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十話 選択と決意

 「もう……平気です、っ」

 「そうか……じゃあギルド長彼女に今後の話を」


 名ごろ惜しい温かさから離れて、涙を右腕の服を伸ばして、拭って蓮さんに目を向けます。

蓮さんは少し、手を下ろして、向けていた目を後ろにいるギルド長と言われる髭の生やした男性と蘭さんに目を向けました。


 ギルド長と呼ばれた男性は頭を掻いて、歩き出し、私の座っているベット傍へと来て、白い髭で覆われた口を開き、蓮さんよりも野太く大きな声を出しました。


 「嬢ちゃんにはまず自己紹介をしねぇとな。 俺の名前は出雲(いづも) (けい)、だ。 ギルド『白翼』のギルド長という立場ではあるが、まぁ気楽にしてくれ」

 「はい、ありがとうございます慶さん。 私の名前は白樺 華鈴ですよろしくお願いします」

 「あぁ、よろしくな嬢ちゃん。 さて、今から嬢ちゃんには選択肢がある」


 慶さんは私に目線を合わせるように膝を折って、腰を下ろして、指を三つ上げて私に見せてきました。

そして、そのうちの人差し指を折り曲げて、私に言い聞かせるように言葉を発しました。


 「一つ目が、教会でこれからの人生を過ごすことだ。 生きることを望んでいる嬢ちゃんにとっては正直これが一番安全であり、生活もそこまで不自由ではないだろう。 しかし、ある程度の歳になったら、教会から出るか、教会で働くかを選ぶこと、だな」

 「…………一つ聞きたいです。 モンスターに侵略された場合、どうなりますか」

 「…………そうか、嬢ちゃんはそういうところまで気にしちまうんだな。 ほとんどそんなことはない、が…………もし、侵略され、モンスターが入ってきた場合は、逃げ切れれば生きれるが、生き残ることは難しいだろうな」


 さっきの笑い、少しふざけていた雰囲気を出していた慶さんは、消えて真剣な顔付きで、目には有無も言わせないような圧力がありました。

続いて、慶さんは中指を折り曲げて、次なる提案を挙げてきました。


 「二つ目は、冒険者として生きることだ。 おすすめは全くしねぇが、モンスターと隣り合わせに生きるからな、モンスターへの恐怖心は少なからず軽減されるだろうな。 それに、収入がいいからな、一個依頼を達成出来りゃある程度は何もしなくても生活は出来る。 その分命の保証は正直ねぇな」

 「はい、それは目の前で、見ましたから。 人が死ぬ光景を」


 顔を俯かせて、両手を服を巻き込みながら、握り締めます。

しかし、すぐに顔を上げて、慶さんの目を見つめ返して、慶さんの眼力に引かないように目を見つめ続けます。


 「!…………嬢ちゃん、やっぱり度胸あるな気に入った。 じゃあ最後の俺からの提案だ!」


 慶さんはニヤッと笑みを浮かべて、目は熱が入ったように見開かれ、発せられた声は大きく、野太い声に戻りました。

ガハハハッと大きな声で高笑いした後、その声のまま慶さんは言葉をつづけました。


 「最後の提案は、白翼に入隊すること、だ!」

 「待ってくださいギルド長……彼女はまだ幼い少女です。 それなのに彼女をギルドに入れては彼女に危険が」


 蓮さんが、後ろから慶さんに向かって、少し荒げさせた強い声を出しました。

しかし、慶さんは首だけを蓮さんの方に向け、蓮さんの言葉を遮りました。


 「何言ってんだよく考えてみろ。 教会を提案した時、この子はモンスターの侵略された時のことを聞いてきたんだぜ? さらにキングゴブリンのソロ討伐に加え、お前が目を見張るほどの攻撃をしたんだろ? そして、俺の眼力に負けずに俺の目を見つめてくるこの子の意志の強さ。 これが気に入らねえわけがねぇだろ?」

 「そうですが、しかし」

 「決めるのは、この子だ。 嬢ちゃん、自分の意志で決めていいんだ。 俺は嬢ちゃんの意志に委ねるぜ。 だが、白翼に入隊するためのテストは受けてもらう。 そこだけは特別扱いは出来ない」

 

