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十八話 冒険者と彩で呼ばれた世界

 がやがやと賑わいを見せている冒険者協会は、人に満ち溢れています。


 ですが、遥さんと共に協会へと入った瞬間、静寂へと変わります。


 やっぱりまだ慣れない、、、いや、逆にこの空気に慣れろと言うのは無理な話です。


 遥さんが横にいるのでマシですが、未だ向けられている目線は居づらいですし、正直ここにはあんまり来たくないです。


 冒険者協会、冒険者になった以上ここには絶対と言っていいほどこれから先も来るのですが、一人では絶対来たくないです。


 横目で遥さんを見ますが、遥さんは全く気にしていないようで、ずっと何が面白いのかは分かりませんが、笑みを浮かべたままこの静寂の中を突っ切っていきます。


 もちろん私もそれに続くのですが、遥さん自分のことでは無いとは言え、気にしなさすぎだと思うんですけど。


 遥さんの後を追いかけるように歩くといつもの受付には向かわず、そこから少し離れた机へと向かいました。


 「よっす~来たぞルリさん」

 「お待ちしておりました。どうぞこちらへお座りください」


 机の近くまで来るとルリさんが机越しに椅子に座っており、その机には本らしきものが置かれています。


 先に座った遥さんに続いて、椅子に座ります。


 「どうぞ、長くなりますので、紅茶でも飲みながらゆっくりとお聞きください」

 「あ、ありがとうございます」

 「手紙で伝えたとおり、華鈴に冒険者として必要な情報を教えてやってくれ。俺のことは後回しでいい」

 「はい、もちろんです。蘭さんからもそう言われていますので、遠慮なく遥さんのことは後回しです」

 「お、おぉ別にいいけど、いざ言われるとなん呵責に来るというか」

 「さて、まず話す必要があるのは冒険者ランクについてです。特に華鈴様に一番知っておく必要のあることですから」


 前から思っていましたけど、中々遥さんの扱いって結構雑ですよね。


 思ったことを悟られないように遥さんをなるべく見ないようにして、ルリさんへと質問を投げかけます。


 「冒険者ランク、ですか」

 「はい、冒険者ランクというのはその冒険者に付けられた階級のようなものです。今華鈴様のⅮランクは下から二番目となります。ランクはEランクから始まり、Ⅾ、C、B、A、Sとなっております」


 冒険者の階級、それが冒険者ランク、私のランクはまだⅮということはそこまで高くはないということになります。


 ですが、Ⅾランクとして登録されると言われたときに、他の方々があんなにも反応したのは、なぜなのでしょうか。


 「しかし、Ⅾランクは下の階級ではあるとはいえ、Eランクを飛ばしてⅮランクから登録された華鈴様は異例な例であり、これまでもこのようなことは一度もありませんでした」

 「え、そうなんですか?」

 「はい、その為華鈴様がそのように見られるのは仕方のないことだ思ってください」


 正直なことを言うと、少し、、、いえ、全く仕方のないことなんて言葉で済ませられないのが本音です。


 実際自分にそんな実力はないと思っていますし、何よりもこの視線や静寂の中でここを利用するのは心狭いにもほどがあります。


 「そして、ランクは上がれば上がるほど、あまり協会としては案内したくはございませんが、報酬は大きいですが、危険度の高い依頼も受けれるようになります。ですが、まだ華鈴様は異例とは言え、Ⅾランクです。まだ先の話ですのでこれの続きはまたいずれ」


 やはり異世界によくある感じと言いますか、ランクが上がれば上がるほど、ハイリスクハイリターンの依頼をこなせるのですね。


 受ける気は全くありません。自分から死にに行くことはしたくないので。


 「次はそれに繋がってくるモノ迷宮について説明させていただきます。ただ迷宮はもうほとんどが攻略されており、ここら辺の迷宮であれば冒険者と共に行くのであれば、危険は無いに等しいです」

