それぞれの道
皆がケーキを食べ終えた頃に、アルベルトが近づいてきて
パイが載ったお皿と紅茶をみんなの前に配った
「こちらは少し甘さを抑えてすっきりする味に仕上げました
レイラお嬢様が焼かれたアップルパイになります」
まだ甘いものがある! それもアップルパイ!?
ハラペコ小隊とガフはあれだけ食べたにも関わらず、まだ食べる気満々だ
バルロイ、チェニス、ザロスはもう満腹ではあったが
ここで出される食事を断る程の意志の強さは持ち合わせていなかった
「あの、ランバートン様はこれを何時用意したんですか?」
「はい、出撃の前に用意されておられました
自分が時間までに戻れない時は
皆様に私の判断で出しておく様にと言い遣っておりました」
「あー、なんか作戦を詰めるだの考えるだの言って厨房に行ったな?
あの時これ焼いてたのか。レイラも細かい性格してんな」
「あれだけ指示を出したり準備をしながらパイを焼くか
ランバートン殿は何時も何を考えてどこまで読んで行動しているのだ?
私は戦に行く前にパイを焼いて出かけた将は聞いたことがないぞ」
「ところでアルベルトさん。レイラはまだ起きないのか?」
「申し訳ありません、メンテナンスモードは非常に時間がかかります
この世界にきてレイラお嬢様の機体にどれ程負担がかかっていたかは
私も存じておりませんので、何時終わるかは把握しておりません・・・」
「分かった。起きたら話があるって伝えておいてくれ
それと・・・少しでいいから酒は出せないか?」
「アルコールについては、当施設の地下エリアでは全面禁止事項ですので
どうしてもと仰られるのでしたら・・・上に御用意させて頂きました
チェニス様のゲストルームで宜しければ、内緒で手配致しますが」
「そうしてくれると、俺とチェニスは非常に有難いので頼みたいところだな
ちょっと今夜は、チェニスと今後について徹夜で話し合いになりそうだしな」
「畏まりました。どのような銘柄が宜しいですかな?」
「チェニスはワイン好きだ。俺はあのビールってエールが良いな
ああ、ザロスも付き合わせるから、酒精が少ないやつも頼む
あの蒸留酒ってやつもいいな・・・いや、迷うなこれは」
「それでは、いくつか私のお勧めを御用意させていただきます」
「済まないが頼むわ。いい加減に酒を飲ませないとチェニスが五月蝿くてな」
「よし、バルロイ、すぐに部屋に行こう!」「ふざけんな、俺はまだ仕事がある」
「何の仕事だ!?」
「この食事が終わったら御家に帰って良い時間になるんだよ
村人で希望者がいたら、家にこれから帰らせることになるんだよ
希望者がいるか確認して、荷物があったり体が弱い奴がいたら
その手伝いをしなきゃならないんだよ。だからその後まで酒は無しだ」
「ああ、そういった真面目な仕事があるのか。分かった」
「ユミア達は今日は仕事はいいぞ。俺とザロスで後はやる」
バルロイはそう言うと、残りのアップルパイを口に詰め込み
紅茶で流し込みながら席を立った
「んじゃ俺は村の連中に、家にこれから帰りたいかどうか聞いてくる
ザロス、お前もただ飯食ってないで付き合え」
「ふぁひ しゅぐひひまじゅ!(はい すぐ行きます)」
ザロスも残りのアップルパイを無理やり口に突っ込んで
口の端から少しはみ出しながら立ち上がった
「僕も手伝います」
「ガフはいいから休んどけ。寝てないんだろ? 食って寝ちまえ」
「それを言ったらバルロイさんだって寝てないはずです!」
「冒険者ってのは、3徹くらいでダンジョン篭ってなんぼの仕事だ
お前とは鍛え方が違うんだよ。倒れられると俺が困るしな」
バルロイは片手をあげてひらひらとからかうように振ってから
ザロスと一緒に食後の紅茶で寛いでいる村人達に向かって行った
残された面子は、自分は本当に仕事をしないで良いのであろうか?
という疑問を持ちながら、ちびちびとアップルパイを食べていた
一人と一匹だけは、自分の仕事ではないと知らん顔で
紅茶をのんだり、果物を食べたりして寛いでいた
「聖獣様、こちらのチェリーは如何ですか?」「うぃっ!」
チェニスが紅茶をのみながら、ハリネズミにブラックチェリーを渡す
どうやらハリネズミはこれが事の外お気に入りのようで
齧りついてすぐに次を急かすように両手を前にだしてふりふりする
「ところでユミアさん。私はバルロイとある約束をしていてね
君達5人がアルムの村に正式に移住をしたいのであれば
その許可を陛下にお願いする事になっている
そこで最終的に確認したい
君達5人は、アルムの村に移住するということで良いのだろうか?
