表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/89

第六章 付けられた烙印①

 「……ここは?」

 ぼやけた視界に祥希の顔が映る。

 「気が付かれましたか」

 ハッとして、彩夢は起き上がる。

 「会議は?」

 「ご安心ください。滞りなくすべて承認されました」

 彩夢は祥希の言葉に、目を瞠る。

 

 ……哲司を守れなかった。


 「わたくし、帰ります」

 呆然としたまま、退室しようとする彩夢の手を掴んだ祥希がほくそ笑む。

 「そう言わず、お食事をご一緒しましょう。今後の僕らの話もしたいし」 

 「おふざけにならないで。わたくしはあなたとは結婚いたしません」

 「聞き分けのないお人だ」

 祥希の口調が少し変わり、彩夢は息を飲む。

 太刀打ちが出来ないままなのかと思った矢先、祥希の携帯が鳴りその手が振り解かれる。

 彩夢は足の震えが止まらなかった。

 電話に出るため、部屋を出ていた祥希が戻って来る。

 「申し訳ありません。僕から誘っておきながら急用ができてしまいました。お食事はまた今度ご一緒しましょう」

 余程急いでるらしく、そう言い残し、祥希は足早で部屋を出て行った。

 「彩夢様、お加減はいかがでございましょう」

 祥希と入れ替わりに若槻が部屋へ入って来る。

 「少し気分が悪いだけですわ」

 「ではこのままご自宅の方へ戻られますか?」

 「いいえ。父のところへ参ります」

 「お嬢様、これをお飲みください。少し楽になられるかと」

 「これは」

 「サプリメントでございます。奥様がお渡しになるよう預かって参りました」

 「ママが」

 「ええ。最近眠られていないようだからって、用意されたようです」

 若槻の手を借りて立ち上がった彩夢は、疑う余地はなかった。

 これがほんの序章だってことに。


 誰かが顔を覗き込んでいた。

 ぼんやりとした輪郭がだんだんとはっきりしてくる。

 ハッとして起き上がろうとした彩夢だったが、頭が酷く痛んだ。

 「椎野木。あなたがなぜ?」

 「何も覚えておられないのですね。彩夢お嬢様は極度の緊張から、過呼吸を起こされてしまわれたのです。睡眠不足おありだったようで、十三丘様からゆっくり休ませるよう申し付けられ、無礼を承知で、お部屋に運ばせていただきました」

 頭を押さえ言う彩夢をベッドへもしながら、椎野木は答える。その声はいつもとまったく変わらないものだった。

 「そうだったのですね。ありがとう椎野木」

 何かがおかしいと思いつつ、彩夢は曖昧な笑みを浮かべる。

 「もし、よろしかったらもう少し一緒におりましょうか」

 「もうよろしくってよ」

 半瞬ほど置いて、彩夢は答えた。

 「承知いたしました。では私はこれで」

 一礼した椎野木が部屋を出て行くのを見届け、彩夢はベッドから起き上がる。窓辺に立ち、そっと見下ろす。

 椎野木が出て来るのが見えた。

 一度こちらを見上げ、椎野木は車へ乗り込む。なかなか走り出そうとしなかった。具合が悪い彩夢を一人残し、行ってしまうのには、気が引けたのだろう。

 走り去るのを見届けないまま、彩夢は窓に背を向け、その場へ崩れ落ちる。

 とてつもない不安が、彩夢を襲っていた。

 

 「おまえ、どうして」

 「彩夢様から手を放せ」

 「断る」

 「おまえたちの好きにはさせない」


 ……あの会話は何だったのだろう。 


 一睡もできないまま朝を迎えた彩夢は、出社してきた桑井に頭を深々と下げる。

 業務縮小は間逃れられない事実。

 最初に切るべく企業に、マルシチの名が挙げられていたこと。

 桑井にだけは説明しなければならない。そうかっ心を固めてきたはずなのに、未だに言い出せずに彩夢はいた。

 

 何も知らずバカ話をする保科たちへ目をやる。

 岡部に気を回され、晟也の話を持ち出された時、無性に腹が立った。

 一人でいる彩夢に、晟也が珍しく声を掛けてきたのは、岡部と一戦交えて二日目のことである。

 「らしくねぇぞ」

 ふと顔を上げると、晟也がTシャツをパタパタさせながらことらを見ていた。

 「らしくないって……、あなたに何が分かりますの?」

 ジンワリと涙がにじみ出て来ていた。

 「なんだお前、最近、いやいつも以上におかしいぞ」

 「あなたに言われたくなくってよ」

 その場から逃れようとした彩夢がバランスを崩す。

 晟也に助けられ、彩夢はその手を振り払う。

 「その気もないくせして、優しくなさらないで」

 どうにもならない現実になのか、今更優しくして来る晟也になのか、その理由は定かではないが、彩夢は無償に腹が立って仕方無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=58318851&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