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噂の彼女はフルボーグ ゲーマーOL異世界転生記  作者: 弩理庵
第二部 ワグナーの脅威編
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村での朝食(チェニス視点)

「いやはや何とも・・・こんなものが地下にあるとはな・・・」


 チェニスは案内された地下にある避難所の内部を見て驚きを

 通り越した呆れの独り言を漏らしていた

 材質が不明な建材で作られた大きな空間には

 派手ではないが質がいいソファーやテーブルが並べられ

 バーカウンターのような場所にある椅子も、金属が使われている

 室内は地下にあるにも関わらず真昼のような明るさで満たされ

 入り口付近にある長い台の上には料理が所狭しと並べられている

 丁度、朝食の時間らしく、避難していた村人が、ビュッフェスタイルで

 各々に好きな料理を皿に盛り付けて、自分の席へと帰っていく

 飲み物が置かれた台の上には見たこともない道具が置かれていて

 その下にコップを置いてレバーを引くと、飲み物が出てくる仕組みのようだ


「急造の場所ですので個室でゆっくりとお食事とは行きませぬが

 料理のほうは種類はご用意させて頂いておりますので

 お口に合うものがあるかは分かりませんが、よろしければ・・・」


 レイラがアルベルトと呼んでいた執事のような男が、おずおずとそう告げる

 この男、只者ではないのだけはわかる。隙がまるでない

 しかし王城にもこれほど完璧な執事はいたであろうか?・・・恐らく居ない

 勧められるままに席に着き、アルベルト殿が入れた茶を飲む

 ・・・何か染料か泥水のような色をした茶で不安だったのだが

 香りがとても素晴らしい・・・味は苦味が強いが飲むと気分がすっきりする

 バルロイが価値観が何度変動したかといった意味はこういうことか・・・

 茶を味わっていると、アルベルト殿が一人の少年を連れてきた


「チェイマン様、こちらがアルムの村の責任者ガフ・レイドックで御座います」


「始めましてチェイマン様。まだ成人ではありませんので自分からは家名を

 名乗れないことを先にお詫びします。ガフです。宜しくお願いします」


「突然の来訪、こちらこそお詫び申し上げる」


 互いに軽く会釈をして自己紹介をする。手で席を指して着席を勧める


「チェイマン。領主に対してそりゃ失礼だろ?」


 バルロイが横からそう指摘してきた。そうだ、いつもの悪い癖が出た

 今はチェニスではなくチェイマン・・・面倒なものだ


「申し訳ない。しがない商人の放蕩息子なものでね。礼儀に疎いのだよ」


 そう言うことにして周囲に聞かれていたとしてもごまかすことにした

 レイドック男爵は困ったような表情をしてから口を開く


「バルロイさん、周囲に声がいかないようにしてもらえますか?」「任された」


 バルロイが得意の篭音の魔法を使って風の壁を周囲に巡らせる


「申し訳ありませんチェニス様。表を上げたままで挨拶を・・・」


「レイドック男爵、チェイマンで良い。それと面倒な儀礼もなしで良い

 ここだけの話だが、私が王位継承権を捨てたのはそれも理由なのだよ

 ああいった王族への態度を強要された相手は、決して本音を語らぬ

 生活に困った事があっても、陛下のお陰で何不自由なくと嘘を言い

 国の行いに間違いがあっても、それを指摘して話すこともない

 本当なら第二王子という立場も捨ててこの国を旅したいものだ・・・」


「まあ、お前は昔っからそうだからな・・・」


「チェイマン様は本当に、王国と臣民の事を考えられているのですね」


「どうだろうな。私はただ自由に憧れた世間知らずなのかもしれないぞ?」


「そこは同意する。せめて物価くらいは知っとけ。お前の金遣いはおかしい」


「相変わらず痛いところを突くなバルロイは・・・」


「ところでレイドック男爵

 女神様の加護の刻印が現れたというのは、本当だろうか?」


「はい。右肩に・・・」


 レイドック男爵はそういって上着を脱ごうとしてバルロイに止められた


「ここでやるな、後でどこか上の建物の部屋を使って確認しろ

 ここでそんな物見せたら、村の奴らが狂喜乱舞してメンドクサイだろうが」


「あ・・・す、すみません・・・・」


「いや、私が見せるのを急かしたような形になってしまったな。済まんな

 レイドック男爵、私は貴殿に礼を言わねばならない

 まず、女神様の使徒様を貴殿が保護してくれた事に礼を言う

 おそらく貴殿以外が最初に接触していたら、あの方はこの国に根を下ろす

 それをしなかったであろう。貴殿の為にこの国にいると私は感じた

 次に、ワグナー伯爵の仕打ちで酷い状況にあった臣民を保護してくれた

 事に礼を言う。彼女達をレイドック領で受け入れてくれた英断に感謝する」


「いえあの・・・レイラさんの事は偶然ですし・・・