 「攻略済み、と言うのはどういうことですか?」

 「はい、攻略済みと言うのはその迷宮の全てが分かり、全ての部屋を見終わり、記録したことを言います。そこに生息するモンスターや存在する植物や鉱石、そしてその迷宮の部屋の在り方と言ったもの全てが分かったと言うことです。」


 聞く限りではよくあるダンジョンという感じです。


 しかし、想像していたダンジョンとは違いましたね。


 異世界のダンジョンと言えば、ダンジョンの一番奥にいるボスモンスターを倒せば終わりが多いですし、それを想像していたのですが、全く違いますね。


 「それで華鈴様にはこちらの本を貸し出して渡しておきます」

 「あ、はいありがとうございま……」


 すっごく分厚い本が目の前に置かれました。


 というか一冊一冊が分厚すぎて、読み切れる気がしないですねこれは。


 「こちらの本にはモンスター、素材、植物、鉱石、などなど様々なことが書いてありますので、お暇な時にでも目を通してみてください。今日は、白翼のお二方はいないようですので」


 なるほど。モンスターだけでなく、素材などのことも書かれているからこれほど分厚いのですね。


 私にとってはモンスター以外の情報は必要としてはいませんが、それでもありがたいです。


 一冊手に取って本の中を見てみると、モンスターの名前から始まり、特性や生活、扱う武器などかなり細かく書かれていて、その中には対処法や戦い方などまで書いてありますし、討伐数とかもあります。


 そして、モンスターもランク分けされており、高くなればなるほど討伐数は少なく、書かれている情報も少なくなっています。


 ペラペラと本をめくって進めていき、ページを見て行くと一つのページに私の目は止まらされます。

 

 「とう、ぞく?」


 そこには危険度Bと書かれた人の姿があります。


 モンスターとして扱われている人の名前は盗賊、人なのに、どうしてこんな。


 「盗賊が気になりますか?」

 「え、えっ……と、、はい。この人達は、人間です。どうしてこんな酷い扱いなんだろうって」

 「……華鈴様は優し過ぎます。それと同時に考えが甘いです」

 「どういう、ことですかっ」


 どういう意図で言われたかは分かりませんが、納得が行きません。


 人間をモンスター扱いなんて、どう考えてもおかしいはずです。


 「彼らは時にはモンスターよりも残酷で非道なことを行います。それに盗賊による被害は年々増加しており、殺人、強盗、強姦、誘拐、人身売買。そんな存在を本当に同じ人間扱い出来ますか? それにもしそう思うなら、被害に遭った方々に華鈴様は何が出来ますか?」

 「っ…………」


 何も言い返すことが出来ません。


 何故ならルリさんの言う通りだからです。


 時にはモンスターよりも残酷なことを行い、盗賊を野放しにしていれば更に被害に遭う人が増えて行きます。


 それになによりも、私には盗賊を倒す力も盗賊の被害に遭った人達を助けることも同族から人を守る力もありません。


 私がこんな偉そうに言うことなんか出来ません。


 何も力を持っていないのですから。


 「…………申し訳ございません。少し強く言ってしまいました。華鈴様のその優しさは素晴らしいことだと思います。それに助けられる方や救われる方も居ると思います。ですが、時にはその優しさも捨てなければならないのです。それを分かってください」


