価値観の違い
「お風呂って気持ちいいですね・・・また寝ちゃいそうです」
サーラがうっとりとした顔で浴槽にもたれかかって入浴を満喫している
「こんな贅沢していいのかしら・・・まるで貴族にでもなった気分だわ」
パノンは風呂を気に入った様子だが、どこか落ち着きがない
対照的にレミリアとアエルは、泳ぎだそうとして私の拳骨を食らい
今はおとなしく風呂を楽しんでいる。涙目だが
「ランバートン様、このお風呂って何時作ったんですか???」
「んなもん決まってるでしょ、昨日おやすみ解散した後よ
ほとんどアルベルト一人で作ってくれたわよ」
「・・・本当に、ランバートン様って凄いけど非常識ですよね・・・」
「そう言われてもね・・・優秀な部下がいるから出来るだけの事よ
それにこのお風呂ってのは結構大事なんだよ
綺麗にするって習慣は、病気の流行を防ぐんだよ
それに血流がよくなるので、新陳代謝がよくなったりもする
まあ、一番の効果は、さっぱりして気持ちよくなることだけどね」
「これからこの村の人って、このお風呂を定期的に使えるんですか?」
「深夜の利用はなしにして、毎日使える予定だよ
シャワーについては深夜でも使える予定」
「いつでも使えるってことですか!?
利用料金は幾らにするつもりなんですか???」
「はい?? 何をおかしなこといってんの・・・
これは村の公共施設にするんだよ。村人はタダだよタダ」
「おかしいです。ランバートン様の考えはおかしいです
お風呂を無料で開放するなんて、勿体ないですよ
お金を取って商売にしても、十分に人は来ると思いますよ?」
「まあ、私の国にも銭湯という、利益を出す公衆浴場もあったよ
ただ、この村はそこまで裕福な村じゃないでしょ
お金を払ってまで入るとなると、週に1回とか月に1回とかになる
それじゃあ衛生面の向上はあまり促進されないし
そもそも私が入りたいけど、一人だけ使うのもなんだなと思って
それで作ってるだけだからね。まあ、あれだ、幸せの共有ってやつだよ
それにさ、こういう娯楽があると気分盛り上がるでしょ?」
指を鳴らしてギミックの一つを作動させる
北面の塀が地面に沈んでいき、目の前に湖を見渡す絶景が広がる
「え!? ちょっと!? 外から丸見えですこれ!!」
「大丈夫、ここは湖面から20メートルは上だし
近くから覗けないのも確認済み
外から回り込んで覗こうとすると、対人センサーに反応して
自動迎撃機銃が問答無用でゴム弾で攻撃するから覗かれないから
こういう絶景パノラマ見ながらの入浴とか、開放的で良いでしょ?」
が、受けが悪いようだ。羞恥心とか皆無っぽいレミリアでさえ
なんか隅のほうに皆で固まって、体を手で隠して縮こまっている
露天風呂なんて文化がないから、こうなるのだろうか?
仕方がないので、ギミックを再作動させて塀を展開する
そうすると、ほっとしたように皆は風呂の中央あたりに戻ってきた
「なんか露天風呂は受けが悪いから、この状態で固定しとくか
さてと、そろそろ上がってご飯たべて、今日の仕事やりましょっか」
全員に浴槽から上がるように指示をして、脱衣所に向かう
体を拭くタオルは脱衣所に置いてあるのでそれを使うように指示する
ぱっぱと服を着て、風呂を後にして表で男性陣を待つことにする
5分程で男性陣が出入り口から出てくる
ガフ君とチェニスは至極ご満悦の様子でやたらと笑顔だ
が、バルロイはひどくぶすっとした不機嫌そうな顔で出てきた
「おはよう皆。お風呂どうだった?」
「凄いです! 見たこともない道具からお湯がいっぱいでてきて!
