アルム村への帰還
昼食を終えて行軍を再開して1時間程度で街道に辿り着く
私がこの世界にきた時に出現したあの舗装されていない道だ
たった数日前にこの世界に来たというのに色々ありすぎた
肉体はフルボーグなので疲労を覚えることは無いのだが
やはり精神的な疲弊というものはどうしても発生する
頭のどこかで、しばらくベッドに篭って休みたいという考えが浮かぶ
だが現実はそれを許してくれないだろう。それも分かっている
「あともう少しだから、気を緩めないで頑張ってよ」
等と彼女達に声をかけて励ましながらも、そんなことを考えていた
村へと続く道の、最後の丘を登りきると、村の入り口に人影があった
ガフ君とバルロイのおっさんだ
ガフ君は私の姿が見えると、こちらに向かって走ってきた
「レイラさーーーん! レイラさーーーーーん!!」
あれ、ガフ君泣いてる? バルロイのおっさんはたらたら歩いてくる
ガフ君がそのままの勢いでタックルするかのように私に抱きついてきた
「僕レイラさんが死んじゃかとおもって、、、ひっぐ・・うぐっ・・・」
「いや、あの、生きてるし、おっさんから聞いてるでしょ??」
「うう、、、でも夜までかえってこなくて・・・
バルロイさんも今日のお昼までもどらないから・・・
レイラさんが死んじゃって王都に応援よびに・・うううっ・・・・・」
「ごめんごめんごめん、心配かけてごめんね。でもいろいろあったんだよ」
ガフ君、村長が新しい住民の前でそんな大泣きしたらあかんやろ
と思うものの、この少年にとっては不安でたまらなかったんだろうなと思う
ただ、なんというか・・・こんなに慕われて純粋に心配されて泣かれると
どう対応していいんだ? とさっぱり経験がないので戸惑うしかない
「ガフ君、取り合えずだね・・・おっさんから話を聞いてると思うけど
村の新しい住人になりたいという女性5名をつれてきているので、その・・・」
ガフ君の耳元に顔を近づけて小声で続ける
「男の子が近い年頃の女の子の前で泣いてるの見せるのは恥ずかしいでしょ?」
ガフ君が、ばっと私に抱きつくのをやめて後ずさり、袖で必死に顔を拭う
「すみません・・・お恥ずかしい所をお見せしました・・・・」
気まずそうにガフ君は、私の後ろにいる5人に軽く頭を下げる
彼女達は微笑んで首を振ったり手を振ったりして問題ないと示していたが
レミリアだけは、好奇心旺盛な目でガフ君をガン見していた
「ガフ君だっけ? じゃあ、お姉さんが良い子良い子してあげよう!」
レミリアはガフ君に近づいてグワバッと抱きつくと
ぬいぐるみでも抱きしめるようにして、なでなでしはじめた
「え? ちょっと!? 何?? 誰です貴方!?」
「いいからいいから、私が良い子良い子してあげるから♪」
「いや、え? 恥ずかしいですからいいです! れ、レイラさん助けて!?」
「レミリア・・・あんたとんでもないことしてるわよ? ガフ君は村長よ」
「え?・・・・えええええええええ!?!?」
レミリアより先に反応したユミアが、レミリアをガフくんからひっぺがす
「アルム村の村長様とは存じませんで、妹が大変失礼を致しました!」
ぽかーんとしているレミリアに拳骨を叩き込んで、ユミアが詫びをいれる
レミリアも拳骨を叩き込まれた頭頂部を押さえながら、頭を下げる
「あ、いえ・・その、僕が恥ずかしいところを見せたのが原因ですから・・・」
「ほんと、レイラ関連だとガフはお子様に戻っちまうな。ワハハハハハッツ」
ゆったりと歩いてきたバルロイのおっさんが笑いながら近づいてくる
私はおっさんに敬礼をしてから、声をかける
「おっさん、先行ご苦労様。避難所からの帰還で問題とかは?」
おっさんは私の敬礼に戸惑い、真似て敬礼を返してから
