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速水葵は隠している③

「……とまあ……そんなことがあって、小説書くの止めちゃったんだよね」


 俺は無理して笑いながら言った。


「部長さん……炎上したのは、部長さんのクラスメイトが原因だったんですね」


 涙目になっている夢野。

 内容が内容なだけに、あんまり暗い話にならないように話したつもりだが、夢野には俺の苦悩が伝わってしまったらしい。


「わたし、『迅雷伝説』面白かったって言いましたよね」


 夢野が涙を拭きながら言った。


「炎上する前、わたしもコメントしてたんですよ」

「え?」


 今、何て言った? 

 炎上する前、だって?


「炎上騒ぎの前から、読んでたんです。『迅雷伝説』を」


 ……なんだって?

 驚きである。

 というのも、炎上する前のコメントは、好意的なものばかりだった。

 その中に夢野のコメントもあったということだろうか。

 そもそも、炎上する前から俺の小説を読んでくれていた人なんて、ほんの数人だったのだ。

 そのときの読者の中に、夢野が……。


「わたし、『迅雷伝説』好きだったんですよ。設定は雑ですが、勢いのあるストーリーに王道のバトル……とてもよかったです」


 まさか、プロのラノベ作家である夢野にそんな風に褒めてもらえるとは。

 めちゃくちゃ嬉しい。

 あれ? やばい、俺まで泣きそうになってきたぞ。


「ですが! 今の部長さんの小説にはそれが感じられないです!!」


 びっくりしたあ! 急に大声出すんじゃないよ。

 夢野、こんな声出せるのか。


「つまり、わたしが言いたいことはそういうことです」

「う、うん? つまり、前の方が面白かった、今回のはクソゴミでしたってこと?」

「いえ、そこまでは言ってないのですが……」

「いやいや、よく分かったよ。確かに今回夢野さんに見せたのは駄作だった。申し訳なく思うよ」


 深々と頭を下げる。

 こんなクソゴミを見せてしまい申し訳ありません。


「でも、前の方がよかったと言われるのは落ち込むな……」

「えっと、えっと、ごめんなさい」


 夢野があわあわし始めた。

 その様子を見ているのは微笑ましいが、ここは軌道修正することにする。


「夢野さんは、炎上したことがトラウマになっているせいで、内容まで縮こまっているって言いたいんだよな」

「そうです、そういうことです」


 小動物の様な動きで夢野がふんふんと頷く。

 かわいい。


「自分が面白いと思って書くものじゃないと、他人が読んでも面白くないんですよ。部長さんの書きたい話じゃないと、面白くならないんです」

「そっか……俺は炎上したことにびびっちゃって、自分の書きたい話が書けていなかったのかな」

「はい……でも、わたしが言いたいのはそれだけじゃないんです」

「え、まだダメ押しが……? なんかもう、本当に申し訳ありません」

「そんなに卑屈にならなくても」


 コホンと咳払いして、夢野はさらに続けた。


「部長さんは、葵ちゃんに自分の小説の絵を描いてほしいと言ったんですよね?」

「ああ、そうだ」

「でも、葵ちゃんは女の子の絵しか描けない」

「ああ、そう言われた」

「だから、葵ちゃんに絵を描いてもらえるような内容を書こうとした」

「うんうん、そのとおりだ」

「それです!」

「うんん? どれだ?」


 よく理解していない俺の前で夢野は言い辛そうにしながらも、こう言った。


「それ、部長さんの書きたい話が書けるんですか?」


 …………。

 やっと、夢野が言いたいことが分かった。

 俺が、速水に絵を描いてもらうために、ただそれだけのために自分の小説を書いて、それは自分が面白いと思って書くものになるのかってことだ。

 自分のためでもなく、読んでくれる人のためでもなく……速水の絵のために書く。

 それが俺の小説になるのかってことなんだ。


「今日見せてくれたこれは……部長さんの良いところを殺してしまっています」


 さらに続ける夢野。


「何かに無理やり合わせようとして、自分が面白いと思わずに書いたものは……結局駄作になってしまうんです」


 ズキッと胸にくる。

 それは、真理なのだろう。

 でも、俺は……それでも俺は、速水に俺の小説の絵を描いてほしかったんだ。


「自分が面白いと思って書いていても、共感してもらえずに駄作認定されることもありますけどね」


 えへへと笑う夢野。

 それは言わなくていい。悲しくなってくるだろう。


「……わかったよ、夢野さん。でも、それでも、速水に絵を描いてほしいと思ったら、俺はどうすればいい?」

「それは、部長さんが絵のことを考えずに書くことです」

「え」

「というよりも、無理やり合わせようとするからダメ、ってことですね」


 そんなに難しいことじゃないですよ、と夢野は言う。


「絵に影響されることは悪いことじゃないです。部長さんが葵ちゃんの絵にそこまで惹かれたのなら、きっと部長さんの世界を表現できるのは葵ちゃんです」


 夢野が、俺の持ってきた「駄作」をペラペラと捲りながら言う。


「だから、部長さんは部長さんの世界を壊さないでください。いいですか。葵ちゃんに男キャラ消すように言われても、安易に自分の作品から無理やり男キャラを排除するようなことしちゃいけません。作品の魅力が半減してしまいます」


 俺の世界を壊さないで、か……。

 かっこいいこと言ってくれる。

 確かに、夢野の言うとおりかもしれない。

 例えば、俺の小説を面白いって言ってくれる人がいるのに、俺が急に全然違う方向へ舵を切ったら、その人は落胆するだろう。

 俺の書きたいものを書く。

 もしかしたら、それが速水に絵を描いてもらう近道なのかもしれない。

 でも、女の子キャラ限定になるのは絶対なんだよな……うーむ。


「少なくとも、あの『迅雷伝説』を無理やり女の子でリメイクさせようとか思っちゃダメですよ」

「あ、それならもう既にやった」

「は? 何してるんですか」


 急に真顔になる夢野。

 怒らせてしまった。

 ……そんなにダメなことでしたか?


「あれはあの熱い主人公が良いんです……それを性転換させるって……作者さんに対する冒涜ですよ! 作者さんに謝ってください!」


 夢野がぐっと拳に力を込める。


「ご、ごめんなさい」


 素直に作者に謝罪する俺。

 いや、作者は俺なんだけどね?

 おかしいな。


「こほん……すみません、つい大声を……とにかく、そんなことしても葵ちゃんの心は動きません。そんなの絶対葵ちゃんには見せたらダメですからね」

「え、もう見せたんだけど」

「何してるんですかあ!」


 更に声が大きくなった。


「そ、そんなに怒ることか?」

「だ、だって……葵ちゃん、『迅雷伝説』好きなのに」


 え?


「完結するの待ってるはずなのに」


 なんだって?


「ちょ、ちょっと待ってくれ……なんて言った?」

「だから、葵ちゃん『迅雷伝説』の完結待ってるって」


 速水が? 

 俺の小説を?


「いやいや……あいつが? どういうこと?」

「え……え? もしかして、知らなかったんですか?」


 驚いたような顔をする夢野。


「葵ちゃん、『迅雷伝説』のファンだったんですよ」

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