束の間の休息
「それでさチェニス、外の様子は?
この空間、何らかの衝撃に対する防御措置が施されているらしくて
振動センサーの効率が悪くて外の様子がさっぱり分からないのよ」
キャタピラを工具を取り出して外しながらチェイスと話していると
ハリネズミ君は腹ばいのような姿勢でじーっとこちらを見ている
「手勢の者からの連絡も数度あって大体は分かるのだが
どうも衛兵の一部がワグナーと繋がっていたらしい
現在は近衛が出て市街地の数箇所で鎮圧を行っている
例の幻影の隊列は突然消失したらしいとの報告も来ている
次の報告で市街地にあまり脅威が無いようならば
レミリア嬢とザロスを連れてそちらと合流しようと思っている
アルムの村に急がねばならぬのだろ?」
このピン硬いな・・・抜けない・・・
おもいっきりハンマーでキャタピラを止めているピンを叩いているのだが
長年整備していない所為なのかうんともすんともいわない
面倒なのでブラストナックルを押し当てて振動を与えて緩ませる
「残してきた兵力で対処可能だとは思うけどね。てかそこ聞こう
アルベルト、状況を報告しろ。音声通信でいいわよ」
「こちらは特に変わったことは御座いません
村人の皆様が食べ過ぎて胃もたれを起こしている程度でしょうか?
UAVは哨戒第一ペアと第二ペアを交代させました。既に補給再配置済みです
避難施設の警備はユミア、サーラ、パノン、アエルに任せております
私は地上に出て村周辺を警戒移動中で御座います」
「新たにUAV2機を要請して、ニルン村に派遣して
今から派遣すれば先に送り出したペアが時間制限になる前にカバー入れるでしょ」
「畏まりました、そのように手配致します」
おし、キャタピラとれた。あとは反対側のをっと・・・・・
「しかしランバートン殿の道具は恐ろしいな、王都とニルン村で話が出来るのか」
「よく電波が届くなという疑問は私もあるんだけどね
ただ私がいた世界の仕様だと、通信の中継施設なしでできちゃうからね」
「言葉の意味がよくわからないが、凄まじい力なのだけは理解出来る」
おし、反対側もとれた。あとはまあ、念のために・・・・
上のハッチは開かないな・・・車体底面か?
お、当たりだ。緊急脱出口が一個ずらせるわ
中は・・・かび臭いとか埃っぽいとかが無いのが不思議だけども普通か
ごそごそ・・・よし、操縦手の席はここか・・・アクセルとブレーキの下に
このインゴットを・・・ちと長いな切るか・・・よし、はいったジャスト
えーっと瞬間接着剤はと・・・お、業務用のみっけぺたぺた・・・
あとは脱出ハッチの上に鉛のインゴット貼り付けて、出てから戻せばいいか
下から仰向けの状態で200キロの重しのっかった板なら
そう簡単に開けられないだろうから物理的に封印できるだろこれで
「チェニス、信頼できるやつを教会の入り口に回してくれない?
拘束されていた市民と教会関係者が42人
ワグナー、その副官、それと手勢が35人
これを移送するための人員を派遣して
市民は大丈夫だと思うんだけど、教会関係者にはたぶん内通者がいる
あ、あとさ、その近衛がくるときに35人分の服もってこさせて
ワグナーの一味、なんか仕込みあるといやだから全部脱がしてるんだわ
まさか全裸の大行進ってわけにもいかないでしょ?」
「それに何の問題があるのだ? 叛徒に尊厳も何も無いであろう?」
「・・・いや、まあ・・・それでいいならいいけど・・・後悔しないでよ?」
ワグナーの裸体の酷さはもうなんというか、思い出したくないレベルなんだが
まあ、王子様がそれでいいって言うならいいんだろ・・・・
「もうチェニスに村に来てもらう必要なくなったじゃない
ワグナー軍が越境してきたら文句なしで叩ける状態になってるから
なので教会前で合流して、そこで解散にして私達は村に戻るわ」
「もう一つの確認ごとがあるので私も村に行くぞ?」
「それ建前だよね? チェニス酒飲みたいだけでしょ?」
「ソンナコトハナイ」
「まあそこは合流してから話そう。兎に角急いぎで
この77人をなっがい階段を登らせて地上に連れ出して
拘置所なり刑務所に移送するための人員を送って
その中にまた裏切り者とかいるとやだから、人選気をつけてよ?」
「わかった、すぐに手配するのでしばらくそこで待っていてくれ」
通信を終えてやることがなくなったので、バルロイのところに戻る
ハリネズミ君も、ぽてぽてころころと後を着いて来る
「バナナもらったのにお返しもしてなかったな・・・なんか食べる?」
ハリネズミ君に聞いてみると、顔を上下にふって肯定の意思を示した
ハリネズミって何食べるんだろ・・・虫? みみず?・・持ってないな
自然界の生物だか・・・いや聖獣か・・・まあでもバナナもってるなら
果物なら食べるだろ。自分が食べないものは相手に出さないだろ・・・
そういう結論に達したので、リンゴ、イチゴ、ミカン、モモを出してみる
差し出すと猛烈な勢いで食べ始め、目が少し大きくなって耀いていたので
どうやらお気に召したらしい。ミカンやモモを皮ごと食べるのはあれだと思って
剥いて出してやると、ぺこぺこお辞儀をしてから両手でもって噛り付いていた
「おいレイラ! なんかいい香りがするぞ俺の「いいから先に仕事しろ!」」
ここ惑星オイーヌとかって星だろ? なんでこんなに匂いで反応すんだよ
この世界の住人の食に対する好奇心というか執着はなんか凄くて呆れる
いやまてよ・・・それを逆に利用すればいいのか?
