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円城紡は覚悟を決める

 その日の夜。

 俺はベッドの上で自分の書いた『迅雷伝説』を見返しながら、ずっとにやにやが止まらなかった。

 速水に言われた言葉が、頭から離れなかったからだ。


『――先輩の小説は、一番面白いですよ』


 一番面白いですよ、だって? 

 あの速水が、そんなこと言ってくれるなんて。

 ぐふふ! 絶対面白いじゃん俺の小説!

 もうサイトに載せなくても別にいいんじゃね? またけなされるの嫌だし!

 というか速水のやつ俺のこと好きだろもう!

 とか変な方向に調子に乗りそうだったので、俺はスマホで自分の小説サイトを開いた。

 つらつらと書かれたアンチコメを見て、自分を戒めるためだ。

 一瞬でテンション落ちて冷静になった。

 うん、何を言っているんだ俺。

 たとえあいつが瞳を潤ませながら俺に好きですって言ってきたとしても、(先輩の小説が)好きですという裏の意味を瞬時に理解するぐらい冷静になる。

 まあ、あいつはガチ百合だからな。

 夢野以外には靡かないだろう。

 スマホを放り投げて、自分の顔を腕で覆う。

 ……とはいえ、速水がイラストを描いてくれる気になったのはやっぱり嬉しい。

 イラストって、描くのにどれくらい時間かかるものなんだろうか。

 三日? 一週間? 一ヶ月?

 どれくらい力をかけて描いてくれるのかにもよるだろうから、さっぱり検討がつかないが、気長に待っていよう。

 あの偽物を放っておくことにはなるが、別に構わない。

 それまでは、書き終わった原稿のチェックでも……と、その前に。

 俺は、夢野に『迅雷伝説』が書き終わったことと、速水がイラストを描いてくれることになったことをラインで報告した。


『おめでとうございます。わたしも、サイトにアップされたらすぐに読みますね』


 すぐに夢野から返信があった。完結を見届けてくれるようだ。

 こうなったのは、夢野のおかげでもあるからな。 

 あいつにも、ちゃんと見ていてもらいたい。

 よし……あとは絵の完成を待つだけだ。俺は、書き終わった原稿を入念に再チェックしながら、速水からの連絡を待つことにした。

 もう、覚悟はできている。


 ---------------------


 翌日。

 この日は真面目に授業を受け、特に何かをすることもなく帰宅した。

 一応アニメ部の部室も覗いてみたのだが、速水も夢野も来ていなかった。

 吹奏楽部の練習に行っているのか、それとも絵を描くために帰ったのか。

 わからないが、邪魔してはいけないと思い、俺もおとなしく帰ることにしたのだ。

 それでも、家に帰ってからはなんとなく落ち着かず、俺は何度も自分の書いた原稿を見直していた。

 気長に待っているつもりだったのに、気持ちが落ち着かない。

 たった一日話していないだけでこれだ。全く先が思いやられる。

 というか、速水のイラストが完成するのを待っている間……俺は速水にどんな風に話しかければいいんだろう?

 最近の速水を見ていると、変に緊張してしまい、なんて声をかけたらいいのかもわからない。


「……寝るか」


 これ以上起きていても、速水のこと、迅雷伝説のことを考えて、頭がおかしくなってしまいそうだ。

 最近寝不足が続いていたし、まだ早いが寝てしまおう。

 そう思ってベッドの布団を整えていたところに、スマホが鳴った。

 慌ててスマホに手を伸ばす。速水からのラインだった。


『完成。メール、見てください』


「……ぇ」


 完成……イラストが、完成したってこと?

 え? まさか、落書きじゃないよね? 

 あんな良い雰囲気で言っておいて、そんなおふざけ炸裂しないよな?

 俺は自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じながらパソコンを立ち上げ、メールボックスを確認した。

 ……確かに届いている。速水から、画像が添付されたメールが。 

 おそるおそる添付された画像ファイルを見てみると――


「……すげえ」


 炎使いのヒロインが、完璧に描かれていた。

 主人公は全く描かれていないが、それでもこの絵に心を奪われずにはいられない。

 派手なエフェクト。躍動感。

 そして、魅力あるかわいいヒロイン。

 俺の思うとおりの『迅雷伝説』の世界が、そこには描かれていた。


「あいつ……明らかに一日で描いた絵じゃないだろ、これ」


 前に話したとき……いや、もしかしたら、ずっと前から……

 やってくれるぜ。

 絵に見とれていると、速水からさらにラインが送られてきた。


『渾身の出来』


 ……なんかかっこいいラインが来た。

 うん、確かにそのとおりだな。一体、どれくらいの時間をかけて書いてくれたんだろうか。


「……ありがとな、夢幻先生」


 思わず口角が上がる。

 あとはこのイラストと一緒に、完結編をアップする。

 そして、小説投稿サイトにアップされていたのは、別人が書いた全くの偽物だと主張する。

 それが俺のやるべきことだ。

 メールボックスを閉じて、俺はまた、自分の小説サイトを開く。

 もうずっと、更新されていなかったサイト。

 今では誰も見ていないであろうサイト。

 とうとう俺は、終わらせることのできていない、未完の小説を終わらせるときがきたのだ。

 これで、偽物による炎上騒ぎが落ち着けばいいけど……

 いや、ごちゃごちゃ考えていても仕方がない。

 速水がこんな凄い神イラストを描いてくれたんだ。この絵を非難できるようなやつ、いるわけがない。

 それに、俺は小説を書くのが好きだ。

 だから、やめない。

 時計が夜十時を回った頃。

 およそ一年半ぶりに、俺は自分のサイトを更新した。

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