 慶さんは首をすぐに私の方へ戻し、目をまた見つめてきました。

しかし、その目には先程の圧が強いだけの目ではなく、どこか安心させてくれるような優しい目線でした。


 そして、私にとって、取るべき選択肢はもう一つであり、更に願い無理矢理にでも、取ろうとしていた選択肢をここで見過ごすわけがありません。

どんなテストかは分かりませんが、腕を失おうと、足を失おうと、喰いついてやります。


 「受けます。 私はこのギルドに入りたるために、蘭さんに慶さんのところへと行こうとしていましたから」

 「ほぉ、本当に俺は嬢ちゃんを気に入っちまったぜ。 蘭、準備をしろ。 白翼の入隊テストを一週間後行う。 他の入隊希望の奴らもつれて来い!!」

 「…………畏まりました。 すぐさま手配いたします」


 蘭さんは頭を下げた後、身体を後ろに向けて扉から部屋の外へと出ていきました。

蓮さんはどこか複雑な顔をして、私と慶さんを少し見た後、重く閉ざされていた口がゆっくりと開き、怒気を含んだ肌が冷えるような声が私の耳に聞こえてきました。


 「何をお考えですか、ギルド長。 彼女は確かに実績を持ってはいますが、それでも少女に変わりはないのです。 入隊テストでは、モンスターと実際に戦いもあるのです。 彼女はそれで死ぬ可能性が」

 「おいおい、そんなこと言ってたら始まらねぇよ。 それにそのためにお前を呼んだんだよ」


 蓮さんの言葉をまた遮り、慶さんは前から蓮さんの右肩に右手を包み込むように乗せ、親指を立てて、後ろにいる私へと向けてきました。

その意図を理解したのか、蓮さんは左手顔を包むように当てて、溜め息を深く吐きました。


 「良いだろ? 彼女は冒険者じゃないというハンデ持ちなんだ。 それなら、このギルドで一番強いと言っていいお前がこの一週間で彼女に叩き込めるだけ教えればいいだろ?」

 「…………軽々と言いますが、彼女は知識も技術も、全てがないに等しいんです。 たった一週間で冒険に必要なことを身体に教え込むなんて」

 「やります」


 慶さんと蓮さんの言葉を今出せる最大の声を出して、遮ります。

ベットから降りて、地面を足へと付けて、ゆっくりと歩いて、蓮さんの目の前まで来て、私は腰を折って、頭を下げます。


 「お願いします。 絶対に全て身に付けますから、私に全てを教えてください」


 下げていた頭を上げて、私の身長よりも二回りほど大きい蓮さんの目を睨み付けるように強く見ます。

ここで断られれば、もうチャンスはないのですから。


 「…………どうする蓮。 ここまでお願いしてる少女をお前は断るのか?」

 「…………ここまで言われて、断れるわけがないでしょう」


 蓮さんは再度深い溜め息を吐いた後、慶さんの右手を払うように左手で落としながら、ギシギシと木の床を歪ませながらゆっくりと近づいてきました。

そして、左腰に携えていた黒い刀の柄を右手で握り締めた後、ゆっくりと鞘から抜いて、私の目の先に突き付けるように、向けてきました。


 少し強張り、震えそうになる身体を無理矢理抑えつけて、刀をじっと見続けた後、目を上に動かしていき、蓮さんの細くなり、冷たく睨んでいるような目を見つめ続けます。

怖いですし、目が涙に滲む感覚がありますが、それを左手で拭い、蓮さんの冷えた目を見続けます。


 「はぁ…………華鈴さん、あなたの覚悟、しかと受け取った。 これから一週間、君に俺の教えられる全てを教えるつもりだ。 だが、少しでも弱音を吐けば、悪いがもう教えない。 それが約束であり、俺が出す条件だ」

 「はい、もちろんです」

 「優しくないぞ俺の教えは」

 「覚悟の上、です」


 蓮さんが何度も念を押してきますが、私の思いは変わりません。

どれほど言われようと、私はこのテストに合格して、白翼には入り、この世界で生きて、なぜ私がここに来たのか、その原因を探るですから。


 願わくば、元の世界に戻れる方法が、その過程で見つかることを願って。


 「いいだろう。 白樺 華鈴!!!」

 「ッ!」

 「服を着替えて外に出ろ! 鍛錬を始めるぞ根を上げることは許さん!!!」


 蓮さんの声が、私の身体に響き渡り、身体に緊張と力が入っていきます。

ですが、厳しかろうと、辛かろうと、そんなのもう覚悟の上です。

生き残る、その為に私は、抗うと、決めたのですから。


 「はい!」


 扉を出ていく蓮さんの背中を追って、私は足を速く動かして、走るように後を追いました。

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