異世界おっさん昔話 1
寒空の下に、折り畳みテーブルと椅子を出して
おっさんと向かい合ってサシで飲んでいる
文明レベルが低いので、夜になると本当に真っ暗になる
光が少ない所為で空は、星星の輝きで埋め尽くされている
元の世界ではよほどの未開地にでも行かなければ見れない夜空を肴に
おっさんとプレミアムビールをちびちびとやる
「このエールは素晴らしいな。この前のは飲みやすさでは上だが
この体に染み込むコクがあり豊かな味は、本当に素晴らしいな」
「この前のはアメリカって国ではポピュラーな銘柄でね
殆ど、水代わりに飲むような代物らしいよ
今飲んでるのは私のいた国のビールで、ちょっとお高い」
匂いが強い摘みを出すと、眠り姫+眠り王子が起きてきそうなので
何かないかと探してたら、バターピーナッツのパックがあったので
おっさんにガフ家から皿をもってきてもらってざーっとあける
「これシンプルだけど美味いな。バターと塩気がいいバランスだ」
「お摘みの定番の一つだからね。私あんま食べないけど」
「なんでだ? 嫌いなのか?」
「嫌いってことはないんだけど、チーズの方が好きなのよ」
「ほう、レイラはチーズ好きか。今度美味いのを食わせてやるよ」
「おっさん、チーズ作るの?」
「いや、俺じゃない。俺の妹の嫁ぎ先が酪農をやってる」
「なるほどね。期待してるわ」
ちびちびとやっていたつもりだったが、実際はかなりハイペースだった
既に一人あたり3本の350ml.を空けている
さすがに同じものをこれ以上連続はつまらないので
今度はプレミアムブラックを出しておっさんにも渡す
「今度のは黒いな。これはコクがさらに強くて濃いな」
「肉料理とかとは個人的にはこっちのほうが合うかなって思う」
Call to Stormは一部感覚接続型のオンラインゲームだ
その為か、異様な程に食材と食料品とメーカータイアップの飲食物
これらのアイテムがゲーム内に大量に溢れていた
一部感覚接続で完全再現ではなかったのだが
かなり現実に近い、味、匂い、食感はゲーム内でも楽しめた
その仕様の所為で違う世界に飛ばされても、食に関しては不満がない
ただ、口以外の触覚については感覚接続対象外であったのに
先程試したスリーピングマットやシュラフに簡易ベッド
これらがきちんとした寝具としての性能を持っていたことに疑問を覚える
まさか、異世界への転移、転生を目的として初めからデザインされていた?
そんな違和感がふと、頭の片隅を過ぎった
「どうした。何か考え事か?」
「あ、うん。ちょっとこの世界に私がなんで来たのかなって考えてた」
「女神か邪心の気まぐれなのかもしれんな。ま、俺はそれに感謝するが」
「美味い酒が飲めるから?」
「それもある。だがそれ以上に、ガフが笑えるようになったからだな」
「飯作って食わせたくらいしかしてないけどね・・・・」
おっさんはビールをちびちびと飲んでいたのに、ぐいっと一気に煽る
私も合わせて残りを煽ると、ウィスキーの炭酸割りの缶を出して渡す
「ん? これはさっきのと違うな。香りは強いが悪くないな」
「強いお酒を炭酸水で割って、あとレモンの果汁も少し入ってるかも」
「ガフはな、オルムが死んでから。ずっと偽りの笑顔を貼り付けてた
俺があんたくらいしっかりしてたらな、そうならなかったのかもしれない」
「ガフ君って何歳なの?」
「今年で13になるな。あと3年で成人だな」
「今12歳か。大体予想あってたか・・・でもその年齢で村長か・・・・」
「村長ってのだけが問題じゃないんだ。ガフはニューラルの因子を持ってる」
「何それ? ニュートラル?」
「違う、ニューラルだ。ミレイヌの祖先がそういう種族でな
環境や強い意思に応じて、性別を変えることが出来る」
「さすが異世界だわ。私の世界じゃ絶対ありえないわ」
「さらにもう一つあんだよ。オルムの先祖が獣人でな
その血も入ってるもんで、感情が高まると体にその影響が出る」
獣人・・・じゅうじん・・・けものびと・・・まさか・・・・
「おっさんまさか、ガフ君って・・・犬系のそういう因子が???」
「見破られていたのか。そうだ、ガフにはその因子がある」
癒し系わんこ少年・・・ガチでそうだったのか・・・・・
いやまて、つまりだ・・・・・ガフ君が興奮すると・・・
尻尾生えたり・・・耳出たり・・・モフモフフワフワ・・
いやでもバード系もあったしドラゴン系にもなったな?
