第一話
拙い文章ではありますが宜しくお願いします
突然だが、この世界に神様はいるだろうか?
この問いに対する俺の答えは否。
今なら即決でそう答えるだろう。
何を根拠にそう言うのか。
今の俺が置かれている状況が何よりもの証拠だ。
『ウオォオオオオオオオオオオオオオオオ!』
俺の身長の三倍はあるのではないかという程の巨体に、砲弾をも弾いてしまいそうな程筋骨隆々な肉体。そんな嘘みたいな肉塊が俺のすぐ後ろまで迫って来ている。あんな奴に捕まっては肉片の一つも残らないだろう。
何故こんな状況に陥っているかと言えば、実は自分にもわからない。
気が付くと俺は鬱蒼と木々が生い茂る森の中に倒れていた。ここが何処なのか分からないという事に加え、自分が何者かも分からないという最悪の状況で俺はこの化け物に出会い、今に至るというわけだ。
まさに絶体絶命というやつだ。ここで俺が助かる為の選択肢は二通り。あの化け物を見事に倒すか、安全な場所まで逃げきるかだ。
すでにお察しだと思うが、前者は明らかに不可能である。あんな奴に丸腰で挑もうものなら一瞬にして俺の身体はバラバラにされ、めでたく奴の胃袋でお陀仏だ。
ならば残る選択肢は一つ。
「にげろおぉおおおおおおおおおおおおおお!」
刻一刻と化け物との距離が縮まっていく。それに加え、一向に安全な場所には辿り着けそうにもない。
状況は悪化に悪化を重ね、とうとう諦めるという選択肢が脳裏を#過__よ__#ぎり始めた。
本当に何から何までツイていない。逃げる事に必死で土から飛び出した木の根に#躓__つまず__#き、顔面から地面にダイブをきめてしまった。
この無様な失態により、俺の死は確定した。化け物はあっという間に俺との距離を詰め、その拳を振りかざした。
化け物から発せられている蒸気が辺りを包み込み、生暖かい吐息が俺の頰を何度も撫でる。生ゴミの様な異臭で鼻がもげそうだ。
やはり神様などいなかった。
最後の最後まで救い様の無い人生だった。
俺はそこで死を覚悟し、そのまま意識が途絶えた。
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再び俺が目を覚ましたのは、化け物のいる森でもなければ死後の世界でもなく、ふかふかのベットの上だった。
「体調はどう?怪我は無いみたいだけれど」
茶色味がかった肩にかかる程の髪に髪と同じ色の澄んだ瞳。幼さがまだ残る顔から歳は十六歳くらいだろうか。そんな可愛いらしい少女が心配そうに俺を見つめている。
「えっと、大丈夫…だと思います」
目の前の女の子が俺を助けてくれたのだろうか?#華奢__きゃしゃ__#なその姿からはとてもあの化け物に敵うとは思えないが。
「君あの森で何してたの?いきなり血まみれの状態で森から出てきたかと思うとその場に倒れ込んだのよ」
「それが自分でも分からないんです。気がつくとあの森にいて、近くにいた巨大な化け物に追い回されて、それで…」
「まさかその化け物ってギガンテスのことじゃないでしょうね?」
「ギガ、、、?何ですかそれ?」
「ギガンテスっていうのはあの森にある遺跡の番人よ。出会ったら最後、死ぬまで逃れることは不可能。のはずなんだけど…」
「俺生きてますよね?」
「生きてるわね。不思議な事に」
どうやら俺は奇跡的に生存してしまったらしい。何がどうなっているのか訳が分からないが、取り敢えず今は命がある事を喜ぶとしよう。
この世界に神様はいるのだろうか?
