第30話:仲介人
冒険者たちが仲介人に襲われている状況を見て、俺たちは思わず叫ぶ。
「やめろ! 何してるんだ!」
〔離しなさい!〕
〔やめなさいよ!〕
大声で叫ぶと、仲介人たちはこちらを向いた。
全部で4人だ。
彼らの等級魔石がチラッと見える。
1人が白で、3人が黄色。
つまり、Aランクが1人、Bランクが3人だ。
コシーが魔石を見て、険しい顔で呟く。
〔マスター、あの人たちも等級魔石を持っています〕
「闇オークションには裏ギルドがあるらしくてね。多分、彼らはそこの冒険者パーティーだよ。きっと、冒険者を奴隷にして売るつもりだ」
〔人間の風上にも置けないわね〕
俺たちに気づくと、仲介人たちはキッと睨んできた。
眉間にしわを寄せた威嚇するような顔だ。
「なんだぁ? 文句あんのか、お前ら?」
「おっ、可愛い姉ちゃん連れてんじゃねえか」
「動く女の石像なんて、珍しいな」
「お前らも奴隷にしてやろうか?」
……やっぱり、そうか。
彼らの言葉を聞き、俺の予想が確信を持つのを感じる。
思った通り、仲介人は奴隷狩りだった。
闇オークションで売りさばくつもりなのだろう。
彼らにとっては、人間でさえ商品なのだ。
おそらく、天の神剣を手に入れようと集まった冒険者たちを狙っているに違いない。
襲われている冒険者は悲痛な叫びを上げる。
「お願いです、助けてーー!!」
「こいつらは仲介人だ!」
「奴隷にされてしまいます!」
冒険者はみなCランクだ。
無論、このまま見過ごすつもりはない。
「その人たちを離せ!」
〔奴隷だなんて、許せません!〕
〔やめなさい!〕
仲介人は俺たちを見下したようにせせら笑う。
子どもが何を言っているのだ、とでも言いたげだ。
「離すわけないだろ、バカめ。」
「取った獲物をどうしようが、勝手だろうが」
「俺たちに逆らうとどうなるか、思い知らせてやる」
「……おい、あいつもAランク冒険者だぞ!」
彼らのうち1人が俺の等級魔石を見た瞬間、彼らは戦闘態勢に入る。
「ちょうどいい! Aランクの数が足りてなかったんだ!」
「手土産が増えたぜ!」
Bランクの仲介人が2人で襲い掛かってきた。
すかさず、俺とコシーが迎え撃つ。
仲介人は大きな剣で斬りかかってきた。俺はギリギリまで引きつけてサッと避ける。
身を屈めて敵の懐に入り、剣のつかで力強く腹を打った。
コシーに教わった、強力なみねうちだ。
「ぐ……っ!」
仲介人の一人は地面に崩れ落ちた。
腹を抱えてうずくまっている。
もう一人はコシーに襲い掛かっていた。
「砕けちまえ!」
石をも砕けそうな巨大なハンマーで殴りかかる。
無論、コシーの方が断然早い。
〔はっ!〕
コシーは瞬時に剣を振るい、ハンマーの柄を切り落とす。
「……なっ!」
仲介人は同じようにみねうちされ、ドサッと倒れる。
あっという間に、残りは2人になった。
しかし、残りの仲介人たちはニヤニヤと笑うばかりだ。
「な……なかなかやるじゃねえか……。けどな、こっちには闇オークションでも名高い、Aランク<魔法使い>のモルガンさんがいるんだぜ!」
ひと際背の高い男が進み出る。
Aランクの等級魔石を持つ仲介人だ。
たしかに身体をまとうオーラは洗練され、かなりの実力者だと感じられる。
「まったく、手のかかる部下たちだ。どれ、力の差を見せつけてやろう。……火の精霊よ、火なる神よ、我に大いなる力を……」
モルガンは呪文の詠唱を始める。
10mほど離れており、呪文の詠唱が終わる前に間合いを詰められるか……!
