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第4話:報酬

「着いたよ、コシー。ここが冒険者ギルド、“鳴り響く猟団”だ」

〔これはなかなか巨大な建物ですね〕


 その後、俺たちは無事にギルドに戻ってきた。

 四階建てのどっしりした木造建築で、入り口には斧と斧が交差した看板が掲げられる。

 ひっきりなしに冒険者が出入りし活気にあふれた雰囲気だ。

 それもそのはず、“鳴り響く猟団”はメトロポリで一番大きいギルドだった。


「ボーランたちがいないといいんだけどな……」


 俺は先ほどの出来事を思い出し、少々面倒な気持ちになる。

 あいつらのことだ。

 再会したらしたで色々と難癖をつけてくるのは容易に想像つく。

 俺の呟きを聞いて、コシーの表情が固くなる。


〔マスターにひどいことをした人達のことですね? もし会っても、私がコテンパンにしちゃいますから安心してください〕

「あ、ありがとう。でも、コシーが本気を出したらあいつら死んじゃうよ」


 ここに来るまで、コシーにはボーランたちのことを少し話した。

 彼女は大変に憤り、会ったら滅多打ちにすると息巻いていた。。

 ギルドに入ってそっと辺りを見回す。

 どうやら、ボーランたちはいないようだ。

 俺は静かに胸を撫で下ろす。

 面倒ごとの回避もそうだし、目の前で知り合いが死ぬのはまだいいかな。


「まずは受付に行ってみようか」

〔はい〕


 カウンターに馴染みの受付嬢のサイシャさんが見える。

 赤みがかった髪と、頬のあたりにあるそばかすが印象的な人だ。

 しょぼいテイマーの俺に対しても、大変丁寧に接してくれる優しい女性だった。

 初めてこの街に来た時、勝手がわからなかった俺を色々と案内してくれたのだ。

 その恩返しにと、重い荷物を運ぶのを手伝ったりしていたら自然と仲良くなった。

 カウンターに行き、下を向いて書類を書いているサイシャさんに声をかける。


「サイシャさん、こんばんは」

「えっ、アイトさん!?」

「す、すみません、驚かせてしまいましたね」


 挨拶すると、サイシャさんは目を見開いて俺を見た。

 しまった、声をかけるタイミングを間違えたか?

 そう思っていたら、サイシャさんは至極心配そうな顔となった。


「ボーランさんからパーティーの脱退届が出されたんで、どうしたのかと思いましたよ。無事で良かったです……アイトさんのお顔を見てホッとしました……」

「だ、脱退届?」


 ボーランたちは、本当に俺を追放してしまったみたいだ。

 マジかいな。

 だけど、正直もうどうでも良いんだよな。

 コシーという優しい仲間ができたから。

 サイシャさんは安心した様子で話す。


「こう言っては何ですが、アイトさんはボーランさんのパーティーには合っていなかったように思います。失礼かもしれませんが、むしろ良かったのではないでしょうか?」


 彼女の言うように、逆に良い機会とも考えられる。

 無事に帰ってきた今、かえって清々しい気分の自分がいた。


「たしかに、そうかもしれませんね。サイシャさんの言う通りです。……そうだ、サイシャさん。グレートウルフの魔石と素材をゲットしたんですが、ちょっと見てくれませんか?」

