第40話:聖剣の気持ち(Side:ミルギッカ①)
「え? 主?」
ある日突然、主が現れた。
そう、アイト・メニエンだ。
一目見た瞬間、わらわにふさわしい人間だとわかった。
気高い魂に優しい心……。
まさしく選ばれし人間だ。
しかし、わらわ以外に二人も女をはべらすとは、いい度胸をしている。
おまけに、どちらも上玉の女だ。
「挨拶くらいしてくれても……」
「あんた、態度悪いわね」
石像美少女のコシーに、黒髪美少女のエイメス。
さすがわらわの主、良い趣味だ。
貴様らも主にテイムされたのだろう。
主がテイムした物たちだと、すぐにわかったぞ。
もちろん、主を大切に想っていることもな。
「つまり、主にふさわしいのは、わらわということになるな。ほれ、ダンジョンもどきは、早く立ち去れ」
「この際だから、どっちがアイトにふさわしいか勝負しましょうか」
エイメスとはいずれ、本気の勝負をする必要がありそうだ。
あいつは、主が自分の物だと勘違いしているようだ。
あの時は主たちに止められてしまったからな。
とはいっても、所詮相手はダンジョン。
わらわの敵ではあるまい。
「私のことも忘れないでください!」
……そうだ。
コシーもまた、わらわの前に立ちふさがるのだ。
小石と侮ることなかれ。
あいつは強いぞ。
ヤツの主を想う気持ちはとても強いからな。
わらわも本当はわかっているのだ。
コシーもエイメスも良いヤツだと。
そんなことは、周りの者たちもわかっているはずだ。
コシーはこんな私でも丁寧に接してくれる。
いつも周りに気を配り、根がしっかりしている。
エイメスだってそうだ。
まだ少ししか接していないが、良いヤツだと知っている。
おまけに強いしな。
さすがは、元Sランクダンジョンだ。
「ありがとうございます、アイトさん。無事に帰ってきてくれて良かったです」
とはいえ、主を狙う不届き者はまだ他にもいる。
サイシャといった、受付嬢の女。
あいつはくせ者だ。
さりげなく、主との距離を縮めようとするからな。
目を光らせておかねばなるまい。
忘れるところだった。
要注意リストに入れておこう。
「マスターも人を導く側になっていくんですね」
「アイトに教えられるなんて、すごい贅沢よ」
「主がいれば、どんなモンスターも敵ではないな」
主は人の上に立つ資格がある人間だ。
周りの人間も、十分にそのことがわかっている。
この先、主に導かれる者たちがたくさん出てくるだろう。
主ならきっと、良いリーダーになれる。
何はともあれ、わらわはとても幸せだ。
こんな素晴らしい者たちと、楽しい日々が過ごせるのだから。
わらわは主らと出会ったばかりだが、これからの冒険が今から楽しみだ。
主にはきちんと、お礼を言わなければならないな。
わらわをテイムしてくれてありがとう、と。




