バースデー
チェニスの発言により一時は混乱の渦にあった食事は
その後は何事もなく時間が過ぎ、全員が配膳された料理を食べえて
ユミアが大量に持ってきてくれたノンアルコールビールや
各自が自分の好みでもってきたジュース類等を飲んで寛いでいた
「皆様、ここで本日の料理の最後に、デザートをこれからお持ち致します
昨日から皆様には、この避難所での不自由な生活を強いておりました
それももう終わりです。皆様の村には平和が訪れました
ここでの最後の食事の締めとなりますこの料理を、存分にお楽しみ下さい」
アルベルトが室内にそう告げてから、オリマー、ジール、ホリイの3名が
病院で使うような大型のワゴンを押して厨房から部屋に入ってきた
手をつけるのは合図があるまで御待ち下さいと断りをいれながら
切り分けられたケーキが載った皿を配膳していく
アルベルトだけが普通サイズのワゴンを押して、9人+1匹がいる
テーブルに向かって、ゆっくりと進んでくる
一般の村人への配膳は既に終わっているのに、アルベルトはまだ
テーブルに到着していない。そのときふっと照明が薄暗くなり
室内に驚きの声が上がるが、完全に消えたわけではないので
村人もそれ以上は驚いた様子はない
「ハッピバースデー トゥーユー ハッピバースデー トゥーユー
ハッピバースデー ディア レミリア ハッピバースデー トゥーユー」
突然、アルベルトが歌いだし、配膳をしていた三名も続いて歌う
室内の全員が ???? という表情をしていたが、そこで
アルベルトが押していたワゴンの上のケースが外される
そこには綺麗に飾り付けられたチョコレートケーキが載せられていて
15本の蝋燭が均等に配置され、揺らめく炎でケーキを照らしていた
「レミリア様、お誕生日おめでとう御座います
こちらはレイラ様からのプレゼントの一つになります
さあ、一息で蝋燭を吹き消して誕生日のしめを飾って下さいませ!」
「あ? え? えええええええ!?!?!?」
「レイラ様の国では、このように誕生日には年齢の数だけ蝋燭を立てて
その炎を一息で吹き消して祝うという風習があるので御座います
レミリア様がこの締めをなさらないと、皆様ケーキが食べられません
ささ、一息で見事に吹き消してくださいませ」
「ちょ・・・責任重大じゃない!? よーし、やってやる!!」
レミリアが気合をいれて、ケーキに顔を近づけて、思いっきり息を吸う
一瞬息をとめて、覚悟を決めた眼差しで蝋燭に息を吹きかけて消していく
特段、失敗することもなく蝋燭は全て吹き消された
その瞬間に3人がケーキと一緒にこっそり村人に配って使い方を教えていた
クラッカーの紐がひかれ、室内に破裂音と紙ふぶきが舞い上がる
「「「「「「「「「「「「「おめでとうレミリア!」」」」」」」」」」」」」
照明が元の輝度にもどされ、室内が明るくなる
村人全員あレミリアに祝いの言葉を述べて、ケーキを食べ始める
レミリアと同席の8人もレミリアに祝いの言葉を述べて、拍手をする
祝われたレミリアは、人生で始めての経験だということもあり
ぽかーんとした表情で、しばらくフリーズ状態でいたが
ふと意識を取り戻すと、照れ笑いを浮かべながら、顔を真っ赤にして喜んだ
「何これ何これ! こんなの初めてじゃん! 誕生日ってこんな良いものなの??」
「ニルン村だとねー・・・その日の農作業がなくって、お肉が出るくらいだもんね」
「私はどこかの家が誕生日だと、もらえるご飯が少しよくなって嬉しかった」
「アエルはそうだよね。でもうちもそんなに誕生日なんて祝ってくれなかったよ」
「サーラのとこまだマシよ。うち誕生日のご馳走で鳥だよ?
しかも一番美味しいところはお父さんだよ食べてたの?」
「パノンとこはお爺さんの借金残ってたから大変だったもんね・・・」
「皆さんいいじゃないですか・・・三男で予備の予備だった私なんて・・・
誕生日を覚えていてもらったことのほうが少ないんですから・・・ふふふ・・・」
「ザロスはそういう扱いだったのか・・・それでよく騎士になれたな」
「認めてもらいたくて頑張ったんですがね・・・
どうせ外に出す身だからどうでもいい、って感じでしたよ・・・ふふふ・・・」
皆が好き勝手に談笑する中、アルベルトがケーキを切り分けていく・・のだが?
