アルムの村への帰還 1
「チェニス。これ一個、あんたの一番信頼できる部下に渡しといて」
インベントリから取り出した、片耳タイプのヘッドセットと無線機を渡す
「たぶん3日くらいは、これで通信確保できるはず。
こっちでなんかあったり、チェニスに急ぎの連絡があっても何とかなるでしょ」
「それは助かる。出来ればあといくつかを予備として貰いたいのだが」
「それは断る。私は王家の犬になるつもりも王国の雑用係になるつもりもない
あくまで、チェニスがアルムの村に来ている間の連絡手段の確保の為よ
終わったら勿論回収するから、無くしたとか分解して壊さないようにね
もしそうなったら、お仕置きしなきゃいけなくなっちゃうからね」
「預ける者には管理を徹底させよう・・・」
表に出ると、チェニスは教会の封鎖をしていた近衛の一人を呼び
「これを持っておいてくれ
使い方はその耳の魔道具から説明が聞ける」
とだけいって、手を振って配置に戻らせた
「グーデリアン。あの無線機もらったやつに使い方説明しといてね」
「了解しました!」
しばらくすると、配置に戻った無線機を持った男が
ビクっと跳ね上がり。人生初の無線通信を体験して驚いたのが分かる
「また徹夜だよ。ほんと、バルロイと私ってタフだよな・・・・」
顔を出し始めた朝日の片鱗を見て、まともな睡眠を2日とっていないことを思い出す
振動センサーと聴覚センサーが、市内の3箇所で小規模な戦闘があることを知らせる
チェニスが言っていた、ワグナーと結託した一部の衛兵とやらの制圧戦だろう
距離が遠いので直接的な脅威ではなさそうなので、これについては監視のみにする
ここから門まではそれほど遠くはないが、一度は襲撃にあっているので
対人レーダーもつけっぱなしで門を目指す
「レミリア、あんた大丈夫? あんたも徹夜でしょ?」
「あんまり眠気ってないんですよね。ほら、ヘリの中で苦いの貰ったじゃないですか?
なんかあれ飲んでから、目がシャキーンってなって全然眠くないんですよ」
「そっか、人生初のカフェイン飲料体験が濃厚カフェインか
こりゃ今日の昼前くらいにダウンするかもね」
「そうなんですか? でもでも、前から徹夜とかよくしてましたよ
夜、皆が寝てから本とか読み漁ってたんですよ。もう必要なくなりましたけど」
「ん?? 何の勉強してたの?」
「悪女の嫉妬を倒したかったから、錬金術とか回復魔法の本を読んでました
でもそういう手段じゃ駄目なんだって、ランバートン様とお話して分かりました」
「いや、私の提示したのは手段の一つでしかない。その勉強は続けたほうがいい
というか、その何かのために自分で学んで解決しようとする姿勢は良い事だよ」
「時間が出来たら、ランバートン様の世界の技術の勉強もしてみたいです!」
「ま、程ほどにね。それよりあんたにはもっと大事な事があるんだから」
「ちゃんと任務とかお仕事はやりますから、大丈夫です!」
「そうじゃない、あんたはもっと人生を楽しみなさい。自分の為にね
あんたにとって、今の時間は二度と帰ってこない大事な時間なのよ
もっと自分の人生を大事にしなさい。人の役に立とうなんてのは
20を超えてからで十分よ。あと5年くらいは今まで我慢してた分
遊んで笑って楽しんで、自分を豊かにしなさい。それが大事な事」
「自分を大事に?・・・私結構、人生楽しんでると思いますよ?
お姉ちゃん達に奇抜でやりたいことばっかしてるって言われるし」
「それ偽装でしょ? あんた姉のユミアより人に気使うじゃん
落ち込んでるやついりゃからかって元気付けるし
困ってる奴いれば、自然に近づいて手伝うし
最初の装備の装着と行軍、その後のちら見してた訓練
どこみたって、あんた他人の世話してたじゃない
チェニスをカバーしたときだって、自然に体で盾になってた
もう少し、自分を大事にして人生楽しんでも損しないと思うよ」
「・・・この件が終わったら、少し考えて見ます
でも、色々私の事考えてくれて、見てくれて、ありがとう・・・」
「それが指揮官の務めよ。お礼はいらない
さて、門で入退のチェックがあるだろうから、お喋りはお終い」
話している間に門に到着したので、チェニスが先頭で門に近づく
どうやら話は既についているらしく、チェックらしい事は行われず
通行許可が出たので、そのまま素通りする
「チェニス、馬とか借りられない?」
「ああ、ここからアルムの村まで徒歩は時間がかかる
馬車を用意してあるので使ってくれ
私の馬の中では一番長距離に強いやつだ」
「じゃあ、ちょっとだけ楽させてもらおうか」
ということで、馬車に全員で乗り込んでブラックホークを目指す
すぐにブラックホークを降ろして偽装してある場所に到着したので
停車と下車を指示すると、チェニスが疑問だらけの表情になる
「こんなところに馬車を止めてどうするのだ? 酔ったか?」
「乗り換えだよ。馬車の人間には口止めしっかりしといてね」
「何のことだかわからぬが・・・この馬車は私の個人所有だ
中で何があろうが、何処にいったか、そういうのは漏らさぬよ」
「それは結構。レミリア、右側の固定具解除して
私は左やって機体の外装チェックするから
あんたは固定具の解除終わったら車止め回収して
キャビンにお客を案内してベルトとメットつけさせといて」
「はーい!」
レミリアと私が偽装ネットを固定しているワイヤーと楔を取り払い
偽装ネットを収納してブラックホークが姿を現す
機体周りをぐるっと一周して目視と紫外線探査でチェックする
異常は特にみられないので、ローターとテールローターもざっとみるが
特に問題らしいものはない。朝露でちょっと濡れてるくらいだ
レミリアは呆然としているチェニスを最初にキャビンに誘導し
青い顔でガクブルしてるバルロイとザロス君をつついて乗り込ませる
全員がシートベルトとヘルメットを適切に着用したことを確認した
レミリアはキャビンから操縦席に移動して左の席につく
私はちょっと気になる近くの木の枝を伐採してから、機長席に着く
「レミリア、離陸から着陸まで全部任す。疲れてないなら、だけど」
「やりたいです! やらせてください!」
「チャレンジ精神旺盛で素晴らしい。ただし帰りは、王族の方がいるので
いかに揺らさず、いかに急加減速で不快適にしないかという
どれだけ丁寧に綺麗に飛ばせるかを採点項目とする。頑張ってね」
「はーい! がんばりまーす!」「うぃっ-!」
何、ハリネズミ君、君の定位置、私の左肩になったの?
てかそこで叫ばれると、めっさうるさいんですけど?
てかそこだと何かあると転がってすっ飛ぶから困るんですけど?
仕方ないので、ナップザップをインベントリから取り出し
そこにハリネズミ君を突っ込んで頭だけだして
キャビンの席にナップザックをおいて、ベルトをして誤魔化す
まあ、戦闘機動したらすっとぶよね・・・しょうがない・・・
レミリアがエンジン始動のシーケンスを開始する
ターボシャフトエンジンの稼動音が高まるにつれて
振り返ってみたキャビンの乗客の顔色が悪くなるのが面白い
チェニスだけが、何が起こるかわからない現状に
不安と好奇心の織り交ざった表情で、窓の外を見ていた




