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十七話 気分転換

 重たい、と言う感想と共にズキズキと痛みを送ってくる頭痛に顔を顰めながら、瞼を開けます。


 意識を取り戻したばかりというのも相まって、少し視界はぼやけていますが、何も見えないという訳ではないので、自分の状況はすぐに知ることが出来ました。


 少し倦怠感が残る身体を起こしながら、周りを見て確信しました。


 ここは私の部屋、厳密には借りているだけですが、そこに私はいます。


 確か私は魔石を扱うために蘭さんと鍛錬をしていたはずなのですが、どうして私はここにいるのでしょうか。


 しかし、頭を動かそうとこうなった理由を考えても、ズキズキと残る頭ではまともな思考が出来ず、思考は痛みへと吸われていきます。


 私は一体どれくらい寝ていたのでしょうか。


 いえ、そんなことよりも早く起きて蘭さんを探す方が優先です。


 時間が全くない私にとって、今こうやってベッドで休んでいることすら時間の無駄に過ぎません。


 ベッドから出た瞬間、部屋の扉が勢いよく開きました。


 「華鈴~起きてるかぁ……って起きてるな」

 「……えっと、はい」


 遥さん、あまり大きな音はびっくりするので出来れば扉を勢い良く開けるのはやめてください。と言い出せない思いを心に押し込めます。


 「おう、身体はどうだ?」

 「……そう、ですね。少し倦怠感と頭痛があります」

 「なるほどな……まぁ、魔障マギルロスだな

 「魔障?」

 「あぁ、魔力に触れたことのない人や子供によく起こる一種の風邪みたいなもんだな。華鈴はまだ魔力に触れたことが無かったから、起きるのは普通のことだし、気にしなくていいさ」


