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十六話 魔法への恐怖

 「それでは華鈴様、こちらが冒険者カードとなります。再発行は可能ではありますが、時間が掛かるのと発行料が掛かってしまうので無くさないように気を付けてお手元にお持ちください」

 「は、はい。分かりました」


 ルリさんから鉄で出来たカードを両手で受け取り、身体に引き寄せて、顔を少し前に傾けて、カードを見た瞬間、目を少し見開いて、思わず声が出そうになりました。


 なぜなら、カードに書いてあった文字が、私には読めず、唯一分かるのがDという表記だけでそれ以外は何も分かりませんでした。


「華鈴様、もしかして文字が読めませんか?」

「は、はい、なんて書いてあるのか、さっぱりで」


 後ろから、蘭さんが声を掛けて来て、心を読めるのかと思うほど的を得ている私の悩みを言いながら、笑みを浮かべていました。


 蘭さんは、まるで分っていたようにやはり、と頷きながら口を開けて、言葉を続けました。


「やはりそうですか、華鈴様の服装はどこの国にも属さない、そしてどこの書物にも書かれていない服装をしていたので、もしやと思いましたが」

「そう、なんですか?」

「はい、華鈴様のあの服はどこの国にも存在しませんし、何より服の素材が、少なくともこの国には無い物だったからです。華鈴様、少しよろしいでしょうか?」


 私は訳が分からず、首を縦に動かすと、蘭さんはゆっくりと両手を伸ばしてきて、顔を包み込むように、顔を掴んできました。


 そして、そのまま蘭さんは小さな声で言葉を呟き始め、目を閉じました。


「え?ここでやるのか?」

「はい、華鈴様が読めないそうなので、魔力の風にお気を付けください」


 次の瞬間、蘭さんの手が金色の焔のよう揺り動いている光に包み込まれ、私と蘭さんを中心に、物がガタガタと震えるほどの風が吹き始めました。


 光は私に流れるように、身体に広がり、身体に入ってくる感覚を感じがしました。


 「っ、え?」


 突然の出来事であり、身体に得体のしれないモノが入ってくるのは怖いはずなのに、なぜか私の身体は心は、全く恐怖感じることは無く、寧ろ光から感じる温かい感触が、心地良さと共に安心感を与えてくれます。


 そして、光は徐々に小さくなり、完全に消えた瞬間、私の中に全て入り切ったと、感じました。


 蘭さんは目を開けながら、手を顔から離して、右手を掴んできて、カードを見せるようにしながら、持ってきました。


 そのまま指をカードへと向け、それに続きながら、目を向けると、先程まで読むことが出来なかった文字が、読めるようになっていてその言葉を理解出来ました。


 書いてあった文字は私の名前、『白樺 華鈴』と書かれていました。


 蘭さんが何をしたのかは分かりませんでしたが、これが蘭さんの言っていた魔法ということはすぐに気づくことが出来ました。


 「……これが、魔法、、、」


 凄い、そう感じました。


 誰もが聞いたことのある魔法という言葉、誰もが一度はあこがれを抱いたことがあるであろうその力は目の前で見ると、その神秘さや強大な力に胸を揺さぶられました。


 ───しかし、それと同時に魔法のその強大な力に心は震え、足が少し震えるような恐怖感じました。


 今蘭さんが使ったのは戦闘では絶対に使わない弱い魔法、それなのに感じた力は強く、受けた私の身体に流れてきた力は、私の言葉の中では言い表すことの出来ない程のモノでした。