アルベルトが切り分けているのは、別のチョコレートケーキで
先程の蝋燭が載ったチョコレートケーキはナイフを入れられていない
アルベルトは切り分けたケーキを皿に載せて8人に配り終えると
吹き消された蝋燭を引き抜いた1ホールまるまるのケーキを、レミリアの前においた
「皆様どうぞ、ご賞味下さい」
「・・・アルベルトさん・・・まさか・・・レミリアは・・・あれを・・
丸々一個一人で食べて良いってことなの!?!?!?」
「レイラお嬢様は毎年ご友人の方々と、そういう風習で祝われておりました」
ちなみにレイラがそれをしていたのは、お祝いという名の罰ゲームである
ボンジリ大王率いる腹黒フレンズ達が、基地におしかけて食べさせるのである
実際に食べるわけではないが、一部感覚接続で味と食べた気は発生するので
実際には食べてもいないケーキで胸焼けを起こすという嫌がらせを受けていた
勿論、アルベルトにはそんなことは理解できないので
それが主人の誕生日の風習であると盛大に勘違いして、それを実演したのである
「これ全部私が一人で食べて良い・・・うふふふふ・・うふふふふふふふふ・・・」
しかしレミリアは喜びに震えていた。レイラとアルベルトの出すものは美味い
その中でも菓子類はそのまま時間が止まれば良いと思うくらい美味いものが多い
そして目の前には今まで食べた菓子の中でも、極上の匂いを発する物がある
レミリアはフォークを投げ捨てると、アルベルトに大きいスプーンを要求する
そして両手にスプーンをもつと、掻き込むようにチョコレートケーキを食べ始めた
「うみゃ!? めっしゃうみゃい!?」
他の面子もつられて食べ始めるが、人生で初めて食べる
チョコレートの香りと口溶けとそのほろ苦い甘さに、声もなく喜びを露にした
チェニスにいたっては、ここまで複雑かつ高貴な香りの食べ物は食べた事がないと
過去に自分が食べてきた王宮料と比べて複雑な思いを抱いていた
さっきまで寝かけていたガフも、チョコレートのにおいで瞬時に覚醒し
皆に負けじとケーキをがつがつと食べていた
「バルロイ、この村に空きはあるか? 私はここにしばらく逗留しようと思う」
「・・・お前にそんなことが許されるわけねーだろ・・・」
「いや、今素晴らしい考えを思いついたのだ
女神様の使徒様と、女神様の加護を受けしレイドック男爵とのだな
王家との橋渡し役として適任であるとお前が陛下に進言してくれればだな・・・」
「俺は王家の面倒ごとに関わる気はねーよ。諦めろ」
「バルロイ、私達は親友ではなかったのか!?」「それとこれとは別だ」
「ああ・・・かくも友情とは脆いものなのか・・・」
「分かった分かった、手伝ってやっても良い。そのかわり、交換条件を吞め」
「交換条件? とりあえずそれを聞いておこう」
「ユミア、レミリア、サーラ、パノン、アエルにもう一度話しを聞いて望んだら
王家が公式に処理してニルン村からアルムの村に移住を認めて書類を出せ
アルムの村以外への居住を求めた場合もそれを公式に追認して書類を出せ
それと、ザロスを今回の件の処罰から外して俺が預かれるようにしろ
それが条件だ、呑めるか?」
「前者は問題ないが後者か・・・良いだろう、陛下にそれは吞ませる」
「なら進言をするはしてやる。その結果が駄目でもさっきの件はやれよ?」
「わかった、そこは約束する。ただし上手く行く様に努力はしてくれよ?」
「契約したことは全力でやる。それが冒険者だ、見損なうな」
「ではAランク冒険者の手腕に期待しようじゃないか。我々の未来に」
バルロイとチェニスはノンアルコールビールを叩きつけるように乾杯した
修正履歴
2019年9月26日
使途 を 使徒 に修正。 ご指摘有難う御座いますm(_ _)m
独り言
くだらない話なんですが、うちの誕生日はなんか変わってて
子供の頃はよく同級生に変な目で見られました
冬だろうが春だろうが夏だろうが秋だろうが、うちの誕生日は
何故か蟹を食べるんですよ・・・それも海のでなくって川のやつを
由来を聞いても ひい爺さんからそうだったらしい で理由がわからない
食用の沢蟹とか、どこで買ってきてるんだ? ってずっと不思議でしたよ・・・