 魔障、この倦怠感と頭痛はこの魔障と呼ぶモノのせいらしいです。


 遥さんの言葉を言い換えるなら、これが起こるうちは魔石を使えないということになります。


 それに魔石を使えるようになったとしても、いざ戦闘でそれを使えるかと聞かれれば確実にハイとは応えられません。


 焦ってはいけないと分かってはいますが、不安と恐怖は軽々と消すことは出来ません。


 「遥さん、その蘭さんはいますか?」

 「なんか用事か? ほいこれ、飲んだら少し楽になるから飲んどけ。味はゲロ不味いけど」


 いや、そんなこと言われたら楽になると言われても飲みづらくなるじゃないですか。


 うえ、確かに色も濃い緑色と言うグロテスクな色で、匂いも正直本当に飲んでいいのか疑う程です。


 しかし、善意でやってもらうことに文句を言うのは流石に失礼極まりないです。


 ふぅ、と覚悟を決めて、一気に飲み干します。


 飲む、と言うよりかは口の中に流すと言う表現の方が正しいですね。


 しかし、なるべく口の中に残らない様にすぐに飲み干しましたが、やはり味覚と言うものは凄いもので。


 一言で言うならゲロの様な味は口全体に広がり、もう最悪です。


 「おぇ……確かに、不味い、、です」

 「あ、おぉ一気に飲むとは根性あるな。ほら、口直しのクッキー」

 「すいません、ありがとうございます」


 受け取ったクッキーを口の中に入れてなるべくそれをすぐに噛まずに舌の上で転がします。


 ゲロの味を覆う様に広がる砂糖の甘い味はまるで天国の様でした。


 「口直しは出来たみたいだな。それで蘭なんだが、今は蓮と共に依頼に出向いているからここには居ないな」

 「……そうなんですね」


 なんでタイミングの悪いことなのでしょうか。


 これでは魔石どころか鍛錬すら出来ません。


 残された時間は少ないと言うのに。


 「……よし華鈴」

 「ぇ、? は、はい。なんですか?」

 「遊びに行こうぜ!」

 「…………はい?」

 「だから、遊び」


 突然何を言い出すんだろうこの人は、いやてかそんな暇は私には無いのですが。


 はぁ、と口から出そうになった溜め息をグッと抑えながらも行動は抑えることが出来ず、呆れた様な目つきで見てしまいました。


 「遥さん、お誘いは嬉しいのですが、私には時間がありませんし、まだ魔石どころか、剣ですらまともには」

 「行くぞー!」

 「え? あ、あの」


 あ、これぜんっぜん話聞いてくれてませんね。


 制止する前に私は遥さんに引っ張られ、引き摺られるように歩かされ、強制的に遥さんの後に続く様に歩く羽目になりました。


 でも、私を引っ張る力は弱かったです。





 半強制的に連れ出された私は、一応抵抗していますが、力で敵う訳もなく、遥さんの後ろをついて歩くことしか出来ない状態になっています。


 まぁ、私よりも一回り以上大きく、力のある遥さんに敵う訳がないのは分かっていたので半ば諦めてはいるので、なんとも思わないのですが、それよりも。


 「いらっしゃい! そこの新鮮なお魚はどうだい?」

 「新鮮かぁ。もうちょい安れりゃあなぁ」

 「これ以上はうちらが赤字だよ」


 「お~い酒だ! 酒追加ぁ!」

 「はいは~いちょっと待ってくださ~い」

 「こっちは飯の追加をお願いしたいわ」

 「はいは~い」


 まだこの街に来てから、間もないですが、それでもこの街はいつも賑やかで、良いところなのだと分かります。


 ただ、人混みが凄いので身長が少し低く、力もあまり持たない私では遥さんのこの引っ張る手が無ければ厳しいというのが少し難点です。


 というか、遥さんはいつまで歩くというのでしょうか、体感十分くらいはもう歩いているのですが。


 「よし。華鈴ここからは華鈴の行きたい店に行こうぜ!」

 「うぇ? は、はい…………え? 私が行きたい店?」

 「おう! 華鈴の欲しい物、何でもいいぜ?」

 「え、えぇ?」


 いや、突然そんなことを言われてもって感じです。


 ありがたいことではありますし、嬉しいことではあるのですが、一つ言わせてください。


 今じゃない!、と。

 「それ今、なんですか?」

 「おう」

 「遥さん、私には時間が」

 「たまには息抜きも大事だ。それにお前実際は病み上がりなんだからな? 蓮も蘭も居ないし、今日は休憩だ。ほら行くぞ~!」

 「え、行くってどこにですか? いやあの聞いてますか!?」


 あ、これダメだ。と思いながら、背中を押されながら歩きを再開しました。


 しかし、実際この世界に何があるのかも気になりますし、食べ物とかアクセサリーとか、どんなものがあるのか気になります。


 「あ、あれ」

 「ん? あぁ、あの店気になるか?」

 「あ、えっとはい」

 「あれは、魔法物を取り扱っている店さ。ちょうど華鈴が使っている魔石とかも売ってる」


 魔法物、その言葉を聞いただけですごく行ってみたいです。


 まだ魔法を使えないですが、やっぱり魔法というのはその言葉だけで誘われますし、魔石も売っているとなればそれは是非ともなります。


 好奇心のままに店へと向かい、店の扉を開けて中を覗き込みます。


 店の中は太陽が出ている昼くらいのはずなのに、暗くて天井には星のように光るものが付いていて、綺麗でした。


 星だ。と思いながら中に入ると思ったよりも中は明るくて、置かれている商品は普通に見ることが出来ました。


 置いてある商品は魔石から始まり、()()()()と書かれている服や呪物、杖、まぁ、なんというか怪しい物なのですけど、そそられるものが多くあります。


 それにしても加護付与済み、とはいったい何なのでしょうか。


 加護、その名の通りなら神様が人々を守り、助けることですが、そういう守る力があるということなのでしょうか。


 「やっぱりそれ気になるよな」

 「あ、はい。なんだろう、って」

 「そうだな。まず華鈴には加護が何か分からないよな。加護っていうのは魔術師の一つである付与術師、『インパズム』が使える魔法の一つなんだよ。そしてその加護っていうのは様々な効果があってな一時的に身体能力を上げる付与術、魔力を上げる付与術、攻撃力や防御力とかまで上げることが出来たり、武器に炎や氷みたいな属性を付与する付与術、熱さや寒さの耐性まで付けれる」

