第28話:出発
〔よいしょ、よいしょ。お片付けは楽しいね~〕
〔マスター、これはどこに運びますか?〕
「うん、あっちの方にお願い」
ボーランたちが辺境に追放されてから数日後。
俺やコシー、エイメスは、ギルドの後片付けをする日々を送っている。
主に壊された壁や瓦礫を運ぶのだ。
ケビンさんは、すぐにフツラト平野へ行っていいと言ってくれた。
でも、もちろん放っておくことはできないので、俺たちは片付けを手伝っている。
――建物の被害はあったけど、怪我人や死人がいなくて本当に良かった……。
ギルドや街の人たちは、皆大きな怪我もなく無事だった。
ゴールデンドラゴンが二匹も襲来して、これほど被害が少なかったのは奇跡に近い。
すれ違うたび、ギルドや街の人たちにお礼を言われる。
「アイト! お前はこのギルドで一番の冒険者だな!」
「ほら、お菓子をあげるよ」
「アイトがいると思うと俺たちも心強いぜ!」
素直に感謝されるのは嬉しい。
みんなの笑顔を見るたび、平和が一番なのだと改めて実感する。
〔マスターはやっぱり立派な人です〕
〔アイトは最高だよ〕
「なんだか恥ずかしいな」
コシーとエイメスも嬉しそうに言ってくれる。
二人も無事で本当によかった。
だいぶ片付けが終わったところで、ギルドからケビンさんが歩いてきた。
「お疲れ、アイト。手伝ってくれて本当に助かる」
「ケビンさん、他にやることはありますか? 何でもやりますよ」
「いや、もう十分だ、ありがとう。時間を取ってしまってすまなかったな。ぜひ、フツラト平野に行ってきてくれ」
俺はもう少しギルドにいても良かったが、せっかくなので、その言葉に甘えさせてもらう。
瓦礫はだいぶ片付き、簡単なクエストなら受注も再開しつつあった。
「そうですか。それでは、そろそろ俺たちも行きます」
〔すぐに出発しますか、マスター?〕
〔私たち準備はできてるよ〕
コシーとエイメスはやる気満々に言う。
せっかくだけど、ケビンさんに聞きたいことがある。
天の神剣についての情報だ。
「ごめん、ちょっと待ってね。あの……ケビンさん、お聞きしたいことがあるんですが」
「おお、なんだ?」
「天の神剣って、どんな剣なんですか? 俺は不定期に出現する、ってことしか知らないのですが」
本格的な調査をする前に消えてしまったり、そもそも目撃情報が少なく、文献にもあまり記載がなかった。
でも、ケビンさんは知っているみたいで教えてくれた。
「周囲に恩恵をもたらす剣だ。神剣が出現した地域一帯は活力に溢れる。砂漠でさえ森ができてしまうほどにな。紛れもなくSランクの武器だ」
その話を聞き、俺たちは驚く。
強い剣の特徴といえば、鋭い切れ味などが有名だろう。
周りに良い影響を与える剣とは俺も聞いたことがない。
「そんなに強い力があるなら、今までもたくさん冒険者が手に入れようとしたんじゃないですか?」
「アイトの言う通り、これまで無数の冒険者が自分の物にしようとした。ただ、神剣に認められないと触ることさえできん。確かにその場所にあるのに、手がすり抜けるんだ。つまり、よほど修練を積んでいないと、神剣には認めれないということだな」
「へぇ~」
〔さすがはSランクね〕
エイメスはなぜかご機嫌で、得意げな顔だった。
「アイト、お前はまだまだ若い。可能性に満ちあふれているんだ。俺の分も天の神剣に挑戦してくれ!」
ドンッ! とケビンさんに肩を叩かれる。
引退してもなお、力がとても強い。
俺は思わず、せき込んでしまった。
「ゲホゲホッ……ケビンさんは天の神剣を見たことがあるんですか?」
「ああ、大昔に一度だけな。十年くらい前かな。夜だろうが、昼だろうが、ずっと輝いているんだ。それはそれは美しい剣だった。見るだけで幸せな気持ちになるぞ」
ケビンさんは遠い目で昔を思い出す。
「そんなにキレイだったんですか」
「結局、俺も含めてパーティーの誰も触れなかったから諦めてしまったがな。だが、お前なら無事に触れるはずさ」
「頑張ります」
その後、俺たちはギルドの皆に挨拶してまわり、最後にサイシャさんのところに行った。
「サイシャさん、これからフツラト平野に行ってきますね」
「天の神剣ですね。アイトさん、頑張ってください。しかし、フツラト平野は……ちょっと遠いですね」
サイシャさんは、伏し目がちに言う。
何となくしんみりとした寂しい雰囲気になった。
まさか、この流れは……!
俺は慌てて言う。
「い、いや、そんなに遠くは……!」
〔私の稲妻に乗れば一瞬だよ?〕
声が聞こえて振り返ると、エイメスはニッコリ笑っていた。
もちろん、その目に光はない。
「う、うん、そうだったね」
冷や冷やしながら答えると、冒険者の皆が集まってきた。
「アイト、頑張れよ!」
「お前なら大丈夫さ、心配すんな!」
「お前ならきっと上手くいくって! ほら、私たちから餞別だよ!」
食べ物やらアイテムやら、色んな物を貰ってしまった。
あっという間に、俺の荷物はパンパンに膨れ上がる。
「あ、ありがとうございます。すみません、こんなに貰っちゃって……」
「いいってことよ!」
「そんなこと気にすんな、アイト!」
「応援してるぜ!」
ギルドから出ても、皆は笑顔で手を振ってくれた。
その中にはケビンさんもいる。
「じゃあな、アイト! 良い知らせを期待しているぞ!」
俺は両隣の仲間を見る。
二人とも、こくりとうなずいた。
「よし、行こうか!」
〔はい、マスター!〕
〔うん!〕
エイメスの雷に乗り、俺らはフツラト平野に飛ぶ。




