第35話:宴
「アイトの帰還を祝って……乾杯!」
「「乾杯!」」
ケビンさんのかけ声で、盃のぶつかる音が響き渡る。
ギルドの修復と、俺の手柄を祝う宴が開かれたのだ。
今や俺は、ゴールデンドラゴンから街を救った救世主で、仲介人のグループから他のギルドの冒険者を助けたヒーローで、さらに“伝説の聖剣”をテイムした英雄という扱いになってしまった。
メトロポリ名物、<涼風葡萄>(とても爽やかな風味の葡萄。おいしい)のジュースを仲間と飲む。
そよ風みたいな爽やかさが身体を吹き抜ける。
いやぁ、素晴らしい。
コシーたちにもぜひ飲んでほしく、ケビンさんに手配をお願いしたのだ。
「みんな、このジュースどうかな?」
〔大変においしいです。ありがとうございます、マスター〕
〔私も気に入ったわ〕
〔まぁ、悪くはない〕
コシー(等身大)とエイメスは笑顔でこくこくと飲む。
ミルギッカも不機嫌な顔でお代わりしていた。
涼風葡萄のジュースを楽しんでいると、笑顔のケビンさんがこちらに来た。
「アイト、よく仲介人のグループを倒してくれたな。リーダーはバウロと聞いたときは驚いた。名の知れたSランクの元冒険者だぞ。他ギルドからもお前宛てに感謝状が届いた。非常に名誉なことだ。……お前は本当に最高だよ」
「いえいえ、みんなのおかげです。俺一人ではどうなっていたかわかりません」
「謙遜するな、アイト。実際、お前は強いんだ」
ケビンさんとも、こつんと盃を交わす。
同じ味のはずなのに、一段とおいしく感じられた。
コシーとエイメスも微笑ましい笑みで話す。
〔いつも謙虚なところも、マスターは素晴らしいです〕
〔さすがは私のアイトね〕
この頃になると、二人もすっかりギルドの一員になった。
みんながギルドに溶け込んで俺も嬉しい。
ケビンさんは新しい仲間、ミルギッカの方に向き直る。
「ミルギッカと言ったか。改めて自己紹介させてもらおう。俺はギルドマスターのケビンだ。よろしくな」
ケビンさんは朗らかな笑顔で右手を出すが、ミルギッカは手を出そうともしない。
気まずい間が流れる。
や、やっぱりか。
わかってはいたものの、俺はすがるように小声で言う。
「ミルギッカ、頼むっ。握手してくれ~っ」
〔わらわは主以外は触らぬ〕
相変わらずの冷たいお声。
冷淡極まりない態度だ。
ケビンさんが怒らないか、俺はヒヤヒヤする。
「なんだ、ずいぶんとそっけないな。モテモテじゃないか、アイト」
「す、すみません……」
心配したものの、ケビンさんは笑顔だった。
ドンッ! と力強く背中を叩かれる。
心の広い人なのだ。
別に怒ってないらしく一安心できた。
ケビンさんは思い出したように呟く。
「それにしても、まさか仲介人どもがあんな場所にまでいたとはなぁ」
「ええ、俺たちもビックリしました」
〔いったい、どこから情報を仕入れるのでしょうか〕
〔思いっきり、懲らしめてやったわ〕
仲介人たちは、メトロポリの裁判にかけられることになった。
もちろん、すでに引き渡している。
――俺が檻を持ち上げるのを見たら、みんなギョッとしていたなぁ。
パワータイプじゃない俺の力強さを見て、ケビンさんたちは大変に驚いた。
ミルギッカの能力だと伝えると、さらに驚いたっけ。
ギルドに戻ったときのことを思い出していると、冒険者のみんなが集まってきた。
酒に酔っているようで、もう顔が真っ赤だ。
「これが天の神剣かよ!? すんげえ美人だな!」
「アイトの周りには、美女が集まって羨ましいぜ!」
「“伝説の聖剣”も手なずけるなんて、ほんとお前はすごいよ!」
あっという間に、ミルギッカの周りに人だかりができる。
俺は彼女が打ち解けてくれるか、少々心配だった。
コシーやエイメスにさえ、あの態度だ。
「あ、いや、ミルギッカは……ちょっと……」
もう少し慣れてから、紹介した方が良いかもしれないな。
俺はさりげなく、ミルギッカを離れた場所に連れて行こうとする。
いきなりこんなに人が集まったら、嫌に思うかもしれない。
言葉もきつめだしな。
服を引っ張ったけど彼女は動かない。
……ん?