 「そんなにたくさん効果があるんですか」

 「あぁ、更に上の術師になると空を飛べたり、水の中で息が出来るとかなれるようになるらしい。ま、気になるなら買ってみるのはありだなハズレもないしな」


 加護が掛けられた服、どんな効果を持っているかは分かりませんが、今私の足りない筋力も上げれるかもしれないということですか。


 そういうえば入ったはいいのですが、私はこの世界の硬貨のこと全く知りません。


 値札で書いてある数字は八千八百ペルト。書いてある額が高いのか低いのかもよく分かりませんが、数字だけ見ると高い気がしますけど、どうなのでしょうか。


 他の商品も見ていますが、どれも五千は超えていて、最低でもその値段です。


 気になるものは多いですが、お金を持っていない私にとっては買う以前の問題なのですが。


 「お? いいのか何も買わなくて」

 「はい、確かに気になるのはありますけど。お金がないので」

 「いや、欲しいのがありゃ買ってやるぞ?」

 「え? い、いやそれは申し訳ないので大丈夫です。それにこんな高額の物」

 「いや、俺からすればこの程度の金額普通に払えるけど」


 あぁ、そういうえば遥さんも蘭さんや蓮さんの陰に掠れてはいますが、白翼でした。


 「……なんか今めっちゃ失礼なこと考えたろ」

 「いえ、そんなわけは」

 「ふぅん、まぁそういうことにしといてやるよ。それで、何か欲しいのはあったか?」

 「えっと、それは……あ」


 そんなこと突然言われても申し訳なさと困惑が強すぎて欲しい物どころではないのですが。


ですが、ここまで言われて断るのも逆に申し訳ないと思いますし、ここはお言葉に甘えることにしましょうか。


 さて、どれにしましょうか。


 加護が付与された服もいいですし、武器も呪物も気になるところではありますが、現実的なことを考えると蘭さんが使っていたような治癒魔術、これを使える魔石などがあればそれを求めたいところです。


 怪我を時間かけることなくすぐに治せるのはそれだけで生き残れる確率を上げてくれますから。


 魔石の中から、治癒と書かれた札の後ろに置いてあるエメラルドのように綺麗な丸い宝石を取ります。


 「これで、お願いします」

 「お、選んだか。治癒の魔石かいいものを取ったな。魔法を使えない奴らにとっては必需品と言っても過言ではない代物だからな。んじゃあ、買ってくるな」


 魔石を受け取った遥さんはそのままお会計へと向かっていきました。


 ありがたくはあるのですが、やはり少し申し訳ない気持ちがあります。


 でも、生き残るって決めたんですから、この罪悪感も忘れるべきなんです。


 私が生きるため、そう結局は利用してるだけに過ぎないのです。


 あぁ、こういう考えになってしまう時点で、私はもうまともではないのかもしれませんね。


 店から外へと出て、買ってもらった魔石を胸に抱えるように持って遥さんの後ろを歩き続けています。


 この世界に柔軟してきているからこそ、生き残れる力が付いているという実感と共に、ダメだと分かっているはずなのに、利用することに、命を奪うことに躊躇いが無くなっていく自分に、嫌気がさしてしまいます。


 「さてと、他に欲しいものはあるか?」

 「…………いえ、もう大丈夫です」


 遥さんに顔を合わせるのが気まずいというか、合わせられません。


 向こうは、好意でやってくれているのに。


 「そうか。まぁ、じゃあ次はちょっと華鈴には悪いんだが、来て欲しいところがあるんだが、良いか?」

 「…………はい、どこですか?」

 「冒険者協会さ。あの時に説明しきれなかったことを教えときたくてな」

 「説明、ですか?」

 「おう、華鈴まだランクにとかモンスターについてはあんまりよく分かってないだろ?」


 確かに私はまだ自分のこのランクについてよく分かりませんし、モンスターもゴブリンとか以外は全く知りません。


 「そうですね。全然知らないです」

 「だろ? だから今から行きたいんだが、大丈夫か?」

 「…………はい、平気ですよ」


 おっけーと言って歩き出す遥さんの後ろに付いていきます。


 冒険者協会に着くまでの間、遥さんから声を出すのはありましたが、私から声を掛けることはいちどもありませんでした。


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