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二十五話 見えてくる希望

 後ろから来る吹き飛ばされかねない巨大な衝撃を身に受け、バランスを崩しながらもなんとか走り続けられることが出来る自分の身体に驚きを感じながら、後ろに目だけを向けます。


 あるものあるものを全て破壊しながら、こちらに向かってくる姿は化け物と言うよりかは闘牛に近いです。


 ずっと避けて、逃げることしかできませんが、こちらに気を引き、空さんからは離すことが出来たので目的としては成功と言えます。


 ですが。


 「ニンゲン…………、ニンゲンッ……!!」


 本音を言うなら少しでも近づいて攻撃したいところですが、あれだけ暴れ回られるとまともに近づくことすら出来ません。


 ゴブリン相手の時は向こうの一撃が軽傷で済むので突っ込んで先に殺すことが出来ましたが、オーク相手には通じません。


 力、体力と共に向こうの方が圧倒的に部があり、逆にこちらが勝っているのは速度のみ。


 ですが、少しでも傷を付けないとこちらの体力の限界が来ます。


 速度が合ってもそれを継続させる体力が無くなれば意味がありません。


 正直もう体力は限界が近く、足を止めて休みたいところなのですが、後ろから追いかけてくる存在がそれを許してくれません。


 このままではじり貧、こちらから動くのは正直得策とは到底言えませんが、そんなこと言ってる暇はもうありません。


 しかし、普通の奇襲では防がれて逆に返り討ちに合うのが、目に見えてます。


 もう一つ、もう一つ武器があれば話は変わるのですが、もう一つの斧か、落としてしまった剣があれば。


 あれ、とした違和感と共に耳に何も聞こえない音、そして、後ろへ目を向けると消えているオークの姿。


 突然居なくなった存在をざわざわと落ち着かない心臓が破裂せんとばかりに動き、身体に変な力が入るのを感じます。


 あの巨体が見えなくなるなんてことがあるのか、考えれば考える程、有り得ない今の状況に頭は拒絶し、考えを放棄しようとしてきます。


 しかし、これだけ木が生い茂っているのだから、あんな巨体が動けば音が鳴るはず、それなのにかすり音一つすらない。


 まさか、空さんの元へと向かったんじゃ。


 最悪な結果が思い浮かんだ瞬間、弾けるように足が動き、身体を走らせます。


 今まで逃げてきた道を戻るというのは怖いですが、空さんの方が大事です。


 目を凝らして辺りを見てもあの巨体は全く見つかることは無く、存在するのは生い茂る木々だけです。


 しかし、今はそんなことはどうでもいいです。


 それよりも空さんを優先して。


 ドガンと、まるで砲弾のような音共に木が折れて倒れるような音が聞こえてきます。


 その音は徐々に大きくなり、最終的には私の真後ろにあるほど大きな音になりました。


 「ぇ、、っ!?」


 何かが爆発したかのようにすさまじい衝撃が私の身体に加わり、吹き飛ばされないように身体に力を入れて地面に這いつくばるように耐えていると、身体のほぼ真横を巨大な岩が転がってきました。


