第8話:共食い
「だいぶ降りてきたね。そろそろ最下層じゃないかな」
〔魔力が濃くなってきたのを感じます〕
俺たちは順調にダンジョンを進み、第六層まで到達した。
しかし、これほど深くまで来てもオークの姿は見えない。
「それにしてもオークはどこにいるんだろう? モンスターはダンジョンの入り口付近か、高層階に棲み処をつくっていることが多いのに……」
〔マスター、何があるかわかりません。私に魔力を溜めておいてください〕
「そうだね。じゃあ、いくよ……」
俺はコシーに魔力を込めた。
彼女は戦わなくても魔力を消費するようで、小さくなった彼女の体が大きくなる。
あっという間に、俺と同じくらいの大きさに戻った。
「とりあえずは、このくらいで大丈夫かな?」
〔ええ、ありがとうございます、マスター。これで対応に遅れることはないと思います〕
俺たちは通路を進む。
最初に遭遇したゴブリン以外に、モンスターはまったく出てこない。
もちろん、人間だって一人もいなかった。
不気味な静寂が気持ち悪いな。
「うぉっ、なんだ!?」
暗くて足元が見えづらく転んでしまった。
何かに引っかかったらしい。
〔大丈夫ですか!?〕
コシーが心配そうな顔で慌てて近寄る。
彼女の優しさが心に沁みるぜ。
これがボーランだったら「どんくさいゴミムシが!」みたいな暴言を吐かれ、暴行を加えられただろう。
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、コシー」
立ち上がった瞬間、突然通路の奥で稲妻が光った。
離れていても眩しく感じるほどの、とんでもなく強い光だ。
「こ、今度はなんだ!?」
〔あれはいったい……!?〕
稲光は徐々にドラゴンの形となり、猛スピードで俺たちに向かって飛んできた。
「しまった、ダンジョンの罠だ!」
〔マスター、下がってください!〕
コシーがとっさに俺の前に出て、石の剣で稲妻を抑えつける。
「コシー、大丈夫か!?」
〔マ、マスター……早く、私に魔力を……。すごいパワーです……〕
「わかった! それ!」
俺は思いっきりコシーに魔力を送り込む。
こんなに魔力を注いだことは今までないほどだ。
〔……力がみなぎってきます! はあああっ!〕
稲妻がコシーの剣にどんどん吸い込まれる。
グレートウルフの《ファイヤーボールショット》を吸収した時と同じだ。
雷のドラゴンは消え去り、ダンジョンに静寂が戻った。
それでも空気にはまだ雷が宿っているようで、肌がピリピリする。
「ずいぶんと強力な攻撃だったな」
〔さすがはSランクダンジョンですね。罠の魔法攻撃もSランクに違いありません〕
コシーは何事もなかったかのように立つ。
石の身体には傷一つついておらず、彼女の力強さを感じた。
「そんな魔法を吸収できるなんてやっぱりコシーはすごいなぁ」
〔いいえ、マスターに魔力をもらったおかげです。マスターの実力はきっとSランクなんですよ!〕
コシーは力強く言い、俺の手をギュッと握る。
「Sランクなんて、そんなまさか」
〔絶対そうです!〕
彼女に言われると、そんな気になってしまうね。
何はともあれオークを探そう。
数十分後。
第六層は先ほどの罠しかなかったようで、最下層にたどり着いてしまった。
残すはこのフロアのみだ。
シン……と静まり返り、生き物の気配はまるで感じない。
「しかし、オークはどこにいるんだろう。もしかして、もう逃げちゃったのか?」
〔ここにいなかったら、一度ギルドに戻るのが良いかもしれませんね〕
しばらく探索することにして歩き出すと、どこからか変な音が聞こえてきた。
「コシー、何か音が聞こえない? 物を食べているような」
〔……確かに、食事をしているような音ですね。あちらの方でしょうか〕
奥から聞こえるようで、俺たちは静かに近づいていった。
通路を進むと扉が壊れた部屋があり、音の出どころはここだ。
確実に誰かがいる。
俺たちは向かいの通路に隠れ小声で相談した。
「なんだろう」
〔わかりません。もう少し近づいて見ましょう〕
そこまで話したとき、扉の暗がりから何者かが姿を現した。
『何カと思ったらニンゲンか。何しニ来たのだ』
濃い緑色をした筋骨隆々の肉体に、大きく伸びた牙。
オークだ。
ようやく見つけた。
通常の個体よりもかなり体が大きい。
「コシー、ボスオークだ。あいつが群れの長で間違いない。おまけに人語を話すオークなんて俺は初めてだよ」
〔マスター、あれを見てください!〕
コシーがボスオークの後ろを指す。
松明に照らされ、モンスターの死骸が見えた。
良く見ると……全てオークの死体だ。
めちゃくちゃに食い荒らされている。
そして、ボスオークは仲間の体の一部を握っている。
ということは……。
「こいつは共食いしたんだ! オークが一匹もいなかったのは、全部あいつに食われたんだよ!」
〔と、共食い……!〕
モンスターの共食いは非常に珍しい現象だ。
共食いすると身体能力や魔力などが急上昇する。
知能が上がるパターンもあるそうだ。
『ぐ……! ううううう!』
ボスオークの体に不思議な紋様が浮かびあがる。
Sランクモンスターには、それぞれ特徴的な紋様が見られる。
オーク自体はBランクだが、食った同族の数が多かったのだろう。
急激な成長をしたに違いない。
〔マスター、何が起きているのですか?〕
「……共食いしてSランクになったのさ。筋力も魔力もすごい強くなってるはずだ」
『これはなンだ。力が溢れてくルようだ。もっと力が欲シい。お前らのカラダ食わせロ。人間喰エば、もっと力手に入る』
まずい、クエストの難易度が一気に上昇した。
一度撤退して、ギルドに応援を頼むのが最適な選択か……?
頭の中で考えていたら、コシーが俺の疑問を感じ取ったように言った。
〔戦いましょう、マスター。私たちなら倒せるはずです。私にはわかります。もちろん、マスターの魔力が必要ですが〕
彼女は真剣な目で俺を見る。
先ほどの戦いが思い出された。
俺はもう……戦えない無能テイマーじゃない。
「そうだな……戦おう」
俺は剣を硬く握りながら、コシーに魔力を込める。
透き通ったオーラが彼女を覆っていく。