元の世界へと帰ることは不可能だと思います。


 恐らく何年、、、いえ、何十年、もしかしたら一生戻れないかもしれない。


 そのうちのたった一日で、私は何度死にかけて殺されかけたのでしょうか。


 正直、狂いそうなほど、私の心は限界を優に超えています。


 いつ死んでもおかしくないという状態は、私の心をそれだけ削っていきます。


 今回は本当に運がよかっただけに過ぎません。


 次、、、合ってほしくはありませんが、どれだけ逃げたとしてもこの世界にいる限り、この死は直面するでしょう。


 そして、何よりもあの男が言っていた言葉が私の中でぐるぐると渦を巻いて存在し続けています。


 『裏依頼では高額、なんでもんじゃねぇ金で依頼されてるんだぜ? そりゃあ狙うだろ?』


 理解したくはありませんが、恐らくあれはいつでも、私はあの男達と同じ人達に命を狙われるということ。


 これからも、あんなことが。


 考え事をしていたその時、私のお腹に強い重圧感が走り、握り潰されんとばかりの苦しみが激痛と共に現れます。


 そして、空さんの方を見ると彼女の身体は前へと吹き飛んでいて地面にその身体を落としていました。


 私を握っている存在を見ると、腹に巨大な穴をあけたオークが血反吐を吐きながら、私を睨み付けていました。


 その瞬間、私の口はからは空気がヒュッと抜けていき、息が詰まります。


 「かり、ちゃ……!」


 何か空さんが言っていますが、空さんの声が全く聞こえません。


 徐々にお腹の重圧が強くなっていくのを感じて、苦しくなり、骨が折れるとばかりに強い重圧がかかってきます。


 苦しくて苦しくて、暴れますが、オークには全く通じることはなく、その間も徐々に重圧は強くなっていきます。


 死ぬ、と視界が暗転した瞬間、その重圧が途切れ、この場には存在していなかった、そしてずっと聞きたかった声が聞こえました。


 「その手を離せデカ物、殺されたくなければな」


 黒い刀を構えた蓮さんが、刀を前に突き出して、オークへと向けていました。

二週投稿なら、安定かもです。

忙しいよぉ!


おたのしみいただけそうでしたら、いいねやブグマ、下の評価を等で応援して頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