表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/42

第7話:オークがいない

『ゴブッ!』

「うおっ、ゴブリンだ!」


 ダンジョンに入るや否や、ゴブリンが飛び出してきた。

 こいつもスライムと同じ最低ランクのモンスターだ。

 背丈だって俺の膝くらいまでしかない。

 しかし、手に持った太い棍棒は叩かれたら痛そうだ。

 どうせなら小枝とか持っていてほしいな。


〔マスター、私に魔力を!〕

「よ、よし!」


 コシーを胸ポケットから出し魔力を注ぐ。

 あっという間に俺とほぼ同じ大きさまで巨大化した。


〔マスターには指一本触れさせません〕

『ギャッ!』


 コシーが飛び出し、すぐさま切り倒してくれた。


〔おケガはありませんか?〕

「うん、大丈夫だよ。ありがとう、コシー」


 お礼を言うと同時に俺は気づいた。


 ――コシーに任せっきりではダメだ。俺も頑張らないと。


『『ゴブブッ!』』


 決心したとき、ダンジョンの奥から次々とゴブリンが現れた。

 全部で3匹だ。

 きっと先ほどの仲間だろう。

 こいつらは群れで行動することが多いからな。


「クソッ、一匹倒すとどんどん出てくるな」

〔手引書に書いてあったとおりですね。マスターは少し休んでいてください。今すぐ私が……〕

「いや、ちょっと待ってkれ!」


 俺はコシーの前に出て、ゴブリンを正面から見据える。

 今の俺は丸腰ではない。

 実はグレートウルフの素材を売った金で、Bランクの上等な剣を買っておいたのだ。


〔マ、マスター?〕

「こいつらは俺が倒すよ!」


 腰に下げている剣をスラリと抜いた。

 ずっしりと剣の重みを感じる。


〔いえ、マスターのお手をわずらわせなくても私が倒しますが……〕

「いや、俺がやる。コシー、俺も強くなりたいんだよ」


 いつまでも守られていては、俺は弱いアイトのままだ。

 いくらテイムができても、俺だってモンスターを倒せるようにならないといけない。


〔マスター……なんて素晴らしいのでしょうか。わかりました、何かあったら私もすぐ戦いますから〕


 そう言うと、コシーは俺から少し離れた。

 俺はジリジリと慎重にゴブリンたちへ近寄る。

 しっかりした剣を持っているので、敵も警戒しているようだ。

 スライムの時とは一味違うぞ。


「来るならこい! 返り討ちにしてやる!」

『ゴブ!』


 ゴブリンの一体が勢いよく飛びかかってきた。

 棍棒で殴るつもりだ。

 スピードはそこそこあるものの軌道は単調で、よく見たら十分に躱せる。

 数歩引いて棍棒の一撃を避け、ゴブリンの首目がけて思いっきり剣を振り下ろした。


『ギャアッ!』


 ゴブリンの首がゴトンと地面に落ちる。

 初めてモンスターを倒せた。

 さすがはBランクの剣、切れ味抜群だ。

 俺みたいな半人前でも当たればなんとかなる。


「や、やった! 倒した!」

〔お見事です、マスター!〕


 コシーはパチパチと拍手してくれる。

 そういえば、今まで装備品を買う余裕なんてなかったな。

 ボーランたちだけで立派な装備を揃えて、俺にお金は回ってこなかった。

 買えたのはせいぜい安い衣服くらいだ。


『ゴブブッ!』


 喜びもつかの間、すぐに2匹目が飛びかかってきた。

 今度もサッと攻撃をかわし、剣で勢いよく斬りつけた。

 あっさりと2匹目のゴブリンも地面に崩れ落ちる。


「……よし!」


 俺は確かな手ごたえを感じる。

 低ランクであれば、俺でもモンスターを倒せるのだ。


〔マスターは相手の動きが良く見えていますね。素晴らしいです〕


 ボーランたちは俺を守ろうとはしなかった。

 だから、攻撃を躱したり死角に入る立ち回りは、自然とできるようになっていた。

 それが今になって活かされているのかもしれないな。


『……キィィッ!』


 勝ち目がないと感じたのだろう。

 最後のゴブリンは逃げてしまった。

 無事、勝利して一安心する。


「どうにか勝ててホッとしたよ」

〔マスターならそのうち、どんな敵でも倒せるようになりますよ〕


 俺は魔法も素晴らしい剣術も使えない。

 しかしコシーの言うように、訓練していけば少しずつ強くなれるはずだ。


「この調子でぐんぐん進むか」

〔はい!〕


 俺たちはダンジョンの地下に進む。

 コシーに出会えて、俺は自信を持てるようになった。


 ――彼女には感謝しないといけないな。


 コシーへの感謝を胸に歩を進める。

 “稲光の大迷宮”は全部で七層だ。

 ゴブリン以外のモンスターに遭遇することはなく、小一時間も歩くと第四層に着いた。


「まだオークたちは出てこないね」

〔もしかしたら、下層にたくさんいるのかもしれません〕

「乱戦になると苦労しそうだ。気をつけないと」


 未だ、肝心のオークは一匹もいない。

 やけに静かなダンジョンは不気味で、歩くにつれて緊張感が増した。

 歩きながらコシーが俺に尋ねる。


〔廃墟になったダンジョンに、モンスターが棲みつくことは良くあるのでしょうか?〕

「だいたいは入り口付近で、棲み処を作ることが多いみたいだよ。下層は前の主の痕跡があるから、そもそも近寄らないとかなんとか言われているけどね」

〔なるほど……。どうでしょうか、そろそろダンジョンのテイムを試してみては〕

「そうだね、ちょっとやってみようか」


 俺は壁に手をあて魔力を込める。

 ぐぐぐ……。

 数分魔力を込めてみたが、全く変化がなかった。


「……やっぱり、何も起きないよ。ダンジョンをテイムするなんて、さすがに出来ないんじゃないのかな?」

 

 コシーをテイムした時はただの小石だった。

 ダンジョンなんて大きな物は難しいのだろう。


〔おかしいですねぇ、とりあえずもっと下層まで行ってみましょう。下に行くほど、ダンジョンの魔力も濃くなりますから。もしかしたら、ダンジョンの核に直接魔力を込める必要があるのかもしれません〕

「なるほど……あり得る」


 ダンジョンのテイムは別に考えるとして、まずはオークを見つけないといけない。

 周囲への警戒を続けながら、俺たちはさらに下層へと進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