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葵と萌は相変わらずである

 寄せられたコメントを読み終わり、椅子から立ち上がって俺がスマホに手を伸ばした瞬間。

 そのスマホが鳴った。

 電話の着信音……夢野からである。


「もしもし」

「あ、部長さん」


 夢野の声だ。ほっと安心する。


「読みましたよ、『迅雷伝説』。とにかく……おめでとうございます」

「ああ……ありがとう。書いてよかったよ」


 夢野も早速読んでくれたようだ。

 電話越しでも、嬉しそうな気持ちが伝わってきて、俺も嬉しくなる。


「狙いどおり、葵ちゃんのイラストは大絶賛でしたね……部長さんの完結編も、思った以上に面白い出来になっていたと思います」


 夢野に褒められるとやっぱり嬉しい。

 なんといっても、彼女はプロのラノベ作家なのだから。


「今回は、自分の面白いと思うものを書けたんですね」

「ああ。おかげさまでな」

「内緒ですけど……葵ちゃんも嬉しそうにしてますよ」 

「え? 今一緒にいるのか」

「はい、それで……」

「よし、わかった」

「はい? なにを」


 俺は電話を切ると、家を飛び出してすぐに夢野の仕事場へ向かった。

 今すぐに、直接速水にお礼を言いたい。そう思ったのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 走って三十分。

 ようやく夢野の仕事場に着いた俺は、すぐに扉を開けた。

 そう、ノックもせずに唐突に。

 速水も夢野も、きっとここで待ってくれているはず。

 そう思って疑わなかった。

 これがいけなかったのかもしれない。というかいけなかった。


「速水! 夢野さん!」


 勢いよく夢野の仕事場に飛び込んだ俺の視界に飛び込んできたものは、全く想像していないものだった。

 若干服がはだけた夢野。その上に覆いかぶさる速水。

 ベッドの上で、速水が夢野を押し倒していた。


「はぁはぁ……はぁっ!? なんで先輩がここに!」

「ぶ、ぶちょうさん……」


 飛び込んできた俺の方を見て、ぎょっとしたような顔をするふたり。


「いや、これは……誤解です! スキンシップです! 襲ってないです!」


 声を荒げながら言う速水。

 ……なんの誤解だ。

 そして言わなくていいことを言うな。自分で襲ってるって言っちゃったよこいつ。

 だが、俺は冷静に対応する。ここで焦った反応をしてはいけない。


「速水……ありがとう」


 できるだけいい声で言った。


「気持ち悪っ! 変態!」


 布団で夢野を隠しながら速水が叫ぶ。

 せっかく低いダンディーボイスでお礼を言ったというのに。むしろ逆効果だったようだ。


「いや違うから! そっちじゃないから!」


 夢野が泣きそうな顔でこちらを見ていたので慌てて否定する。

 くそっ! 察しろ! 

 全く、俺が紳士だということを忘れないでいただきたい。


「絵のことに決まってるだろ! お礼を言いに来た」

「ああ、そっちでしたか。どういたしまして」

「軽っ! 軽すぎるだろ!」


 もっと感動的なシーンになるはずだったんだが? なんでそんな軽い感じなの? 

 軽薄にもほどがある。

 もっとちゃんと話をしたいところだったが、これ以上邪魔すべきではないと、俺の脳が言っている。

 これはあれだ……お取込み中だ。

 ここで俺が長居するのは、野暮というものである。

 俺は額に手を当てながら、慎重に言葉を選んで言った。


「まあ……今はどうも取り込み中みたいだからな、また出直すとするよ」

「! そ、そうですね!」


 ホッとしたような速水。


「え、ちょ……ちょっと待って……」


 速水の下の方から夢野のか細い声がする。


「夢野さん……」


 慈愛に満ちた視線を向ける。

 夢野の表情が少しだけ明るくなった。


「悪いな、速水には借りが有るんだ」

「ぇぇぇぇぇ……」


 一瞬で夢野の顔が涙目に変わった。

 俺と速水はお互いの顔を見て、ぐっと親指を立てた。

 速水、あとはお前の好きなようにしてくれ。

 この続きは、また学校で。

 俺はそのまま、そっと夢野の仕事場を出た。

 ……そのあと、夢野がどうなったかはわからない。

 南無。

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