きっといるのだろう。
今の俺が置かれている状況が何よりもの証拠だ。
「聞きそびれていたけど、君名前は何て言うの?」
「それも分からないんです。自分の事に関する記憶がどうにも思い出せなくて」
「記憶喪失ってやつかしら。ちなみに私の名前はサリーネ。このオーダンの村で酒場を営んでいるわ」
「良い名前ですね。よろしくサリーネ」
「どうせ記憶が無いなら行き場も無いんでしょ。よかったらウチで働かない?」
「是非よろしくお願いします」
「これから一緒に生活していくわけだし、名前がないと不便ね」
「確かにですね、まあそこら辺は適当に」
「そうね…それじゃあハルトっていうのはどうかしら?」
「ハルト。はい、気に入りました」
「それじゃあ、これからよろしくねハルト!」
こうして俺はサリーネからハルトという名前を貰い、彼女が切り盛りする酒場で居候という形で働く事になった。
「今日はもう遅いし寝ましょう。明日、島を案内してあげる」
それからあっという間に時は流れ、村に来てから1年が経とうとしていた。
「まさかサリーネちゃんに男ができる日が来ちまうなんてな。オラァ嬉しいよ」
「もう、いつも言ってるでしょ。ハルトとはそういう関係じゃないって」
そんないつも通りのたわいない会話が聞こえてくる。
煙草の煙に、酒の匂い。
客たちの賑やかな#笑声__わらいごえ__#に、テンポ良く送られる店主の相槌。
島に来てからずっと俺はこの酒場で暮らしてきた。有難いことに村の人たちは皆見ず知らずの俺を快く受け入れてくれた。そのおかげもあって俺は何不自由無く今まで過ごしてこれた。
「おい、ハルト酒追加なー」
そう言って俺を急かすのは村長をつとめているロンさん。彼は人柄が良く村の皆にも慕われている。ただ酒癖が少々、否、大分悪い。
「あんたらどう考えても飲み過ぎだろ。身体壊しても知らないからな」
渡された木製のジョッキを片手に店の奥にある酒樽へと向かう。すっかり酒場での仕事に慣れ、今では大半の仕事を担っている。
店主のサリーネはいつものように客の愚痴やら何やらを聞きながら仕事をこなしているようだ。年は自分と大して変わらないはずなのだが、どこか大人びた雰囲気を#醸__かも__#し出している。
「はい、お待ちどう」
ジョッキにはなみなみと酒が注がれている。そんな今にも中身が溢れてしまいそうなジョッキを持つや否やロンさんはグイグイっと一気に飲み干してしまった。ここまでくると気持ちいいほどの飲みっぷりである。
「カアァアアアアア!やっぱりここの酒が一番だ!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ」
「なあハルト、お前冒険家になってみる気はねえか?」
「冒険家になる?」
ロンさんからの突然の提案に思わず聞き返してしまう。
「そうだ、前に失くした記憶を取り戻したいって言ってただろ?」
「確かに言ったがそれと冒険家と何が関係してるんだ?」
ちなみに冒険家というのはこの世界における一種の職であり、ギルドに属しあらゆる依頼をこなす言わば何でも屋だ。
「記憶を取り戻したいなら、この島にいてもこれ以上は回復を見込めないと思うんだ。冒険家になれば仕事柄世界中を飛び周ることになる」
「そうすれば確かに何か手掛かりが掴めるかもしれない、でも俺はこの島でこのまま暮らすのも良いかなって…」
「ギルドへの紹介状は俺が書いてやるから気にせず行ってこい!」
今まで村の人たちには大きな恩がある手前、なかなか島を出る決心がつかなかった。
ただロンさんに背中を押された今、決心しない訳には行かない。
本当にこの村の人たちは良い人すぎる。
それから俺のお別れ会なるものが即席で開かれ、その夜いつも以上に酒場は騒がしくなった。
翌日、俺が島を出る準備を着々と進めていると昼間にも関わらず店のドアのベルが鳴った。
「すいません只今営業時間外でして、また改めてお越しください」
俺は慣れたように営業スマイル、やたら丁寧な口調で客に帰るよう促した。
村の人ならこんな接し方はしない。
そこに立っていたのは金髪の歳は俺の四、五歳上といった感じの男で腰には剣を携えている。
今の言葉が聞こえなかったのか男はずかずかと店内に入り席に着いた。
「あのお」
「俺は冒険家のシダだ。依頼でこの島にある遺跡を調査しに来た」
俺の言葉に被せるように急に男は名乗出した。それに今依頼がどうとかって。
「遺跡について何か知っているのか?」
「悪い事は言わないから、遺跡へは近ずかない方がいい。下手したら死ぬ」
男は面倒くさそうな顔をして立ち上がり、俺の元に歩み寄ってくる。
「お前がもしギガンテスのことを言っているなら全く問題ない。あの種の魔物は何度か討伐経験がある」
あのギガンテスを倒すなど馬鹿げていると思ったが、この男が嘘を言っているようにも見えない。
「もし俺をその遺跡調査に同行させてくれるなら案内してやる」
俺の要求が意外だったのか男は驚いた顔をして、しばらく考える素ぶりを見せる。
困らせてしまっただろうか。
「わかった、その条件で案内を頼む」
意外とあっさり同行が認められた。
静かに心の中でガッツポーズ。
そのまま俺はその男を遺跡まで案内する事になった。
念のためロンさんから貰った剣を持ち出し、男と共に森の中の遺跡へと向かった。