と思っていたが……。
〔うるさい〕
エイメスの手の平から放たれた稲妻が、落雷のようにモルガンを打ち抜いた。
……痛そ。
「かっ……あっ……」
モルガンはピクピク震える。
最強の仲間が倒された仲介人たちは呆然とする。
「ち、ちくしょう! 覚えてろ!」
「いずれお前たちも奴隷にしてやる!!」
「今度会ったらタダじゃおかないからな!」
仲介人たちは捨て台詞を吐き、転びながら森の奥へ逃げて行った。
後を追いたいが、まずは冒険者たちの手当てが先だ。
「君たち、大丈夫かい!?」
〔しっかりしてください!〕
〔ケガはない?〕
俺たちは地面に倒れた彼らを起こす。
冒険者たちはケガをしていたけど、かすり傷程度だった。
これくらいなら、回復薬で治るだろう。
「よかった……ケガはひどくなさそうだ。今、回復ポーションを出す」
鞄からアイテムを出すと、冒険者たちの呟きが聞こえた。
「……あんたたち、すごく強いな」
「これがAランク冒険者……」
「ここまで強い人たちは、うちのギルドにもいませんよ」
アイテムと一緒に水なども渡すと、彼らは一息に飲んでしまった。
「ぷはぁ! 助けてくれて、本当にありがとうな! 俺は<剣士>のストラってんだ」
「私は<神官>のサーフと言います。おかげで命が救われました!」
「俺は<魔法使い>のマイナです。あなた達にはいくら感謝してもしきれません!」
3人の顔に笑顔が戻る。
これで、とりあえずは大丈夫だ。
「俺はアイト、よろしく」
〔私はコシーという名前です〕
〔エイメスよ〕
俺たちは握手を交わし、互いに自己紹介する。
「それにしても、こんなところに仲介人がいるなんてな。俺たちも驚いたよ」
〔他の冒険者も気をつけてればいいですが〕
〔仲介人を退治しながら天の神剣探す?〕
もしかしたら、他にもいるかもしれない。
だとすると、注意が必要だ。
ストラ君たちは顔を見合わせると、真剣な表情で言った。
「実は……俺たちの他にも、捕まっている人たちがいるんだ」
「僕たちは運よく逃げてこれました」
「奴らは天の神剣を取りにきた冒険者を、片っ端から捕まえているんです」
ストラ君たちの話を聞くと、コシーとエイメスは一段と憤りを現した。
もちろん、俺もだ。
〔ひどい人たちです〕
〔最悪な奴らね〕
「彼らには天の神剣を触ることすらできなかったんだろう。だから、ターゲットを冒険者に変えたんだ」
仲介人が天の神剣を見逃すはずがない。
入手できないとわかれば、代わりに冒険者の奴隷を狙う。
いかにも、仲介人たちが考えそうなことだった。
ストラ君たちは話を続ける。
「仲介人はさっきの奴らだけじゃねえ。20人くらいのグループで来てるんだ」
「冒険者の中にも強い人たちはいたけど、集団で襲われて捕まってしまいました」
「きっと、待ち伏せしてたんです」
闇オークションの情報網はとても広い。
冒険者が集まる前に、フツラト平野へ来たのだろう。
思ったより大規模だ。
「20人のグループか……。ずいぶん多いな」
〔そんなにいたら、不意打ちされると大変です〕
〔やり方も汚いわね〕
ストラ君たちは再び顔を見合わせると、意を決したように言った。
「なあ、俺たちと一緒に捕まった冒険者を助けてくれないか? あんたらなら絶対に仲介人のグループを倒せるよ」
「私たちじゃ実力が違いすぎるのです」
「あいつらはもう少し冒険者を狩ってから、ここを離れようと話していました。だから、助けるには今しかないんです」
もちろん、俺たちの答えは一つだ。
「断る理由なんかないよ。助けに行こう」
〔悪い奴らをやっつけましょう〕
〔放っておけないわ〕
答えると、ストラ君たちは顔を輝かした。
「「あ、ありがとう(ございます)……!」」
何はともあれ、急いだ方が良さそうだ。
俺たちは森の中心を目がけて駆け出す。