「グ、グレートウルフ!? もしかして、一人で討伐したんですか!?」


 俺は小声で言ったのに、サイシャさんは大声を出す。

 周りの冒険者たちがジロジロと俺を見た。


「おい、グレートウルフだってよ……」

「マジか、あんな強いモンスターを……」

「すげえな、アイト……」


 Aランクモンスターを一人で討伐できるなんて、それだけでギルドのエースになれる強さだ。

 要らん注目を集めてしまい胸がソワソワする。


「ま、まぁ、一人というか二人で倒したと言うか……」

〔倒したのは私ですが、全てマスターのおかげなのです〕

「え? な、なに? 急に女の子の声が聞こえる」


 胸ポケットからコシーが言うと、サイシャさんは周囲をキョロキョロと見渡した。

 俺はコシーを取り出して机の上に乗せる。


「サイシャさん、ここですよ」

〔こんにちは〕


 コシーはペコリとお辞儀する。

 サイシャさんはたちまち笑顔になった。


「か、かわいい!」

「どうやら、俺のテイム対象は無生物だったらしいんです。この子は小石から生まれた女の子で、コシーです」

〔コシーと申します。どうぞよろしくお願いいたします〕


 サイシャさんは笑顔でコシーを撫でまわす。

 コシーも何だか嬉しそうだ。

 二人を見ていると、微笑ましい気持ちになるな。


「……アイトさんにこんなすごい力があったなんて、とても驚きました。きっと神様がちゃんと見ていてくれたんですよ」

「そんなものなんですかねぇ」

「ええそうに決まっています。……あっ、魔石と素材でしたよね? グレートウルフの物なので高く売れますよ。もしくは良い装備が作れると思いますけど、どうしますか?」

「う~ん、そうですねぇ……」


 サイシャさんの言うように、お金にしないで強力な装備にする案もある。

 グレートウルフの魔石なら、上等な武器が作れるだろうな。

 俺はもうボーランたちのいる宿に戻りたくなった。

 荷物に関しては奴らにくれてやる。

 元々大した物を持っていないのが不幸中の幸いだ。

 となると、まずは当面の生活費を手配しないといけない。


「売ってお金にします。装備も魅力的だけど、まずは生活費を稼がないといけませんから」

「そうですか、わかりました。ということは、アイトさんはしばらくこの街にいるってことですね?」

「ええ、そうですよ」

「良かったぁ~」


 サイシャさんは安心したように言う。


「え? 良かったってどういう……」

「あ、いや、別に大した意味は……」


 俺たちの間を気まずい感じの空気が流れる。

 しかし、どことなく甘酸っぱいような……。


〔ウウン!〕


 コシーがひときわ大きな咳払いをした。

 俺ちサイシャさんははびっくりして現実に戻る。


「ど、どうしたの、コシー!?」

「コシーちゃん!?」

〔それはそうと、後がつかえてますよ〕


 知らないうちに俺の後ろに列ができていた。

 みな疲れた顔で、かつ恨めしそうな目で俺を見る。


「す、すみません、アイトさん! すぐに換金しますね!」

「い、いえ、こちらこそすみません! ボーっとしちゃって!」


 俺はサイシャさんからお金を受け取ると、慌ててギルドから出た。


 結論から言うと、グレートウルフの魔石はかなりのお金で売れた。

 当分、宿の心配はいらないくらいだ。

 もちろん、このような大金を手に入れたのは初めてで、俺はずいぶんと心が軽かった。


「こんなにお金を貰えるなんて主なかったよ」

〔マスターなら、もっと貰ってもおかしくないですが〕


 胸ポケットからやや不機嫌な声が聞こえる。

 サイシャさんと変な空気になってから、コシーは少し機嫌を損ねてしまった。

 女性関係など皆無な俺には対処の仕様がなく、祈るしかないのが実情だ。

 

「ま、まぁ、とりあえず宿を探そうか」

〔そうですね。身体を休めましょう〕


 豪華でない普通の宿屋を見つけ、下から二番目に安い部屋を取った。

 お金は結構あるものの、すぐに全部使ってしまうのはさすがにやめておく。

 コシーは小さいので、狭い部屋でも十分だった。

 露店で簡単な食事を買い、部屋に入る。


「コシーも食事はするの?」


 俺は彼女に聞いてみた。

 石でできているから、その必要はないだろうけど。


〔私は食べなくても平気ですが、マスターの食べている物を私も食べてみたいです〕


 と言うので、パンを小さくちぎってコシーに渡した。


「はい、どうぞ」

〔ありがとうございます、マスター。もぐもぐり……とってもおいしいです〕

「そう、良かった。まだあるから欲しかったら言ってね」


 もぐもぐりと食べる彼女と一緒に食事を終える。

 シャワーを浴び(コシーにはたらいにお湯を入れてあげた)、諸々の寝支度を済ませた。

 コシーには適当な布で簡単なベッドと枕を作ってあげた。

 俺の枕元にセットする。


「どうかな?」

〔大変に心地良いです。眠るのは初めてなので楽しみですね〕

「そっか、それならよかったよ。おやすみ、コシー」

〔おやすみなさい、マスター〕


 横になりながら思う。

 そういえば、ボーランたちといた時はこんなにゆっくりできなかった。

 夜はいつも一日の整理と、翌日のクエストの準備で大忙しだったから。

 彼らは酒を飲むばかりで、一度も手伝ってくれることはなかった。

 ふと横を見ると、コシーはスヤスヤと眠っていた。


 ――信頼してくれる仲間がいるなんて、安心するなぁ。


 久しぶりに、俺はゆったりした快い眠りに入っていった。

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