村人と私
アルム村の管理権をもつガフ君とバルロイのおっさん
この二人と雇用と土地の使用権についての契約を正式にし
どこか分からぬこの世界での新たな拠点を確保した私は
二人と一緒に村の広場にきていた
広場は村のほぼ中心にあり、盛り土の周囲を石で固めた
小さなステージのような場所が設置されていてる
ステージのような場所の周囲には、板に足をつけただけの
簡単なベンチのようなものが円周状に配置されている
恐らくここでは、話し合いや通達、祭りや儀式の踊り
そういうのを行うために作られた場所なんだろなと推測した
バルロイのおっさんが、広場の端にある物見櫓にのぼって
物見台に吊り下げられた、鐘を一定のリズムで鳴らす
すると村の家の扉が開いて、ぞろぞろと村人が出てくる
しばらくすると、村の入り口方向からも人がきて
広場には50人を少し超える程度の人数が集まった
「今日は村長として皆さんに重要なお知らせがあります
アルム村に新しい住民が増えました
レイラ・ランバートさん。とても強い兵士さんです!
レイラさんには村での仕事として
防衛と僕の補助役をして頂くことになります
皆さん、レイラさんと仲良くしてくださいね!」
ガフ君が集まった人に聞こえるようにと
いつもより大きな声でそう告げた
周囲を見回しながら、大きな声で、笑顔を絶やさず
皆の表情を確認しながら話していく
村人からは特に反発する気配はなかったものの
疑念をもった眼差しはいくつか感じられた
「では、レイラさんに挨拶してもらいましょう」
ガフ君に促されて、ステージの中央に立つ
事前にガフ君とバルロイのおっさんと相談した
嘘だらけの設定を思い出して口を開く
「アルム村の皆さん。本日よりお世話になります
レイラ・ランバートンと申します
ミストライン公国周辺を拠点として、傭兵をしていました
傭兵を引退して定住できる場所を探して旅をし
こちらの村にたどり着きました
穏やかな雰囲気と、湖のある景観にが気に入ったので
村長であるガフさんに相談して
良い条件で雇用契約がまとまったので定住する事になりました
皆様とは文化圏が違う国で生活していたので
分からない事も多く、習慣も違う事が多いと思いますが
どうか、よろしくお願いします
何か質問等ありましたら、お気軽にお聞き下さい」
早速、手が挙がる
ステージに近いベンチに座っていた老男性が立ち上がり
「お前さん傭兵といったが、どの程度の腕なんじゃ?」
私が答えようとすると、それより先にバルロイのおっさんが
「ヤガ爺、あのな・・・・凄ぇ悔しいんだがな・・・
俺じゃ勝てない。いや、傷一つつけられない相手だ」
「バルロイが勝てぬじゃと? 信じられん、嘘じゃろ?」
「幻滅させて悪いんだがな、事実だ。俺より確実に強い
腕を試させて貰ったんだがな、左手一本で遊ばれた」
村人達が騒然となる
まあ、彼らからしてみれば、この村で最大戦力というか
ドラゴンを倒して村を築いた英雄なんだろなおっさんは
その英雄が自分の口で自分じゃ勝てないなんて言ったら
まあ、かなりの衝撃なんだろなー・・・・・
「こいつのお陰で、俺も目が覚めた
ドラゴン討伐パーティーの英雄 Aランク冒険者
傭兵って戦闘のプロからすりゃ、俺もただの素人よ
自分に驕りがあったことを自覚させられた
俺達の多くは冒険者上がりだ。だがな
冒険者は戦闘のプロじゃない。探検のプロだ
モンスターとは戦うが、やはり対人戦は得意じゃない
その道のプロがいることであの悲劇の再来を防げる
だからレイラの定住をガフも俺も許可した」
全員を見回して、言い聞かせるようにバルロイは続ける
「それにレイラはお前らを幸せにしてくれるぞ」
そういってバルロイはニヤリと笑みを浮かべる
村人は意味がわからず、不思議そうな表情を浮かべる
「オルム、ミレイヌ、ゲイル、俺
この四人で大陸のあちこちを旅したのは知ってるだろ?」
村人達はうんうんと頷く
「いろんな場所にいった、いろんなところで飯を食った
ワイバーン、グリフォン、ドラゴン
これらの討伐を評価され幾つかの王城に招かれ
王宮料理を食ったこともある
その俺が保障してやる。こいつの料理は超旨い!」
バルロオオオオオオイ! やめろ、それは面倒になる!