 もしも、これが人やモンスターを軽々と殺せるような威力を持った魔法ともなれば、一体どうなるのでしょうか。


 そんなの、考えるだけでも恐ろしいと考えれることが出来て、それをもし自分に向けられたと考えると、震えることすらも出来ないような恐怖が込み上げてきます。


 「華鈴様、どうですか?読むことは出来ましたか?」

 「は、はいありがとうございます」


 私の言葉を聞いて、笑みを浮かべている蘭さんを見て、改めて私は心に刻み込まれるように感じたのです。


 この世界が別物であり、私が異世界という誰もが、、、そんなものは二次元の中だけという存在に、今自分という身が置かれているというのが、身に染みて分かるのです。


 ここでは私の持つ常識が全く通用しない世界、腰と背中に携えている剣と斧のような武器が、簡単に手に入り、寧ろこの武器が無ければ、この街から出ることは自殺行為にも等しいのですから。


 そしてこの街の中も完全に安全とは言い切れず、いつ襲撃してくるのか分からないモンスターの集団、人間よりも大きな武器を軽々と持ち、振り回すことの出来る冒険者。


 殺すことが許される世界、力が無ければ生きれない世界、そして、助けてくれるのが冒険者であれば、危害を加えてくるのも冒険者という矛盾を抱えた世界。


 目を瞑って、目を開けば、本当はこんなことは夢で、ベットの上で寝ていた、そんなことはただの淡く、愚かな夢だと分かっていても、そう望んでしまうのです。


 「華鈴様、大丈夫ですか?」


 瞑っていた目を開けば、目の前に映り、居た人は家族ではなく、蘭さんと遥さんと蓮さん。


 「華鈴どうした?もしかして、このババの治療が不完全だったか?」

 「遥、あなたは本当に消し炭になりたいのですね。いいでしょうその願い叶えてあげますので、少し外に行きましょうか」

 「あ、いやマジで勘弁してくれ。蘭の魔法とかマジで受けたら言葉通り消し炭になっちまうから!」

 「こんなところで暴れないでくれ。華鈴、大丈夫か?」


 広がる景色は、見慣れた私の白を基調として造られた部屋ではなく、暗めの木材を使われた黒茶色の部屋。


 愚かな夢はすぐに終わり、現実が広がっていき、目に涙が浮かびそうになるのを必死に堪えて、目の前にいる人達へと口を開きます。


 「……大丈夫です」

 「本当ですか?体調がよろしくないのであれば今日はやめておきますが、あの男と戦ったばかりですし」

 「いえ、平気です。魔石のこと、教えてもらってもいいですか」

 「……はい、分かりました。それでは行きましょうか」


 蘭さんは、それではと私の横を抜けながら、また右手を掴んできて、ゆっくりと引っ張りながら、後ろの開けられている大きな扉へと歩き出しました。


 少し手を引かれながら、歩き出して、蘭さんのすぐ後ろを歩くようにして、歩幅を合わせてくれる蘭さんの後ろを歩いて、扉の外へと出ていきました。


 扉を抜けて、外へと出ると、耳を澄まさずとも聞こえてくるほど、大きく、賑やかな声が見渡す限りから聞こえてきました。


 冒険者協会へと向かった時からもう何時間も時間は経っているはずですが、それでもまだ街の活気は消えておらず、一人一人の顔には笑顔が浮かんでいます。


 「相変わらずこの街の活気はすげぇなぁ。あ、おばちゃんそれくれ!」


 街を見回していると声を上げた遥さんが横を凄い速度で抜けて、目の前の四十、五十代くらいの女性が開いている屋台のような形をしたお店へと走っていきました。


 その遥さんを見て、蘭さんと蓮さんの溜め息がハモリ、二人とも頭に右手を当てていました。


 「はぁ、またあいつは……華鈴もよければ何か買いたいものとかあるか?外に出る前に食べたい物とか」

 「私、ですか?」


 買いたい物、あるかと聞かれるとよく分からないというのが言葉の表現としては正しいものとなり、それが悩みとなっています。


 この世界に何があって、何が売っているのか私には何も分からないからです。


 「華鈴様、少し辺りの店を見て回りますか?自らの目で見た方が、速いと思うので」

 「……見たくは、ありますが。今は魔石のことを学びたいです」


 確かに気になりますし、これでも女子なのでお買い物は好きではありますが、そんなことをしている時間は私にはありません。


 もう切ってはいますが、一週間後には白翼への入隊テストなのですから。


 私の言葉に蘭さんはそうですか、と呟いて目線を遥さんに向けて、いつまでも買い物しているとばかりに目が笑っていない笑みを浮かべると、そのまま速足で遥さんの元へと歩いて行きました。