 ここは、異世界。


 現実とは全く違う異質な世界。


 私の常識も何もかも通じないのは分かっています。


 それでも、慣れる訳がありませんそんな考え。


 「さて、それで華鈴様他には疑問などはございますか?」


 疑問なんか今も沢山存在します。


 誰にも聞けないことも、沢山。


 今ここで元の世界への戻り方なんて聞けたら、どれほどよかったか。


 「…………いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

 「そうですか。ではまた何か疑問があればいつでも来てください」


 気になることはもちろんあります。


 でも、今はそれについて話そうとは思えませんでした。


 「じゃあ、ルリさん前にお願いした奴……どうだった?」

 「はい、正直にお伝えしますと、こちらと同じ素材、そして性質のものはこの世には存在しないモノでした。冒険者協会の力をすべて使って調べましたが、何も」

 「……てことは、()()()()のモンスター共は別物ってことか」


 突然二人の空気がガラッと変わり、身体に電気が走るような感覚と共に強張ります。


 二人の話には全くついていけませんが、ルリさんの持っている宝石のような水色の何かはよく分かりませんが、爪のような形をしています。


 それよりも、遥さんが言った【あの世界】とは何なのでしょうか。


 あの世界ということはこの世界にも何か別の世界があるということでしょうか。


 「あの世界って、何ですか?」

 「ん? あぁ、あの世界ってのは俺達の中で勝手に名付けられてるんだが、(いろ)で呼ばれる世界のことだ」

 「彩で呼ばれた世界? それは一体なんですか?」

 「一言で言うなら、凄く危険な場所だな。それぞれの国に一つずつ存在する迷宮とは違う、ゲートっていうのかあれは、そこから入ると行ける別世界の様なところだ」

 「迷宮とは違う、ですか」

 「はい。華鈴様にはまだお早いことですが、お話ししますね。その名の通り、彩で呼ばれているのです。私達の国、アヴァストにあるのは『蒼ノ世界』と協会が名付けた世界です」

 「あおの、、世界」


 そういえばこの国の名前も私は知りませんでした。


 ここはアヴァストと呼ばれる国なのですね。 


 危険な場所、彩で呼ばれた世界蒼ノ世界。


 その名の通りなら、水で埋め尽くされているのでしょうか。


 「そんなに、危険なんですか?」

 「そうですね。危険なんてモノではありません。その名の通り、その世界では雨が降り続けています。まず環境が不安定であり、雨が降り続ける中、突風が吹いたり、竜巻が起きたり、雨が雪になったり、突然炎天下の暑さに見舞われたりなど、かなり環境自体が不安定で捜索は困難極まります」

 「魔法では、どうにかならないんですか?」

 「不可能です。魔法を使ったとしてもすぐに掻き消されてしまうのです」


 魔法が無意味ということは魔石も無意味ということですかね。


 環境も不安定、しかもそれを魔法では防げず、何も出来ないなんて、厳しい世界です。


 「環境だけでも厳しい世界、更にそこに生息しているモンスターはランクの高いモンスターばかりであり、確認出来た中ではBランクを下回るモンスターは一匹も存在していませんでした」


 まさに地獄と言う言葉が似合うところです。


 そんな世界をどうして攻略しようとするのでしょうか。


 危険があるから、そう言われれば黙るしかありませんが。


 「そんな危険な世界を、調査する必要はあるんですか?」

 「無くはありませんが、正直冒険者協会としてはあまり調査をしてほしくはありません。蒼ノ世界を調査したことは一度だけあり、そのおかげでこのように環境など最低限ではありますが、どのような世界かも知ることは出来たのです。しかし、損害はかなり大きく冒険者と国の騎士団の方を含め、約数百万の命が失われました」