この後、料理作ってくれって流れになるからやめて!!
バルロイは意地が悪い笑顔でこちらを見ながら
「まあ、それはまた機会を設けて皆に体験してもらう
今日は新しい村人への歓迎を行う
夕刻にまたここに集まってくれ
新しい村人の祝宴を行う」
村人は立ち上がって一頻り歓声を上げると
家や農地へと走っていった
あれ、こういう流れなの? あれ、想定外? と
ぽかーんとしていると、ガフ君とバルロイが寄ってきた
「さすがにな、村人の一員になりました なんて日に
お前に飯をつくれ なんてやるほど俺達も馬鹿じゃないぞ?」
「私はてっきり、これから50人分以上の飯を作ることになるのかと
バルロイの糞野郎死ね! って思ってたわよ」
「バルロイさんだってそこまで非常識じゃありませんよ」
ガフ君とバルロイのおっさんがケラケラ笑っている
なんか見事にやられたって感じでちょっと悔しい
今日はお言葉に甘えてご馳走になろう
《マスター、緊急のご報告があります。第二級です》
グーデリアン君。そのお約束みたいなタイミングは何かね?
非常に嫌な予感を覚えつつ、グーデリアン君に答える
《このお約束のようなタイミングで何かねグーデリアン?》
《西南西7キロの地点に複数の集団が移動する振動を探知》
《対象は?》
《振動パターンから2足歩行タイプの集団 現在こちらに向けて移動中》
《数は?》
《振動固有パターンから予想される個体数は150前後》
《多いな・・・軍隊か盗賊ってこと?》
《振動間隔から歩幅を推定 固体の平均身長は120cm 平均体重は32kg.》
「バルロイのおっさん。ちょっと質問があるんだけど」
「なんだ?」
「身長が120cmくらいで、体重が30kg.くらいの
150人くらいの集団が村にきてると仮定した場合
それって何か心当たりある?」
「なんだその具体的過ぎる数は?
その数と大きさで考えると、ゴブリンの集団だぞ??」
「えっとね、西南西7キロ付近地点にそういう集団がいる」
「いる? なんであんたにそれが分かるんだ?」
「物は動くと振動をだす。それは地面を伝わる
私には地面とか空気とか水を伝わる振動を知る機能がある」
「つまり、それは、現在あんたが、探知したその振動ってことか?」
「うん、そういうこと」
「それが事実なら、ゴブリンの襲撃ってことだぞ!」
私はインベントリから発射機を取り出す
RIM-43 レッドホーク
元々はFIM-43レッドアイという初期の携帯対空ミサイルである
旧式化して予備役兵器として各国の保管庫で腐っていたものを
菱井重工が無料同然の値段で買い占めた挙句に
改修して偵察装備と通信装置に飛翔延長の展開翼をつけて
個人が戦場でお手軽に発射できる近距離偵察機として
再生転用したCall to Stormオリジナルのドローンである
いきなり手元にあらわれた、ランチャーに二人が驚く
バックブラストで家が燃えるといけないので
村の入り口から少し外まで走り、西南西の空に向けて発射する
残念な事に、この発射筒は使い捨てで再利用が出来ないので
そのままインベントリのリサイクルボックスに入れる
《探知地点に回して。現地についたら少しでも長く飛ばしといて》
《了解です》
グーデリアン君にドローンの制御を任せて村の入り口に向かうと
私を追いかけてきた二人に合流する
インベントリからPTD(携帯型戦術デバイス)を取り出して
二人にドローンからの映像を見せる
「さっきのシュパーンってのは何ですか! それにこれ絵が動いてる!」
「おいおいおい・・・これは空から見た地面じゃないか???
あんたほんとに・・・・とんでもないもんばっかもってるな」
「そういうのは後。今、ドローンを探知地点に向かわせてる
さっき探知した150の不明目標の正体を空から偵察させる
このPTDっていう板みたいなもんに、その映像が送られてくる
バルロイ、映像を見た上で脅威レベルの判定して」
「分かった」
5分もしないで目標地点に到達したドローンからの映像には
緑色の子供のような生物が
手に何かしらの武器を持って
こちらの方角に向かって進軍する姿だった
Call to Stormで兵士を指揮してきたから分かる
奴らは明確な目標をもって軍事行動をしている兵隊の動きをしている