第39話:ダンジョンの気持ち(Side:エイメス①)
「は、初めましてだね。俺はアイト・メニエン。君は……Sランクダンジョンの女の子だよね?」
あの日のことは一生忘れない。
今でも鮮明に思い出せるわ。
アイトが私をテイムしてくれたのだから。
私に新しい一生を与えてくれたアイト。
あなたのそばにいられるだけで、私は幸せ。
アイトのおかげで、私も楽しい毎日を送れている。
人間みたいになれたダンジョンって、私が初めてじゃないかしら?
私は本当に幸運だと思う。
こんなに楽しい旅はなかなかできないでしょう。
「あなた、誰?」
「で、ですから、私はコシーと言って……」
「アイトは私の物だよ?」
アイトがテイムしたのは私が初めてだと思っていたけど、すでに仲間がいたのね。
石でできた可愛い女の子。
真面目でしっかりしていて、頼りがいのあるコシー。
彼女は良い子だわ、それに強いし。
誰が見てもそう思うでしょう。
だけど、アイトを想う気持ちが強すぎて、私は時々キツイ態度を取ってしまうのよ。
そんな私でも嫌がらず一緒にいてくれるんだから、コシーにも感謝しないと。
「このダンジョンもマスターがテイムしたら、エイメスさんみたいになるのでしょうか」
「……なに? アイト、別のダンジョンの子が欲しいの?」
あれは私たちが最初に行ったクエストだった。
確か、秘薬をゲットするのが目的だったわね。
アイトが私の物なのは確定事項なんだけど、それでもたまに嫉妬しちゃう。
相手が同じダンジョンならなおさらよ。
やきもちを焼いて稲妻を出しちゃった。
そして、カズシナ村のクエストでは、アイトの優しさを改めて実感した。
「だって、あなたは人間に危害は加えてないんでしょう? 俺たちに討伐依頼があったのは、グリズリーだけですから」
傷ついたゴールデンドラゴンを、アイトは助けた。
モンスターは倒すものだと思っていたけど、あなたは本当に優しいわね。
それがアイトの真の強さだと思う。
「ゴールデンドラゴンさん、本当にすみませんでした。赤ちゃんを返します」
母親ドラゴンが攻めてきたとき、アイトはとても勇敢だった。
あの場にいた冒険者の中で、あなただけが正面から向き合っていたわ。
戦わずに勝つことは、誰にもできることではないから。
その後に訪れたフツラト平野でも、私はアイトの力を目の当たりにする。
「や、やった! 触れたよ!」
「マスター、やりましたね! お見事です!」
「さすが、私のアイトよ!」
“伝説の聖剣”まで、テイムしちゃうなんて。
私のアイトは本当にすごい冒険者だと、改めて思った。
でも、あんなに美人にしなくていいのよ。
ミルギッカは態度が悪いけど、それもアイトを想うがゆえな気がする。
「ちょっと、あんた。私のアイトに何やってるの?」
でも、私がいない隙にイチャイチャすることは許さないから。
「つまり、主にふさわしいのは、わらわということになるな。ほれ、ダンジョンもどきは、早く立ち去れ」
「この際だから、どっちがアイトにふさわしいか勝負しましょうか」
ミルギッカとは、いつか本気で勝負する必要がありそうね。
だけど、コシーも油断できないの。
あと、受付嬢のサイシャね。
私にはわかる。
彼女たちはじっくりとチャンスを窺っているわ。
まったく、アイトは人気者すぎるわね。
でも、みんな私の大切な人たちよ。
――何度も言ってるけど、私はアイトに出会えて本当に良かった。これからもずっと、一緒に冒険しましょうね。




