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速水葵は手厳しい①

 その日の夜。俺は自分の部屋のベッドの上で、速水のイラストを思い出していた。


「……やっぱりあの絵で、俺の小説の世界を描いてほしいよなあ……」


 天井を見上げて、うわ言のように呟く。

 あの絵を思い浮かべると、書くのを止めてしまった『迅雷伝説』の話が思い浮かんでくる。



『くっ……これがお前の本当の力か』

『俺ひとりの力じゃない……ふたりいるから、お前にも勝てるんだ!』

『いくわよ!』

『おう!』

『必殺!』

『真・奥義! 超迅雷光砲【テラ・ボルト】!』

『うおおおおおお!』



 うおおおおおお……完全に妄想の世界に入っていた。

 やばいやばい。また書きたくなってきたぞ。

 それぐらい、俺にとっては速水のイラストが衝撃的だったのだ。

 もう、俺が自作の小説を誰かに見せることはないと思っていたが……。

 仕方ない……チャレンジしてみるか。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


「おーい、速水!」


 翌日の放課後。俺は、吹奏楽部の練習に向かう速水を引き止めた。


「なんですか先輩。写真はちゃんと消しましたか?」

「そんなことより、これを読んでくれ。こいつをどう思う?」

「そんなことで流す話じゃないですし、聞き方がなんか気持ち悪いです。なんなんですか一体?」


 冷ややかな目線を向けてくる速水にも負けず、俺は昨日、徹夜して作った原稿を手渡した。


「登場人物、全部女の子にしたものを書いたぞ。さあ、俺の小説の絵を描いてくれ」

「え、馬鹿なんですか? 気持ち悪いです」


 ひどい。徹夜して作ったのに。


「まさか一日で……これ、ちゃんとした小説になってるんですか?」


 ぺらぺらと原稿を捲りながら速水が言う。


「も、もちろんだ。男キャラは一切登場していないぞ」

「ふむふむ……いやいや……ええ……?」


 読み進めるうちに、速水の眉間にしわがよっていく。


「なんですかこれ」

「な、なにって?」

「これ、『迅雷伝説』の主人公の一人称を『わたし』に変えて、語尾を変えただけですよね?」


 ぎくり。鋭い指摘である。

 もしかして、速水のやつ『迅雷伝説』が炎上したことだけじゃなくて、話の中身まで知っているのか?


「なんか会話が不自然になって、気持ち悪いことになっていますよ」

「気持ち悪いばかり言わないでくれ……へこむじゃないか。これじゃダメか?」

「当たり前です! 男キャラとして動かしていたものを急に女キャラにしたら、こうなるのは目に見えてますよ。こんなの公開したら、間違いなくまた炎上しますね。如月っちゃいますね」


 ぺらぺらぺらぺら素早く原稿を捲りながら速水が言う。

 くっ……こいつ俺の古傷を抉ることを平然と……!


「速水も登場人物みんな女の子にすればいいって言ったじゃないか……」

「いや、あれを本気にされても。何もかも安直すぎますし」


 ぐぬぬ……何も言い返せない。


「それに、こんな改悪したせいで恋愛シーンが無理やりな百合になってますよ。こんなの認めません。書くならちゃんと百合にしてください」


 ぐぬぬ……ぬ? 今こいつなんて言った?

 ちゃんと百合にしてください?


「何やら強いこだわりを感じる発言だな。速水って、もしかして女の子が好きなのか?」

「だまらっしゃい。今はこの小説の話をしてるんですよ」


 怒られてしまった。だまらっしゃいって何だ。


「てか、これ完結してないですよね? 『俺たちの冒険はこれからだ!』みたいな終わり方してるんですけど」


 ぎくり。


「あ、それはだな……その、なんというか」

「クライマックス投げ出してますね。炎上したときみたいに」


 ……それも、知っているのか。

 俺が書いていた『迅雷伝説』は未完なのだ。

 クライマックスを直前に控えたときに炎上したせいで、結局完結させることができなかった。

 本当は、結末まで考えている。

 書こうと思えば書けるはずなのだ。

 だが、炎上してから……その先は書けていない。


「とにかく! こんな小説論外です。本気でプロを目指すというなら、ちゃんとしたものを書いてください」

「うう、確かにそのとおりだ。どうすればいいと思う?」

「それをわたしに聞くんですか。知りませんよ」


 速水は原稿を俺に突き返して言った。


「厳しいなあ……でも、待ってろよ。絶対速水に俺の小説のイラスト描いてもらうんだからな!」


 最後まで言い終わる前に、速水は音楽室に向かって歩き出してしまった。

 あいつ、文化祭の出し物を俺に丸投げしているのを忘れているんじゃないだろうか。


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