お風呂って初めて入ったけど、温かくてすごく気持ちいいです!」
うん、ガフ君は相変わらずの可愛さだ。こういう反応は素直に嬉しい
「昨日はこのような物は無かったと思うのだが・・・
それにしてもこの風呂は凄いものだな。湯が無尽蔵に出てくる
おまけにシャワーという物か? あれはとても便利だな
昨日までここにこのような物は無かったと思うのだが?」
「そりゃそうだ、昨夜から今朝にかけて作ったんだから
それ以前には存在していないんだからあるわけがないでしょ」
「・・・・・・・ランバートン殿と一緒にいると
常識というものが崩壊していく気がするのだが・・・」
「諦めろ、レイラはそういう奴だ・・・
というかレイラあれはなんだ! あの悍ましい石像はなんだ!」
「ああ、あれはね。女湯覗くとこうなるぞって警告のため
あれ見ても女湯覗こうとしたらまあ・・・もっとひどい事になる」
バルロイをからかうための像だが、実はそういう意図も考えて作った
が、バルロイをからかうための部分は勿論言わない
「・・・絶対嘘だと分かるが少し言い分も理解できるので困る・・・
で、万が一、女湯を覗いたらどうなるんだ???」
「ゴブリンのボス倒した連射した銃であるでしょ
ああいう連続で攻撃してくる道具が撃ってくる
まあ、ゴム弾なので死ぬことはないけど、めちゃくちゃ痛い
というか、あの石像見てものぞく勇気があるやつは凄いと思う」
「まあ、そりゃそうだな・・・なんかうまい事騙された気がするが
まあいい・・・風呂は確かに気持ちよかったしな・・・」
「でね、バルロイ、風呂の入り方を男性にはバルロイとガフ君で教えて
女性はレミリアとアエルに頼むから、それで施設の使い方と
浴槽のお湯を汚さないで皆で綺麗に入る方法を徹底させてほしい
20時から翌朝の4時までは清掃関連で浴槽は利用停止するけど
シャワーについては24時間使えるようにしておくから
まあ、半年に一回くらい、1日か2日の整備で利用停止はあるかも
村の人に教えて気軽に使うように伝えておいて」
「え?? これ、お客様用の施設とかじゃないんですか?」
「んなもん、たまにくるかどうかも分からない客のためにだけって
勿体ないでしょう? 皆で使って綺麗になって、臭いの無くして
快適に過ごした方がいいでしょうに。そのほうが皆笑顔になるでしょ?」
男性陣が呆れたような表情で一斉に私を見る まて、なんか変な事したか?
「利用料金はどうするんですか? お風呂ってなると皆お金が・・・」
「ガフ君もユミアと同じで変な事言うね・・・
これは村の公共施設だよ。料金なんて取らないよ
私の所持品で運営賄えるし、大した資材かからないから
タオルと足ふきマットの洗濯とか、施設の清掃関連。それと
お風呂の掃除とか、そこら手伝てもらえるならアルベルトの負担が減るので
そういう形で利用した分のお返しみたいなことをしてくれると助かるけどね」
バルロイがやれやれといった表情で、驚くべきことを告げる
「レイラ、この国ではな、風呂ってのは金持ちの特権みたいなもんだ
王都で風呂に入れる店とかあるがな、安い所でも銀貨2枚大銅貨5枚だ
それもこんな立派な風呂じゃない。足を折り曲げて体を屈めてやっと入れる
せまっ苦しい湯舟に浸かるだけでそれだけ金を取られる
この風呂が王都にあったとしたら、まあそうだな・・・大銀貨2枚だな・・・」
「別にお金が欲しいから作ったわけじゃないので、そういうのは気にしない
私が風呂に入りたかった、でも基地の工事が軍備優先なのでまだ先になる
じゃあ手が空いてる自分で作ろう。ついでに皆も入れれば良いんじゃない?
こういう考えで作ったので、別にお金を村の人から搾取する気はないよ」
「この村はどんどんレイラに借りが出来るな・・・どう返させる気だ?」
なんか損得勘定については価値観が違うところがあるので難しい・・・
たぶんもってる物資の量があり得ない量なので、私がおかしいとこは
あるんだろうな・・・下手したらどこぞの県庁所在地再開発くらい
この物資あれば出来るかもしれないんだよね・・・これだけあると
流石に感覚がおかしくなってる、それはあるのかもしれない・・・・
「だから見返りは求めてないって。家無し身元保証なしの私にとっては
この村は、身元保証してくれて土地を貸してくれた有難い場所なのよ
じゃあその村を快適にして村の人に貢献しようって普通の考えでしょ?」
「既にアーミーゴブリンから村を救って、ワグナーの侵略からも村を守った
十分すぎる程に返してると思うがね・・・・」
「あ、それで思い出した。バルロイ、約束の鑑定してよ鑑定」
「ああ、その件なんだがな、例の死体をチェニスが確認したいそうだ
あとアーミーゴブリンの装備なんかも見たいそうなんだが、いいか?」
「あの、その前に・・・皆さんで一緒に朝ご飯にしませんか?」
・・・ガフ君が、申し訳なさそうな顔で言ったその言葉で
朝ご飯の事をすっかり忘れていたことを思い出す
「うん、そうしよう。アルベルト、手配頼むね。ガフ君の家いこっか」