ゴブリンと私とポンコツAI
Call to Stormの世界にはいくつかの独特な仕様がある
その一つが、インベントリに火器や弓等をしまった場合
装備されていたマガジン、弾薬、矢等は強制的に外される
つまり取り出したときに、すぐに射撃可能ではない
発射後使い捨ての攻撃力がある対戦車兵器やミサイル類は
取り出してから30秒は発射が行えないという仕様になっている
これはインベントリに大量の武器を保有するユーザーが
武器を撃ち切っては捨て新しい武器を取り出してまた同じことをする
この武器の短時間での出し入れでサーバーへの負担をかけさせない為と
装弾薬数制限のある高火力の武器を一方的に使い続けさせないための措置である
先ほど取り出したL67A1は、まだ弾が装填されていない
先ほど取り出しておいた催涙弾を5発を装填する
《グーデリアン、第一射撃で敵の先頭を狙う。照準指示任せます》
《了解です。イメージアシストモード起動》
目の前の丘の向こうに、半透明で表示されたゴブリンの集団が映る
振動センサーとドローンの情報を元に、合成されたCG映像だ
L67A1のストックを地面につけたまま前後左右に動かす
予想落下軌道の点線と予想着弾地点の赤い丸が
土くれの向こうのCG映像にリアルタイムで投影される
「射撃開始」
私はL67A1のトリガーを上から押し込むようにして引き
第一射撃の5発を銃口をずらして着弾位置を変えながら叩き込んだ
ぽん ぽん ぽん ぽん ぽん という間の抜けた音が連続する
一瞬、合成表示されたCGのゴブリンの群れが速度をさげる
聞きなれない音に警戒したのだろう
しかし何事もおきないので、そのまま行軍を続けようとしたところに
連続した破裂音と、そこから広がる白い煙
着弾した催涙ガス弾は、かなりの高度から放物線を描いて着弾したため
白煙をその身から噴出しながら、何度もバウンドして群れの中を転がる
「ギャァァァァァァ 目ガ 目ガァァァァァァ!」
「喉ガヤケル! ナンダコレハ タスケテ タスケテ!」
「息ガ デキ オェェェェェ クルシイ ダレカ」
先頭集団のあちこちで悲鳴がおきてゴブリンの隊列の足が完全にとまる
そりゃまあ、経験したこともない眼の痛みと喉の痛みに息苦しさに嘔吐
悲鳴をあげて驚くことでしょうよ。どこから攻撃されたかも分からないだろうし
ゴブリンどもが催涙弾で混乱している間に、腰を落として第二地点に向かう
低姿勢で地形の起伏を利用して移動したため、姿は晒していない
第二射撃も同じく催涙弾。ただし狙うのは敵の最後列
再び催涙弾を5発叩きこみ、着弾前に移動を開始する
今度の第三地点までの移動では、一部どうしても匍匐で移動しなければならない
そうしなければ姿を晒して発見される可能性があるからだ
《帰ったら洗濯しないといけないわね》と考えている自分に気づき
戦闘における危機感がない自分に苦笑する
第三ポイントに移動すると、正面からみて左翼側に対して催涙弾を叩き込む
敵の、正面、背面、左翼に催涙ガスの影響エリアが出現したことで
敵は右翼側に逃げるはずだ
催涙ガスの影響を逃れるにはその影響範囲から離れればいいわけだが
視覚的にうっすらとでも、煙のようなものがある中を突破するには
その兵器に対する正しい知識が無い限り、本能がそれを否定する
あの煙に触れた味方が苦しみだした あの煙を少しすったら痛かった
そういった周囲の環境と経験から、催涙ガスの煙を本能的に避ける
予測どおりゴブリン達は、右翼側に雪崩をうって走り出す
それにより押し倒され踏みつけられた固体も少なからずいる
また、催涙ガスの影響を強く受けた固体は、その場でのた打ち回っている
《あのさ、グーデリアン。これ、ドラゴンより厄介っていうけど、どこが?》
《この文明レベルの世界に、化学弾頭の無力化兵器はおそらく存在しませんし
そもそも見えない箇所から正確な攻撃を行う手段も存在しないでしょう
それにですね、この世界にはマスター程、性質が悪い兵隊もいないでしょう》
《何気にディスってくれてる?》
《素直に褒めてます。催涙ガスなんて使う人滅多にいませんよ?
ダメージないから無意味とかいって他のユーザーの方は使いませんよ
でも、ダメージだけが戦闘の勝利を決めるものではないと理解している
マスターの戦術を私はとても高く評価しています。これは世辞ではありません》
《イマイチ納得できないがまあいいわ・・・移動して掃討に移る》
《了解です》
第四射撃ポイントはこの周囲で一番高い丘の上だ
私は姿を隠すのをやめると立ち上がって全力で第四ポイントに移動し
L67A1をインベントリにしまって、右肩からたらしている
M27 IARを取り出して、丘の上に伏せてバイポッドを展開して射撃を始める
第四射撃ポイントは、逃げる奴らを背後から撃てる場所にある
感覚で指きり3点バーストでやつらの背中を打ち抜いていく
内臓が確実に傷つくように、左腰上あたりを意識して狙って打ち抜く
混乱して逃走しかけていた敵にとっては、背後からの突然の射撃音に
とっさに反応できる余裕はなかった
敵が私を認識したのは、私がCMAGの弾薬を半分以上撃った後だった
既に射撃だけでも、20匹以上のゴブリンを無力化している
催涙ガスによる影響で、40匹以上のゴブリンが無力化されている
混乱による転倒と踏みつけで、10匹前後のゴブリンが無力化されている
既に半数近いゴブリンは、戦闘能力が無い状態だ
まあ、催涙ガスにやられてるやつは、そのうち復活する可能性はあるけど
「アソコニ何カ居ル! アイツガ敵ダ! コロセ コロセ!」
「歩兵ハ突撃! 弓隊ト魔法隊ハ支援シロ!」
ゴブリンどもが壊走をやめて、私に反撃を加えようと反転してくる
「いやー・・・損害50%近くからの反転攻撃は悪手でしょうに・・・・」
《全くです! 25%以上の損害の場合は一時後退の後に再編成が基本です!》
独り言のつもりがグーデリアンが反応する。面倒なので声にだして続ける
「そうだよねー・・・てかここで反転したら壊滅、にげりゃ30%は残るでしょうに」
《これだから戦術という物を知らないジョンブル共はですな・・・》
「グーデリアン、イギリス人に詫びろ。いくらなんでもあんな緑色でも醜い面でもない」
《わ、私がイギリス人に詫びる・・・マスター、それだけはお許しを!!!》
「それさせるとループかフリーズすんだっけ? じゃあいいわ、今固まられ・・・」
《イギリス人に謝罪・・・ジョンブルに謝罪・・・チャーチルに土下座・・・》
「この馬鹿ループしやがった! なんでこんな局面でループすんのよ!!」
グーデリアン君の人格部分を一時停止し、射撃支援のみ作動継続させる
最悪だー・・・と思いながら、レイラは引き金を引き続けた




