速水葵はわかっている
次の日。放課後。
俺は眠たい目を擦りながら大欠伸していた。
結局、授業中もずっと技名を考えるだけで終わってしまった。
深いため息をつきながら鞄に教科書を詰めて教室を出ると、速水がいた。
「先輩。なんかまた死にそうな顔してますよ」
腕を組み、壁に寄りかかって立っている。
どうやら俺の様子を見に来てくれたらしい。
「そこまでじゃねえよ。小説、進まなくてな」
俺はそのまま歩きながら答える。
速水は横に並んでついてきた。
「『迅雷伝説』、行き詰まっているんですか?」
「いいや、話の筋はもう考えてあるんだけど」
速水が首を傾げる。
「それじゃ、なんで?」
「必殺技名が思いつかなくて」
「はああああああああああ?」
思いっきり呆れたような声で言う速水。
うん、聞きなれた感じの声で安心するぜ。
しかし声でかいぞ、周りに聞かれるだろうが。
「それ、そんな拘るところですか?」
「拘るよ! 大事なところだよ!」
これのセンスがないと炎上するんだぞ! 覚えとけ!
俺の炎上はそれだけじゃないけどな!
「ああ、そういえば先輩必殺技の設定資料集で炎上してたんですもんね……ふひひ」
にやにやと笑う速水。
久々に気持ち悪い笑い声を聞いた気がするな。
「笑うな。とにかくこれは大事なことなんだ。速水がいい技名思いつくって言うのなら是非考えてもらいたいね」
「はあ。というか、最後はヨタ・ボルトで決まりなんじゃないですか?」
「え!?」
バレてる!? そんなバカな。
「いや、そんな驚かなくても。だってまだヨタが残ってるじゃないですか」
髪を弄りながら、当たり前のように答える速水。
「これまで規則正しく使われていた技名ですし。最後はそれ使う予定だったんでしょ?」
た、確かにそのとおりだが……そんなことまで覚えてくれているものなんだな。
やっぱり速水はちゃんと俺の小説を読んでくれていたようだ。
夢野の言っていたことは本当だろうと理解しているが、それでもなんだか照れくさい。
「……速水の言うとおりだ。確かにその予定だったんだけど。やっぱりダサくないかなこれ」
「微妙です」
「微妙!?」
一番ショックな回答だよ!
「ヨタ・ボルトは別にいいと思いますよ? 今までずっと使ってたんですし、変えるほうが不自然です。ただ、問題は漢字名の方ですね」
「う」
「今までのは正直ダサいです。迅雷砲に色々くっつけてますけど……漆黒とか破壊とか。なんか幼稚っぽいです」
「ぐふぅ!」
やめてくれ!
当時はかっこいいと思っていたんだよ!
「とにかく、技名は後回しでいいでしょ。話の本筋をさっさと書いてください」
「相変わらず厳しいな」
「じゃないと書いてくれないじゃないですか」
ふぅっとひとつため息をついた後、速水は急に俺に顔を近付けて、じっと俺の目を見て言った。
「書いてくださいね、先輩」
どきっとした。
近いから、だけじゃない。
聞いたこともないような、綺麗な声だった。




