第6話:代用品探し(Side:ボーラン①)
「無能アイトの奴、今頃どうしているだろうなぁ」
ダンジョンから帰った後、俺たちは宿屋でゆっくりとくつろいでいた。
アイトはもういないから、その分部屋が広くて快適だ。
やっぱり、人を蹴ったり殴ったりするのは気分がいい。
クソアイトをぶん殴った瞬間を思い出し、俺はスッキリした。
「あのまま、スライムに殺されたんじゃない? アイトが勝てるわけない」
ルイジワの冷淡な声が部屋に響く。
彼女にとってはもうどうでもいいらしい。
「あの意気地なしのアホ面は面白かった。アタシ、めちゃくちゃ笑っちゃったよ。よくやったね、リーダー」
タキンも俺の隣で嬉しそうに笑う。
そういえば、タキンが一番アイトにイラついていたな。
「あの人はいつまでたってもEランクのままでしたね。冒険者としての才能が全くなかったんでしょう」
タシカビヤもバカにしたように言う。
こいつは幼い頃から天才と称されてきたらしい。
無能なアイトにはずっとムカついていたんだろう。
つまり、みんなアイトにイライラさせられていたわけだ。
「クックック。俺たちなら、すぐSランクになれるだろうよ」
俺の目標は当然Sランク冒険者だ。
王国から巨万の富をもらい、これ以上ないほどの贅沢をしてやる。
がぶりと分厚い肉にかぶりついたところで、タシカビヤが俺に言った。
「それはそうと、ボーランさん。新しい人を雇うのですか? 私は荷物持ちなど絶対にイヤですからね」
ふむ……無能アイト君の代わりに、誰かが荷物を持たないといけなかった。
それに新たなストレス解消要員を雇っても悪くはない。
「そうだな……。よし、ギルドで代用品を探してくるか」
「「賛成」」
さっそく、俺たちは冒険者ギルド“鳴り響く猟団”に向かう。
「さーてと、どいつがいいかな」
クエストはパーティーで挑んだ方が当然達成しやすい。
莫大な富の件もあるので、パーティーを組んでいる冒険者が多かった。
俺たちは単独でいる奴を探す。
「あそこにいるチビが良さげじゃない?」
「見るからに気が弱そう」
「私たちに反抗するなんて、絶対にできなさそうです」
女どもが指す方向にちょうどいいヤツがいた。
痩せたヒョロい男。
オドオドしていて、自分の意志などまるでなさそうだ。
「よし、あいつにしよう」
ターゲットを決めると、すぐに男を取り囲んだ。
ヒョロガリはビクついた様子で佇む。
何と言っても、俺たちは全員Aランクだ。
そんな強いパーティーに入れてもらえるなんて泣いて喜ぶだろう。
もちろん、俺たちがSランクになったらこんな奴は即クビにする。
「あ、あなたたちはボーランパーティ-ですね?」
「そうだよ、よく知ってんじゃねえか。おい、お前。一人でクエスト行ってんだろ? 俺たちのパーティーに入れよ。別にお前のランクはどうでもいいぞ」
「い、嫌だ!」
「あぁ?」
ガリ野郎はいっちょ前に抵抗してきた。
なんだこいつ。
俺様に歯向かうつもりか?
「君たちはメンバーを見捨てるような、ひどい人たちみたいじゃないか!」
「おいおいおい、何言ってるんだよ。そんなことするわけないだろうが」
「そんな危険な人たちがいるパーティーに入るわけないだろ!」
ヒョロガリは包囲網をすり抜けると、すたこらと逃げやがった。
「てめえ、待ちやがれ!」
この野郎。
一発殴ってやらないと気が済まない。
しかし、メンバーに止められた。
「なんだよ! 離せ!」
「リーダー、周り見てよ」
タキンに言われ周囲を見る。
冒険者たちが小声で話していた。
「ボーランじゃねえかよ。良くギルドに顔を出せたもんだ」
「仲間を置き去りにするなんて、ひどい奴だ」
「早く他の街に行ってくれねえかな」
クソッ、何だよこいつら。
そもそも、アイトは仲間じゃない。
ただのストレス解消要員だ。
用が無くなったから、ダンジョンに捨ててきただけだ。
「おい! 言いたいことがあるなら、直接言えよ!」
俺が怒鳴ると、ギルドはシーンと静まり返った。
ふん、どうだ。
Aランク冒険者は超エリートだ。
ザコ冒険者どもとは格が違う。
「何の騒ぎだ」
「やばっ、ケビンが出てきた」
カウンターの奥から、めんどくさい奴が出てきた。
ギルドマスターのケビンだ。
昔はそれなりの腕前だったらしいが、今は見る影もない。
そのくせ、ちょっとした揉め事がある度に顔を出してきた。
こういう奴を老害って言うんだろうな。
ケビンは俺たちの前に来ると、呆れた調子で言った。
「またお前たちか」
「なんだよ、俺たちが何かしたってのかよ」
「アイトを見捨てたそうだな。冒険者の風上にも置けない奴だ」
こいつはいつも、あの無能テイマーの肩を持ちやがる。
「はぁ? アイトを見捨てたぁ? ちげーよ、アイツがついてこれなかっただけだよ。<テイマー>なんて、モンスターがテイムできなきゃ、それこそゴミ同然だろうが」
「私たちが悪い、みたいな言い方をしないでください。アイトが弱かったのがいけないんですよ」
「オッサンはアイトの味方かよ。そして、アタシたちは敵ってわけ? それって、えこひいきじゃねえの?」
「差別をするような人は、それこそギルドマスターの風上にも置けない」
メンバーと一緒に反論するも、ケビンは冷めた目で俺たちを見る。
いちいちムカつく野郎だ。
「アイトはギルドに帰ってきたぞ。しかも、グレートウルフを倒してな」
「……なに?」
ケビンの言葉に、俺は思わず顔をしかめた。
アイトがギルドに帰ってきた……だと?
それも、Aランクモンスターのグレートウルフを倒して?
スライムに殺されそうになっていた奴が?
「でたらめ言ってんじゃねえよ。あのクソザコがグレートウルフに勝てるわけないだろ」
「そうだよ、オッサンは黙ってな」
「これ以上私たちに口出ししないでください」
「差別だけじゃなくて嘘までつく」
とうてい信じられるか。
俺たちはケビンを責め立てる。
ケビンはしばらく黙ったかと思うと、淡々と告げtあ。
「お前たちが何を言おうと勝手だが、一つ断言しておく」
「あぁ?」
「アイトはお前たちより強くなるぞ」
その言葉を聞いて、俺の怒りはとうとう爆発した。
「んなわけねえだろ! 何でアイトが俺たちより強くなるんだよ! スライム一匹すらテイムできないテイマーがよ!」
面倒なケビンの相手は終いだ。
これ以上関わっても得る物がない。
さて、さっさとストレス解消要員を探すか。
気が付くと、周りの冒険者どもは俺たちから離れている。
目を向けると一様に視線を逸らした。
これじゃあ無理だ。
「仕方がねえ。しばらくは、俺たちだけでクエストに行くか」
「アンタがこんなに暴れなければよかったのに」
「リーダーって本当に乱暴」
「もうちょっと、気持ちを押さえてほしいものですよ」
メンバーはしきりに俺のことを責める。
ケビンのせいでせっかくの計画が台無しになった。
「うっせえな。しょうがねえだろ」
クエストは俺たちだけで十分だから、別に問題はない。
そのうち、俺たちのパーティーに入りたい奴が出てくるはずだ。
――しかしアイトの奴、生きてやがったのか。次に会ったら、今度こそボコボコにしてやるぜ。