第15話:絶体絶命(Side:ボーラン④)
突然、俺の腹が何かに殴られた。
勢いよく吹っ飛ばされ、後ろの木に激突した。
腹と背中の両方から猛烈な痛みが走る。
「ぐあ……っ!」
突然の一撃で受け身を取ることさえできず、痛みで呼吸が止まった。
「リーダー!?」
「ボーラン、どうした!」
「何があったのですか!?」
メンバーたちが慌てて駆け寄る。
俺は意識が飛びそうになったが、必死に堪えた。
「ちょっと、大丈夫かよ」
「何があった、ボーラン」
「ボーランさん、聞こえてますか?」
ぐっ……。
俺はかすむ目で周りを見る。
視界の隅に、わずかな景色のズレを認めた。
木や葉っぱがぼやけているところがある。
さらには、薄っすらと何かが動くのが見えた。
「お……お前ら……気をつけろ」
「「え?」」
注意を促すも、次々とメンバーたちが殴り飛ばされた。
こいつらは敵の存在に全く気づいていない。
「がはっ! ……な、んで」
「な、何かが……いる」
「きゃああっつ!」
注意してやったのに、このクソどもは素直に喰らいやがった。
イリナとルイジワは、しきりにせき込む。
しかし、タシカビヤは地面に横たわっているだけだ。
完全に気絶してしまっている。
『『グゥゥ……』』
徐々に、俺たちを攻撃した敵が姿を見せる。
イリナとルイジワから、悲鳴に近い叫び声が上がった。
「え? ウ、ウソ!? アタシが気づかないなんて!?」
「ど、どうして!?」
俺たちの目の前に、4mほどの大きなトロールが現れた。
右手には太いこん棒を持つ。
「どうしたもこうしたもねえ! ミラージュトロールだよ!」
いつの間にか、俺たちはミラージュトロールの群れに囲まれていた。
喧嘩している間に、近寄ってきたに違いない。
ざっと見ただけでも7体。
かなりの数だ
――こんなにいるなんて、聞いてねぇぞ!
これだけの数が動いていれば、普段なら見逃すはずがない。
だが、俺たちの誰もこいつらの接近に気がつけなかった。
「リーダー! なんで、囲まれてるんだよ!」
「ボーラン、なぜ気がつかなかった!」
イリナとルイジワが叫ぶ。
こいつらはまたすぐに人のせいにしてきた。
「お前らがちょっとしたことでキレるからだろ! ギャアギャア大声をあげてたから、ミラージュトロールが集まってきちまったんだよ!」
「リーダーだって騒いでいたじゃないか!」
「私たちのせいにしないでほしい!」
クソ!
こいつらと言い争っていてもムダだ!
まずは傷を癒せ。
体力を回復させれば、こんなモンスターども敵ではない。
「おい! タシカビヤ! 大丈夫か!? 目を覚ませってんだよ!」
俺は必死にパーティ-唯一の回復薬を揺するが、タシカビヤは動か少しもない。
「ダメだ、リーダー! 完全にノビちまってるよ!」
「肝心な時に使えないヤツ!」
いつまでも起きないタシカビヤを見て、俺も怒りが湧いた。
ちくしょう!
普段は偉そうなくせに、今お前が寝ててどうするんだよ!
その間にも、ミラージュトロールはゆっくりと近づく。
のんびりしている暇はない。
何とかしないとボコボコにされてしまう。
「お、お前ら、早く態勢を整えるぞ!」
「だけど、そんなこと言ったってさ!」
「ダ、ダメージが残っている」
メンバーたちはまだフラついている。
予想以上に強烈な一撃を喰らったらしい。
「イリナ! とりあえず、何でもいいから全体魔法でこいつらを牽制しろ!」
「わかってるよ!」
「ルイジワは急所じゃなくていいから目を狙え!」
「指図するな!」
こいつらは、このピンチでも相変わらずだ。
俺は怒りを通り越して悲しくなる。
「《アクア・ドラゴ……》 くっ! 腕の痛みが辛くて魔法が発動できないよ!」
魔法の発動には魔力の集中が必要だ。
マンイーターの傷が完治しておらず、ミラージュトロールの一撃も喰らっていては、魔法を使うなんて難しいだろう。
「わ、私がやる!」
ルイジワは弓を構える。
しかし、ミラージュトロールたちはすでに間合いに入っている。
遠距離タイプのルイジワには、とても不利な状況だった。
ミラージュトロールは棍棒を振りかぶり、ルイジワを殴る。
「ああ! 私の弓が!」
おまけに、弓をめちゃくちゃに壊されてしまった。
「おい! お前ら、何やってんだよ!」
「こっちのセリフだ!」
「ボーランこそ、命令するだけで何もやってない!」
「う、うるせえ!」
正直、俺は怖気づいていた。
あんな棍棒で殴られたら、剣なんて一撃で折れてしまう。
そもそもこのパーティーは、イリナとルイジワの遠距離攻撃で弱った相手を、俺が仕留めるのが定石だった。
――まずいまずいまずい!
死を意識する。
このままでは全滅してしまうぞ。
……俺は一目散に逃げだした。
「ちょ、ちょっと、何やってんだよ、リーダー!」
「一人で逃げるなんて信じられない!」
ルイジワとイリナは、慌ててタシカビヤを抱えて追ってきた。
「だ、黙れ! お前らもAランクなら自力で逃げやがれってんだ!」
ミラージュトロールは縄張り意識が強い分、テリトリーから離れればもう攻撃してくることはないはずだ。
案の定、逃げる姿勢を見せたら攻撃してこなくなった。
――良かった……助かった。
これでもう大丈夫だ。
と思った時……。
逃げながら、イリナとルイジワに殴られた。
「いってえな! 何すんだよ!」
「最低だよ! リーダー!」
「仲間をおいて逃げるなんて!」
「お、お前らだって逃げてんじゃねえかよ!」
俺はボカスカ殴られながら、我先にとギルドへ走って行った。




