バルロイの決意とお片付け
一瞬にして空に飛び上がり、着地するとまた飛び上がる
しばらくするとそのまま地面を馬よりも早く走り出して視界から消えた
俺は視界から消えたレイラのことを頭から振り払い、ガフの肩に手をかけた
「ガフ、時間がない。今から話すことを急いでやってくれ
まず、櫓に登って警報を鳴らして村人を全部集めるんだ
集まったらアーミーゴブリンのことを告げろ。慌てさせないようにだ
それから食料だけを持って例の避難所に全員で移動するんだ
体が弱い者や子供が脱落しないよう、お前が見回りながら移動するんだ
いいな、分かったな?」
「え・・・あの、バルロイさんはどうするんですか??」
「俺はあの女を追う」
「僕も行き「駄目だ!!」」
「お前は村長だ。村の住人に対して最後まで責任を持つ必要がある
俺はあいつを追いかけはするが、駄目な場合はすぐに王都に向かう
ただ逃げるだけならワイバーン相手でも逃げ切ったことがある
だからあいつが駄目だったら必ず応援は呼んでくる
それまで、絶対にあきらめるな。避難所の入り口を固めて耐えろ
いいな、村長?」
最後にガフではなく、村長といったことはズルイのは分かってる
そういえばガフは、父から託されたこの村を意識することは分かってる
すまない、ガフ。でもそれでも、俺はあいつを死なせたくない
1日に満たない付き合いだが、俺はどこかであいつを気に入ってる
「ああ、それとガフ。力がある男衆には水樽を運ばせろ
一応、避難所内に水源はあるが、量が少ない
篭城して助けを待つには食事を水で増やす必要がある
それじゃあ、頼んだぞ村長」
「わかりました・・・僕は僕の責務を果たします
だから、バルロイさん・・・約束してください
必ず無事で帰ってきて下さい
出来れば、レイラさんも無事につれて帰ってきてください」
「アルムの名にかけて誓う。約束する」
「どうか、お気をつけてバルロイさん!」
「ああ、お前も急いで怪我せずがんばれよ!」
俺はガフに背を向けると、肉体強化魔法を唱えた
≪Accele Boost≫ ≪Speed Boost≫ ≪Toughness Stamina≫
一気に3種の強化魔法をかけたので、急激に魔力を失う
酷い痛みが頭を襲うが気合で痛みを無視して
レイラが消えた方向へ走り出した
《久しぶりの全力だ。なまっていた体が悲鳴をあげてやがる
オルムが死んでから今日まで、俺は腑抜けていたんだろう
ワイバーンから皆で逃げた時は本当にきつかったな
あの時も3種強化をかけて俺が囮になったな
まさか2日も走り続ける羽目になるとは思わなかったけどな》
ただ、あてもなくレイラが走っていった方向に向かって
己が今出しえる全力をもって走り続ける
ただ走る、肉体の限界を維持して走り続ける
ただそれだけの事なのに、気持ちがすっきりしていく
《こんな簡単な事も俺は忘れていたんだな
楽しかった日々や充実した日々を思い出すと
あいつらのことを思い出すから、それが苦しいから
忘れたことにして、俺は自分が傷つかないように
今から逃げ続けていたんだな・・・やっと分かった》
20分ほど走ったところで、風に含まれる微かな血の匂いに気づく
《遅かったか・・・・・・・・・》
レイラの血の香りが風に混じっていると思ったバルロイは
全力疾走を止めて腰を落として気配を殺し
血の香りの発生源だと思われる方向に向かう
そして少し盛り上がった地形を超えた先で見たのは
夥しい数のアーミーゴブリンの死体と
その死体の傍で、屈みこんでいるレイラの姿だった
《冗談だろおい・・・・・あれを・・・一人で倒したってのか!》
あたり一面に転がるアーミーゴブリンの死体
そして見た限りは無傷でいるレイラ
バルロイは戦慄した。一人の人間が出来る事じゃない・・・・
「んでおっさん、避難終わったの? えらい早くきたじゃない」
《気づかれていただと!》
「だからさ、おっさん。気配は殺してもさ、振動は消えないんだって
おっさんが空とんだとしても、空気は震えるんだよ
地面の上なら、走ろうが、歩こうが、匍匐しようが、振動でるの
だから気付かれて当然なんだから、驚いてないで出てくる」
バルロイは立ち上がると、平静を装いレイラの方へ歩き出した
「まさか本当に一人で倒しちまうとはね・・・恐れ入った」
「いや、倒しきってない。3匹逃して巣穴にご案内してもらってる」
「そこまで見事にやられると、俺は何を心配したんだとアホらしくなる」
「だからいったじゃん、私一人で倒してくるって
んでね、おっさんに質問があるのよ
こいつらの死体って、なんか換金素材になるようなもんある?
あとこいつらの装備品ってお金になったりする? 現金ないからさ私」
「ああ、右か左の耳を持っていけば冒険者ギルドで討伐報酬は出るぞ
一匹のから左右の耳をとって2匹と報告してもバレるからするなよ
後は薬やら錬金の素材になる部位もあるらしいが、それは俺は知らん
人間で言う心臓の箇所には魔石があるから、それも金になるぞ
装備については鑑定しないと分からないが、すまないが魔力がない」
「なるほどね、耳なのね。耳は私でもできるか
あのさ、申し訳ないんだけど、気持ち悪いからさ
魔石っての取り出すの手伝ってくれない? 2割あげるから」
「あのなぁ・・・村を救ってくれた相手から受け取れるか
そんなもん礼なしで手伝わせてもらうさ」
「じゃあ、お言葉に甘えます。お願いします」
レイラは袖口からサイコナイフを取り出すと、8本を投げる
ゴブリンの死体の頭部をナイフが掠めるように飛翔して
右耳だけが次々と切り落とされていく
レイラはインベントリからトングとクーラーボックスを取り出し
切り落とされた耳を集めて歩きながら
右耳が見えてない死体の頭部を足で蹴飛ばして向きを変えていく
《なんだこの傷は・・・小さい穴が頭、胸、腹に開いてる
こんな攻撃の傷は見覚えがないな・・・突剣にしては大きい》
バルロイは死体に近寄り魔石を取り出そうと腰を屈めて
死体の傷の異様さに気付く
レイラがどのようにして攻撃したかを見ていないので
どうやってレイラがゴブリンを殲滅したのかが全く予想できない
《まあいい、後で聞けばいいさ》
腰から短刀を引き抜き、ゴブリンの胸に刃を当てて力を・・・
大して込めてもいないのに、短刀はあっさりと刃を沈ませた
《なんだこの切れ味は・・・まるでバターでも切ってる軽さだぞ!》
レイラに鍛えなおしてもらった元はダガーナイフは
信じられない程の切れ味だった
その上刃を引き抜くと、全くといっていいほど血がついていない
《あの女は本当にとんでもないな
料理の腕、鍛冶の腕、戦闘の腕、全部Sクラスで足りないレベルか》
苦笑しつつバルロイは作業を進める
量が量なだけに全ての魔石を抜き取るのに、30分程かかった
それでも今までに比べれば信じられない速さだ
道具の性能がいいということは、こういった作業にも影響する
実際に体験して妙に納得したバルロイだった




