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夢野萌は気付いている

 それから数日経った、土曜日。

 文化祭まであと一週間である。

 なんとか新作を形にした俺は、夢野に読んでもらうために彼女の仕事場まで来ていた。

 月曜日を待って学校で渡してもよかったのだが、夢野に連絡したら読みたいから持ってきてほしいと返事があったのだ。

 ……結局、満足する出来にはならず、無理やり書き上げた形になってしまったが……夢野はどんな反応をするのだろうか。

 正直、見せるのがちょっと怖い。

 俺は不安を抱えたまま、インターホンを鳴らした。

 しばらく待っていると、前に来たときと同じように、きいと小さな音を立てて扉が開いた。


「あ、お、お邪魔します……」

「はい、どうぞ部長さん」


 扉からひょっこり顔を出してきた夢野。

 今回は最初に来たときのようなパジャマ姿ではなく、かわいらしい私服姿だった。

 ……来るのは三度目というものの、今回は今までと違い速水がいない。

 女子の部屋にひとりでお邪魔するというのは緊張するものである。

 夢野とふたりで会話していただけでむっとしていた速水だが、俺ひとりで夢野のところに来たことが知られたら……考えないようにしよう。


「……? どうしたんですか?」


 入るのを躊躇っている俺を、夢野が不思議そうに見る。


「あ、いやいやなんでもない。お邪魔します」


 夢野も随分無防備なものだ、と思いながら中に入る。

 まあ、何かあるわけでもないのだけれども。

 ベッドを見ることもなく迷わず床に座ると、俺は鞄から原稿を取り出した。


「それじゃ……早速だけど、持ってきた小説見てもらえるかな」


 印刷してきた新作の原稿を、夢野に手渡す。


「はい、早速読ませてもらいますね」


 夢野がベッドに座りゆっくり読み始める。

 俺は床に座ったままその様子を見ていた。

 ふたりだけでいるということと、作品の出来に不安があることで落ち着かない。

 うう、やっぱりもっと練ってから持ってきたほうがよかったんじゃないかな……。

 黙々と読み進める夢野さんをじっと見ているのも憚られるので、座ったまま夢野の部屋を改めて見渡していた。

 女の子っぽい部屋ではあるが、所々でオタク要素が溢れている。

 本棚はラノベや漫画がいっぱいだし、机には美少女フィギュアが置いてある。

 アニメが好きで、アニメ部に入ってくれたのは間違いない。

 卒業した先輩がいてくれたら、夢野ももっとアニメ部の活動を楽しめただろうな――そんなことを考えながら、じっと待っていた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「部長さん。読み終わりました」


 夢野が原稿から顔をあげて、ぽつりと呟く。


「あ、読み終わったか。それで……どうだった?」


 できるだけ、自然に。緊張していることが悟られないように、返事をしたつもりだ。 


「ひとつ確認しますが、これは部長さんが書いたものなんですよね?」

「そ、そうだけど……」


 夢野が残念そうな顔をしていた。

 その先の言葉が怖い。聞きたくない。直感的にそう思った。


「やっぱり、部長さん……『迅雷伝説』が炎上してから、小説書いてなかったんですね」


 ドキッとした。

 確かにそうだ。

 でも、それは、どういう意味で……。


「これは、面白くないです。如月紡の小説じゃないです」


 夢野は静かに、でもハッキリとそう言った。

 いつものおどおどした口調ではなく、ハッキリと。


「ま、待ってくれ。面白くないのはわかった」


 俺は震える声で言う。


「でも、炎上してから書いてなかった、っていうのは……」

「これは、炎上することを恐れた文章になっています。部長さんの好きなものが書けていない。書かされた文章になってしまっています」


 心臓を掴まれたような気がした。

 これを読んだだけで、そんなことが分かるのか。


「今のままじゃ、葵ちゃんの絵に相応しい小説は書けません。部長さん……いえ、如月紡さん。あのとき、炎上したとき、何があったんですか?」


 夢野がじっと俺の顔を見ていた。

 あのとき……中学三年生の三月、俺は――……

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