「何人か転んだなんてのはあったが、いい訓練になった程度だな
1日ちょい分の農作業だなんだがとまってるが、この季節だから問題ないな」
「経済的損失が出ているなら、支援できる限りのことはするから言ってね」
「あんだけの魔物を食い止めたあんたに、これ以上の負担はさせられん」
「私は既に正式に村に雇用されてる。だから遠慮はいらないからね」
「いや、今は本当に問題がない。ただ今後を考えて幾つか頼み事はある
だが、それは今すぐって問題じゃない。あんたも少しは休むべきだ」
「それもそうね。とりあえず、ここで話してても先に進まない。村に入ろう」
「ガフの家で茶でも飲んで休もうぜ。レイラ、俺にはあのエールをだな・・・」
「バルロイさん! もしかしてレイラさんと一緒の間にまた新しい食べ物を!」
「ほら、ガフ君行くよ。日が暮れる前に家の問題とか話すことあんだから」
「あ、はい。そうでした、そこらへんをお話しないとですね」
全員でてくてくと村にはいってガフ君の家を目指す
村で作業やら掃除やら荷物の運びいれやらをしていた村人達が
私にむかって手を振って「あんたよくやってくれたね!」等と声をかけてくる
曖昧な笑みを浮かべて手を振ったりしてやりすごしていく
ガフ君の家に着くと、初日にようにガフ君が魔法で鍵をあけて迎え入れてくれる
ガフ君が「お茶を入れますので」といって暖炉にかけっぱなしのポッドをとる
バルロイのおっさんが、勝手知ったる他人の家という感じでカップを取り出す
「今回はマジ疲れたわ・・・おっさん、今夜は飲もう、付き合え」
「おう、徹夜であの美味いエールを飲み明かそうじゃないか」
「いや、もっと良い酒あんだけど?」
「よし今から飲もう!」
「あほ、その前に済まさないといけないことあるでしょが」
「ガフに状況の説明はしといた。ガフ、村長として自分の口で伝えてくれ」
ガフ君は自分の席に戻ると、少し喉を鳴らして声を整えてから
「ニルン村の生き残りである皆さんを、アルム村は喜んで受け入れます
身分を隠す必要もありません。ワグナー伯爵には僕から伝えます」
ユミア、サーラ、パノン、アエル、レミリアが驚いて声を上げる
私も予想外の答えに、「え?」と素っ頓狂な声を上げてしまった
「まてまてまて、ガフ君待ちたまえ。それじゃあ問題があるでしょ?」
「いえ、この国の王法で解決できます。難民の受け入れです
バルロイさんがゴブリンの討伐についてはギルドに報告を行った上で
レイラさんが討伐証明部位の提出と、一部個体の提出を行って下さい
この近辺にアーミーゴブリンという強大な脅威がいたと証明されます
ワグナー伯爵には、脅威は討伐した事を伝えた上で
寄子の私兵が逃げた事は口外しないでおくから難民の受け入れ許可を
正規に手続きして下さいと取引を持ちかけます
それで駄目なら、僕が王都に全てを報告すると少し脅します」
「俺もな、ガフがここまで思い切った決断をするとは思ってなかった
だがまあ、話を聞いてな・・・ガフがかなり怒っちまってな
領民を守る為に普段から税を取っているのに、それを見捨てて
自分の身の安全を図る奴なんて許せない ってな」
「そうだよね・・・ガフ君のお父様はそういう背中見せてきたんだろうし」
はあ・・・しくじった。ガフ君に負担をかける結果になってるこれ
この子にだけは迷惑とか負担かけたくない・・・どしたらいいんだろ
「ただな、この線で進めると、最悪は決闘での解決になる可能性が高い」
「決闘? まさか、ガフ君とそのロリコン伯爵で???」
「ロリコンという言葉の意味がわからんが、本人同士でやることはない
代理人を立ててやるから、あちらはお抱えの筆頭騎士が出てくるだろな」
「こっちはおっさんが?」
「俺でもいいし、レイラでもいい。レイラが出れば楽勝だろうな」