 誰も近くにいなくなり、顔を空へと向けて、手を翳さないと目を向けることすら出来ない程の光を放つ太陽の光と空をぼーっと見つめます。


 その時、突然眩しくなくなり、私の身体に影が差したと思い、その影の出来た先へと目を右に向けると、蓮さんが居て、じっと見つめて来ていました。


 眉一つすら動いていない無表情な表情で見て来る蓮さんからは、何を考えているのか分からず、どうしてこんなに近くいるのかよく分かりませんでした。


 「……良いのか。確かに時間は無いが、休憩も大事だ」


 無表情ではありましたし、そんな気はないと思うのですが、声が低いせいで、少し威圧されるような感じがしますが、言葉は優しくて、考え、悩んでいた心が晴れていくような感じがしました。


 「確かに見たい気持ちもありますが、後でも出来るので」

 「……そうか」


 私の言葉に蓮さんは少し離れ、向けていた目を前へと向けた瞬間、さっきと同じような溜息としぐさをしました。


 同じように前へと目を向けて、私は蓮さんの行動がよく分かりました。


 次の瞬間、遥さんの絶叫と呼べるほど大きさと迫力を持った声が、街に響き渡りました。





 「それでは、魔石についてお教えしていきますね」

 「はい、よろしくお願いします」


 街から少し離れ、緑に包まれた平原が広がり、綺麗な池や巨大な木が聳え立つ森が近くに存在し、広大な自然に囲まれた中、私はいました。


 「それでは、まずは、魔法について説明させていただきます。まず、魔法というのは私達のように魔力、『ルナ』を持つ私達『魔術師(ルナメルビス)』が扱うことの出来る力、それが魔法です。魔法には様々な種類があり、基本の五属性である、火、水、氷、雷、風から始まり、特殊な闇や光、草そして、属性だけではなく、先程華鈴様へ掛けたような翻訳の魔法から、身体能力を上げる魔法、傷を治す魔法など、無限と言っていいほどの数が存在します」

 「無限、ですか。そんなにも数が多いんですね」

 「はい、魔法は今も研究が行われ、更に新たな魔法が生み出されていますから。さて、それでは華鈴様がお使いになる魔石について、お話していきます」


 笑顔を浮かべて魔法の話をしていた蘭さんの顔から表情が消え、無表情で真剣な表情になった蘭さんの顔に私の身体に緊張感が走ります。


 「魔石は先程もお話ししましたが、別名は『マギア』。魔石は魔術師と同じように魔法を使えますが、中に込められている魔力が違います。私達が扱うのがルナと呼ばれる魔力、魔石の中に入っているのは『マギル』といいます」

 「……なぜ、魔力が違うのですか?人間が扱うものなら、同じ魔力でも」

 「理由はその魔石の作り方にあります。魔石はモンスターの魔力の核によって作られているのですから」


 蘭さんの言葉を聞いて私は目を見開いて、自分の手に持っていた赤い炎のような魔石を見つめて、凝視し続けます。


 「モンスターはその核が私達で言う心臓のような働きを持っており、彼らの身体はマギルによって生命活動をしており、彼らの身体には必要不可欠なのです。そのため、彼らは核が破壊もしくは、マギルを失った場合、生命活動が停止し、完全な死を迎えます。しかし、その機能を失わせない、要するに核を攻撃せずに、彼らを討伐した場合、核はマギルを溜め込んだまま取り出すことが出来ます。それを使い作ったのが、マギアなのです」

