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moonlight capriccio②


あんたその格好で逃げてきたの、と黄色い声をあげたのはオカマのルミである。

午前4時の突然の来訪者に文句をいうこともなく、マンションのドアを急いで開けたのはルミが三枝に惚れているからだ。

ロングコートの前を押さえて立ち尽くす三枝を抱えるようにして部屋に招き入れたルミは、コートを脱いだ三枝のシャツに赤黒い血がべっとりとついているのを見て思わず息を飲んだが、仕方ないわねえと自分のTシャツとタオルを渡した。


「悪い、行くところがねえんだ」

「いいのよワタルちゃん。アタシ前にいったでしょ?あんたに惚れたの。恋するオカマは盲目。ルール無用よ、存在自体もそうだけど」

「すまん」

「謝んないでよォ。コーヒー飲む?美味しい豆があるんだけど」

「いやいい」

「あらそう。じゃあ何が欲しい?」

「体を貸してくれ」

「んま、やだわ。アンタそんな冗談言えるようになったの?ア、アタシ今駄目、なんの準備もしてないのよ。顔も男のまんまだし」

「冗談だよ、悪い。服を着替えたら出ていく」

「なにがあったの」

「…人を」

「あのシャツを見ればガキにだって解るわよ。…アンタ今、悪い顔してるわ」

「そうかな」

「嫌いじゃないのよ、そういうの。アタシ悪い男が好きなの。ちょっと傷を持っててさ、いつもはクールな振りしてるけどすぐに傷つくのよ。痛くて痛くてたまんないのよね、傷を抉られたら。普通の人間より繊細なのよ、あんた達って」

「御託なんかいらねえよ」

「あら、拗ねたのね」


黒いTシャツにスウェットのルミはクラブで見る時とはまるで違う。長い髪を後ろで縛り、体格のいい体と切れ長の目を持つ彼女、いや彼ははいつもは女装して男にしなだれかかる商売をしているとは到底思えないほど「男」だった。


三枝は彼女のクラブのバックについている組に所属している。馴れ初めはそこからだった。40を2つ過ぎたと3年前に聞いたが、ちっとも変わってはいないように思える。それに比べて2つ年下の自分はどうだ、と思った。どう見ても彼女より上だ。手入れをしていない髪は白髪が混じり、猫背が板につき、やさぐれた唇はむくれているように見える。そんな三枝をルミは愛しいと言う。


「とりあえずシャワーでも浴びたら」

「いや、いい」

「なにそれ、最初はアタシ?旦那様ったらエッチなんだから」

「…うるせえなあ、俺は別れた女房にだってそんな事言われたらぶん殴るぞ」

「なにが別れた、よ。逃げられた癖に」

「ああ、これだからオカマは嫌だ。少しは優しくしろよ。なんだか震えが来てるんだ。おかしいだろう、大の男が」

「…昂ぶっているときにはね、アロマを焚くのがいいのよ。フランキンセンスって知ってる?いい匂いよ」

「優しいんだな」

「…しょうがないわね、お代はあんたのケツでいいわ」

「冗談」

「本気…って言いたいけどさ。まあ貸しってことでいいわ。今夜は優しくしてあげる」


ルミが優しい顔をして笑う。こいつが女なら良かったのにと何度も思った。ガタイの良さには辟易するが、性根は女よりも女らしい。

一度酔った勢いでルミと寝ようとした事があるが、やっぱり男とは自分の性欲に素直な性質である。どうあがいても息子が反応してくれなかった。

だからいつも口先だけだ。

それでも今夜はこの生き物的に矛盾しているルミにそばにいて欲しくてたまらなかった。

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