「鳥とかドラゴンの獣人の因子もあったりする?」
「いやー・・・さすがにそんなもんは無いとは思うが・・・
ガフの場合、無いとは言い切れないのが難しいところだな」
「あり得るってこと??」
「オルムもミレイヌも、相当な数の混血の末に生き残った一族なんだよ
オルムは獣人の混血の末に、人族との和解のために人族と交わった一族の末裔
ミレイヌはニューラルがエルフとの和解のために交わった一族の末裔なんだが
どちらの先祖も、血みどろの種族間抗争を収めた一族の末裔でな
和解のために、かなりの混血が進んでてな。平和の礎なんて呼ばれた一族だ」
「もしかして、二人の故郷って前にいってた、レインミスト公国?」
「当たりだ。二人とも部族長の長子でな、和解のための婚姻の道具にされた
で、婚姻の儀の当日にだな、二人で共謀して逃げ出したわけだ」
おっさんの機嫌がよくなってきて、話のペースが上がってきた
追加の酒はいるかと聞いたら、最初のエールがいいというので
ビールの追加とスモークサーモンのパックをだして開ける
「なんだ、やけに気前がいいな? おっと、これは俺の好物のオレンジの魚か?」
「あ、おっさん鮭好きなんだ。まあ、聞きたい話は金払ってでも聞くべし
って私は思ってるんでね。この世界の知識としても、ガフ君関連の話としても
どっちとしても聞きたいし、聞いてて面白いから気前もよくなる」
「これは美味いぞ、とてつもなく美味い。燻してあるのかこれ?
燻されたことで風味がさらによくなって、これは最高の摘まみだな」
「あんまり美味いって言ってると、たぶん腹ペコボーイとガールズが起きて
一瞬で全部奪われて食べられなくなると思うよ」
「そりゃいかんな。匂いがあっちにいかないようにと・・・・」
おっさんがガフ君が玄関を開けたときのように、ブツクサいって魔法を唱える
すっと風が吹き始めて、おっさんから私の方に微風が吹いてくる
「これでしばらくあっちに匂いは行かない。本来は斥候の時に
相手の風上にしか位置取り出来ないときに、匂いを隠すために使う」
「才能の無駄遣い感が凄いわねこれ。お摘み死守のために魔法まで使うか」
「これで摘まみは安全だ。でだな、二人はそのまま一緒にこの国まで逃げてきて
持ち出した金も無いわ、仕事もまともにつけないわで、冒険者になったわけだ
元々、戦乱が日常的な地域に住んでいたので子供の頃から鍛えられてた二人は
順調に依頼をこなして恐ろしい速度で昇格していったわけだ」
「そこわからんわ。結婚するのが嫌だったから、逃げ出したんでしょ?
なんでその二人が一緒に行動してるわけ?」
「違う。部族のために結婚するのが嫌だったわけだ
二人は逃げてる途中に、こいつ結構面白いじゃんと、普通に恋愛関係になった」
「それ多分に、つり橋効理論が入ってると思うんだよね・・・」
「なんだそれ? つり橋理論?」
「極度の緊張状態で行動を共にした男女は恋愛感情をを抱きやすいみたいな理論」
「それは良い事を聞いた。今度女性に告白する時に使わせてもらおう
でだ、躍進を続けるオルムとミレイヌだったが、ある日トラブルを起こす」
おっさんは、そこで懐かしむような眼差しで夜空を見上げてから
「俺が宿の部屋で湯浴みをしていたら、部屋を間違えたミレイヌが入ってきた
そして俺を変態と罵りながら、魔力を拳に纏わせて殴打してきたわけだ
俺は素っ裸な上に、突然の出来事に驚いて、とっさに動けなかったわけだ
もうあれは死を覚悟したよ。俺に馬乗りになって、意識が飛ぶまで殴ってきた
そこにオルムが帰ってきて、部屋間違いと俺の惨状に気付いて止めたわけだ」
おっさんの話で妄想力が飛躍し、腹筋が崩壊寸前になっていた
全裸のおっさんが「いや、やめて」と叫びながら押し倒され
世紀末覇者が女装したような筋骨隆々の女がマウントポジションで
無言のままごすごす殴り続け、悲鳴を上げるおっさんの姿を想像してしまった
今笑ってはいかん、ここで話が終わってしまう!
私は必死に笑いを堪えて耐えるのであった・・・・・・
筆者は飲酒不可能な年齢の頃から、一切お酒が飲めない体質なのであります
そのため、お酒を飲む事にとても憧れがあります
作品内のお酒の表現については、お酒が飲める周囲の人間から聞いた話を元にしています
実際に自分で飲んでいないため、これは違うという部分があるかもしれませんが、ご容赦下さい