それとも別の場所に移住を希望するか、または元の村に戻るか
ワグナーの件が片付きそうなので、一度は王都に戻らなければならない
そこで陛下に君達の意思を伝えて許可を貰わなければならないのでね
5人の希望を纏めて、私に教えてもらえないだろうか?」
突然、何の前触れもなくチェニスはユミアに告げた
その目はハリネズミを見つめ、ユミア達には向けられていない
だが向けられた声は、至極真面目でユミアは少し緊張した
「それは、今すぐという事でしょうか?」
「いや、私が王都に立つのに間に合えば良い
それと全員が同じ希望でなくても構わない
君達は今回の件で最大の被害者と私は考えている
私が出来る限りの便宜を図るつもりだ
これは君達臣民が被害に合うのを防げなかった
私のせめてもの侘びだ」
「分かりました。明日の夕刻までにはまとめてご報告します」
「そんなに急がなくて良い。よく全員で話し合って決める事だ
移住許可は中々簡単には降りない。領主だって民が減るのは困るのだ
だから大事な決定になる。この先の人生に大きく影響する決定だ
急がずじっくり話し合って、各人が納得できる希望を出してほしいのだよ」
「お心遣い有難う御座います。チェニスさんが出立する前に
必ず皆の希望を纏めて、私の責任で御報告致します」
「迷ったり悩んだりしたら私も相談にのろう
バルロイも、レイドック男爵も相談に乗ってくれよう
話し合った末に答えが出ないのであれば、頼ってくれて良い
さてと、私はこれで失礼する。流石に不思議な体験ばかりで少し疲れた
部屋が用意されているらしいので、そちらで休ませて貰おう
君達も慣れない事ばかりで疲れているはずだ。しっかり休むと良い」
一方的に会話を打ち切って、チェニスは席を立ってアルベルトへと向かった
ユミアは何処か試すようなチェニスの態度に、少し苛立ちを覚えた
「やっぱり王族だね。なんか気遣ってるように見えて
一番に考えているのは私達の事より、国の事なんだなって気がする」
「どういうことレミリア?」
「あれさ、すっごい簡単に言えばさ
今回の事は事前に止められなった国に責任があるから
貴方達の希望は可能な限り一度だけ叶えます
その希望についてはそちらで話しあって決めてください
どうしても決まらないのであればその相談にも乗ります
ただしその決断によって移住した先に不満があっても
そこからの再移住は自分で領主と話をして行うように
それと手貸すんだから、この件は触れ回らないように
こういうことだよね? まあ、王族って立場だと当然なのかな?
つまりさこれ、望めばたぶん、王都での居住許可出るよ?
まあ、私はアルムの村希望だから関係ないけどね~」
「レミリアはアルムの村で何をする気なの?」
サーラが少し冷めてしまった紅茶を飲みながら、レミリアに質問する
「そんなの決まってるじゃん。私はランバートン様と行けるとこまで行くよ?」
その答えに、サーラとパノンがぎょっとした顔をする
「あの体見たでしょ? ああなるかもしれないのに??」
「最初びっくりしたけどね。ただ、なったらなったでしょうがないじゃん?
それより私は、今までの習慣とか慣例に従って生きられない世界より
いい結果だしたら褒めてくれて、工夫したらちゃんと評価してくれる
ランバートン様の所で働きたいなーって気持ちのほうが強かったのよ」
「私もアルムの村に残って、レミリアと一緒に兵士を続ける
働いた分食べ物をくれて、屋根があるところで眠れる
それにこの村の人は私が孤児だと知っても差別も哀れみもしなかった」
アエルがレミリアに続いて、残留と兵士の継続を表明する
パノンとサーラは困った表情でユミアに視線を送る
「レミリア、考え直さない? 私はこの村を離れるつもり
ニルン村に戻るつもりはないけど、ここはあの村に近すぎる
あの村から人がきたり、万が一お父様がきて会ったりしたら
私・・・自分が何をするか分からないから怖い
それにランバートン様みたいな体になる覚悟は持てない・・・
折角綺麗に治してもらったこの体を無駄にしたくないの」
「いいんじゃない? それぞれ違う考えがあって、違う価値観あるし
お姉ちゃんと離れるのは正直に言えば寂しいよ。出来れば一緒に居たい
でも、互いに求めるものが違うなら、私もほら、今日で成人したじゃん?
違う道を行くのは、運命なのかもしれないなって思うよ」
「レミリアは、私のこと裏切り者とか思わないの?」
「なんで?? そんなこと考えた事もなかったからびっくりした
だってしたい事が姉妹であっても同じとは限らないじゃん?
パノンとサーラもお姉ちゃんと近い考えなんでしょ?
だったら三人で相談して、嫌でなければ同じところに移住したら?
新しい環境で一人だと寂しかったり不安だと思うし
困った時周囲の人に助けてもらえると限らないじゃん?
同郷3人で集まってればさ、そういうとき協力できるじゃん?」
「レミリアって本当に変わってるわよね・・・
私達、これを貴方に言ったら裏切り者って罵られると思ってた
あんなに貴重なアイテムを使って助けてもらったのに
恩も返さないでここを離れるなんて、裏切り者って言われると思ってた」
サーラがそう言うと、レミリアはけらけら笑った
「何言ってるのサーラ、違うよ
私達はこれから、違う選択をしても恩返しをするんだよ?
一生懸命頑張って、努力して、勉強して、幸せになるんだよ
幸せになったその姿をランバートン様に見せるのが恩返しだよ
私達の恩返しって、結構気が長いお話なんだと思うよ」