インベントリから日本酒で香りがフルーティーでいいやつを取り出して
蓋を開けてコップに注いで一杯やる。予想通りバルロイが反応する
「レイラそれ酒だろ! すげーいい匂いがする絶対美味いだろおい!!」
「仕事したら飲ませてやる。それまでに残ってればいいんだけどね・・・」
それからバルロイは、今までのダルそうな態度が嘘のように、きびきび仕事した
というか、私がこの世界に来てから見たバルロイの動きの中でも、最も早く仕事した
ローブ男どもの身体検査と拘束を終え、市民と聖職者の尋問だけになったところで
バルロイが手を差し出してきたので、おちょこで一杯だけやった
かなりお気に召したらしく、即座に杯をつきだしてきたが
「まだ仕事のこってんでしょ? 今のは先払いのサービスだよ?」というと
何やらぶつくさと魔法を拘束されている市民と聖職者にかけていった
「バルロイ、それ何してんの?」 ぐびぐび
「邪なる心を探知する魔法の亜種だな。一応、俺とミレイヌしか知らないやつだ
元の魔法は聖職者が異端の扱いがあるやつに使うやつ・・・おっと反応だ」
皮肉なことに、その魔法に反応したのは聖職者だった
服とか飾りから下っ端には見えない
「こりゃ面倒そうだな。上級司祭だよ・・・俺だと尋問権がないな」
「私なら?」「・・・お前って法程度で止められるのか?」
「失礼な」「女神の使徒としてなら、お前はあらゆる法と権利を無視できるがどうする?」
「私はただのOLで糞女神の使徒になるつもりはないのでパス」
「そう言うと思った。ところでOLってなんだ?」「暇があったら説明する」
結局、その魔法に反応したのは恰幅がいい高級司祭だけだったので
これは騎士団か城の偉い人が来るまでなんもできん、という事になり
約束どおりにおっさんに日本酒の瓶とコップを渡して手酌で飲ませる
私は夕食だのなんだのをきっちり食べてないし、鱒の押し寿司も
チェニスとバルロイに奪われて食べていなかったので、食事にすることにする
まあ、反応炉の反応材は十分にあるし、キャパシタにも十分備蓄はあるが
人間から引き継いだ生態部分である脳と神経系に栄養は与えなければならない
手軽に簡単に何か食べられるものないかと考えて、あれを思い出してしまった
インベントリからそれと水を取り出して、蓋をあけて水をどぼどぼいれる
底についてるパーツを外して、そこに水をいれて付け直して紐をひく
しばらくするとごぼごぼと音をたてて湯気が立ち始める
ゲーム内オリジナルアイテムの、水で出来るカップラーメンだ
「レイラ・・・その恐ろしく美味い匂いがするのはなんだ?」
「私は酒のまないでこれにすんだよ。バルロイはもう飲んでるでしょ?」
「俺にもそれをくれ」
「やめといたほうがいい、バルロイの育った文化だとこれは楽しめない」
「どういうことだ???」
面倒臭いが説明しないと納得しないよねこれ・・・・
「これはラーメンっていって、味付けがこいスープに入れた麺を食べるんだけど
啜る って行為がいるんだよ。食文化的にバルロイの生きてきた環境だと
たぶんその行為は 下品で恥ずかしい事 として躾られてきたはずなのよ
なので、バルロイが食べても、ただ味付けが濃いスープパスタでしかない
ラーメンは麺とスープと香りを一緒に啜って食べるもんなんだよ
ま、インスタントはそこまで意識して食べるようなもんじゃないけどね」
「なんか難しいな・・・でもやってみたいのでくれ」「はいはい、分かりました」
仕方ないのでもう一個つくる。先にできたのを見本で食べる
箸という道具で食べることにまず驚かれた
そして盛大に音をたててすすってドン引きされたが
音をたてて食べる度に、辺りに広がる香りでさらに興味を引かれた
というか、拘束したままのローブだの市民だの聖職者が
転がったり、這ったり、何か宗教の修行のように飛び跳ねたりして
こちらを包囲するかのように集まってくる。お前らもかこのオイーヌ星人め!
現実ではスープは涙と一緒に捨てる派だったけど、この体じゃ太らない
最後の一滴まで美味しく頂いてゴミをリサイクルボックスに格納する
「って感じ。まあ、スープは塩分多いから飲まないほうがいいかもだけどね」
「美味そうなんだが・・・この箸って道具をレイラのように使いこなせそうにない」
「あ、そっか。じゃあ、フォークあげる」「助かる」
バルロイは一生懸命真似してすすろうとしたが、はやり上手くいかない
半分くらいまできたところで、何かコツをつかんだらしく少しずつ出来るようになる
食べ終える寸前くらいにきちんと啜れたようで、その瞬間なんか表情が変わった
そして忠告を無視してきっちりスープまで飲み干して、最後はフォークまでしゃぶった
「レイラ、冗談抜きで、お前の出す食い物は世界制服を出来る可能性がある」
そういってバルロイは、満足そうな表情を浮かべて飲酒の続きを始めた