 ユミアさん、レミリアさん、サーラさん、パノンさん、アエルさんの事は

 父さんが生きていたら、きっとそうしたと思うし・・・

 僕は彼女達が経験した理不尽を・・・許せなかったんです・・・・」


「全く・・・貴殿のような人物が多ければ、もう少し政も楽なのだがな

 自分の為ならば領地の臣民は犠牲にしてもいいと思う輩が多すぎる

 一層、貴族の何割かを取り潰せれば、より良い国になるであろうに」


「継承権を放棄したとは言え、王族が言うことじゃねーぞそれ」


「分かっている。今の私はチェイマンだ」


「詭弁でしかねーよったく・・・」


「皆様、お話中のところ失礼致します

 少し料理と飲み物を持って参りましたので

 宜しかったら召し上がりながらお話をされては如何かと」


 アルベルト殿が、どうやったらそんなに持てるんだ?と

 疑問に思うレベルの皿を腕やら肩にのせて立っていた

 両手にはトレイを乗せて飲み物も持ってきたようだ

 アルベルト殿は全く音をさせずに皿やカップをテーブルに置き

 優雅に一礼すると我々から離れていった


「あの執事は何者だ? ランバートン殿の信用が厚いようだが」


「ありゃレイラが呼び寄せた兵隊だ。ありゃ化け物だ」


「強いのか?」


「あの爺さんを呼んでから、留守中でも安心できると

 俺達は王都に行ったんだ。それだけ信頼される強さなんだろ

 だがそれ以上に、料理の腕が化け物だ」


「どういうことだ?」


「去年の小麦と魚と貝で、驚くほど美味いパスタ料理を作りやがった

 一緒に出されたスープもこの村の野菜だけだが美味かったよ

 レイラが出すものは美味い。しかしそれはあいつの世界のもんだ

 あの爺さんはこの村にあるものだけで、近い味の料理を作りやがる」


「城の料理より美味いのか?」


「同じ材料で作らせたら、数段美味くなるだろな」


「うらやましい限りだな。お前はそれをこれから日常的に味わえるのか」


「それはどうなんだろな? あくまであいつはレイラの配下だからな

 俺の料理を毎日作ってくれるとは思えんぞ?」


「あ、でも、アルベルトさんが言ってました

 これから料理は毎日自分がやるので、僕は気にしないでいいって」


「でかしたガフ! 俺お前の家に引っ越すわ!」「え、いいですけど・・・」


「ま、とりあえず食おうぜ? 爺さんの料理が冷めちまう」


 バルロイはそう言うと、皿の料理を豪快に食べ始めた

 実に美味そうな表情をしている

 私も自分の前に置かれた皿に盛られた料理に手をつける

 黄色い煎り卵の料理のようだが、少し生っぽくて不安を覚えるもの

 妙に大きくて美味そうなソーセージ。これは茹でてあるのか?

 焦げ目が少しはいったベーコン・・・これはかなり火を入れてあるな

 それに良い香りがするパン。パンとはこれほど膨らむものなのか?

 大き目のカップに入った黄色いスープらしきもの。これは見たことがない

 それらに手を伸ばし食べて行き、バルロイの言葉を再認識する


『冗談ならどれほど良い事か・・・

 俺はレイラがきてから価値観が何度変動したことか・・・』


 この言葉を身をもって理解することになる料理だった


「流石に王族だな。それ初めて食って叫ばないとは恐れ入った」


「そうなりかけたが何とか堪えた。そういう状態だったさ」


「ガフ、村のやつらは最初食ったときどうなったんだ?」


「えっとですね・・・何人か泣き始めて大変でした」


「まあそうだろな・・・量はあるが大した物食ってないからな

 避難が終わって元の生活に戻ったら、どうなることやら・・・」


「それもアルベルトさんが対策を考えてくれました

 安くて栄養バランスが良くって美味しい料理を

 村の皆に教える催し物を定期的にしてくれるそうです

 あと、レイラさんにお願いして、調味料を少し分けてくれるそうです」


「爺さんそこまで想定済みか。この村のやつら、村から出なくなるな」


「そうですよね・・・僕、以前の食事にたぶんもう・・・戻れない・・・」


「全く持ってうらやましい悩みだな・・・

 今後は料理だけでなく生活の利便性を上げるという話もしていたな」


「チェイマン様、本当に良いのでしょうか?

 僕はレイラさんに何のお返しも出来ないし、お給料も要らないって・・・」


「ランバートン殿は金や名誉で動くタイプではない

 自分が認めた相手の為に自分が出来る事をするというタイプだろう

 彼女がそうすると言っているなら、素直に受け取れば良いと思うが」


「そうだな、レイラはお礼やお返しを求めてするタイプじゃないな

 お前らが先に寝ちまった時あったろ? あんとき朝まで飲んだんだよ

 んでな、話の中で、お前が変態貴族に狙われるかもって言ったらな

 お前に近づく全ての脅威は木っ端微塵に吹き飛ばす だとよ

 すげーおっかねーの・・・ま、そんだけ気に入られたんだ、良かったな」







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