〔わらわに近寄るな。ゲスどもが〕
強烈な一言が放たれた。
寸でのところで、間に合わなかった。
ギルドは一瞬で静かになる。
冒険者たちの顔から笑みが消え、真顔になった。
――やってしまった……。
初対面でこんな失礼なことを言われたら、さすがにまずい。
さっきまでのワイワイガヤガヤした和やかな感じは、霧散するように消え去ってしまった。
どっと冷や汗が流れる。
どうすればいいんだ~、と心の中で頭を抱えていたら、冒険者たちは恍惚とした表情を浮かべた。
な、なんだ?
「……いいな」
「あぁ、なんか気持ちいいぞ……」
「もっと言ってくれ……」
予想に反して嬉しそうなんだが。
よ、よくわからないけど、ミルギッカは受け入れられたらしい。
静かにホッとしたところで、サイシャさんがやってきた。
普段の制服とは違ってオシャレなドレスを着ており、俺は少しドキッとしてしまう。
「サ、サイシャさん、お疲れ様です。キレイなドレスですね」
「ありがとうございます、アイトさん。無事に帰ってきてくれて良かったです」
サイシャさんはいつも通りだ。
それが逆に落ち着く。
なんだか、この感じは懐かしいな。
俺たちは、しばしの間見つめ合い……。
〔なに、やっぱりあんたもアイトのことを……?〕
〔またもやライバル出現ですか……?〕
〔貴様は何者だ……?〕
いつの間にか、コシー、エイメス、ミルギッカに囲まれていた。
……これはまずいよ?
何とかして、戦争は避けないと!
「い、いや、サイシャさんは……!」
「ア、アイトさん! 等級魔石が!」
「え?」
サイシャさんに言われ、俺は自分の等級魔石を見る。
そういえば、冒険者ランクのことなどすっかり忘れていた。
魔石を見ると、言葉を失った。
マ、マジかよ……。
なんと俺の等級魔石は……綺麗な透明だ。
晴れて俺は、Sランク冒険者になったのだ。
「エ、Sランクになれた! マジか、すげえ!」
「よくやったな、アイト! 見事だ! こんなに喜ばしいことは久しぶりだ!」
嬉しさに心が震える。
まさか、万年Eランクだった俺が最高峰のSランクになれるだなんて……。
感慨深くて、しばらく等級魔石から目が離せなかった。
〔おめでとうございます、マスター!〕
〔まぁ、当然よね。不思議でもなんでもなわ〕
〔わらわをテイムしたのだ。それくらいないと困る〕
コシーたちも嬉しそうに喜んでくれた。
おそらく、天の神剣であるミルギッカをテイムしたから、一気にランクが上がったんだろう。
ケビンさんはギルド中に声を張り上げる。
「みんな聞け! とうとう、このギルドからもSランク冒険者が生まれたぞ! アイトがSランクになったんだ!」
あっという間に、祭りのような大騒ぎが巻き起こった。
すごい勢いだ。
「おい、みんな! アイトがSランク冒険者になったぞ!」
「ちくしょう、先を越されちまったーー!」
「今日は朝まで宴だーー!」
「ケビン! 俺たちの酒代はアイトにツケといてくれよな!」
「「よっしゃー! 飲んで飲んで飲みまくるぞー! ありがとな、アイト!」」
ギルドのみんなは、どこからか大量の酒を運び込んできた。
我先にと次々に開けては、浴びるように飲む。
ほ、本当に全部、俺が払うの?
この大量のお酒のお金を?
「いやいやいや! ちょっと待ってくださいよ!」
大慌ててで言うと、冒険者たちは大笑いした。
「ハハハハハ! 冗談だよ!」
「そんなに慌てんなって!」
「よーし! もう一回、乾杯だーー!」
「「かんぱーい!」」
また乾杯が始まり、ギルドは大いに盛り上がる。
「ほら、アイト! お前も飲めよ!」
「お前が主役なんだからさ!」
「遠慮すんなって!」
俺の周りに、大量の食べ物や飲み物がどんどん置かれた。
分厚いステーキに大きなポテト、巨大なパンケーキなどなど……。
どう見ても一人分ではない。
「い、いや、量が……」
〔みんな嬉しそうですね〕
〔賑やかだわ〕
〔ふんっ、騒がしくてたまらんな〕
量の多さに唖然とする俺にケビンさんが言う。
穏やかな笑顔で。
「アイト。お前は、俺を超えたよ。これからもよろしくな」
あのケビンさんに、こんなことを言われるなんて……。
ひと際、大きな歓声が上がる。
色んな人から揉みくちゃにされる中、賑やかに夜は更けていった。