 「モンスターの、核。だから、中に入っている魔力が違うんですね」

 「はい、その通りです。そして、モンスターの核によって魔石の価値は変わっていきます。当然上位のモンスターの核になればなるほど、出来る魔石は強い魔法が使えるようになり、使える回数は増えます」


 モンスターの核を使った道具、魔法を使えるのは、魅力を感じますし、どこか心が躍っているような自分がいます。


 しかし、人が使わない魔力を込められた魔石を、人が使うことが出来るのでしょうか。


 「しかし、魔石には少し問題があります。かなり大きく、そして危険な」


 続けられた言葉に私の身体が強張り、額に汗が浮かび上がり、さらなる緊張感と、恐怖を感じ始め、魔石を持つ右手に力が入り、魔石を握り締めるように手が閉じられていきました。


 「魔石は、『魔力暴走(ブレイブバースト)』を起こしやすく、更に人によってはマギルの力を制御し切れずに飲み込まれてしまい、狂乱になってしまう人もいます。そして、魔力暴走はその名の通り、魔力の暴走が起こり、大爆発を起こします。当然使っていた人間は、その爆発を受けて、ほぼ確実に死にます」

 「っ……し、ぬ」


 続けられた言葉、強大な力には代償が、言葉通り、その力は強大であるが故に、死と隣り合わせであり、私も死んでしまうかもしれないそんな力。


 でも、それを使えるようにならないと、、、。


 もう何度目か忘れたこの逃げ出したいほどの恐怖を無理矢理抑えつけて、魔石を強く握って、蘭さんの目を見つめて、瞬きすらせずにじっと見つめ続けます。


 この恐怖も、もう今更であり、ここで恐怖から逃げれば結局私は生き残れないと、分かっているからです。


 「どうやら、覚悟はもう決まっているようですね。それでは、こちらへ来てください華鈴様」

 「はい」


 言われた通りに近づいて、目の前まで行くと、蘭さんは口を開いて魔石を持っていた右手を両手で持って、私の胸の辺りまで持ってきます。


 そして、蘭さんが手を翳した瞬間、魔石から赤黒い炎のような揺らぎを持った光が現れ、私の手はそのまま光へと包み込まれます。


 しかし、先程の蘭さんが出したルナとは違い、その光は燃えるように熱く、まるでその光に吸い込まれるような感覚が伝わり、意識を強く持たないとこの魔力に飲み込まれてしまいそうでした。


 「どうですか、華鈴様。これが、『マギル』です」


 これが、マギル。


 凄く痛く、熱く、意識を乗っ取られるような気持ちの悪い感触が、私の右手を通して身体全体に広がっていきます。


 今にも飲み込まれてしまいそうで、身体から力が抜けていき、意識も朦朧と、暗くなっていき、それは目を瞑れば、自分の意識が完全になくなり、消えてしまいそうなほど。


 身体に感じる死の恐怖、死ぬ、、死にたくない、生きたい、生きたい、!


 視界が完全に暗くなる瞬間、心に埋め尽くされて呟かれ続けた言葉、強く、響き渡り、私は左手も右手へと伸ばして、魔石を蘭さんの手の上から握りました。


 左手で握った瞬間、赤黒い光が小さくなっていき、吸い込まれるように魔石の中へと消えていきました。


 「はぁ、、はぁ、、はぁ、!……き、えた?」

 「よく頑張りました華鈴様。マギルを扱うためには、マギルに身体が耐えれなければいけないので、荒治療ではありますが、時間がないのでこの方法をとらせていただきました。しかし、まだ華鈴様の身体は魔石を扱えるほどではありません。お辛いとは思いますが、またお手を」

 「はぁ、、はぁ、……大丈夫、です。もう、今更ですから」


 どきどきと速く動いている心臓の動きを抑えつけるように深くゆっくりと深呼吸を繰り返して、落ち着かせていきます。


 そして、また私は魔石へと手を伸ばしました。


 その瞬間、ブツンッと切られたように私の意識は暗闇の底へと落ちていきました。

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