 ギリギリ身体に当たることはなかったものの、あと数センチでも右に動いていたら、岩が左に来ていたら、恐らく。


 ゾッとする恐怖と共に、この岩を投げたのは何者かという疑問に持っていかれますが、すぐにこんなことを行える存在は今この空間に一つしかないと簡単に結論が出ました。


 木が折れ倒れている方に目を向けると、やはりそこにオークが居ました。


 地面がえぐれているのが見えるので無理矢理岩をえぐり取ったということでしょう。


 化け物にもほどがあるでしょうが、いつの間にそこに移動したのか分かりませんが、今この状況は悪いし、何なら最悪です。


 今当たらなかったのは完全にまぐれであり、避けられる気がしません。


 仮によけられたとしても恐らく何度も飛んでくる岩から逃れることなんか不可能であり、運よくよけ続けられたとしてもいずれは。


 木に隠れてもあの威力では破壊されて意味が無い、かと言って逃げれるかと言われればそれは不可能です。


 それに私の力だけではあのオークを殺すことも不可能です。


 逆に変に近づけば返り討ちに合うのが目に見えています。


 この状況を打開する方法が考えられない。


 そして思考するまもなく、転がってくる岩。


 木を薙ぎ倒しながら、私へと迫ってきます。


 「っ! あぁッ!!」


 その場に動けないで、止まることしか出来なかった私の腕を掠ります。


 しかし、それだけで私の腕の肉はえぐられ、ドロっとまだ暖かい、熱いぐらいの血液が腕につたり、手へと流れ、最後には地面へと落ちていきます。


 もう片方の腕で支えるように掴みますが、凄く痛く、骨が折れてるのではと感じるほどです。


 そして、頭が痛く、身体には倦怠感、目がチカチカと点滅し、黒い幕で覆われたように見えづらい景色に心はどんどんと焦っていきます。


 息も激しくなり、身体もまともに動かせない絶体絶命という言葉が一致しているこの状況。


 打開出来る方法も無ければここから逃げることも出来ない。


 完全に積んでいる状況、もうどうすればいいかなんて分かりません。


 無意味な涙が流れ、死にたくないと思っているのに無抵抗に動かない身体。


 今になって自分の選択はおろかな選択なんだと後悔しています。


 勝てるはずもないのに、ただ自らの罪悪感に負けてオークに向かっていったのです。


 死ぬのかな、死にたくない死にたくない。


 自分が選んだことなのに、まるで自分の中が無数の他人に分かれたように、様々な思いがぐるぐると回って、走って、そしてまた帰ってきてを繰り返します。


 自分を責める者、他人のせいにする者、嘆く者、泣く者、狂うように笑う者、誰が自分なのか私にはもう分からなくなってくるほど、何も考えれなくなっていました。


 せめてでもと思い、チカチカしてよく見えていない視界でオークの方へと目を向けますが、そこにオークは存在しておらず、逆に右から身体を何か大きな巨人のような手で握られるような感じが身体に伝わります。


 突然の感じたことのない感覚にパニックに陥りますが、私を握る存在が目に入った瞬間、血が消えるような感覚が生じます。


 しかし、私の身体を完全に包み込んで握るなんて行為が出来るのは今この場でオーク以外ありえません。


 予想は正直外れてほしかった想いがありますが、大当たりで握り締めているのはその表情からは何を考えているか分からないオークの姿でした。


 私を握り締めている手に隙間が存在するので恐らくそこまで力が入っていないはずなのですが、それでも肺が締め付けられる感覚と骨がギリギリと歯ぎしりのように擦られる痛みが伝わってきます。