 聞いたのは私ですが、背中が凍るような悪寒がします。


 情報と言って知れたのは最低限であり、生息モンスターの詳細までは完全に知ることは出来ず、その世界に何があるのかもまともに分かっていない、絶望的です。


 「遥さん、そのあまり聞きたくはないと思いますが、国がまた白翼を含めトップギルドで蒼ノ世界を調査してほしい、と」

 「…………おいおい、何考えてやがる。前の調査でどうなったか知っただろうが、それなのにまた調査だと?」

 「はい。そして、その」


 なぜかルリさんにちらちらと見られるのですが、私何か変なことしたのでしょうか。


 思い当たる節が、考えると結構ありますね。


 「おい待てよ! 華鈴はまだ異例とは言えⅮランクだぞ!? それにまだ冒険の経験も知識もまともにないのを送るなんてどういう頭してんだよ!!」


 突然の怒声、横を見ると椅子から勢いよく立ち上がった遥さんが怒りに顔を顰めています。


 何に怒っているのか分かりませんが、正直見慣れない遥さんの姿に怖いなと思いが大きいせいで、それどころではありません。


 「遥さん、落ち着いてください。華鈴様が怖がってしまっています」

 「…………あ。わ、わりぃ華鈴」

 「い、いえ。平気です」


 ルリさんありがとうございます。心でそう思いながら胸をなでおろします。


 それでもまだ心は落ち着いてくれません。未だに心臓は激しく脈打っています。


 「……取り合えずこの話は無しだ。俺から伝えておく、白翼はその調査には参加しない。そう伝えておいてくれ」

 「…………はい、かしこまりました」

 「行くぞ、華鈴」

 「え……あ、あの」

 「本なら俺が持つからいい」


 何が起こったのか分からず、そのまま遥さんに少し乱暴に引っ張られ、冒険者協会の外へと連れていかれました。


 「華鈴、これだけは聞いてくれ」

 「え。は、はい」

 「今聞いた話は忘れろ」


 その会話の後、会話が行われることは無く、ギルドに帰るまで遥さんにずっと引っ張られていました。




 


 あれから数時間、ギルドへと帰って来て自室で貸して貰った本を読みながら、過ごしています。


 ギルドに着いた後、ごめんの一言を告げて自室へと戻っていく遥さんに何も言葉を発することは出来ませんでした。


 気になることはありましたが、聞くことは出来ず、そのまま自室へと戻りました。


 本が読みづらいなと思って窓の外を見ると、空は暗くなっていて街は街灯の明かりに包まれています。


 いつの間にか夜になっていたようです。空は暗いですが、月明かりが街を照らしています。


 「…………こんな暗い中で本を読むと目に悪いですよ」

 「え、蘭さん、」


 突然聞こえた声と明るくなった部屋に驚きながら後ろを見ると、蘭さんがそこに居ました。


 「話は聞きました。遥のことは気にしないで上げてください。私達も聞いた話ではその場に居たら怒ってしまいそうだったので」

 「そう、なんですね。それで、結局どういう話だったんですか?」

 「お話ししたいところですが、今はそれどころではないのではないでしょうか華鈴様」


 あ、と心の中で声が漏れて、私はようやくそれどころではないと気づきます。


 入隊テストまでもう近いというのに。


 「蘭さん、帰って来てすぐで申し訳ないんですけど。魔石のこと、教えてもらってもいいですか?」

 「はい、もちろんです。ですが、華鈴様に一つ教えておきたいことがあります」

 「教えておきたいこと、ですか」

 「華鈴様に教えている魔石の炎ですが、まとも炎が出せなくとも大丈夫です。例え、小さな炎でも燃料があれば燃え広がります。方法は何でも構いません。魔石で使う魔法はまともに使えなくともあらゆる方法で大きく、強くすることが出来ます。それを覚えておいてください」

 「…………はい。ありがとうございます」


 まともに使えなくとも、あらゆる方法で大きく、強くすることが出来る。


 希望が見えた気がします。まだ魔石をうまく操ることは出来ませんが、その方法が使えるのなら、私も。


 「さて、鍛錬場に早速行きましょう。今日は厳しくいきますよ」

 「…………はい、望むところです」


 刻一刻と近づく時間は戻せません。


 ですが、抗うと一度決めたのを曲げるつもりはありません。


 それに、もうどうせ人殺しなのですから、今更利用することで罪悪感なんて感じてる場合じゃないです。


 ごめんなさい、蘭さん、皆さん。


 やっぱり、利用させてもらいます。


 そして、時間が過ぎ去るのはあっという間でした。


 毎日行われる鍛錬と魔石の特訓、もう何回も身体の活動限界を迎えて倒れているのですが、蘭さんの魔法によりそれは許されず、何度も回復され、無理矢理続けさせられる始末です。


 殴られ、蹴られ、吹き飛び、魔障で倒れ、何度も意識を失いました。


 しかし、そのおかげが蓮さんには手加減されていますが、一撃入れれるようなことが出来るようになり、まともに使えなかった魔石は必ずではありませんが、魔石から炎を出せるようになりました。


 攻撃には威力が足りませんが、驚かして隙を作ることは出来ます。





 そして、その日は来ました。

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