偽善と現実
5人の被害女性に現状を説明し、落ち着かせ、再び眠りに就かた
その作業を終える頃には、日は完全に落ち、気温も下がり始めた
電気ストーブを作動させて室内の適温を確保し
野営用のLEDランタンの橙色を取り出して
弱モードで起動させ部屋の何箇所かに配置していく
精神的疲労で夕食を作る気力もないので
インベントリからブロックフードのパックを2つ取り出す
おっさんの傍にいき、小声で夕飯にしようと伝えて
室内におっさんを入れて入り口付近においたテーブルに腰かける
「本当にお疲れ様だ。正直に言うが、あんたを尊敬したよ」
「さてねどうだろ・・・私がしたことはただの偽善で
彼女達のこれからは地獄の苦しみかもしれない
それに彼女達が完全に納得して理解したかも分からない」
「少なくとも、俺よりは余程ましだろうな
俺は殺してやることが唯一の救いだと思っていた
助ける手段があって助けられたとしても
あんたのように、冷静に、相手の立場になった対応が出来たか
泣き叫ぶ彼女達に何も出来ずにうろたえるだけだっただろうな」
ブロックフードのパックを机の上に置き、一つをおっさんに渡す
開け方が分からないであろうから、最初に私が梱包を開け
中にあるアルミパックにくるまれたブロックフードを引き出す
インベントリからペットボトルの緑茶を取り出し、それも渡す
「でかい音を立てるわけにも、匂いを出すわけにもいかないので
申し訳ないけど、今夜はこの栄養だけは満たせる食べ物で
味気もないし腹も満腹にはならないだろうけど、我慢してね」
「冒険者なら辛うじて食える程度の味の携帯食に慣れてる
そういう心配はして下さんな」
二人でもそもそとブロックフードを食べ、緑茶で流し込む
「なあ、これであんたには味気がない食事なのか?
確かにあんたの食事としては絶叫するほどの美味さではないが
十分に美味いし、この透明な軽い入れ物の茶も美味い
本当にあんたのいた世界の生活ってのは、贅沢だな」
「まあ、これは時間がない人や、登山をする人が食べる食事かな
一応これでも、一食分の十分なカロリーはあるので
エネルギーの補給と栄養バランスは数値的には完璧よ
ただまあ、味がね・・・食事というよりはオヤツよね」
「ああ、それは同意するな。ただ、恐ろしく高級な菓子の味だがな」
数分でブロックフードの夕食は終わる
残った緑茶をちびちびと飲みながら、黙ったまま時間が過ぎる
ふと、寒さを覚えたので室温を確認すると、12℃を示している
追加でもう一台電気ストーブをだして、おっさんの後ろにおく
バッテリーにつないで作動させながら、バッテリー残量をみる
さすがに軍用通信機や灯光機を作動させる容量があるだけあって
ストーブを数台作動させた程度では問題がないレベルのようだ
「俺のことは気にしないでいい。あんたが暖をとってくれ」
「私こそ問題ないのよ。寒けりゃ反応炉の出力上げればいいし」
「なんだそれ?」
「私は体の中に、太陽みたいなもんが4つ入ってんのよ」
「あんたの場合、冗談なのか事実なのか分からんのが怖いとこだな」
おっさんは苦笑してから、残りの緑茶を飲み干す
新しいペットボトルを出しておっさんに渡そうとすると
手を振って断られた
「飲みすぎると用足しが近くなる。便所もここにはないからな
明日の出立予定までは、なるべくそれも控えないと匂いがな」
「夜の見張りは私がやる。おっさんは明日に備えて早めに寝て」
「おいおい、そりゃ2交代でやるべきだろ?」
「いや、私も寝るよ? 寝ながら見張るから問題ないのよ」
「あー・・・あんたなら出来そうだなそれ。ただ、気分的に寝れそうにないがね」
「プロならそこは自分でなんとかして。私は例の物資回収してくるわ」
「了解だ。しばらくここは見ておくから気にすんな」
おっさんからゴミを受け取って部屋を出て
金品が蓄えられた部屋に向かう
明かりが無いのでLEDランタンを取り出して床に置く
グーデリアン君の再起動予測をみるとあと2時間ほどかかる
人格ルーチンに致命的なエラーが出ると、再起動にかかる時間は長い
グーデリアン君がいないと、高演算単機能AIとしてしか機能しない
せいぜい、精度がいいFCS程度の機能しか発揮しないのである
私の好みに合わせたイメージ映像補正をするが今の状態ではできない
そのため、AI補正暗視イメージ映像モードが使えない
仕方が無いので基本に戻り、光源を配置して確認するという形になる
「通貨は材質ごとに刻印の統一性がある。この国の通貨っぽいわね」
積み上げられた貨幣を大まかに確認して
インベントリから収納に適した箱を取り出して仕分けして入れていく
同じようにインゴットは種類ごとに分別して格納する
宝石類はよくわからないのでおおざっぱに一まとめにする
武器か、防具かで武具関連はおおまかにわけて収納し
よくわからないものはその他扱いにして分別する
全体で2トン近い重量の物資を仕分けしてインベントリにしまうと
念のために室内を振動センサーと光学センサーで再度調べる
隠し部屋等があるかと思ったが、特にないので通路に出る
次はデカいゴブリンがいたあの部屋に戻る
バルロイが倒したソルジャーゴブリンの死体が3
バルロイすら名前を知らない謎のネズミ顔の人型死体が1
レイラが倒したメイジャーゴブリンの死体が1
これらをどう処理するか考える
ネズミ顔の謎の個体は、バルロイが言うには魔法を使ったらしい
バルロイによると、これは新種の魔物の可能性があるとのことなので
エイリアン用だが魔物にも恐らく使えると考えて
サンプル採取用の保管カプセル(中)を取り出す
ネズミのような頭をして、人間のような体をし
手足は妙に指が発達して長い奇妙な個体をカプセルに格納する
メイジャーゴブリンも貴重な個体で死体ごとの買取があるらしいので
頭部に大きな抉れがあるが、これも保存カプセル(中)に格納する
ソルジャーゴブリンもいくつかは死体ごとあると金になるらしいので
こちらはボディーバックを3つだして格納する
インベントリにしまえば劣化は止まるので、全て死体袋で問題ないのだが
なんとなくゲームの癖で、貴重な個体は保存カプセルにという
習慣的な行動が無意識で出てしまっていた
「現実でも、ゲームの世界でも、こっちの世界でも
がめついほどに金になるものは極力集めるのは変わらないか
どの世界でも、なになにの沙汰は金次第なのは変わらないんだろな」
一連の作業の目的を考え苦笑して、自虐的な独り言を漏らす
「全ては生きるため、全ては明日へのため
そして生きることにとって一番大事なのは
おいしいごはんだ」
レイラは通路に出ると、洞窟の入り口に一番近い兵舎部屋に向かった