 今の状態ですら、息苦しく痛いのにここからまだ力が入ると言われると…………考えたくありません。


 どうなるかなんて簡単に想像が出来ます。


 しかし、未だチカチカと点滅するような視界、激痛を放ち続ける頭痛、力を入れるのすらも辛い身体の倦怠感。


 何度も腕に力を入れようとしますが、怖さと痛みがそれを邪魔してきます。


 助けは呼べない、逃げれない、殺せない。


 嫌だ嫌だと首が痙攣するように横に震えます。


 逆にそれ以外出来ることがありません。


 持っている斧でオークの手から逃れることも想像がつきませんし、その程度でオークが私を離すはずがありません。


 もう気付いているはずです。


 ただ、認めたくない、信じたくないだけで、もうとっくに気付いている完全に何も出来ない状態で自分が詰んでいると。


 じっと私を握り上げて、見つめてるだけの何もしてこないオークが逆に不気味で恐怖を感じます。


 「キサマハ…………ワレラノフクシュウ二…………ツカウ」


 二度目のオークの声、その瞬間視界がグワッと上へと上がり、オークの肩へと置かれる私の身体。


 オークが何をしようとしているのかはすぐに分かりました。


 このまま私をどこかへと連れていく、目的は分かりませんが、確実に連れていかれたらもう二度と助けられない、戻ってこられないというのがすぐに分かります。


 手を振り回したり、足を何度もバタバタと動かして、今出来る微かな抵抗をしますが、びくともせず、そのままオークは歩き出してしまいます。


 どんどんと絶望という言葉に包み込まれていく、私の頭の中、とっくに抵抗という言葉が消え去り、泣くことしか出来ません。


 もう諦めて目を瞑った瞬間、突然身体が空へと投げ出された感触と共に、背中に固い物が当たったような鈍い痛みが走ります。


 「いっ…………え、?」


 目を開けると私は地面の上に居て、オークから解放されていました。


 なぜ私はここに、と呆然とした意識は轟音により、呼び戻されます。


 耳が痛みを感じる程の轟音、見ると血が噴き出ている手首から先を失ったオークが失った方の腕を抑えて泣き叫んでいます。


 助かって安心したというよりはなぜ、一体誰が、という思いの方が強く、ゆっくりと首を左右へと動かします。


 首を振って見回していくと、ここに居るはずがない人がここに居ました。


 その手にはオークの腕を完全に斬り飛ばしたであろう跡があり、血の付いた大剣が持たれていました。


 助かったのはよかったですが、どうして彼女がこんなところに、私の頭の中はそんな疑問の言葉で埋め尽くされました。


 そして、彼女の大剣を持っていないもう片方の手を見て、首からひゅっと音がして空気が一気にに抜けて、両手で口を自然と抑えてしまいました。


 「華鈴ちゃん大丈夫!? 怪我はない!?」

 「あ、えっ…………は、はい」


 彼女の心配そうに見てくれている目よりも彼女の破損した腕に目線はどうしても行ってしまいます。


 彼女の腕は何か強い力で引っ張られて無理矢理引きちぎられたような跡のように見えます。


 微妙に肉が残り、骨が浮き出て、筋肉という支えを失った神経や血管がもろに出ていて、プラプラと揺れて動いています。


 その姿を見ただけで空さんがどうやって今ここに居るのかが想像つくことが出来ます。


 あの岩から抜ける方法なんてほぼありません。


 あの岩が壊れるか、退くかですが、そんなことが起こるわけがありませんし、仮にそれが起こったとしたら彼女の腕がこんな状態になるはずがありません。


 もうこうなったら、嘘であってほしかったですし、正直やってほしくないという思いが強いです。


 彼女は自らの腕を岩が動かないのを逆に利用して、挟まれた自らの腕を引き千切り、私を追って助けに来てくれたということになります。


 正直そこまでしてほしくありませんでした。


 そのおかげで自分の命が助かった、ですが、彼女の腕はもう。


 重苦しい罪悪感に空さんの目を見ることが出来ず、気になってはいけない彼女の腕に目線が動いてしまいます。


 「…………気にしないで、華鈴ちゃん。これは私が選んだこと、だから華鈴ちゃんが罪悪感に包まれなくていいの。それに、華鈴ちゃんが無事でよかった」


 これが完全な善意であることは空さんのことを見ていた私ならすぐに分かりますが、その優しさがむしろ私の心に重い罪悪感を与えてきます。


 こんなの気にしない方が無理です。


 私は彼女に人殺しをさせ、自らの腕を無くすようなこともさせています。


 それだけ私は彼女に大きな苦しみを与えています。


 彼女がそれを受けることになった原因はすべて私にあるというのに、私だけが彼女に助けられてばかりです。


 「華鈴ちゃん、立てる? まだ戦える?」

 「…………え?」

 「私一人だとなんも出来ないからさ。華鈴ちゃんが手伝ってくれるなら、何とかなると思うんだ。だから、まだ、戦える?」


 正直戦いたくはないですし、もう逃げたい気持ちが強いのが本音です。


 でも、せめて、何も出来ない自分でも、せめてこの罪が晴れてくれるなら。


 斧を持って、空さんへ言葉を返します。


 「はい、まだ戦えます。空さんは…………大丈夫ですか?」

 「もちろん。でも、ごめんさっきみたいな前衛はもう出来ない。だから」

 「…………分かりました」


 空さんは片腕を失い、血を流しているから前衛はまともにすることは出来ません。


 要するに今この場で囮となる前衛を出来るのは私だけ。


 と言っても、私が出来るのは速度で攪乱するだけ、空さんのように大剣で戦って対応するなんてことは出来ません。


 「空さん、私戦って止めることは」

 「ううん、オークを引き付けてくれるだけでありがたいよ。華鈴ちゃんは逃げ回ることだけに集中して、私が隙を突くから。オークの身体が例え強固でも、流石に大剣の一撃なら、オークの身体も傷つけれると思うから。お願いしていい?」

 「はい、怖いですけど…………任せてください」


 強く言い張りましたが、不安な気持ちでしかありません。


 もう一つ、剣があれば。


 「ニンゲンガァアアアアアアアアアア!!!」


 怒りに飲まれ、突撃してくるオーク。


 「っ! 来るなぁあ!!」


 我慢の限界、我慢の限界を超えた恐怖とそれと共に来る怒りに任せながら、斧を目を瞑って、オーク目掛けて振り回します。


 ズチャッ! そんな音が聞こえ、瞑っていた目が勝手に開きます。


 オークの身体に半端やけくそで振り回した斧が刺さっていました。


 そして、それに痛みを感じたのか、オークが暴れ出したのを見て、すぐに斧から手を離します。


 その姿を見て、後ろを見ると空さんと目が合います。


 私のただの斧でオークの身体は傷つき、その傷に怯んだ。


 思えば手負いの空さんの攻撃で腕を斬り飛ばすことが出来たのです。


 オークの力は確かにすさまじいものです。


 地面から岩を引っこ抜き、それを有り得ない速度で投げることが出来ます。


 しかし、身体の皮膚自体は柔らかいとすれば。


 「華鈴ちゃん、これって」

 「はい、見た目と危険性に怯えていましたが、簡単に身体に傷がついて、痛がったところを見ると」

 「意外と身体は柔らかいかもってことだね。それなら、華鈴ちゃんこれ」

 「あ、これ私の」


 空さんが渡してきたのは私の武器である剣と斧でした。


 「華鈴ちゃんを探しているときにたまたま見つけたから拾っておいたの」

 「ありがとうございます」


 武器があるだけでも安心感は雲泥の差があります。


 身体に傷が入ると分かれば、後は。


 ここまで、考えて斧をしまって剣を構えます。


 ようやく痛みが少し収まったのか、オークは私たち二人に目掛けて、突撃するとばかりに走り出していました。

遅れてしまい申し訳ございません。言い訳でしかありませんが、中々忙しく。



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