第38話:小石の気持ち(Side:コシー①)
「え? き、君は誰? というか、これはいったい何が……」
私はあの日のことを、今でも覚えています。
この先も忘れることは絶対にないでしょう。
ただの小石だった私を、マスターはテイムしてくれました。
マスターは私に命と、こんな素晴らしい身体、そして素晴らしい毎日をくださったのです。
この感謝はいくらしてもしきれません。
一緒に旅をして、本当に色んなことがありました。
そういえば、最初の敵はスライムでした。
その後、凶暴なワンチャンを倒しましたね。
「あ、あのグレートウルフを一撃で倒すなんて」
あの時見せてくれたマスターの驚いたような笑顔は、私の心に焼き付いていますよ。
日頃から、マスターは私たちのおかげだと言ってくれます。
でも、本当にすごいのは、あなたなのです。
「え!? な、なに!? コシー、ダンジョンが壊れそうだよ!」
「もうちょっとです! このまま続けてください!」
マスターがSランクダンジョンをテイムした時は、大変に驚きました。
まさか、あんな可愛い女の子になるなんて。
「初めまして、私はコシーと言います。私もマスターにテイムされて……」
「あなた、誰?」
エイメスさんは時々怖いですが、いつも私たちのことを考えてくれています。
何より、マスターのことをとても好きなのが、私にも伝わってきます。
「お見事です、マスター。今朝の訓練は、このくらいにしておきましょうか」
「ありがとう、コシー」
傍でマスターの成長を見るのも、とても楽しかったです。
教えれば教えるほど、メキメキと剣術が上手くなっていきました。
Aランクモンスターのグリズリーを切り伏せた時は、自分事のように嬉しかったのを覚えています。
「ゴールデンドラゴンさん! あなたの旦那さんは生きています!」
怒ったゴールデンドラゴンをなだめた時は、お見事でした。
あのまま戦闘になっていれば、ギルドや街は大変なことになっていましたでしょう。
戦わずに勝つなんて、並大抵の人にできることではありません。
「マスター、どうしたんですか!?」
「アイト、何があったの!?」
「わ、わからないんだ! 勝手に俺の魔力が……!」
“伝説の聖剣”って、テイムできるものなんですね。
ミルギッカさんになった時は、とてもびっくりしましたよ。
そんなことできるのは、マスター以外いないでしょう。
「貴様らはなんだ?」
「ふ、二人とも、俺の仲間だよ」
ミルギッカさん……あなたはどうして、そんなに美しいのでしょうか。
スタイルも抜群だし、そのお力も文句なしです。
また新たに強力なライバルが、現れてしまいました……。
しかし……マスターがテイムした物は、なぜ女の子になるのでしょうか。
キレイな女の人がどんどん増えてしまうではないですか。
「またもや、ライバル出現ですか……!?」
受付嬢のサイシャさんだって、油断なりません。
でも、みんな私の大切な仲間です。
彼女たちはマスターと同じくらい大事な人たちです。
私の身体は石でできています。
だけど、わかるのです。
自分にも温かい心があることを。
今こうして、優しい気持ちになっているのですから。
マスターは本当に素晴らしい人です。
そう思っているのは、私だけではありません。
他の人たちを見ていても、ハッキリわかります。
みんな、マスターが大好きなのです。
――マスターがいれば、私は何でもできます。あなたに出会えて、私は本当に幸せです。




